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初めての担保

「入る前に一つ聞いていい?」


「なに?」


「お泊まりする気満々だよね?」


 寝たフリ続行中の梨歌ちゃんを背負いながら栞さんとアパートに着いた。


 栞さんの荷物はリュックサックパンパンになるまで入っている。


「手土産とか着替えとか娯楽グッズとか入れてたらいっぱいになっちゃった」


「お泊まりしていいかは宇野さんに聞いてよ?」


「もちろん。断られたら手土産と娯楽グッズを置いて帰りますよ」


 もしかしたらそれが一番の理由なのかもしれない。


 普通にあげるのでは、嫌がる人もいるけど、多分今回のはお詫びという形になる。


「梨歌ちゃんのことを何も言わなくて心配かけたからね。梨歌ちゃんには身体で払って貰ったから、こっちも返さないといけないし」


「そういえばさ、僕のアルバイト? の話はどうなるの?」


 そもそもこのお泊まりの始まりはそれを話す為のものだ。


「お父さんに話したら大丈夫って言ってたから平気だよ」


「何をするの?」


「私の家庭教師」


「栞さんの?」


 どうやら栞さんの勉強を見る代わりにお小遣いをくれるらしい。


 それなら確かに親の承認も必要ないし、大悟さんが調整してくれれば色々と引っかかることもない。


「その分普通の家庭教師よりも給料って言ったら駄目か。お恵みが少ないけどね」


「それでも嬉しいよ。自分のお金があれば宇野さん達にお誕生日のプレゼントも買えるし、他にも色々と出来るから」


 もしかしたらお母さんの役にも立てるかもしれない。


「私の誕生日は?」


「いつ?」


「知らないの? 三月三日だよ」


「ひな祭り?」


 ここまでくると驚かない。


 何故か僕を含めてみんなイベントと誕生日が被っている。


「誕生日とイベントが被ってる人って、誕生日とイベントをごっちゃにされるよね。私の場合だと毎年ちらし寿司なんだよね」


「そうなんだ、確かに鏡莉ちゃんの誕生日の時は宇野さんがかぼちゃのケーキ作ってた」


 僕には誕生日を祝われた経験かわないからわからないけど、七夕と誕生日が一緒だとどんな祝われ方をするのだろうか。


「流歌ちゃんはバレンタインだから逆チョコケーキとかあげようかな」


「逆?」


「私って貰うの担当じゃん?」


 知らないが栞さんがそう言うのならそうなんだろう。


「永継は七夕だから星をイメージした何かだよね。期待してていいよ」


「栞さんの時はひな祭りだから……、何あげたらいいの?」


 ひな祭りのイメージがちらし寿司しか思いつかない。


 後は雛人形ぐらいだ。


「人形繋がりでぬいぐるみとかいいんじゃない? まぁ永継からならなんでも喜ぶ自信はあるよ」


「頑張って考える」


 栞さんには色々とお世話になっているから、誕生日にはちゃんとプレゼントをあげたい。


 栞さんの誕生日までに三人誕生日がやってくるけど、その全員にちゃんとプレゼントを送りたい。


 もちろん鏡莉ちゃんにも。


「いいから早く入りなさいよ」


「寝たフリ終わり?」


「バレてんのもわかってたよ。それよりそろそろ入らないと芽衣莉と鏡莉泣くよ」


 それは大変なので宇野さんから預かっている鍵で扉を開けた。


 この鍵は宇野さんが「私より永継君の方が絶対に早く帰るから持ってていいよ」と言って渡された。


 ちなみに合鍵は悠莉歌ちゃんが持っている。


「永継への信頼が半端ないよね」


「篠崎さんが居れば足音で姉さんが帰って来たのがわかるから鍵の必要ないしね」


「そういうことではないけどね。まぁ女の子だけの生活だから鍵は掛けないと不安だろうし、それなら買い物によく行く永継が持ってる方がいいのかな? でも永継がいつでも気づける訳でもないんだから暗がりに放置するより流歌ちゃんが鍵持ってた方がいいと思うけど」


