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喧嘩

「そろそろ話を戻してもいいかな?」


「お父さんのせいだもん。謝らないからね」


 宇野さんが少し気まずそうにそう言った。


 僕のあぐらの中には拗ねている悠莉歌ちゃんが座っている。


「流歌のそういうところが見れて嬉しいけどさ、僕はまだ自己紹介もしてないんだよ」


「あなたはお父さん。以上」


「娘からの扱いが雑すぎる。関わってこなかった罰か……」


 お父さんはそう言うが、宇野さんはアルバイトばかりしていたからお父さんとはとても関わっていたと思う。


「いや、これが噂の反抗期か。気をつけないとな、好きな子を聞いたり、好きな子の前で変なことを言ったら二度と口を聞いて貰えなくなるって常連さんが言ってたし」


「知ってる? そういう発言も嫌われるんだよ」


 宇野さんのジト目にお父さんが「すいません」と素直に謝った。


「話の脱線は遺伝なのか……。いいから自己紹介して。これ以上父親の恥ずかしいところを見られたくない」


「え、ほんとに反抗期なの? 昨日まではあんなに……、はい……」


 宇野さんの本気の睨みにお父さんが小さくなった。


 あれを面と向かってやられたら確かに怖い。


「自己紹介したいって言ったの誰?」


「僕です」


「してって言ったの誰?」


「流歌です」


「最初に話をややこしくしたのは誰?」


「それは流歌の自爆じゃ……、僕です」


 大元を辿れば、僕達がお父さんを無視して話していたのが悪いはずだけど、なぜだかお父さんが悪いことになった。


「で、どうするの? 帰る?」


「そんな体育教師みたいなこと言わないでよ。実際に帰ったら怒るんでしょ?」


「別に? 二度と来させないだけ」


「一方的に契約切ったら縁を切られるだろうし、家賃は僕が払ってる訳じゃないしで、自己紹介させてください」


 またもお父さんが頭を下げた。


 謝ってばかりなところを見ると、初対面の時の宇野さんを思い出す。


「似てるね」


「永継君。まさかとは思うけど、お父さんと私がとか言わないよね?」


「言うよ。宇野さんはお父さん似だよ」


 少なくともお母さん似ではない。


 優しいところや、すぐに謝るところなんかそっくりだ。


「うん、嬉しいけどこれ以上調子に乗るとほとんに流歌が口を聞いてくれなくなるからやめとこ」


「それがいいよ」


 宇野さんが呆れたように言うが、少し嬉しそうにも見える。


「じゃあ自己紹介をするね。僕は宇野うの じん。呼びやすくて書きやすい名前なんだ」


「宇野さんなんですね」


 僕は少し驚いた。


 芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんの名字が宇野なんだと思っていた。


 宇野さんと梨歌ちゃんのお母さんの再婚相手が芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんのお父さんになるから。


