カミングアウト
「いきなり問題行動をした梨歌ちゃんをどうするかの裁判を始めます」
「有罪、ギルティ、とりあえず私で上書きでいいよね?」
みんなで机を囲んで謎の裁判が始まった。
そして僕に近づこうとした鏡莉ちゃんを芽衣莉ちゃんがわきに腕を入れて止めた。
「止めてくれるな。めいめいはしたからいいけど、私とるか姉はまだなんだよ」
「駄目だから。そしたら今度は鏡莉をどうするかの裁判が始まるから」
「二回もしためいめいが一番罪が大きいんだけど?」
「二回目は仕方ないよ。篠崎さんがあんなに至近距離にいたら我慢なんて出来ないし、何より夢で色々あったから」
芽衣莉ちゃんの夢の内容まではわからなかいけど、あの時は僕を『なっくん』と勘違いしてキスをした。
つまりは僕にしたというよりかは、昔の僕にしたことになる。
ただの言葉遊びだけど。
「永継ってキス魔なの?」
「お兄ちゃんは被害者。みんな自分のことばっかりだから」
「ゆりがそれを言うか?」
悠莉歌ちゃんが僕にキスをした理由は、初めての相手を鏡莉ちゃんにしたくないからだ。
「ゆりか子供だからわかんなーい」
悠莉歌ちゃんはそう言って僕にもたれ掛かる。
「そういう時だけ子供になんのやめたら? 子供っぽい女は好かれるかもしれないけど愛されないよ」
「普通でいたら子供っぽくないって言われて、子供っぽくするとうざいって言われるゆりかはどうしたらいいの? そういう風にするから子供のうちに感情が無くなって自我を持たない子供が増えるんだよ」
子供の時に全てを否定されると、自分に自信を持てなくなる。
だから何を言っても無駄だと諦め、自分を出せなくなる。
「悠莉歌ちゃんは相手を黙らせるのが上手そうだね」
「うん、マジレスって言うんだっけ?」
「……なんか普通に座ったから流してたけど、どちら様?」
鏡莉ちゃんが栞さんを見ながら僕に聞いてきた。
栞さんは当たり前のように芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんと共に来て、僕の隣に座った。
「自己紹介してなかった。私は桐生 栞。お宅の梨歌ちゃんを預かったもんです」
「悪役っぽく言わなくていいから。この人は篠崎さんのストーカー」
「僕の?」
栞さんは確か宇野さんの追っかけのはずだ。
「そういう設定だった。まぁそういうこと」
芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんが栞さんを睨んでいる。
宇野さんのストーカー(追っかけ)をして、梨歌ちゃんを預かっていたなんて説明では確かに疑いの目を向けられても仕方ない。
だから僕がちゃんと説明する。
「栞さんはね、僕と宇野さんのお友達で、梨歌ちゃんに泊まる場所をくれた人なの。もちろんお父さんの許しを得てね」
「篠崎さん、この二人が気にしてるのは私のことじゃないから」
「え?」
「可愛い女子から熱い視線を向けられるのもいいけど、梨歌ちゃんは後でお説教だな」
なんだかみんなでよくわからないことを言っているけど、聞いても教えてくれなそうだから考えるのを諦めた。
「そういえば、宇野さんには知らせられない?」
「流歌ちゃんのお父さんには知らせてあるよ。流歌ちゃんに話したかはわからないけど」
「宇野さんって今日アルバイトないよね? お店には行ってるのかな?」
宇野さんと初めて会った日が金曜日で、その日は宇野さんが買い物に行こうとしていたからアルバイトは休みのはずだ。
早く帰って来たことはないけど。
「るか姉って料理の勉強してるんだよね?」
「うん。だからバイトの無い日も遅いんだよね」
「でも実際さ、るか姉って自分のことなんにも話さないからほんとにバイトしてるのかも怪しんだよね」
「実は夜遊びしてるってこと?」
「いや、そこまでは……」
栞さんが話した途端に鏡莉ちゃんの元気がなくなった。
「鏡莉ってね、実は芽衣莉以上に人見知りなんだよ」
「そうなの?」
それにしては僕と初めて会った時には色々と言っていた気がする。
「あ、家族の為ならなんでも出来るっていう宇野家の力か」
「そういうんじゃないし、なっつんはなんか違っただけだし」
鏡莉ちゃんが少し拗ねたように言う。
「でも対戦相手には罵詈雑言を浴びせるタイプでしょ?」
「そんなことは──」
「あるね」
梨歌ちゃんが鏡莉ちゃんの言葉を待たずに答える。
罵詈雑言とまではいかなくても、鏡莉ちゃんが最近パソコンに向かって文句を言っているのは確かだ。
「普段はしないもん。最近はあいつが私を殺しにくるから」
「別に殺すとかはないよ。ただ相手をしてくれるのが嬉しくてね」
「なんでそんなわかったような風に言えるのさ」
「だって『モノクル』は私だから」
『モノクル』とは鏡莉ちゃんが最近勝てないでいる人の名前だ。
最近と言っても、梨歌ちゃんが居なくなってからはパソコンを開いていないので、あの日以前になるけど。
