衝撃の事実
「それでお母さんはなんで居るの?」
「そこも含めて全部話すから先に聞いてもいい?」
「うん」
「永継君は女の子になりたいとかではない?」
僕は前回と同じように着替えをさせて貰えてない。
だから未だにメイド服のままだ。
「僕は僕だよ?」
「永継君は着させられてる訳ではないのね?」
「うん、着させられてはいない」
前回は僕も着るから宇野さんにも着てもらう約束で着たから着させられた訳ではないけど、着替えさせては貰えなかった。
今回は栞さんだけだと恥ずかしいと思い着て、着替えさせて貰えない。
「永継君はその格好は嫌じゃない?」
「変?」
「変じゃないのが変かな?」
よくわからないけど、変でないのならいい。
服は可愛いから嫌いではないし。
「ちなみに皆さんは永継君にそういう趣味になった時は嫌いになったりしますか?」
「むしろ愛します」
お母さんの質問に芽衣莉ちゃんが即答した。
「誤解のないように説明しますと、めいめいは女の子が好きとかではなく、なっつんの全てが好きなだけです。ちなみに私も愛します」
「まぁ永継さんにそういう趣味が出来ても普通に可愛いからいいと思いますよ。間違いが起きても大丈夫ですし」
「りかお姉ちゃんの頭が間違ってるね。ゆりかもお兄ちゃんにどんな趣味があっても大好き」
みんなにそう言って貰えて嬉しいけど、僕の趣味とはなんなのだろうか。
「私達は永継君がどんなことをしても真面目にやってるのを知っているので、変だとは思いませんよ」
「最初にやらせたのはるか姉だからね」
「私も着たもん」
「なっつんを一人残して自分だけ着替えたけどね」
「私を責めるけど、みんなだって永継君のメイド服姿見て喜んでたでしょ」
宇野さんにジト目で言われてみんな一斉にそっぽを向いた。
「宇野さんの執事姿かっこよかったよ」
「私が言えた立場じゃないけど、やめてください」
宇野さんが何故か頭を下げてきた。
「みんなが仲良しなのはわかったから安心ね。それじゃあ少し嫌な話を始めるわね」
お母さんがそう言うと、宇野さん達が背筋を伸ばしてちゃんと聞く体勢になった。
「ちなみにうちのことはどれだけ聞いてる?」
「永継君は特に話す理由がないってことで詳しく聞いてないです。だから永継君の反応でなんとなく程度ですね」
「永継君そういうの興味なさそうだもんね。じゃあ永継君が家に帰りたがらない理由はなんとなく知ってるのかな?」
「お父さんに会いたくないからですよね」
確か父親のことは話してなかったはずだけど、バレていたようだ。
「そうね。私は基本的に朝帰りだから知らないんだけど、前は学校にずっと残ってて、今はここにずっと居るんだよね?」
「そうですね。永継君と仲良くなる前は知らないんですけど、そう聞いてます」
「永継君、この先の話をしても大丈夫?」
「どれかわかんないけど、宇野さん達に隠し事はしたくないから別にいいよ」
僕がそう言うと何故か宇野さんに頭を撫でられた。
そもそも僕が自分のことを話さなかったのは、明るい話じゃないのはわかってたからだ。
みんなが暗くなるような話をわざわざしたくないからしなかっただけで、みんなが聞きたいのなら止める理由はない。
「永継君、お腹見せられる?」
「どんなご褒美!」
「鏡莉、黙りなさい」
「大変申し訳ございませんでした」
いつも通りの鏡莉ちゃんで安心する。
落ち込んでしまったので鏡莉ちゃんの頭を優しく撫でておいた。
「これ背中開きだからお腹だけ出すの出来ないけど」
僕はそう言って立ち上がり背中のファスナーに手をかける。
「永継って器用だし腕も回るからお手伝い必要ないんだよね」
「やってくれるの?」
「やっていいの?」
「お願いしていい?」
別に一人で着替えられるけど、こういう服には慣れてないからやってくれるならやってもらいたい。
壊すのが怖いから。
「これが漫画とかで見る『女子の着替えを手伝う男子の気持ち』か。すごいドキドキする」
栞さんがファスナーに手をかけて荒く息をする。
「ふぅ、いくね」
「うん?」
そこまで慎重になるようなことなら、僕ももうちょっと慎重に着替えをした方が良かったのだろうか。
そんなことを考えていると、栞さんが『あ、さすがに着てるよね』とメイド服の下にシャツを着てるのを見て残念がった。
「永継さ、今度私の下着を付けてメイド服を着てみない?」
「なんで?」
「脱がす時に興奮できるから」
どういう気持ちなのかわからないけど、それで栞さんが喜ぶのならやるのはいい。
多分宇野さんに止められるけど。
「桐生さんには一回、コスプレ写真撮影会が必要かな?」
「流歌ちゃんもやればわかるよ。これすごいドキドキするから」
「だからって自分の下着を付けさせようとするなし」
「でもるかお姉ちゃんのもお兄ちゃんに付けようとしてなかった?」
「あれはあなた達が勝手に言ってただけでしょ」