「栞さんってなんでそんなに僕達のこと知ってるの?」


 ずっとそれが気になっていた。


 梨歌ちゃんから「ストーカー」という単語が出てきたけど、本当なのかわからない。


「私ね、好きな人には一直線なの」


「宇野さんのことストーカーしてるの?」


「してると言えばしてるし、してないって言ったらしてないかな」


「どっち?」


 どうやら答えるつもりは無いらしい。


 言いたくないなら聞かないけど、みんなのプライベートを守る為なら栞さんでも容赦はしない。


「永継が怖い。今は話せないだけだから。もう少ししたら話すから許して」


「絶対だからね」


「栞さんは嘘つかないから」


「そうだよね」


 僕は笑顔でそう言った。


「永継に笑顔で言われると怖いのと、この笑顔を裏切りたくないのとで絶対に裏切れないよね」


「裏切るつもりだっ──」


「篠崎さん!」「なっつん!」


 僕が栞さんの方を向いたところでお腹のところに温もりを感じた。


 来るのはわかっていたけど、なんだか嬉しくなった。


「ただいま」


「遅い! 篠崎さんまで帰って来ないかと思った」


「なっつんまで居なくなったら、私は……」


 芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんが涙を流しながら僕に抱きついている。


 頭を撫でたり抱き返したりしたいけど、僕の両手は塞がっていて出来ない。


「気持ちはわかるけど私にも触れなさいよ」


「梨歌ちゃんはちょっと待ってて。篠崎さんが居なかった分を補給してるから」


「梨歌にも後で時間割くから、ね?」


「なんで私がわがまま言ってるみたいになってるの? なに、私も泣けばいい?」


 梨歌ちゃんはそう言って僕にぎゅっと抱きついた。


「これがリアルハーレムというやつか。羨ましい、私も混ざろうかな?」


 栞さんが本気で悩み始めたけど、さすがにこれ以上は色々と大変なので駄目だ。


「一旦離れられる?」


「やだ!」


「帰って来なかった罰だよ!」


「芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんだよね? 永継だって男の子なんだから察してあげてよ。可愛い女の子に抱きつかれて困るのは男のさがなんだから」


 栞さんがなんだかよくわからないことを言っているが、ほんとにそろそろきつい。


「篠崎さんがそんな普通な男の子みたいなことになる訳ないでしょ。単純に腕が辛いんだよ」


「梨歌ちゃんが重いか……なんでもございません。そうですよね、うちからここまで三十分はありましたからね」


 強面さんが車を出してくれると言っていたが、栞さんが断ったので歩いて来た。


 僕も悪いからそれでいいと思ったけど、宇野さんをおんぶした時はまだ大丈夫そうだったからいけると思ったけど、さすがにあの時の倍以上の時間は辛かった。


「梨歌ちゃんも軽いんだけど、僕の力が無さすぎて」


「普通に三十分おんぶは辛いと思うよ?」


「それをわかって寝たフリしてた梨歌ちゃんさすが!」


「気持ちよくて途中でほんとに寝てたんだよね」


 確かに途中から少し可愛い寝息が聞こえてきた。


 アパートに着く少し前に起きたようだけど、寝たフリを続けていた。


「梨歌ちゃん、下りられる?」


「……ちょっとこっち向ける?」


「うん」


 そろそろ腕がぷるぷるしてきたけど、顔を後ろに向けるぐらいなら出来る。


 梨歌ちゃんに言われた通りに僕は梨歌ちゃんの方に顔を向けた。


 すると。


「ほんとにありがと。大好きだよ」


 梨歌ちゃんはそう言って、僕にキスをした。


 時間にして二秒程の少し長めのキス。


 頭がぽーっとして何も考えられなくなった。


「いつものお礼と、今回迷惑をかけたお詫びとしては安いかもだけど、初めてだから担保として受け取って」


 梨歌ちゃんは耳元でそう呟くと、僕の腕をぽんぽんと叩いて床に下りた。


 何も考えられずに固まっていると、梨歌ちゃんに「行こ」と手を引かれた。


 梨歌ちゃんに手を引かれるままに僕は玄関を上がった。


 栞さん達も少ししたら動き出した。

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