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おもちゃを使うにはまだ早い

「それでなんで栞さんが居るの?」


「それはね、ここが私のお家だからだよ」


 色々と落ち着いたところで、栞さんが向かい側に座り話を始めた。


 強面さん達は大悟さんが連れ去った。


「梨歌ちゃんを泊めてくれてありがとう」


「そうやって何でも信じるのは駄目だよ」


「栞さんは嘘なんてつかないでしょ?」


「嘘ついたら私が最低な人間になるのか。ついてないけどさ」


 梨歌ちゃんのことで頭がいっぱいだったから表札を見てなかったけど、強面さん達とあんなにノリノリで小芝居をしているのなら、栞さんの言葉を疑う理由がない。


「梨歌ちゃんはなんで栞さんのお家に泊まってたの?」


「それはさっき言った通りだよ。アパート出てった後に……桐生さんと会って、何故か私が姉さんの妹なのがバレて後から来た父さんと話して決めたの」


「桐生さん? 最初みたいに『栞さん』って呼んでよ」


「あれは仕方なくだし」


「でも、桐生さんだとお父さんも反応しちゃうよ」


 お父さん、つまり栞さんと大悟さんは親子ということになる。


 確かに少し茶目っ気があるところが似ている。


「大悟さんは大悟さんだからいいでしょ」


「栞ちゃんでもいいよ」


「うるさいよ桐生さん」


 素っ気ない態度の梨歌ちゃんに栞さんが頬を膨らませて拗ねる。


「永継、永継の妹(未定)が意地悪する」


「かっこと未定まで自分で言うな。てか私は別に妹じゃないわ」


「でも流歌ちゃんか芽衣莉ちゃんが永継と結婚したら妹だよ?」


「そういう話でもないでしょ」


「あ、梨歌ちゃんがなりたい人だったか」


「私をいじるってことはやり返されても後悔はないってことね?」


 梨歌ちゃんのその言葉を聞いた栞さんが、自分の口にチャックをするように指をスライドさせた。


「仲良しさんだね」


「別にそういう訳でもないよ。桐生さんは私をいじるけど、私は桐生さんの秘密を知ってるから脅してバランス取ってるだけだし」


「栞さんの秘密?」


「うん。せっかくだし、聞けなかったこと聞けば?」


「そうだね」


 思えば、栞さんにはまだ宇野さんの秘密について聞いていなかった。


「栞さん、手紙のこと教えて」


「……」


 栞さんが無言で僕を見つめてきた。


「言えない?」


「……」


「バラさないから篠崎さんに返事して」


「了解」


 どうやらお口チャックを続けていたようだ。


「流歌ちゃんの秘密だよね。私が書いたのは、流歌ちゃんと永継がお昼休みで一緒にお昼ご飯を食べてることだよ。それだけでも流歌ちゃんにとっては大スキャンダルでしょ?」


 宇野さんの場合は、男子と一緒に居るだけで噂が出てしまう。


 それを考えると確かに大スキャンダルだ。


「今はもう言う気はないよ。見捨てられたらわからないけど」


「僕も宇野さんも栞さんと一緒に居るのは楽しいから見捨てないよ? でも気づかなかったなぁ」


 僕の耳は相当いいらしく、音でかき消されたり、分厚い壁があったりしない限りは足音か何かが聞こえてくる。


 なのに、僕達を認識できる距離に居た栞さんには全然気づかなかった。


「あれだね、それだけ二人の世界に入ってたんだよ、うん」


「単純にストーカーしすぎて篠崎さんにバレないくらいに音を消せるようになっただけでしょ」


「これで交渉決裂だ。私は梨歌ちゃんと決闘する」


 頬を膨らませた栞さんが梨歌ちゃんに這いより、抱きついてわしゃわしゃしだした。


「離れろし」


「その割には抵抗なかったぞ。こういうのが好きなんだろ」


 栞さんはそう言って梨歌ちゃんの耳に息を吹きかけた。


 梨歌ちゃんは顔が真っ赤になって力が抜けたように栞さんにもたれかかった。


「本当の自分をさらけ出せよ。ほんとは百合が好きで、姉妹に手を出したいんだろ? それで引かれるのが怖いなら私にやっていいんだよ」


 栞さんはそう言って梨歌ちゃんをさわさわする。


「や、め……やぁー」


「そ、そんな可愛い声出されたら抑えられないだろ」


 栞さんはそう言って梨歌ちゃんに覆い被さった。


 なんとなくデジャブを感じたので後ろを向いて耳を塞いだ。


 部屋の外の人達も離れて行ったようなので時が経つのをじっと待った。




「終わった?」


「若い女の子はやっぱりいいね」


「服がしわしわだよ」


 栞さんも立てなくなってる梨歌ちゃんも服がシワだらけになっている。


「ちょっとハッスルしすぎた。永継も混ざればよかったのに」


