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裏切り者

「ねぇ永継」


「なに?」


「拷問するのはやめよ」


 栞さんが何を言ってるのかわからない。


 僕は今、栞さんの勉強を見てるだけなのだから。


 どうやら梨歌ちゃんの誕生日にあった用事とは補習だったらしい。


 なので少し本気で栞さんの勉強を見ている。


「永継に見て貰うのは全然嬉しいからいいんだけどさ……」


 栞さんがそっと隣に居る鏡莉ちゃんを見る。


 鏡莉ちゃんは寝転がりながらノートパソコンでゲームをしている。


 梨歌ちゃん達は邪魔をしないようにとお散歩に行っている。


「あそこにゲーミングあるのになんで隣でやらせるの?」


「鏡莉ちゃんがこっちの方が天国と地獄が味わえてやる気が出るって言うから」


(天国の意味はわからないけど)


「集中力が切れるだけだからやめさせて」


「ゲームやってる時もそうだけど、周りに意識が行きすぎなんだよ」


「普通はそうなるでしょ」


「なっつんの付きっきり家庭教師がそんなに嫌なの?」


「だからそれは嬉しいけど、気になるものは気になるよ」


 僕はあんまり気にならないけど、栞さんが気になるのなら駄目だ。


 これは栞さんの為の勉強なのだから。


「鏡莉ちゃん。栞さんはほんとに大変な状況だからやめてあげて貰っていい?」


「そんなにやばいの?」


「進級出来るか不安」


「え、そんなにやばいの?」


 栞さんが一番驚いているけど、少し危機感を持った方がいいレベルだ。


 さすがに数学で「るーとって何? 道?」と言われた時はちょっと焦った。


「栞さんと一緒に高校生活送りたいから頑張る」


「もしかして私に冬休みはない?」


「休みも必要だからあるけど。この冬休みで追いつく気持ちでやるよ」


「……頑張ります」


「最終目標は『栞さんと一緒に卒業』ね」


「危機感持ちます」


 良かったのは算数は出来ることだ。


 足し算引き算から教えるのはさすがに間に合わない。


 問題なのは漢字や歴史などの記憶系が壊滅的なことだ。


「クイズ系のゲームとかやったことはない?」


「あるけどジャンルをゲームとかアニメとかにしてるから一般常識問題はわかんない」


「じゃあゲームとかアニメで出てくるやつで一般的な知識はある?」


「シュレディンガーの猫は知ってる」


 さすがにそれはテストには出ない。


「ゲーマーとかアニオタって偏った知識ならめっちゃ持ってるんだよね。ごく稀にテストで出ると嬉しいんだよね」


「わかる! 偉人の名前はわかるけど、その人が何をしたのかはわからないとかもね」


「だから答え見ると名前はわかるんだけど、問題見てもわからないんだよね」


「なるほど」


 つまり好きなことなら反復作業も苦ではないからやってる内に記憶に残るというとらしい。


「このお勉強も楽しくなれば覚えられる?」


「だから楽しいの。ただ隣でゲームをやめて欲しいだけ」


「じゃああっちでやるけど、それで集中出来てなかったらなっつんの授業がつまらないって言ってるのと同じだからね」


「……もちろん」


 今の間が気になったけど、栞さんならきっと大丈夫だ。


「栞さんはどういうゲームが好きなの?」


「ゲーム? ジャンルで言うなら雑食だけど、新しいものより古いのを優先してやるかな」


「一人でやるやつ?」


「対人が多いかな。協力してやるやつはやる人がいないからやらない」


「なるほど」


 とりあえず聞きたいことは聞けた。


「なんの心理テスト?」


「そんなんじゃないけど、栞さんはどういうものを好きになるのかなって思って」


 好きになるものの特徴を見つければ、勉強の役に立つかと思ったから。


「なんかわかった?」


「栞さんはゲームを勝つ為にやってるよね?」


「そうだね、昔やり込んでたからって調子に乗ってる奴らの鼻っ柱をへし折る為にやってるね」


 ゲームをやる理由は人それぞれだけど、ちょっと趣味が悪い。


 だけど今回はそれを利用してみる。


「テスト前にさ、勉強してないって言う人いるでしょ?」


「いるね。大抵ガチで勉強してる人」


「そういう人に勝ちたくない?」


