本日の主役
「お父さんも仕事に戻ったし、お誕生日会を始めよっか」
「父さん、クリスマスで忙しいだろうによく今日来たよね」
「梨歌の誕生日だからね。プレゼントも置いてってくれたから後で渡すね」
仁さんが置いていったプレゼントが部屋の隅に置かれている。
手提げ袋に入っているのでそこまで大きくはない。
「あ、ちゃんと鏡莉の分もあるからね」
「まだあんまり面識ないから誕生日とか知らないかと思った」
「私が教えてるし、意外とそういうの気にする人なんだよ?」
「それよりさ、ずっと気になってたことがあるんだよね」
梨歌ちゃんがそう言って宇野さんを見る。
「姉さんって父さんのところでバイトしてるじゃん?」
「うん」
「つまりさ、バイト代を出してるのって父さんだよね?」
「それはね、考えないようにしてたんだよ」
僕も少し思っていた。
バイト代で渡すなら、直接渡すのと同じなのでは? と。
「始めた時は離婚してたから知り合いのバイト先な感じだったけど、確かにそう感じるよね」
「るか姉が働いてお客が増えてるなら意味はあるけど、変わってないなら単に給料渡してるだけになる?」
「私がバイトするまではお父さん一人でやってた訳だしね。でもちゃんと私目当てのお客さんもいるんだよ。それにお父さんから直接貰ったお金でアパート暮らしするのも違うしね」
確かにそれなら一緒に暮らした方がいい。
宇野さん達がアパート暮らしを選んだ理由は、単純に仁さんの住んでるところに五人も入れないからといえのがある。
それとここから少し遠くなるから僕の帰りが遅くなるのも気にしてくれた。
「でもお父さんから貰ってるからお小遣いな感じだよね」
「僕もアルバイトみたいなの始めるんだ」
僕がそう言ったら梨歌ちゃん以外のみんなが僕を見て固まった。
「永継さん、どこで誰とやるのか言わないと勘違いされるよ」
「そうなの? えっとね、場所はわからないけど、栞さんのお勉強を見るの」
「あ、そういうね」
みんなが一斉にほっとした顔になった。
「なっつんがバイトでここに来れなくなるのかと思った」
「ちゃんとしたアルバイトは出来ないから大丈夫だよ。お小遣いを貰う理由付けみたいなものだし」
「桐生さんって勉強出来る人なの?」
宇野さんがそう聞いてくるけど、栞さんが勉強出来るかどうかはわからない。
「隣でいつも真面目にノートは取ってるよ?」
「テストの点数とか話してないの?」
「普通は話すの?」
テストの点数にはあんまり興味がなかったし、今までそんなの話す相手もいなかったから話したことがない。
栞さんもテストには一切触れないで、冬休みに何をするかの話をしていた。
「言われてみたらしないのか? 私は毎回一位かどうか聞かれるけど」
「さりげ自慢だ」
「自慢って、みんな似たようなこと聞かれるでしょ?」
「るか姉、私とりっかには友達がいないんだよ」
「一緒にするな。いないけど」
「私だって梨歌ちゃんしか仲良しいないから」
みんな可愛いから人が寄って来そう、と言うか寄って来ていたけど、可愛いからみんな離れて行った。
それを悪いことだと僕は思わないけど、宇野さんは気にする。
「なんかごめん」
「私達が惨めって言いたいの?」
「違うよ。だって私も永継君と一応桐生さんしか友達いないし」
「少数精鋭なんだよね」
人付き合いの大切さもわかるけど、無理に付き合ってギクシャクするぐらいなら最初から近寄らない方がお互いの為だ。
卒業したらほとんどの人が二度と会わなくなるのだし。
「出会い方があれだったけど栞さんと出会えたのは良かったよね」
「梨歌がそんなこと言うなんて珍しい」
「永継さんのメイド姿なんて普通じゃ見られないもん」
「結局着替えるのは駄目なの?」
「帰るまではその格好でいて欲しいな」
スカートにも慣れてきたから別にいいけど、なんだか芽衣莉ちゃんの目が怖い。
「やっぱり二人で上に行っていい?」
「駄目だから。せめて芽衣莉の誕生日まで待って」
「後一週間もあるじゃないですか……」
芽衣莉ちゃんがあからさまに落ち込んだ。
つまり僕は芽衣莉ちゃんの誕生日にもこの格好か他の何かを着るらしい。
「篠崎さんは私の誕生日の日ってお泊まり出来ますか?」
