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気持ちはわかるけど

「宇野さんが居る」


「確かに珍しいけど、今日は居るよ」


 昨日も居るのは聞いていたが実際に朝早くから宇野さんがアパートに居ると驚いてしまう。


 学校も冬休みに入り、今日はクリスマスだ。


 つまり、梨歌ちゃんの誕生日である。


「栞さんは来れないんだよね?」


「うん。どうしても外せない用事があるってね」


 とても来たそうにしていたけど、ほんとに外せないようで、誕生日プレゼントとして沢山のコスプレ衣装をプレゼントしていた。


「クローゼットがパンパンだよ。黒歴史も思い出すし」


「また見たいな」


「…………二人っきりの時なら考える」


「やった」


 とてつもない間があったから多分嫌なんだろうけど、宇野さんのいつもと違う顔を見れるのは嬉しいからお願いしたい。


「それでみんなは?」


「お散歩だって。芽衣莉と悠莉歌がいい場所を見つけたから案内するって」


「宇野さんは?」


「別にぼっちとかじゃないよ? 永継君が来るから待ってただけ。断じて置いてかれた訳じゃないからね」


 宇野さんが必死に否定するけど、別に疑ってはいない。


 宇野さんは優しいから僕を待つ為に待っていてくれたのは想像がつく。


「じゃあ二人っきりだね」


「……そうだね」


「考えてくれた?」


「言わなきゃ良かったと後悔してたところさ」


 宇野さんの方を見ると露骨に顔を逸らされる。


「今度永継君用の衣装も持ってきて貰わないと」


「一緒なら着てくれるの?」


「抵抗無い人だもんなぁ……」


 僕が着て宇野さんも着てくれるなら全然着る。


 むしろみんなが着てたのを見て着てみたくなった。


「永継君だと何が似合うかな?」


「男の人だとどんなのがあるのかな?」


「執事とかが無難なところかな? でも永継君なら可愛い系も似合いそう」


「調べてみる?」


 僕はゲームにしか使われないノートパソコンを指さす。


「そうだ……やめよう」


 宇野さんがノートパソコンに手を伸ばして引っ込めた。


「なんで?」


「今はパンドラの箱なんです」


「開けたら困るってこと?」


「とても困ります。特に検索履歴を見られたら寝込みます」


 どうやら僕の居ない時にはちゃんと使われているようだ。


 だけどそんなに見られたくないと言われると気になる。見ないけど。


「じゃあ見ないから宇野さんが調べる?」


「うーん……、永継君って小柄だから着れるのでは?」


「今あるやつ?」


「そう。着てみませんか?」


 宇野さんが恐る恐る聞いてくる。


「いいけど、宇野さんも着るんだよ?」


「……永継君しか居ないから我慢する」


 そう言って宇野さんは立ち上がりクローゼットを開けた。


 前にちらっと見えた時には半分ぐらいしか入ってなかったのに、今はぎっしり入っている。


「男装のもあるけど、逆にメイド服着てみる?」


「宇野さんが執事?」


「ほんとに抵抗ないんだね」


 正直に言って、服は服としか思えない。


 確かにその服で外にでるのは少し抵抗はあるけど、家の中なら別に抵抗はない。


「じゃあ永継君がメイド服で、私が執事服ね」


「うん」


 宇野さんが僕にメイド服を渡して、自分は執事の服を持って洗面所に入って行った。


「着れるかな?」


 そもそもサイズが入るかわからないし、着方もわからない可能性がある。


 もし着れなかったら宇野さんに手伝って貰うから平気だけど、サイズが合わなかったら残念ながら宇野さんだけに着て貰うことになる。


「破かないようにだけ気をつけよ」


 そう決めて僕は着替えを始めた。




「永継君、着れた?」


「着れたよ」


 宇野さんが部屋の外から声をかけてくれた。


 一応一人でも着れてサイズも難なく入った。


「じゃあ入るね」


 宇野さんがそう言って部屋に入ってきた。


「おぉ、かっこいい」


 宇野さんの執事姿はいつもの可愛い雰囲気とは違ってかっこよかった。


 下に着てる服が白くて、外は上下共に黒い。


 そして白い手袋を付けている。


「……」


「宇野さんどうしたの?」


 宇野さんが部屋に入って来てから固まっている。


「着方違った?」


「あ、違うの。想像以上に可愛くて、本気でスマホが欲しくなったの」


 よくわからないけど、宇野さんが喜んでくれたのなら良かった。


 僕が着たメイド服は、梨歌ちゃんが着たのとは違って、ロングスカートのタイプだ。


 スカートを初めて履いたけど、立っていると落ち着かないから座っている。