「私ねマイナーゲームが大好きなんだよ。マイナーゲーム極めて、たまにログインした古参の人を狩るのが大好きなんだよね」
「……悪趣味」
「いやだってさ、古参で久しぶりに戻ってきた人達も、新人を狩る目的で入ってるだろうから、そっちのが悪趣味でしょ?」
「新人を守ってると?」
「その新人も狩るんだけどね」
栞さんの発言に鏡莉ちゃんだけでなく、僕以外のみんなが引いている。
「だって、手を抜く方が失礼でしょ。煽りプレイをしてる訳でもないし、マナー違反でもないでしょ?」
「確かに完膚なきまでに殺すやり方だったけどさ、新人にあれやったら更に人口減るでしょ」
「先人に負けるのは新人の宿命でしょ? それで辞めるならゲームをするべきではないよ。他でも同じ結果になるんだからお金の無駄」
辛辣な言い方だけどその通りだ。
せっかく買ったのに勝てないから辞めるなんてもったいない。
「だから鏡莉ちゃんのこと好きなんだ」
「いきなりなに?」
「だって鏡莉ちゃん、いくら負けても戦法変えて毎日勝負してくれたじゃん? 本物のゲーマーだなって嬉しかったんだ」
「毎日負けてて悪いね」
「いくら鏡莉ちゃんが古参でも、久しぶりにやる人には負けないよ」
栞さんが胸を張りながら言うと、鏡莉ちゃんが拗ねたような、悔しがるような顔で栞さんを睨んだ。
「でも、最近はログインしてなかったから寂しかった」
「私だけ遊んでられる状況でもなかったし、何よりそんな気分でもなかったからね」
「梨歌ちゃんが家出なんてするから」
「あ、ここで私に振るんだ」
「私が鏡莉ちゃんと遊ぶ為にも早く帰ってって言ったのに嫌だって言うから」
栞さんが梨歌ちゃんを泊めたのは栞さんがやりたくてやったことと言っていたけど、もしかしたら早く梨歌ちゃんを帰らせて鏡莉ちゃんとゲームをしたかったのかもしれない。
「とりあえず鏡莉ちゃんとのいざこざは今すぐ解決して。私はこれから梨歌ちゃんのせいで出来なかった分のプレイ力を発散するから」
栞さんはそう言ってリュックサックからノートパソコンを取り出した。
「あ、これはつまらないものですが」
そして今更ながらに手土産のお菓子の包みを芽衣莉ちゃんに渡した。
「あ、ありがとうござ──」
芽衣莉ちゃんが包みを見て固まった。
僕にはわからないが、多分相当に高いお菓子なのだと思う。
「家にあったやつを適当に包んで貰ったけど、嫌だったら別のを今度持ってくるね」
「めいりお姉ちゃんが固まっちゃったから引き継ぐね。ありがとうございました。りかお姉ちゃんの面倒を見てくれただけじゃなくて、こんなにいいものを」
「悠莉歌ちゃんはほんとに五歳なのか疑いたくなるね」
「ピチピチの五歳だよ」
栞さんが優しく悠莉歌ちゃんの頭を撫でた。
「じゃあ梨歌ちゃん、早くして」
「鏡莉とのいざこざって、お互いが気にしなければ大丈夫なやつだからいいよ。遊んできな」
「はーい。鏡莉ちゃん、やるよ」
「……二分待って」
「栞さんは待ての出来る子だから待つ」
栞さんはそう言ってしゅんとしながら座り直した。
そして鏡莉ちゃんは梨歌ちゃんの隣に座った。
「なに?」
「ごめんなさい」
鏡莉ちゃんが梨歌ちゃんに頭を下げた。
「ほんとになに?」
「私さ、生意気な梨歌が嫌いなの」
「知ってるけど喧嘩売ってんの?」
「バカ真面目なるか姉も正直好きにはなれなかったの」
いきなりのカミングアウトに空気がしんとする。
「ゆりは年下だからまだ良かったけど、私にとってはめいめいしか家族と思えなかったんだよ」
「……それで?」
「だからそのめいめいをいじめてる梨歌がとにかく嫌いだった。でも違ったんだよね?」
「……」
梨歌ちゃんは何も答えない。
梨歌ちゃんも同じようなことを言ってはいたけど、あれは──。
「めいめいが変態のドMなのを知ったからわざとめいめいにきつく当たってたんだよね?」
「そんなことは……ない」
とても意味ありげな間があった。
「ゆりはその後のめいめいを介抱してたみたいだけど、それは梨歌に言われたことで悲しんでた訳じゃないよね?」
「うん、ビーストモードを抑え込む為に頑張ってるめいりお姉ちゃんを応援してた」
それならそうと最初に言っていればここまで話が大きくならなかった気がするけど。
「だからごめんなさい」
鏡莉ちゃんはそう言ってまた頭を下げた。
「別に謝る必要はないでしょ。言い方が強かったのは事実だし、説明もしてなかった訳だから」
「でも、った」
顔を上げた鏡莉ちゃんのおでこに梨歌ちゃんが軽くデコピンをした。
「私はそれで許した。鏡莉は私を許すの、許さないの?」
「私が許す許さないの話じゃないよ。梨歌が許してくれたなら私は何も言わないで遊んで来る」
そう言って鏡莉ちゃんは立ち上がった。
「勝ってその眼鏡も叩き割ってあげなさい」
「やってやるさ。りっか」
鏡莉ちゃんはそう告げてノートパソコンを手に取った。
言われた梨歌ちゃんはほんのりと笑顔になっていた。




