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理想のデート

「なんだか怖くなってきた」


「今更どうしたの? ただ褒められるだけなのに」


 今日は土曜日でみんなのお父さんが挨拶に来る日だ。


 どうも落ち着かないからと、梨歌ちゃんに見貼られている。


 ちなみに芽衣莉ちゃんも緊張でどうにかなりそうだからと、悠莉歌ちゃんにロフトの上で介抱されている。


「鏡莉ちゃんだって現実逃避してるじゃん」


 鏡莉ちゃんは朝からずっとパソコンとにらめっこしている。


 どうやら前に勝てなかった人と戦っているらしい。


「あれ、普通に邪魔なんだよね」


「仕方ないよ。鏡莉ちゃんからパソコンを取ったらストレス発散出来ないから」


 気にしないようにはしてるみたいだけど、学校で何かあるようだ。


 今のところはそんなに表には出てないから平気かもしれないけど、本当に駄目だと思ったら何か手を講じなくてはいけなくなる。


「無理させてたし、家賃払ってるのも鏡莉だからいいんだけど、篠崎さんが帰った後は独り言がすごいんだよ」


「気持ちはわかる」


 僕も鏡莉ちゃんとゲームをしてる時に独り言を言って鏡莉ちゃんに拗ねられたことがある。


「あれはね、仕方ないんだよ。僕は湯船に浸からないからわからないけど、お風呂に入ると歌い出す人がいるのと同じ現象だから」


 他にも、屈んだら「どっこいしょ」と言ったりするのも同じだと思う。


「そういうもんなんだ」


「うん、だからね──」


「だぁぁぁけたぁぁぁぁぁ」


 そっとしておいてあげてと頼もうと思ったところで、鏡莉ちゃんの断末魔が部屋に轟いた。


「いつか『モノクル』かち割るかんな」


「モノクル?」


 モノクルとは確か、片目だけの眼鏡だ。


「最近はなっつんと物理的に接したすぎて、こっちを離れすぎてたのはあるけど、そろそろコントローラー投げそうだよ。ってか私が入ると毎回ログインしてるとかどんだけやり込んでんだよ、土曜なのに私としか当たってないだろ」