「スカートの中って正座?」


「崩してる」


「女の子座りとか最高かよ」


 なんだか宇野さんの顔がどんどん赤くなってきた。


「本気の化粧したら外にも出れるでしょ。いやいっそこのままでも出れるか」


 宇野さんが真剣な顔つきで言うけど、さすがに外は行きたくない。


 今日は梨歌ちゃんの誕生日を祝うと決めているし。


「そういえば今日って仁さんも来るんだよね?」


「あぁ、そうだね。前回は途中で色々あったから」


「来たみたいだよ。梨歌ちゃん達も一緒に」


「ちょっ、やば」


 宇野さんが急いで洗面所に駆け込んだ。


「……それはずるでは?」


 そう言った時には扉の開く音と、悠莉歌ちゃんの「ただいまー」が聞こえていた。




「つまりるか姉が最低なことをして最高な結果になったと」


「すいません、さすがに見られたくはなかったです」


 鏡莉ちゃん達に説明は済んだけど、何故か僕は着替えさせて貰えないでいる。


「てかほんとに可愛い。最初見た時に本気で『誰この美少女?』って思ったし」


「よく見ると永継さんなんだけど、ちょっと可愛すぎだよね」


「お兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんだね」


「……」


 自分では見てないからわからないけど、高評価すぎて僕は本当に男なのか不安になってくる。


「めいめいは嫌なの?」


「え、なんで?」


「ずっと怖い顔で睨んでるから」


 芽衣莉ちゃんは僕を見てからずっと黙っていた。


「これ着たかった?」


「そういうのではないです。むしろ篠崎さんが着たものの方が着たいですけど、そうじゃなくてですね」


 さりげなくすごいことが聞こえた気がするけど、みんなスルーの流れだから僕も気にしない。


「篠崎さんが女の子でも愛せるなって思って」


「気持ちはわかるけど、そんなストレートに言わなくても」


「というか女の子なら我慢の必要もないのでは? ちょっと二人で上に行っていい?」


 芽衣莉ちゃんが目の色を変えて僕に近づいて来る。


「めいめい、自重しなさい。一応お義父さんが居るんだから」


 そう、この場には僕達だけではなく、仁さんも居る。


 ちなみに仁さんは僕を見て絶句していた。


「だってお義父さんは篠崎さんに見惚れてたもん。敵だもん」


「さすがに私も引いた」


「いや、芽衣莉、梨歌、僕は別に見惚れてた訳では──」


「なっつん」


 鏡莉ちゃんが耳打ちをしてきた。


「やるの?」


「やって」


 鏡莉ちゃんがやって欲しいことがあるからと、それを実践してみる。


「仁さん」


「な、なにかな?」


「ほんとに見惚れてない?」


 鏡莉ちゃんに言われた通りに首を傾げながらまっすぐ仁さんを見てそう言った。


「…………ない」


「ギルティ。気持ちはわかるけど」


「これは反論出来ないね。まさかお父さんが女装した人に見惚れるなんて。気持ちはわかるけど」


「父さん、気持ちはわかるけどわかってて見惚れるのはアウトだよ」


「気持ちはわかります。私も今すぐ押し倒してあんなことやこんなことをしたいですから」


「僕はそこまでは……」


「変態さんだ」


 悠莉歌ちゃんのストレートな言葉に仁さんの顔が暗くなった。


「衣装ってすごいね」


「素材がいいからね。なっつんは元から可愛いんだよ」


「自分の顔って好きじゃないからわかんないや」


 よく父親に「お前の顔は女っぽくて気色悪い」と言われていたから、自分の顔が好きではない。


 だけどみんなが嫌わないならそれでいい。


「お父さんの変態性がわかったところで本題に入ろ」


「流歌、ほんとにやめて」


「仕方ないよ。永継君がいくら可愛いからって見惚れたのが悪い」


「昔好きだった人に似てるもんだからつい」


「そういうカミングアウトはいいから始めて」


「はい……」


 そうしてやっと本題に入った。


 本題は住む場所をどうするか。


 それとスマホの契約。


 そして生活費について。


 住む場所は今まで通りにこのアパートになり、スマホは宇野さん払いで二台、生活費は今まで通りにしようとしたけど、仁さんが引かなかったので、少し出してくれることになった。


 契約などに関してありがとうの意味を込めて今回、僕に見惚れたという話は忘れることになった。


 ただ仁さんが帰る時に僕が「さようなら」と首を傾げて言ったら少し固まってみんなから「変態」と言われてしまった。


 ちなみに首を傾げたのは鏡莉ちゃんの指示だ。

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