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日本屋敷

「梨歌ちゃん」


「なに?」


「どこ行くの?」


「秘密」


 やっと頭の整理がついた。


 僕は学校帰り、梨歌ちゃんにデートに誘われた。


 そしてそのまま手を引かれてどこかに向かっている。


「むしろ既にこれがデート?」


「これはただの誘拐。デートはこれから」


「何するの?」


「秘密」


 どうやらデート内容は何も教えてくれないらしい。


 それなら別のことを聞く。


「元気だった?」


「まぁそれなりに? 篠崎さんに会えなくて寂しかったよ」


「嘘」


「いや、ほんとだけど?」


「僕に会えなくて寂しいって思ってくれたのかもしれないけど、僕だけじゃないでしょ?」


 本当に僕に会えなくて寂しかったのかはわからないけど、僕よりもみんなに会えないことの方が寂しいはずだ。


「別に寂しいとかはないかな。姉さんには悪いと思うけど」


 梨歌ちゃんが淡々と言った。


「篠崎さんは何か勘違いしてるみたいだけどさ、正直私は姉さん以外を姉妹って思えてる訳じゃないんだよ」


「でも──」


「戸籍上は義姉義妹になるんだろうけどさ、本当に家族って言えるのかなって」


 僕の言葉を遮って梨歌ちゃんはそう告げる。


 前を歩く梨歌ちゃんの表情はわからないけど、淡々と言う口調は変わらない。


「私からしたら芽衣莉達って篠崎さんと関係が対して変わらないんだよ」


「本心?」


「うん。篠崎さんは私をいい子だと思いすぎなんだよ」


 栞さんに言われたことを思い出す。


 僕の気持ちと梨歌ちゃんの気持ちは違う。


 梨歌ちゃんがみんなを大好きだと言うのは僕の幻想なのかと思ってしまう。


「私もさ、最初は頑張ってたんだよ? 芽衣莉達を家族って思いたかったからさ。だけど、どうしても駄目なんだよ。私の姉妹は姉さんだけ」


「……」


 梨歌ちゃんの表情が見えないのもあり、嘘と真実の違いがわからない。


 声だけで言ったら全てが真実に聞こえてしまう。


「だからさ、芽衣莉にもやめさせてよ」


「話しかけるのを?」


「そう。ほんとに……迷惑だから」


 一瞬間があった。


 口調は一切変わっていないが、その間に一縷の望みを見た。


「なんか喉がイガイガする」


「風邪?」


「かも。それでもデートしてくれる?」


「それはするけど。風邪か……」


 今の間は喉がおかしかっただけのようだ。


 言いたくなくて言い淀んだ訳ではなかった。


「芽衣莉ちゃんもみんなも心配してるんだよ?」


「私を嫌がってた人達が今更?」


「あの時は確かに色々言ってたけど、あれが本心じゃないことぐらい梨歌ちゃんだってわかってるでしょ?」


「実際さ、私が芽衣莉を怖がらせてたのは事実だし」


「それだって自分で言ってたじゃん。それが素なんでしょ?」


「純粋に気に入らなかったんだよ。芽衣莉も鏡莉も」


 そう言われると確かに、宇野さんと悠莉歌ちゃんに対する対応と違ったようなそうでないような気がする。


「芽衣莉はオドオドして自分を出さないし、鏡莉は生意気な上に裏で色々やってるしで、イラついてたんだよ」


「鏡莉ちゃんは梨歌ちゃん達の為に色々やってくれてたんじゃん」


「だから感謝しろって? 確かに鏡莉のおかげでアレから逃げられたのかもしれないけど、全部隠して自分一人で背負しょい込む必要あったの? それってつまりは鏡莉も私達を信頼してなかった訳でしょ?」


