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娘同士の恋愛事情

「……」


「るか姉おかえりー。早いね」


 まだお昼前なのに宇野さんが帰って来た。


 そして僕達を見て絶句する。


 その理由はおそらく、栞さんが前のうさぎの耳を付けて布面積の少ない服を着てるのと、僕がメイド服を着て、更に鏡莉ちゃんもミニスカートの警察官の格好をしてるからだと思う。


「いきなり入ったら絶対駄目だと思ってたけど、想像を軽く超えてくるな」


「何かあったの?」


「お客様が来てるから今すぐ着替えて来なさい」


「はーい」


 やっと着替えることが出来る。


 栞さんの勉強を見ていたけど、栞さんが恥ずかしがって勉強に集中出来ていなかった。


 だから僕も着替えてみたけど、ちらちらと僕を見るだけで結果は変わらなかったので、宇野さんが帰って来てくれて助かった。


 悠莉歌ちゃんがどうしても栞さんを着替えさせてくれなかったから。


「あ、永継君は着替えなくても大丈夫。むしろそのままがいい」


「また?」


「るか姉、いくらなっつんのメイド服が好きだからって人前に出すのは可哀想だよ」


「大丈夫。永継君の知ってる人だから」


「僕の?」


 なぜ僕の知り合いが宇野さんと一緒に宇野さんの家に来るのか謎でしかない。


 そもそも僕の知り合いとは誰なのかがわからない。


「誰だろ」


「誰だろーね」


「栞さん着替えるの早いね」


 宇野さんが帰って来た時には隣に居たはずなのに、もう着替えを済ませて帰って来た。


 鏡莉ちゃんはまだ部屋に居るのに。


「一刻も早く着替えたかったから」


「可愛いのに」


「やめて、私が揺らぐ」


 可愛い栞さんが見れるのならもっと揺らがしてみようかとも思ったけど、栞さんが嫌ならもうしない。


 僕は。


「お兄ちゃんが可愛いって言ってくれるんだよ? お兄ちゃんの可愛いを軽く見てるなら別にいいんだけど」


「篠崎さんの可愛いはいつ言ってくれなくなるかもわからないですからね。言って貰える時に言って貰わないと」


「永継さんはいつか羞恥心を覚えるのかな?」


 僕だって恥ずかしいと思うことはある。


 栞さんのうさぎの衣装、バニーガールにも慣れてきたけど、まだ直視は出来ない。


「鏡莉ちゃんいつもの姿!」


「鏡莉ちゃんもお着替え早い」


 鏡莉ちゃんも話している間に着替えを済ませたようだ。


「じゃあ呼んでくるね」


「ほんとに僕はこのままなんだ」


「大丈夫、可愛いから」


 何がどう大丈夫なのかはわからないけど、宇野さんが大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろうと信じることにした。


 そして宇野さんは玄関に戻り二人の人を連れて来た。


 どちらも聞いたことのある足音だから誰かはわかっているけど。


「……」


「はい、ギルティ」


 一人目の仁さんは僕を見て固まり、鏡莉ちゃんにジト目を向けられた。


「いや、うん。どういうこと?」


「ちょっとした実験?」


「篠崎君に嫌われるよ」


「永継君は女装させたぐらいで嫌ったりは……しないよね?」


 さっきまで自信満々だったのに、宇野さんが急にしおらしくなった。


「ならないよ。今度宇野さんにも着てもらうし」


「……もちろん着ますよ」


 二人っきりの時は着てくれる約束をしたから絶対に着てもらう。


 今からどんな服を着てもらうか楽しみだ。


「あのぉ」


「あ、すいません。どうぞ」


 宇野さんの後ろから聞き覚えのある声がした。


「おかあ──」


「永継君が居るって言われて、声もしたけど、どこに居るんですか?」


 お母さんが僕を探して部屋中をキョロキョロしている。


 一番わかりやすい格好をしているのに。


「永継君が落ち込んだ。やっぱり永継君は女の子としてもやっていける」


「流歌はそれを確認する為にあの格好を?」


「親でもわからない程の可愛さってすごくない?」


「篠崎君が本気で落ち込んでるけど、それが流歌のしたかったことなのか?」


(僕はお母さんにも見捨てられるのかな……)


