説得終了の後に……
「いや、ごめんて」
「馬鹿力」
大悟さんの待つ部屋へ梨歌ちゃんに慰められながら向かうと、その光景を不思議がった大悟さんに梨歌ちゃんがずっと怒っている。
「そろそろ自分の力が強いことを理解したらどうなんですか?」
「わかってるんだけど、嬉しくなるとついな」
「反省してくれます? 篠崎さんを泣かすとうちの姉妹が何するかわからないですからね」
「はい……」
梨歌ちゃんのお説教で大悟さんの身体がどんどん小さくなっていく。
「それで、何をさせる気なんですか?」
「先に話をまとめていいか?」
「どうぞ」
「永継は梨歌が納得した上で一緒に帰りたくて、梨歌は帰りたくないってことでいいか?」
僕と梨歌ちゃんは頷いて答える。
「それなら、永継はどんな方法を使ってもいいから、梨歌を説得してみせろ」
大悟さんはそう言ってから指をとてもいい音で鳴らした
すると強面の男の人達が部屋に入ってきて、何かの準備を始めた。
「ここは家の端っこだから基本的には誰にも声は聞こえない。だから思う存分に話し合ってくれ」
「なんか変なものが多いのは私の見間違いかな?」
男の人達が持ってきたものは確かに変だ。
棒の先に羽が付いてるものや、いびつな手持ちサイズの機械やらがある。
「おい」
「なんだ?」
「ちょっと来い」
梨歌ちゃんがとても怒った様子で大悟さんを部屋の隅に連れて行った。
そして少し話した後に、鈍い音が聞こえてきて、おでこに赤い痕を作った大悟さんとスンとしている梨歌ちゃんが戻って来た。
「さぁ、梨歌の許しも得たところで始めるか」
「許してないから。それにこんなの篠崎さんが知ってる訳ないでしょ」
「ただのマッサージ用具だろ? それをどう使うかは永継次第だよ」
「後で四回あんの忘れないでね」
「頑張って耐えてるんだから思い出させるなよ……」
大悟さんが赤い額を押さえながら弱々しく言う。
「それでこれは大悟さんの私物?」
梨歌ちゃんが運ばれてきたものを指さしながら聞く。
「そんな訳ないだろ。とある協力者の私物だ」
「見せていいもんなの?」
「自分から差し出してきたからな。ちゃんと未使用だって言ってたぞ」
「協力者にも一発必要かな?」
どんどん話が進んでいくけど、僕にはわからないことがある。
「これって何に使うものなんですか?」
「ほんとに知らないんだな。説明は梨歌ち任せた」
「逃げんな」
「逃げるんじゃない。見られたら恥ずかしいだろうから大人の対応をするだけだ」
大悟さんはそう言ってそそくさと部屋を出て行った。
「あいつ……」
「梨歌ちゃん」
「な、なに? まさか説明させる気?」
「僕はここにあるものを使って梨歌ちゃんを説得すればいいの?」
結局そこら辺が曖昧のまま大悟さんが行ってしまったからわからない。
「そういうことになるけど、いいんだよ? 無理はしなくてね」
梨歌ちゃんが焦ったように早口で言う。
「ろうそくとかもあるけど、まだ明るいよね?」
「だからね、考察もしないでいいの。それは大悟さんと頭のおかしい協力者の悪ふざけだから」
「それにあの──」
「見るのやめなさい」
梨歌ちゃんに顔を無理やり逸らされて、真っ赤な顔の梨歌ちゃんと目が合う。
「そっちはいいから私だけ見てて」
「うん!」
僕は身体の向きを梨歌ちゃんの方に向けて座り直す。
「手、握っていい?」
「理由次第では私が死ぬけど?」
「逃がさない為?」
梨歌ちゃんがまたどこかに行って話せなくなるのは困るから、物理的に拘束したい。
「逃げないけど、私じゃ説得力ないか」
梨歌ちゃんはそう言って左手を差し出してきたので、僕はその手を右手で握る。
「梨歌ちゃんはなんで帰りたくないの?」
「そこからやるのね。私が家出した理由が解決してないでしょ?」
「鏡莉ちゃんが本気で言ってないのはわかってるでしょ?」
「本気かそうじゃないかは関係ないよ。実際に思ってなきゃ言えないでしょ」
あの時は確かに適当なことを言っている感じはなかった。