「たまたまらしいよ。あいつの浮気相手がたまたま宇野って名字だったらしいよ」


「みんな宇野さんだったんだ」


 表札も学校での呼び方も何も変わらなかったから、あえて変えてないのかと思っていたけど、元から宇野さんだとは思わなかった。


「……」


「どうしたの? 芽衣莉ちゃん」


 芽衣莉ちゃんがじっと僕を見ていた。


「いえ、いつまでみんなが『宇野』って名乗れるのかなって」


「いつまでもじゃないの?」


 名字はそうそう変わるものではない。


 たとえ仁さんが再婚したとしても、基本は父方の名字だから変わらないはずだ。


「篠崎さんは誰も選んでくれないの?」


「芽衣莉、永継君を困らせるのやめなさい」


「はーい」


 さすがの僕でも今のはわかる。


 みんな女の子だから、結婚したら基本的には名字が変わる。


 つまり……。


「誰かが結婚したらみんなで集まれないのかな?」


「そう捉えるか。別に集まれないことはないよ……多分」


「なんで多分なんですか?」


「みんなが他に好きな人が出来た場合はわからないから」


 宇野さんがそう言うと、みんなが一斉に呆れたような視線を宇野さんに送った。


「何その『私はずっと愛し続けるけど、みんなは違うでしょ?』みたいな言い方。馬鹿にしてる?」


「姉さんがずっと好きなのはいいとして、なんで私達が目移りするって思いつくの?」


「流歌さんが一番でもいいですけど、私は二番を貰いますし、一番を素直に渡す気はありませんよ」


「るかお姉ちゃんがむしろ心配。なんだかんだ言って目移りするんだよ」


「しないよ。それだけは否定するけど、他のは罪悪感で泣きそう」


 宇野さんがそう言ってしゅんとする。


「流歌、お前はこの家で一番立場が低いのか?」


「お父さん、空気読んで」


「すまん」


 なんだか複雑な空気が流れる。


 だけど僕はその空気を気にしない。


「そういえば芽衣莉ちゃんは宇野さんを『お姉ちゃん』とか呼ばないの?」


「篠崎さんに空気なんて関係なかった。でもそうだよね、今までは血の繋がりを気にしてさん付けだったけど、流歌さんは少しおかしいか」


 さん付けの姉妹だっているだろうけど、芽衣莉ちゃんのはよそよそしさがある。


「芽衣莉って私だけには未だに敬語だよね」


「そうですね。どうしても流歌さんだけは抜けなくて」


「でもほんと、めいめいは呼び方も敬語も変えた方がいいよ。私だけは呼び捨てってさ、私だけを家族だって言ってるようなもんだし」


 確かにそれは少し思っていた。


 初めて芽衣莉ちゃんから鏡莉ちゃんの名前を聞いた時には違和感しかなかった。


「でも悪いのは梨歌なんだけとさ」


「は?」


「それね。そうやって気弱なめいめいを脅すからめいめいも怯えて素を出せないんだよ」


「私は素でいるなって?」


「めいめいを怯えさせんなって言ってんの。最近のめいめいは自信がついてきたけど、最初の頃はどうだったよ?」


「ゆりか覚えてるよ。りかお姉ちゃんに虐められためいりお姉ちゃんを上でよしよししてた」


 別に梨歌ちゃんが悪い訳ではない。


 梨歌ちゃんは気を使わないようにしてただけだと思うから。


 姉妹かぞくになるのだから、気を使わないで素の自分でいただけのはずだ。


「つまり私が居なければいいってことね」


「違うでしょ」


「何が違うの? 私が居ると芽衣莉が怯えるんでしょ? なら私が居なければ全部解決じゃん」


「梨歌ちゃんって──」


「黙って。慰めはいいよ」


 梨歌ちゃんが立ち上がり、学校の鞄を手に持った。


「行く場所なんてないでしょー」


「だったら何? あんたは私が居たら困るんでしょ」


 梨歌ちゃんの冷たい言葉に鏡莉ちゃんが押し黙る。


「ちょっと梨歌」


「姉さん、ごめんね。迷惑かける」


 梨歌ちゃんはそう涙目で言ってアパートを出て行った。


 その顔を見たら誰も動けなかった。


「ここで動かなかったら何が父親だよな」


 そう言って仁さんが立ち上がった。


「僕は梨歌の小さい時しか知らないけど、多分帰って来ないよね」


 宇野さんが小さく頷いて答える。


「ならとりあえず僕の家に泊まらせるよ。しばらくしたら話は出来ると思うし」


「……ごめん、なさい」


 宇野さんが泣きながら仁さんに謝る。


「姉妹なんだから喧嘩ぐらいするよ。喧嘩はしてもいいよ、最後には仲直りさえしてくれればね」


「できるかな……?」


「姉妹の喧嘩は姉妹でしか解決出来ないけど、その手助けをするのは親の仕事だよ」


 仁さんはそう言って宇野さんの頭を微笑みながら撫でた。


「今日はありがとう。行ってくるね」


 仁さんはそう言ってアパートを出て行った。


 その後は泣いて謝る鏡莉ちゃんを慰めたり、自分を責める芽衣莉ちゃんを宇野さんが慰めたり、悲しんでる悠莉歌ちゃんを慰めたりして時間は過ぎていった。


 数時間後に仁さんがやって来て梨歌ちゃんを見つけたと知らせてくれたおかげでみんなが少し落ち着いた。


 だけどその日は本当に梨歌ちゃんは帰って来なかった。

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