「いくら大晦日だからって駄目でしょ。永継君はお泊まりが出来ないんでしょ?」
「僕が家に帰らないとお母さんが悲しむから」
それにとても心配をかけてしまう。
「でもそっか、新年を一緒に迎えたいよね」
「初詣は寒いからいいけど、なっつんと一緒には居たいね」
「いや、行くからね」
「私はゲームの中で済ませるよ」
「永継君」
宇野さんが僕に耳打ちをする。
「私と同じことをしても無駄だよ。私は寒いところと人混みには行かないと決めて──」
鏡莉ちゃんの手を握って鏡莉ちゃんの言葉を止めた。
「僕がこうしてあっためるから一緒に行こ」
「行く」
「ちょろ」
「ちょろくてもいい。なっつんが私をあっためてくれるなら」
手を握るだけではそんなに寒さが紛れる訳ではないけど、鏡莉ちゃんが行ってくれるなら頑張って温める。
「じゃあ私も行きたくない」
「芽衣莉は永継君に手を握られたいだけでしょ」
「そうですよ?」
芽衣莉ちゃんが首を傾げながら答える。
「なんかストレートに欲をぶつけるようになったよね」
「気持ちはちゃんと伝えないとわかって貰えないん……だよ」
「敬語、やめてくれるの?」
「頑張り、頑張る」
芽衣莉ちゃんの頑張りを宇野さんがとても嬉しそうにする。
(伝えないと伝わらない、か……)
「お姉ちゃん?」
悠莉歌ちゃんが心配そうに僕を見る。
「なんでもないよ。それとお兄ちゃんでいいよ?」
「今はお姉ちゃんでいいの」
悠莉歌ちゃんはそう言って前を向き、身体を僕に預けて足をパタパタした。
「芽衣莉の誕生日が終わったら次は姉さんだね」
「頑張るよ」
「姉さんは祝われる側でしょ」
「そうなんだけどね」
宇野さんがちらっと僕の方を見たけど、僕と目が合うとすぐに逸らした。
「……ここじゃないな。流歌さん乙女」
「りっかは逆に子供」
「うっさい。ずっとさ永継さんに聞きたかったことがあるんだよね」
「なに?」
「私が出てく前に何か言いかけたのってなんて言おうとしてたの?」
「……どれだ?」
もう一週間は経っているし、色々あって何を言ったか思い出せない。
「私が居なければ全部解決って言った時だけど」
「その時の僕がなんて言おうとしたのかはわからないけど、今の僕が言うなら梨歌ちゃんっておばか? かな」
「慰めはいらないとか言ったけど、慰めじゃなかったのね」
その時にも同じことを思ったかはわからないけど、僕ならそう言いそうだ。
「前にも言ったけど、梨歌ちゃんが居ないと駄目なんだよ。宇野さんは集中力が無くなるし、芽衣莉ちゃんは落ち込んじゃうし、鏡莉ちゃんは泣いちゃうし、悠莉歌ちゃんは元気が無くなる。だから梨歌ちゃんが居なくなれば解決なんて思ってる梨歌ちゃんはおばかだよ」
「そっか、鏡莉は泣いちゃうもんね」
「泣いてないし、広くてせいせいしたし」
「まぁ鏡莉が泣いてるとかはどうでもよくて」
梨歌ちゃんがどうでもよさそうに言うと、鏡莉ちゃんが梨歌ちゃんを睨んで威嚇した。
「永継さんはどうなの?」
「言ってなかったっけ?」
「もう一回聞かせて」
「僕は梨歌ちゃんが居なくなって寂しかったよ。みんないつもと違うし、やっぱり誰一人欠けたら駄目なんだって実感した」
大切な人には笑顔でいて欲しい。
その為に出来ることならなんでもすると誓える。
「永継さんだもんね。姉さん」
「なに?」
「私の誕生日プレゼントって鏡莉と同じだよね?」
「そだよ。変えるなら次の鏡莉の誕生日からかな」
宇野さんはそう言って『なんでも言うことを聞く券』を五枚取り出した。
「永継さんの分ちょうだい」
「うーん……、後でプレゼントをあげる時間あるけど、いっか」
宇野さんはそう言って『なんでも言うことを聞く券』を一枚梨歌ちゃんに渡した。
「僕に何かして欲しいことあるの?」
「して欲しいって言うか、宣言?」
よくわからないけど、梨歌ちゃんからのお願いならなんでも聞く。
「私をずっと幸せにして」
「うん。もう二度と不安にはさせないよ」
もう二度と家出なんてさせない。
「でも僕はみんなを幸せにする予定だよ?」
「今はそれでいいよ。いつかわからせ──」
梨歌ちゃんが宇野さんと鏡莉ちゃんに連れて行かれた。
よくわからないけど、部屋の隅で本日の主役がお説教を受けている。