それでも鏡莉ちゃんは梨歌ちゃんに出て行って欲しくて言った訳ではない。
「梨歌ちゃんの言い方が強いのは確かに思ってたのかもしれないよ。だけど鏡莉ちゃんはそれを嫌だと思ってたかはわからないじゃん」
「芽衣莉を困らせてたのは事実でしょ?」
「芽衣莉ちゃん、ほんとに困ってた?」
僕から見たら、芽衣莉ちゃんが梨歌ちゃんに苦手意識を持っているようには見えなかった。
むしろ楽しそうだった。
「芽衣莉ちゃんさ、内心では喜んでたりしてないよね?」
「そんな訳……ないって言えないのが芽衣莉か」
「今回のことって、芽衣莉ちゃんが嫌がってなかったら解決だよね?」
「だけど嫌がってたら解決しないからね」
悠莉歌ちゃんが芽衣莉ちゃんを慰めてたと言っていたけど、もしかしたら──。
「じゃあ聞きに行こ。もしも芽衣莉ちゃんが嫌がってたとしたら、梨歌ちゃんの全部を受け止める役に僕がなるから一緒に居よ」
「……そっちのがいいのでは? でもなんとなくならなそうなんだよなぁ」
梨歌ちゃんが寂しそうな顔になる。
不安なせいだろうから、そんな梨歌ちゃんの手を握る力を強める。
「抱きしめてくれないんだ」
梨歌ちゃんが寂しそうな顔から少し楽しそうな顔になってそう言った。
「それを梨歌ちゃんが望むなら」
僕はそう言って梨歌ちゃんを優しく包み込む。
「私のこと、好き?」
「うん、大好きだよ」
「私の姉妹達は?」
「同じで大好きだよ」
「私が抜けてる今の状況は?」
「……あんまり好きじゃない」
「そっか」
梨歌ちゃんはそれだけ聞くと静かに僕の背中に手を回した。
そしてしばらくそのままでいると、背後から音が聞こえてきた。
「私にバレてんだから篠崎さんにもバレるだろ。やるならもっと静かにやれっての」
「外の?」
「うん。いい雰囲気邪魔されて腹立ったから後で罰を与えないと」
梨歌ちゃんがそう言って小悪魔のような笑みを浮かべた。
「梨歌ちゃんはそうしてる方がかわいいよ」
「ちょっ、不意打ちやめろし」
梨歌ちゃんが顔を真っ赤にして僕の肩に顔を埋めた。
すると。
「おいおい、随分と都合のいい話をしてるじゃぁっと、……続けます?」
「……はい、続けろって言ってる」
強面さん達が小芝居を始め出した。
「えっと、都合いい話をしてるじゃないか。梨歌さんを追い出しといて」
「そうそう、それで梨歌さんがどれだけ苦しんだか」
「ねぇ、梨歌さん」
「……うっさい」
梨歌ちゃんが強面さん達を睨むと、強面さん達が胸を押さえて倒れた。
気持ちはわかる。
「まったく不甲斐ない。子供の説得もぉぉぉぉ。……尊死」
その後に入ってきた、謎の仮面を付けた栞さんも梨歌ちゃんを見て膝を付いた。
「なんで栞さんが居るの?」
「何故に私がわかった!」
「ん? 何故ってなんで?」
他の同級生ならわからなかっただろうけど、栞さんとは最近仲良しなのだから、仮面を付けた程度ならわかる。
「まさか胸のサイズで誰だかわかるという伝説の人間なの?」
「篠崎さんを馬鹿にするなら許さないから」
梨歌ちゃんの睨みが更に強くなった。
「胸のサイズは見てないからわからないけど、雰囲気でわからない?」
「別に最後にネタばらしすらつもりだったけど、最初にバレると恥ずかしさとわかって貰えた嬉しさが一緒に来てやばい」
「篠崎さんは顔だけで付き合う人を決めないんだよ」
「知ってるよ。何せ私と一緒に居てくれるぐらいだもんね」
栞さんはそう言って謎の仮面を取った。
「ちなみに篠崎さんはあんたを可愛いって言ってたよ」
「そんな嘘を信じるとでも?」
「栞さんは可愛いよ?」
「やめろし!」
栞さんがせっかく取った仮面をまた付けた。
「ほらほら、可愛いお顔を篠崎さんに見せないの?」
「さっきまで顔を真っ赤にしてた可愛い子が何を言う」
「残念、今も赤いし、あんたには負ける」
なんだか楽しそうに話す二人を見て嬉しくなる。
だから思わず梨歌ちゃんを抱きしめる力を強めたら、梨歌ちゃんの顔が更に赤くなってしまった。