「きっと僕は混ざったら駄目なやつだよね?」


 気にしないようにしてたけど、机の上にあったマッサージ用具の配置が変わっていた。


「エッチなことはいてないからね? 確かに梨歌ちゃんの程よいお胸様は触ったりしたけど、さすがにおもちゃで遊ぶには時間が早いからね」


「マッサージ用具じゃないの?」


「永継は私にはピュアすぎて見れないよ。そうだね、これはマッサージ用具だよ、紛れもなくね」


 何故か栞さんが僕の頭を撫でてくれた。


「梨歌ちゃんは大丈夫?」


 さっきから梨歌ちゃんがピクピクしていて、不安になる。


「大丈夫だよ。梨歌ちゃんも()()()()から」


「それならいいけど」


「人生の教科書が役に立ったよ。梨歌ちゃんがこんなに悦んでくれるなんて」


「人生の教科書って久しぶりに聞いた」


 鏡莉ちゃんも同じことを言っていた。


 確かエロゲは人生の教科書だと。


 結局エロゲがなんなのかはわからないが。


「てか、そろそろ帰る? 妹ズが絶対心配してるよね?」


「うん。こういう時にスマホって必要なんだよね」


「みんなじゃ怖がらせるからと思って行かせなかったけど、連絡係を走らせた方が良かったかな?」


「とにかく早く帰るよ。栞さん、梨歌ちゃんのことほんとにありがとうね」


「いいよ、私がやりたくてやったことだし、それに半分は自分の為でもあったから」


 栞さんはそう言って優しく微笑んだ。


「あ、嫌われたくないから言っとくけど、梨歌ちゃんを泊まらせる条件は絶対に帰ることだからね」


「でも梨歌ちゃんが帰りたくないって言ったらどうしたの?」


「その時は私達の方で永継を呼んで説得させるつもりだった。だけど今日永継と話したことを梨歌に伝えたら会う決心ついたみたい」


 今日話したことと言えば、梨歌ちゃんをどんなことをしても連れて帰るや、梨歌ちゃんが居ないと駄目なこと。


 結局は僕がそんなことをしなくてもよかったみたいだけど。


「ほんとはお父さんが『今更連れて帰るとか都合がいいな?』とか言ってラスボス感出そうとしてたみたいだけど、永継と梨歌ちゃんの話を盗み聞いて感激したみたい」


「だから栞さんが代わりにやろうとしたの?」


「結果的には梨歌ちゃんの可愛さに悶えるだけだったけどね」


 実際に立ちはだかられたらどうなるかわからないけど、僕の気持ち的には負けないつもりだ。


 たとえ誰が来ようと梨歌ちゃんを連れて帰る。


「永継に口ではなんとでも言えるって言ったけどさ、わざわざ顔が怖いことがコンプレックスのお父さんの部下を呼んだのに怯まない時点で有言実行できたんだろうね」


「大悟さんってなんの仕事してるの?」


「大工さん」


「そうなんだ」


 大工さんなら力が強いのも納得だ。


 それに男の人が多いのにも。


「普通の家とかから、うちみたいな無駄に広い家とかの色んなものをやってるみたい。正確にはわからないけど」


「すごいね。栞さんはお金持ちのお家の子になるの?」


「なるかな? なに? お金寄越せって? 永継になら返済期限無し無利息で私のお小遣いの範囲でいいならいくらでも貸すよ?」


「僕の言い方も悪いけど、お金に困ってるように見せてごめんね」


 確かに自分のお金はないけど、友達からお金を借りるようにはなりたくない。


「ほんとにごめん。でも、流歌ちゃんに何かあげたいとかなら永継が選んで私がお金を出して二人からって形にするのは?」


「どうせ選ぶなら栞さんと選びたい」


「永継のそういうところよね。あぁでも、お金を稼げる方法はあるよ」


「親の承諾は得られないよ?」


「お年玉を貰うのに親の承諾はいらないでしょ? その延長線上みたいなもんだから平気じゃないかな?」


 どういうことかわからないけど、お金が貰えるのなら、宇野さん達に何か出来ることがあるかもしれないのでありがたい。


「大丈夫そうなら明日にでも、って明日は土曜か。……言っていい?」


「どこに?」


「宇野家」


「僕に言われても……」


 僕は宇野さんの家に遊びに行っているだけだから、僕に言われても困る。


「じゃあ今から私も永継と梨歌ちゃん連れてく」


「帰りは?」


「最悪迎えを呼ぶか、お泊まり」


 栞さんはそう言うと「こうしちゃいられない」と言って準備をする為に立ち上がった。


「五分で済ませるから梨歌ちゃん連れて玄関で待ってて」


 そう言って栞さんは部屋を出て行った。


 仕方ないので、寝たフリをしている梨歌ちゃんを頑張って背負って玄関に向かった。

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