愛の告白
「よし、じゃあまずはるか姉の理想のデートから話そうか」
「散々無視しといて、公開処刑までする気? 泣くよ」
さっきまで少し泣いていた宇野さんを落ち着かせて、今は僕達に加えて少し気まずそうな宇野さんのお父さんを含めた七人で机を囲んでいる。
宇野さんのお父さんは、とても若々しくて、高校生の子供がいるようには見えない見た目だ。
「場を和ませるジョークだよ。まぁ私達は話したけどね」
「なんでいっつも私を仲間外れにするの……」
「るか姉が居ないからだよ」
「居る時に話してくれてもいいじゃん……」
また宇野さんが落ち込んでしまった。
「鏡莉ちゃん、宇野さんが落ち込むと長いんだからやめよ。話が進まなくなるから」
「永継君も最近冷たいよね?」
「るかお姉ちゃんはお豆腐だからね」
悠莉歌ちゃんがいつも通りの定位置になりつつある、僕のあぐらの中で宇野さんを煽る。
「ほんとに泣きそ。私の味方は……結局永継君しかいないか」
宇野さんがみんなを見回してから僕のところにやって来た。
「慰めてください」
「宇野さん、いつもありがとう」
僕はそう言って差し出された宇野さんの頭を優しく撫でた。
「結局やってることはいつも通りなんだよね」
「篠崎さんだもんね。篠崎さんを見てると私もいつも通りでいられるから良かった」
「いつも通り暴走する気?」
「最近はしてないよ?」
言われてみたら、芽衣莉ちゃんが敬語をやめてからビーストモードにはなっていない気がする。
やっぱり敬語のせいで自分を抑え込んでいたから、たまにビーストモードとして爆発していたのかもしれない。
「……」
「宇野さん」
「あ、わ、忘れてないよ」
どんどん小さくなっていくお父さんが可哀想になってきたので宇野さんに助け舟を出した。
「脱線するのはいつものことだけど、本題に入るよ。この人が私と梨歌の本当のお父さんで、あの方から私達の親権をもぎ取ってくれたお方です」
宇野さんがそう言うと、みんなが一斉に『ありがとうございました』と言った。
「なんかあれだね。嬉しいけど、素直に喜んでいいのかわからないね」
僕から見てもそう思う。
なんか打ち合わせ感がすごい。
「言わされてる感がすごいでしょ? でもね、みんなの本心で、アドリブなんだよ」
「はは、やっぱりあいつは変わらなかったんだね……」
「話したんじゃないの?」
「流歌から聞いてたことしか知らないかな。僕が会いに行こうと連絡したら少し怯えてて、会ってはくれなかったからね」
お父さんがそう言うとみんなが一斉に僕の方を見た。
「なに?」
「さすが永継君だなって。それより、親権とかはもぎ取ったって言うよりは渡されたの?」
「そうだね。怯えてたから少し脅したらすぐ渡してくれたよ」
「もぎ取ってんじゃん……」
お父さんが真顔で答えるが、僕も宇野さんと同じ感想を持つ。
怯えてた理由はわからないけど、あの人を脅せるのはすごい。
「次いでだし聞かせて」
梨歌ちゃんがお父さんを睨みながら聞いた。
「なんだい?」
「なんでアレに親権を渡したの? もっと言うなら一度捨てたのに、なんで今度は引き取ったの?」
梨歌ちゃんが特に気にした様子はなく、ほんとに次いでという感じで聞く。
おそらく、鏡莉ちゃんが気にしていたけど、さすがに聞にくいだろうからと梨歌ちゃんが聞いたのだと思う。
梨歌ちゃんからしたら、理由があるのもわかっているからお父さんに気を使わせないように気にしてないように聞いて、尚且つみんなにそれを聞かせることでちゃんとした人だと教えたいのだ。
(ほんとに優しい)
「梨歌、顔が赤いけど」
「気にしないで、後ろからの視線で暑いだけだから」
「なるほど。梨歌も年頃ってことか」
「違うし!」
「年増」
「鏡莉、後で泣かす」
梨歌ちゃんの鏡莉ちゃんを睨む目が本気だ。