 勉強とゲームは違うと言われたらそれまでだけど、栞さんのゲームをやる理由と似てるはずだ。


 要は自分は出来ると思っている人を倒したいってことだと思うから。


「廃人ゲーマーはゲームと現実を別に見てるから一緒にされても納得しないよ?」


 鏡莉ちゃんが顔だけこちらに向けながら言う。


 僕もそう思うから、これは最初からダメ元だ。


「……やる」


「え?」


「そうだよ、自分は出来るって思い込んでる奴らは現実を見た方がいい。底辺の私に負けるのはさぞ悔しかろう」


 栞さんが不敵な笑みを浮かべる。


(これがドSさん?)


 あんまり詳しくはないけど、きっと悠莉歌ちゃんが居たらそう言うような気がした。


「でも、そういう奴らの順位ってわかるの?」


「僕が人の順位とか知ってると思う?」


「思わないから聞いたんだけど、じゃあ私は誰と戦うの?」


 それは考えてある。


 とても簡単な方法でそういう人達に勝つ方法。


「一位になればいいんだよ」


「永継は嘘はつかないけど冗談は言うんだね」


「え?」


「……おいおい、本気かい」


 別に次のテストで一位になる必要はない。


 卒業までに一位を取ればそれで勝ったことにはなるはずだ。


「目標変更。『卒業までに一位を取る』で」


「ハードルが上がりすぎでは? 二位でも雲の上なのに、流歌ちゃんに勝てって大気圏じゃん」


「地道にジャンプしていこ」


「最初はジャンプして、途中でそれだけだと駄目なことに気づいて飛べるものを開発でもしたのかな?」


「そうかもね」


 最初はジャンプでいい。


 いつか宇野さんの居る大気圏を超えて宇宙に行けるのなら。


「最初のジャンプは次のテストで二桁ね」


「それは紐なしバンジーでは?」


「上を目指したのに下に行くってこと?」


「永継って鈍感なのになんでもわかってくれるよね」


 鈍感とよく言われるけど、直そうと思って直せるものでもないから諦めて一人で落ち込むことにした。


「永継が落ち込んだ。褒めてるからね」


「ほんと?」


「うん。私は別に鈍感な永継って嫌いじゃないもん。それが永継なんだから」


「その言い方だと私達が嫌ってるみたいでしょ。私だってなっつんの鈍感なところ好きだよ」


 一切鈍感な自覚はないけど、二人がそう言ってくれるのなら少しは気が楽になる。


「そういえばなっつんっていつ勉強してるの?」


「確かに。ここに来てる時はみんなといちゃついてるだけだし、家に帰るのも九時近いよね?」


「どこって、学校でしてるよ?」


「休み時間は私とずっと喋ってるじゃん。それまではイヤホンして外見てたし」


 とても懐かしい。


 宇野さんと出会う前は放課後までそんな感じだった。


「まさか貴様!」


 栞さんが怖い顔をして僕を睨む。


「授業だけしか勉強してないな!」


「え、うん」


 テストは授業で出た内容しか基本的に出ないから、授業を聞いて覚えればそれでいいから特に授業以外では勉強をしていない。


「永継、前のテストの順位は?」


「十八位」


 前々回よりも少し上がった。


 だから何がある訳でもないけど、少し嬉しい。


「なるほど、こんなに身近に敵は居たのか……」


「僕?」


「私は永継を倒す!」


 栞さんがやる気を出してくれたのならいいけど、なんでいきなり怒ったのかがわからない。


「なっつんよ。普通は授業だけじゃ覚えきれないものなんだよ」


「それは覚える気が最初からないからじゃないの? 栞さんのノート、黒板の板書一切してないもん」


 栞さんがバッと視線を逸らした。


 いつも授業中にノートをちゃんと取っていると思っていたら、ゲームの攻略方法や、立ち回り? のことを書いているだけだった。


「しおりんが悪いね」


「裏切り者!」


「私もなっつんサイドの人間だし」


「鏡莉ちゃん、テストは毎回百点だよ」


「うらぎりものぉ……」


 別に鏡莉ちゃんは最初から味方だったのかも謎だけど、今にも泣きそうな栞さんが可哀想なので、栞さんの頭を優しく撫でた。


 そしてそれから数時間、栞さんの頭を撫でながら勉強を教えた。

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