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涙の理由

「ねぇ梨歌ちゃん」


「一つだけなら答えてあげる」


 僕と梨歌ちゃんは知らないお屋敷の一室で二人並んで座っている。


 ここには梨歌ちゃんが案内してくれて、その後に強面の男の人がお茶を持ってきてくれた。


 だから聞きたいことは沢山ある。


 でも、一つと言われたら……。


「これはお家デートって言うやつになるの?」


「数ある中でそれを選ぶあたり篠崎さんなんだよね」


「だって制服デートって言うから」


 てっきりどこかに遊びに行くのかと思ったけど、知らない家に来たからなんなのかよくわからなくなった。


「デートは口実かな。頭に浮かんだのがそれだっただけ。でも普通は何かされてないか心配しない?」


「なんで?」


「顔が怖い人ばっかりだったでしょ?」


「だって梨歌ちゃんを迎えてた人達は確かに怖そうだったけど、優しい人なんだなって思ったから」


 ただの勘ではあるけど、強面さん達は梨歌ちゃんを見て安心しているように見えた。


 それに──。


「おかえりなさいって言われて、梨歌ちゃんはただいまって返してたから、ここにずっと住んでたんでしょ?」


「まぁね。でも、それと優しいは繋がるの?」


「梨歌ちゃんのことを泊めてくれてた人達だよ? 優しいに決まってるじゃん」


 梨歌ちゃんはいわゆる家出少女だった。


 そんな子を見返りなしに泊めてくれる人達が悪い人な訳がない。


「でももしかしたら私の身体が目的とか、私に何かさせるのが目的とかかもしれないじゃん?」


「それなら梨歌ちゃんが僕のところに来てるのがおかしいし、それにあんなにすごいお出迎えもされないでしょ?」


 もしも梨歌ちゃんをどうにかしたくて泊めていたのなら、自由に行動なんてさせないはずだ。


 今日のが梨歌ちゃんが抜け出して来たのなら、ここに帰って来たのもおかしいから、梨歌ちゃんが酷い目に合わされている可能性は低い。


 だから無条件かはわからないけど、条件があるにしても軽いものだと思われる。


「篠崎さんって鈍感なのに鋭いよね」


「矛盾してない?」


「だからいつも驚いてるの」


「ちなみに合ってる?」


「ほとんどはね」


 それならひとまずは安心だ。


 でもそれだと他に気になるところが出てくる。


「でもさ、梨歌ちゃんのお父さんが泊めてるって話じゃなかった?」


「父さんもグルだからね。私が家出した時に、この家の人と会って事情を話したら泊めてくれることになったの。その後に父さんが来て色々話したんだ」


「まさかの親公認の家出」


 それなら宇野さんだけにでも知らせてあげればとも思ったけど、宇野さんは隠し事が苦手だから、何か理由があるのなら話せないのも納得だ。


「僕がここに連れて来られたってことは、話してくれるんだよね?」


「そろそろ姉さんがやばいんでしょ?」


「うん。本当に何も喉を通らなくなって、意識もなくなって授業が受けられなくと思う」


「だよね……」


 誇張してる訳ではない。


 本当にこのままでは宇野さんが壊れてしまう。


 梨歌ちゃんもそれはわかっているから、とりあえず僕から話を聞きたかったのだと思う。


「私が出てった理由はわかってるよね?」


「勢いなんだよね?」


「ずっと抑え込んでたのが爆発したんだよ。いつも私だけ悪者扱いされるのがうざかったから」


 確かに鏡莉ちゃんは梨歌ちゃんの口が悪いといつも言っている。


 だけどそれを言うなら梨歌ちゃんもな気がする。


「梨歌ちゃんも鏡莉ちゃんを悪者扱いしてない?」


「実際大抵のことは鏡莉が元凶でしょ」


「それは梨歌ちゃんから見たらでしょ? 鏡莉ちゃんから見たら違うんだよ」


 最近学んだことだ。


 自分の気持ちと相手の気持ちは違うのだから、勝手に決めつけるのは駄目だ。


 どちらが正しいかなんて、自分と言うのが当たり前なのだから。


「篠崎さんは鏡莉の言ってることが合ってるって言いたいのね」


 梨歌ちゃんが出て行った日のように、冷たい視線と声で言う。


「少し違うよ。どっちが正しいとかじゃないくて、どっちも正しいんだよ」


 梨歌ちゃんの言い方が強いのも事実で、勘違いされるのもわかるし、鏡莉ちゃんが相手をからかいすぎてるのも事実だ。


「だからって僕達でどっちが正しいかの多数決を取っても納得しないでしょ?」


「しないね」


「この家出はそういうのを全部まとめて考え直す為のものでしょ?」


「父さんはそのつもりだろうね」


 鏡莉ちゃんには相当効いたと思う。


 毎日自分を責めているし、泣き出すこともあるぐらいだから。


 だけど梨歌ちゃんにはそんな素振りが見えない。