後で少しだけ手加減してあげるようにお願いしなくてはいけない。
「なんかごめんね。それで、流歌と梨歌の親権をあいつにあげたことだよね」
梨歌ちゃんが頷いて答える。
「そういうのって母親優遇なんだよ。だけどあいつはあの頃からあんなだったろ? だから普通なら僕が引き取れるはずだったんだけど、あいつは世間体を気にして自分を被害者にしたかったみたいなんだよ」
「理解」
「これでわかるって相当だよね」
僕でもなんとなくわかった。
要は、周りから夫に捨てられたように見せたくて宇野さんと梨歌ちゃんを引き取ったということだと思う。
「ちなみにさ、父さんから仕送りってしてたの?」
「求められたけど、あいつは浮気してたし、他にも色々とやってたからそこら辺で脅したら仕送りはしてなかったよ。それで親権も取ろうとしたけど、痛いところを突かれてね」
「経済力?」
梨歌ちゃんの言葉にお父さんが頷いて答えた。
「あの時は僕が今の喫茶店を初めてすぐだったから、二人の子供を養えるかわからなかったんだよ」
「じゃあなんでとは言わないよ。アレがお盛んだったからだもんね」
いわゆる一夜の過ちというやつらしい。
正確に言うのなら一夜どころではないらしいけど。
「それで姉さんがバイト出来る歳になったからさせてたんだ」
「そうだね。流歌にはあいつの許可だけ貰って」
「気づかないあたり親の資格ないよね」
娘のバイト先を知らないのは確かに変だ。
そもそも子供だけでアパートに住まわせてる時点でどうかと思うけど。
「今回のことはほんとに助かったよ。篠崎君だったよね?」
「あ、はい」
いきなり僕に話しかけてきたから、反応が遅れてしまった。
「君のことは流歌から聞いているよ。毎日」
「ちょっと、お父さん!」
「悪口ですか?」
「永継君は私が永継君の悪口言うと思うの?」
「文句ぐらいならあるかなって思ってる」
宇野さんは抱え込む人だから、言われたい訳ではないけど、僕への文句や悪口を言える相手が居たら少し安心する。
「文句は確かにあるね」
「お父さん! 私は文句なんて言ってないよ!」
「言ってるじゃないか『梨歌達ばかり構って私を構わない』とか『最近冷たい……』って寂しそうに言ったり」
宇野さんの顔がどんどん赤くなっていく。
「ごめんね宇野さん」
僕は宇野さんの手を取って謝る。
「僕は宇野さんを嫌な気持ちにさせてた……?」
「なってないから! 私は永継君と一緒に居られて嬉しいから。だからそんな顔しないで」
宇野さんが優しく僕の頭を撫でる。
そして宇野さんがお父さんを睨んだ。
「お父さんが余計なこと言うから永継君が悲しんだでしょ。謝って」
「え、あ、ごめんね」
「心がこもってない。大人なんだからちゃんと謝って」
「本当に申し訳ない」
お父さんが机に手をついて頭を下げた。
「永継君、許してあげてね。お父さんも悪気があった訳じゃないの」
「……うん」
僕がそう言うと宇野さんが優しく微笑んだ。
「なんか父さんを悪者にして自分は照れ隠ししてない?」
「るか姉は結構腹黒だよね」
「るかお姉ちゃんはまっくろー」
「今にも泣きそうな篠崎さん、可愛い」
なんだか最後だけ少しおかしい気がしたけど、僕が宇野さんを蔑ろにしていたのがそもそもの原因だ。
「宇野さんをこれからはもっと大切に思う」
「えっと、それはどういう意味でしょうか?」
「宇野さんのことを幸せにできるようにもっと頑張る」
そこで沈黙が流れた。
「愛の告白」
「悠莉歌!」
僕のあぐらの中に居た悠莉歌ちゃんを顔を真っ赤にした宇野さんが部屋の隅に連れて行った。
そしてお説教が始まった。
「楽しそうでいいんだけど、僕、放置されすぎじゃない?」
お父さんのその発言を聞いていたのは、おそらく僕だけだった。