「これはね、ゲーマーあるあるなんだって。負けるととりあえず相手の文句を言うの。本気でやってる人程出るんだって」


「だからゲーマーって忌避されんだよね」


「でもさ、みんなそうじゃない? スポーツだって負けたら文句言う人いるし、学校でなんて文句ばっかりだもん」


 ゲーマーだからと悪く言われるのはおかしい。


 誰だって負けたら悔しいし、文句が出るのはそれだけ本気な証拠だ。


「本気でやってる人を悪く言うのは違うよ」


「まぁ少しは静かにして欲しいけどね。ここはもう鏡莉だけの部屋じゃないんだし」


「一緒にやってみたら?」


「鏡莉が私に触らせると思う? 姉さんにも触らせないんだよ?」


 鏡莉ちゃんはパソコンを触られるのを嫌う。


 多分触って壊したりしたら本気でキレる。


 見たことはないけど、二度と口を聞いてくれない可能性だってある。


「でも使わなくなったノートパソコンは共用で置いてるんだよね」


 僕と一緒に遊ぶ時に使っていたノートパソコンは、みんなが調べものをする時用に使われている。


 でも未だに誰かが使っているところを見たことはない。


「結局僕が鏡莉ちゃんと遊ぶ時しか使ってないよね?」


「ない時はあったら便利って思うんだけど、いざあると何に使えばいいのかわかんなくて」


「それはわかる」


 調べものに使えばいいのだろうけど、わざわざパソコンを使ってまで調べたいことがない。


 最近で言うなら、最近でもないけど宇野さんをここに送った時、住所を探すのに必要だったぐらいだ。


「あると便利だけど、ない生活に慣れすぎて使うタイミングがわからないんだよね」


「あると慣れるのかな?」


「わかんないけど、そろそろ相手してあげよ」


 そう言って梨歌ちゃんは呆れたように鏡莉ちゃんの方を見た。


「見んなし!」


 鏡莉ちゃんがヘッドホンをして机に突っ伏していた。


「伏せてんのによくわかったじゃん。てっきりかまってちゃんなのかと思って」


 梨歌ちゃんがとても楽しそうだ。


「それとも篠崎さんには隠してたかったの? 今更じゃん」


「違うし。普通に落ち込んでるだけだし」


 僕は無言で鏡莉ちゃんに近づいて頭を優しく撫でた。


「なっつんとのデートが遠のくよぉ」


「気分転換にお出かけとかする?」


「なんのゲームでデートする?」


 鏡莉ちゃんが一気に元気になった。


「ゲームでデートって……」


「事故の心配も、お金もかからない最高のデートでしょ」


「本人達がそれでいいならいいんだろうけどさ」


「じゃあ梨歌はどんなデートがしたいの?」


「……何も言わなきゃよかった」


 鏡莉ちゃんのニマニマに梨歌ちゃんがため息を吐く。


「ノーコメント」


「人のデートに文句言っといてそれはないでしょ」


「別にいいって言ったでしょ」


「でも文句は言ったし」


 鏡莉ちゃんは引く気がなく、梨歌ちゃんもそれがわかっているからめんどくさそうな顔をしている。


「私は別に普通でいいよ」


「普通とは?」


「……好きな人と出かけるってだけで嬉しいでしょ」


 梨歌ちゃんが顔を真っ赤にしながらそう答えた。


「乙女すぎない? からかえないんだけど」


「うっさい! 芽衣莉と悠莉歌も言いなさい!」


 梨歌ちゃんがロフトの上で温かい目を向けていた芽衣莉ちゃんと悠莉歌ちゃんを睨んだ。


「照れ隠しが過激」


「梨歌ちゃん可愛いね」


「うるさいっての。いいから言いなさい!」


 芽衣莉ちゃんと悠莉歌ちゃんが仕方なさそうにロフトから下りてきた。


「理想のデートプランってこと?」


「プランとまではいかなくても、梨歌みたいに一緒に居るだけで嬉しいとかでもいいよ」


「なんで私は素直に話したんだ……」


 梨歌ちゃんは何故か僕の背中に自分の背中を預けて丸まっている。


「それなら私は最後にゴールインできれ──」


「ゆりかはねー。おうちでのんびりしたいなー」


 芽衣莉ちゃんの話を最後まで聞く前に悠莉歌ちゃんは自分のを話し出し、鏡莉ちゃんに「いい子」と頭を撫でられた。


「むぅ、聞いといてそれは酷い」


「めいめいのはちょっとゆりと私となっつんの教育上よろしくないから」


「特にお兄ちゃんの」


 小学生の鏡莉ちゃんと幼稚園生の悠莉歌ちゃんはわかるけど、なぜ僕も駄目なのかがわからない。


 だけど芽衣莉ちゃんも背後の梨歌ちゃんも納得して頷いた。


「でもゆりのはいつもしてるのと違うの?」


「二人っきりでいちゃいちゃするのがお家デートでしょ?」


「多分第三者からみたらいちゃついてるんだけどね」


「でも悠莉歌ちゃんと篠崎さんだと仲良し兄妹に見えるだけじゃない?」


「そう。だからそれが恋人に見えるのが理想」


 幼稚園生の悠莉歌ちゃんまでもそんなに考えていて単純に感心する。


 僕にはそういうのがよくわからないから、少しは勉強しなくては。


「あ」


「どしたの?」


「いや、こういう時にパソコンって使うのかなって」


 デートとはなんなのか、僕の今一番の悩みの好きとはなんなのかを調べることができる。


「どうだろね。なっつんはそういうの調べない方がいいと思う」


「うん。篠崎さんは篠崎さんらしさを消さないで欲しい」


「お兄ちゃんの考えたことならゆりか達はなんでも嬉しいよ」


「そういうのはさ、私達のことを思ってればそれだけでいいんだよ。私達が言ったやつを無視して篠崎さんのやりたいことだけをやったって私達は楽しめるし、むしろそれがいい」


「無視したらみんなを思ってないことにならない?」


『ならないね』


 みんなが同時にそう言った。


「確かに世の中には自分の理想を押し付ける女ばっかりなんだろうけど、少なくとも私達はなっつんの考えたことならどんなことでも嬉しいし楽しめるって胸を張って言うよ」


 鏡莉ちゃんが実際に胸を張って言う。


「胸無いけどね」


 それに対して梨歌ちゃんがボソッとそう言った。


「ぷっつーん。キレたは、これはキレた」


「無いものは無いんだよ」


「前も言ったけど、梨歌と違って私は成長期なんだけど?」


「どっちにしろ今無い胸は張れないじゃん」


「比喩ですけど? そんなのもわかんないの? 低学歴なの?」


「残念ながら学年二位なんだよね」


「知ってるわ!」


 僕を挟んでの喧嘩は続く。


 なので我関せずな二人に話を振る。


「梨歌ちゃんも頭がいい人なんだね」


「うん。ちなみに一位は私です」


 芽衣莉ちゃんが「どやっ」みたいな顔で胸を張る。


「無い物ねだりズは胸でも学力でもめいりお姉ちゃんには勝てないのであった」


『うっさいわ!』


 梨歌ちゃんと鏡莉ちゃんが同時に悠莉歌ちゃんを怒鳴ると、悠莉歌ちゃんが「こわーい」と言って芽衣莉ちゃんに抱きついた。


「鏡莉も普通に頭がいいんだよ? 悠莉歌ちゃんは言わずもがなだし、みんな流歌さんに勉強を見てもらったおかげだけど」


「宇野さんってほんとになんでもしてるんだね」


(僕も教わったら学力上がるかな?)


 多分、というか絶対に僕がこの中で一番学力が低い。


 今回の中間テストも二十四位と微妙なところだ。


 せめて十位以内には入りたい。


「頑張ろ」


「何を?」


「勉強。でもその前に──」


 僕はそこまで言って玄関の方を向く。


 そこには今にも泣きそうな宇野さんが立っていた。


「永継君気づいてたのに無視してたでしょ……」


「宇野さんと同じでタイミングをね、無視してたとかじゃないんだよ……」


 なんだか気まずい雰囲気になった。


「ゆりかは無視してた」


「ちなみに私も」


「あ、私もー」


「私は後ろ向いてたから気づいてなーい」


 どうやらみんな無視していたようだ。


 そして案の定宇野さんは壁に頭を当てて落ち込んだ。


 結果的にはいい感じになった。


 僕と芽衣莉ちゃんの肩の力が抜けた状態でお父さんと話せるのだから。

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