「私は自分が悪いとは思わないよ。確かに強い言い方をしてる自覚はあるけど、それが私なんだから仕方ないじゃん」


「それを言うなら鏡莉ちゃんも勝手にからかっちゃうんだから仕方ないになるよ」


 梨歌ちゃんがつい強いことを言うように、鏡莉ちゃんもつい人をからかってしまうのだから。


「あくまで鏡莉の味方なんだね」


「僕はみんなの味方だよ。鏡莉ちゃんは十分に自分を責めてるのに、梨歌ちゃんはなんで鏡莉ちゃんに押し付けるの?」


「……」


 梨歌ちゃんをおだてるという手もあるけど、それでは何も解決しないのがわかっている。


 僕は二度とみんなが離れるようなことにはなって欲しくない。


「梨歌ちゃんが居なくなってからみんながどうなったか知ってる?」


「知る訳ないでしょ」


「宇野さんはさっき言った通りに何も出来ない状態で、芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんは自分をずっと責めてるんだよ。宇野さんはそんな二人を見たら何もしない訳にはいかないから、自分の気持ちを押し殺して笑顔で二人を慰めるんだよ。悠莉歌ちゃんはいつもの元気がなくて、ずっと一人遊びをしてるよ」


 僕も慰めてはいるけど、気休めにもならない。


「僕はそんなみんなを見たくないんだよ」


「だから私には我慢して帰れって? 私の気持ちも知らないで?」


「わかんないよ。だから全部教えて。梨歌ちゃんが何を許せないのか、何に怒ってるのか、何をしたら一緒に帰ってくれるのか。全部教えてくれて、僕がそれを全部どうにか出来たら一緒に帰ろ」


「出来なかったら?」


「梨歌ちゃんの言う通りにするよ。二度と関わるなって言うならそうする」


 これは賭けだ。


 優しい梨歌ちゃんなら簡単な条件を出すなんて甘い考えはない。


 梨歌ちゃんの全部を受け止められたら僕の勝ち。


 出来なければ梨歌ちゃんと会えなくなる可能性がある。


 だから絶対に負けられない。


「私が受ける必要ないよね?」


「だったらなんで僕を連れて来たの?」


「……」


 何か言いたいことがあるから、それとも、みんなのことが気になったから。


 どちらにしろ、受ける理由には十分だ。


「私が全部話して、それを篠崎さんが説得出来たら篠崎さんの勝ちってこと?」


「僕の勝ちの条件は梨歌ちゃんと一緒にみんなのところに帰るだよ」


「つまり内容は決まってないのね?」


「梨歌ちゃんに任せるよ」


 一緒に帰る条件を話してくれる為に何かするでも、帰る条件を満たしたらでもなんでもいい。


 とにかく梨歌ちゃんと一緒に帰れたらそれで僕の勝ちだ。


「話は聞かせて貰ったぁ」


 大きな声と同時にふすまが勢いよく開いた。


 そして左目に傷が付いた、和服の男の人が立っていた。


「盗み聞きはしない約束でしたよね?」


「俺は()()()()聞こえたから話に割り込んだだけだ。盗み聞きではない」


「屁理屈を」


 目に傷がある男の人が不敵な笑みを浮かべると、梨歌ちゃんが呆れたようにため息をついた。


「それより先に名乗ったらどうです?」


「そうだったな。俺は……大悟だいごだ。よろしくな篠崎 永継」


 大悟さんがそう言って僕に手を差し出した。


「よろしくお願いします」


 僕がその手を握ると、大悟さんが笑顔でブンブンと手を振った。


「話通りだな」


「?」


 梨歌ちゃんが何か言ったのか、大悟さんは僕のことを知っているようだ。


 僕の大悟の第一印象は、左目に傷のある気さくな人だ。


「挨拶をしに来た訳でもないんですよね?」


「さすが梨歌だ。永継、その勝負は俺が内容を決めよう」


「え?」


「また勝手な……」


 見えてはいないが、梨歌ちゃんのため息と呆れた顔が頭に浮かぶ。


「永継はいいな?」


「私は拒否権ないんですね」


「梨歌だと先に俺を殴った方が勝ちとかにするだろ?」


「さすがにしないですよ。デコピンぐらいなら」


 それを聞いた大悟さんが顔を引き攣らせた。


 どうやら経験者のようだ。


「と、とにかく、永継もいいな?」


「僕は梨歌ちゃんがそれでいいなら」


「なら決定だ。ついてこーい」


 大悟さんがとても楽しそうに部屋を出て行った。


「めんどくさいのに捕まった」


「……」


「怖くなった? 怖いなら帰る?」


「握られた手が痛い」


 大悟さんと握手した右手がジンジンしている。


「ごめん、あの人力加減って言葉を知らないみたいなの」


「ぐすっ、行こ」


「いや、ほんとごめん」


 痛すぎて泣きそうだけど我慢する。


 そんな僕の頭を梨歌ちゃんが優しく撫でてくれた。

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