まだ鏡莉ちゃんが隣に部屋を借りていた時、僕が泊まることになって着替えの話が出た時に鏡莉ちゃんがそんなことを言っていた。
「あの子達は親の前でも変わらないのね」
「多分視界に入ってないんだろうね。篠崎君……はもうやめるか。永継君しか眼中に無いんじゃないかな?」
お母さんと仁さんがそんなことを話しているのを聞きながら、顔を赤くしている栞さんに「ありがとう」とお礼を言ってからシャツをめくった。
「……」
みんなが絶句した。
無理もないのはわかる。
いきなり肌色ではない腹部を見せられたら僕も絶句する。
「……ねぇなっつん」
鏡莉ちゃんが今にも泣きそうな顔で僕を呼ぶ。
「なに?」
「なっつんがプールに入ったことがないのって……」
「これが理由だよ? あの人もさすがにバレたくなかったみたい」
プールに入ったら確実にバレる。
だからスクール水着を買わないで物理的にプールの授業を出来なくさせた。
友達もいなかったからプライベートでプールに行く用事もなかったし。
「私、最低だ……」
「え、なんで?」
「なっつんがプールに入ったことがないのを軽く話して、しかも自分のお腹に痣が出来る心配なんかして……」
「鏡莉ちゃんは女の子なんだから心配するのが当然でしょ? それに学校のプールに入りたいって思ったことはないし」
いちいち着替えるのがめんどうそうだし、あんなに人が沢山いるところに入って行きたいとは思わなかった。
「でも──」
「じゃあいつか僕の初めてのプールに付き合ってくれる?」
「……いいの?」
「出来ればみんなでね。プールだけじゃなくて、僕が今までやってこなかったことを一緒にやろ」
僕も鏡莉ちゃんも外で遊ぶタイプではないけど、もしかしたらプールに行くことがあるかもしれない。
その時はみんなと一緒に行きたい。
「やる、なっつんの初めてを全部やる。プールではラッシュガードを着せて有象無象になっつんの身体を見せないようにするね」
「上に着ちゃえば平気なのか」
最近はそんな便利なものがあるのかと感心してしまう。
「じゃあ私も謝っていい?」
梨歌ちゃんが小さく手を挙げてそう言った。
「梨歌ちゃんも?」
「うん。二回もドアノブで攻撃してごめんなさい」
「……あれは正直痛かった」
人の拳とはまた違う痛みで、もう受けたくない。
「不可抗力なのはわかってるから謝る必要ないのに」
「一回目はわざとです。本当にすいませんでした」
梨歌ちゃんが土下座をするが、ちょっと衝撃の事実すぎて思考が一瞬止まった。
「う、宇野さんが心配だったんだよね?」
「はい、あの時は『可愛い姉さんに触れんなよ』とか『可愛い姉さんに何したんだよ』って気持ちが先行してあんなことを」
「じゃあいいじゃん。可愛い宇野さんの為だもんね」
可愛い姉が知らない男におんぶされていたらそう思っても不思議ではない。
つまり宇野さんが可愛いのがいけない。
「可愛いお姉ちゃんをもつと大変だね」
「ほんとにね」
「わざとだよね? 永継君が悪い方向に成長してるのは絶対に梨歌と鏡莉のせいだよね?」
「宇野さんが可愛いのは事実だよ?」
僕がそう言うと顔を真っ赤にした宇野さんに睨まれた。
「巻き添えは可愛いるか姉に免じて許そう」
「私のしたことは許されないから、永継さんは私に酷いことしていいよ。後なにか悪口言って」
「許したら駄目?」
「もちろん」
「りっかがドMなだけじゃん」
鏡莉ちゃんがそう言うと、梨歌ちゃんの高速デコピンが執行された。
「じゃあ……」
何をしたらいいのか思いつかないから、少し前に栞さんと一緒にやったゲームに出てきたキャラクターを再現してみる。
「俺に散々言っといて自分はされたいとか、馬鹿な女」
そう梨歌ちゃんの耳元で囁く。
後、酷いことを求められてたから頬を軽くつねっておいた。
「これでいい? そんなこと思ってないからね」
「……」
梨歌ちゃんが僕と目を合わせてくれなくなった。
「なっつんよ。どうせ勘違いするだろうから言ってあげよう。りっかは照れてるだけだ」
鏡莉ちゃんがおでこを押さえながらそう言った。
「最後のほっぺをつねるなんて完璧ではないか。はにかみも相まってギャップ萌えだし、なにより普段の永継とのギャップでやばい」
「それな」
なんだかよくわからないけど、栞さんと鏡莉ちゃんには好評のようだ。
「るか姉もされたいって顔してるけど、そろそろめいめいをどうにかしないと」
「そんな顔してないし。でも確かに芽衣莉はどうにかしないと」
芽衣莉ちゃんは僕がシャツをめくってからずっと鼻を押さえて上を向いている。
「お気になさらずに。ちょっと興奮しただけなので」
「知ってるけど、出てるの?」
「止まりそうにない」
そう言った芽衣莉ちゃんを宇野さんが洗面所に連れて行った。
一部始終を見ていたお母さんが「話が重くなりきらないのはいいことだけど、進みもしないのね」と少し嬉しそうに言った。