 そう言われると言い返せない。


 みんなのことを思っての行動だけど、何も言わなかったのは事実だし、それもみんなに心配をかけたくなかったのだろうけど、梨歌ちゃんはそんなのわかって言っている。


「要は鏡莉ちゃんだけが辛い思いをするのが嫌だったんだよね」


「いい言い方をすればね。結局鏡莉は私達のことを一切信頼してなかったって言いたいだけ」


 僕の考えと梨歌ちゃんの考えは違うし、鏡莉ちゃんと梨歌ちゃんの気持ちだって違う。


 人と付き合う大変さを感じられる。


「芽衣莉もだよ。初めて芽衣莉の素を見た時は驚いたし、押し殺してたのを知って、その時も信頼関係は結べてなかったのがよくわかったよ」


「芽衣莉ちゃんが初めてビーストモードになったのって何があった時なの?」


「悠莉歌がそんなの付けてたな。初めては姉さんが告白されたって話した時だよ」


「あぁ……」


 なんだかその時のことが想像できてしまった。


 芽衣莉ちゃんはそういう話が大好きだから。


「芽衣莉ちゃんって自分も告白されるんだよね?」


「あるけど、自分のには興味ないみたい」


「そうなんだ。梨歌ちゃんは?」


「私がされると思う?」


「うん」


「……ばか」


 謎の罵倒だけで答えてはくれなかった。


 梨歌ちゃんも可愛いから告白された経験はあるはずだ。


「篠崎さんこそ最近仲良しの女子がいるでしょ」


「栞さん? 仲良しだよ」


「その人から告白とかされたらどうする?」


「ないよ? 栞さんは宇野さんと仲良くなりたくて僕と仲良くしてるだけなんだから」


 僕はあくまで次いで。


 友達の友達にしかなれない。


「じゃあもしもでいいよ。もしも告白されたらどうする?」


「嬉しいけど、そういうのわかんない」


 芽衣莉ちゃん……めいちゃんに告白みたいなことはされたけど、よくわからなかったから適当に返した。


 あの時は小さかったのもあるけど、今も変わっている自覚はない。


「みんなの告白を理解しないで返してるもんね」


「みんな仲良くは駄目なんだよね」


 出来るのならこのままずっとみんなで仲良くしていたい。


 だけどみんなの気持ちも最近はわかってきたつもりだ。


「最後に篠崎さんが決めた人ならみんな文句はないよ。それが義理とかじゃないならね」


「うん」


 みんなのことは大好きだけど、そうじゃない。


 もっと特別な、他の全てを捨ててでも一緒に居たいという人を選ばなければいけない。


 それがみんなの気持ちへのちゃんとした返事だ。


「それでその栞さんは篠崎さんから見てどんな人なの?」


「……」


「変人?」


「答えに困った訳じゃないよ」


 ただ「僕は未だに名字なのに栞さんは名前なんだ」とちょっと拗ねただけだ。


「栞さんはね、楽しい人だよ。よくお昼ご飯を忘れるから僕と宇野さんのを半分ずつあげるんだけどね、ほんとに美味しそうに食べるの」


「それは楽しい人じゃなくてめんどくさい人では?」


「僕は自分の作ったものを美味しそうに食べてくれるの嬉しいし、ほんとは宇野さんと話したいんだろうけど、僕とずっと話してくれる優しい人だよ」


 それだと楽しい人ではなく、優しい人が正しくなるけど。


「ちょっと抜けてて可愛いしね」


「篠崎さんってほんとによく可愛いって言えるよね」


「なんで?」


「恥ずかしくないのかなって」


「可愛い人に可愛いって言うのに恥ずかしいとかあるの? 事実を言ってるだけなのに」


 可愛い人に可愛いと言えないのは、その人を可愛いと思えないからなのでは? と思ってしまう。


 僕にとって可愛いという言葉は恥ずかしい言葉ではない。


「素直と言うか、考え無し……ではないか。まぁ篠崎さんは篠崎さんだもんね。という訳で着いたよ」


「え?」


 梨歌ちゃんが立ち止まった場所は、デートをあまりした事のない僕でもわかるぐらいに特殊な場所だった。


「お屋敷?」


「広いよね。日本屋敷って言うのかな? ししおどしって初めて見たもん」


 なんとなく知識で知ってる程度だったけど、本当にこんな立派なお屋敷が近くにあるなんて知らなかった。


「それでなんでここ?」


「色々あるの。行こ」


 僕は梨歌ちゃんに手を引かれてお屋敷の門をくぐった。


 そして──。


『おかえりなさい!! 梨歌さん!!』


 強面の男の人が沢山並び、梨歌ちゃんに大声でそう言って頭を下げた。


「ただいま。怖がらせないであげてね?」


 後ろからではわからないけど、梨歌ちゃんが首を傾げたら男の人達が一斉に倒れた。


 何が何だかわからないまま、梨歌ちゃんに手を引かれた。

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