 そうしたらどうしようか、栞さんのところで梨歌ちゃんのように泊めてもらうのが一番いいのか。


 でも栞さんにも大悟さんにも迷惑をかけたくはない。


 だったら高校を辞めて働くしか……。


 なんて考えていると、僕の手に温もりを感じた。


「篠崎さん大丈夫だよ。流歌さんは最低かもしれないけど、私達はいつでも味方だからね」


「そうそう。るか姉は最低だけど、私達が居るから」


「姉さんのあれは無意識だから気にしたら駄目だよ。最低な姉さんには後で罰を与えとくから」


「るかお姉ちゃん最低」


「悠莉歌ちゃんのが一番くるね。次いでに私も、流歌ちゃん最低」


 みんなからの最低を受けた宇野さんが立ったまま涙を流した。


「近づいたら拒絶されるのがわかるから近づいて謝れないし、だからってここで謝ったところで誠意は伝わらないしで、詰んだ」


「わ、私のせいですよね」


「いや、これは流歌が悪い」


 気づけないお母さんも悪い気はするけど、ショックが大きくて何も声に出ない。


「え、えっと、そこのメイドさんが永継君ってことでいいんですよね?」


「そうだね、昔の日和さんに似てない?」


 日和さんとはお母さんのことだ。


 篠崎しのざき 日和ひより、旧姓を知らないけど多分今も篠崎姓だと思う。


「自分の顔をあんまり見た記憶がないからわからないけど、似てるのかも?」


「……栞さん」


 少しなら声が出せるようになってきたので、栞さんに声をかける。


「なに?」


「僕がお母さんに見捨てられたらお家に泊めてくれる?」


「もちろん。というか隣で一緒に暮らす?」


「もしもの時はお願いします」


 これでお母さんに見捨てられても住む場所は見つかった。


 後は仕事だけど、なんとかしなくては。


「永継って思い込み激しい人だよね」


「特に悪いことに関してはね。最悪の想像をしておくってことなのかもしれないけど、なっつんの場合は最悪の最悪の想像してるんだよね」


 栞さんと鏡莉ちゃんが僕の頭を撫でながら言うが、相手がどう思っているかなんて僕にはわからない。


 だから想像するしかない。


 それが悪い方向になってしまうだけだ。


「永継君には小さい頃から酷い扱いをしてましたから、それせいですよね……」


「日和さんは悪くないでしょ。みんな『あいつ』の被害者なんだから」


『あいつ』と言われて思いつくのは僕の父親だ。


 仁さんとは知り合いのようだったけど、お母さんとも知り合いで、どういう関係なのだろうか。


「永継君、私は永継君を見捨てたりしないから、そこだけは安心してね」


「ほんと?」


「……ねぇ、うちの子ってほんとに女の子なの?」


「気持ちはわかるけど、答えるのが先だよ。また落ち込んじゃった」


「やっぱり見捨てられるのか……」


 栞さんの許可は取ったから後で大悟さんにも許可を貰わなければ。


「永継君、私は見捨てないから大丈夫。ほんとに」


「……」


 本当に信じていいのかわからなくなってきて、お母さんを見ることしか出来ない。


「可愛いは封印。逆にお母さんを見捨てないで」


「お母さんは見捨てるのに?」


「本当に見捨てないから。嘘つきな私だけど、永継君に嘘をつけたことはないでしょ?」


「うん」


 お母さんは嘘つきだ。


 いつも「大丈夫」と言って無理をする。


 お母さんの大丈夫は大丈夫じゃないってことだ。


「つまり見捨てるの……?」


「大丈夫って言ってた。なんか永継君めんどくさくなってない?」


「お母さんとこんなにちゃんとお話するの久しぶりだもん」


 話してるうちに楽しくなってきていた。


「ねぇ、うちの子が可愛すぎるんだけど」


「親バカだよね。言いたいことはわかるけど」


 なんだかお母さんと仁さんが仲良く話してるのを見るとモヤモヤする。


 前に教えて貰った嫉妬と似ている感じだ。


「宇野さん」


「あ、流歌か」


 仁さんが反応しそうになったけど、僕の「宇野さん」は仁さんではないことを思い出したようで、宇野さんが近寄って来た。


 涙はもう止まっているようだった。


「最低な私になんでしょうか……」


「落ち込んでるところごめんなさいなんだけど、ぎゅってしていい?」


 宇野さんは無言で両手を開いた。


 芽衣莉ちゃん達は察して僕から少し離れた。


 僕は立ち上がって宇野さんに近寄り、宇野さんを抱きしめた。


「どうしたの?」


「お母さんを取られちゃったから宇野さんを取ってみた」


「反抗が可愛いな。……ん?」


 宇野さんが僕の頭を撫でながら顔を上げた。


「るか姉、なっつんの言葉を鵜呑みにしない方がいいよ。勘違いだから」


「でも永継君は嘘つかないし」


「嘘はついてないよ。るか姉を取ったってお義父さんから奪うって意味とは少し違うから。勝手に嫁になった気分にならないでね」


「でも私が一番永継君のお嫁さん候補なんでしょ?」


「それはめいめいが勝手に言ってるだけだから」


「正直もう流歌さんは十分幸せだから、応援もいらないよね」


 芽衣莉ちゃんがそう言った途端に宇野さんが僕を抱きしめる力を強めた。


「宇野さん?」


「負けないし」


「何に?」


「永継君争奪戦」


 なんだかまた僕のわからないことが始まったようだ。


 みんなが楽しそうだからそれでいいけど。


「うちの子モテモテなのね」


「今の状況だと女の子同士にしか見えないんだけどね」


 またモヤモヤしたので、宇野さんを更に強く抱きしめた。

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