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助けるとは?

「っていう感じになったよ」


「つまり新しい女を作ったってことね」


 梨歌ちゃんに手紙の差出人である、栞さんのことを話したら、あらぬ誤解を受けた。


「作ったのは宇野さんだよ?」


「それさ──」


 梨歌ちゃんの口が鏡莉ちゃんの手に閉ざされた。


「その人可愛い?」


「可愛いよ?」


「何故に疑問形?」


「宇野さんがね、二人になった時に『可愛い?』って聞いてきたから『うん』って答えたら拗ねちゃったから」


 だから素直に言っていいのかわからなかったから、疑問形になった。


 疑問形にはなったが、僕の主観では栞さんは可愛いと思う。


 だけど僕の周りには可愛い子が五人も居るから驚きはしなかった。


「私とどっちが可愛い?」


「うわ」


 鏡莉ちゃんの質問に悠莉歌ちゃんが顔を引き攣らせている。


「女が男にして一番嫌がられる質問だ」


「だってなっつんの周りは女の子ばっかりなんだもん」


「関係ないし、ほとんど身内」


「僕も優劣つけるのやだな。鏡莉ちゃんは鏡莉ちゃんの可愛さがあるし、栞さんは栞さんの可愛さがあるじゃ駄目?」


 今日初めて会った(気づいてなかった)栞さんより、鏡莉ちゃんの方がよく知ってる分、可愛いとは思う。


 だけどそれだけで決めていいのかと聞かれたら違うはずだ。


「言い訳みたいだけど、なっつんが言うなっ、らっ」


 鏡莉ちゃんに口を押さえられていた梨歌ちゃんが、鏡莉ちゃんのお腹に肘打ちを決めた。


「いいから離せ馬鹿」


「きさ、ま。乙女のお腹に痣でも出来たらどうする」


 鏡莉ちゃんがお腹を押さえてうずくまりながら唸る。


「お腹に痣があるからって嫌がる男に言い寄られなくなるよ。良かったじゃん」


「なっつんはそんなの気にしないし」


「なら何が困るの?」


「水着になった時とか混浴に入った時になっつんが暴力振るったって思われたらどうすんのさ!」


(怒るところそこ?)


 もっと別のところを怒るべきだと思う。


 結婚がしにくくなるとか、水着になれないとか、温泉に入れないとか。


「そもそもうちにプールとか行く費用はないでしょ?」


「まぁないし、私も人混みとか行きたくない人ではあるけどね」


 鏡莉ちゃんがお腹を擦りながら元の体勢に戻った。


「プールって入ったことないや」


「なっつんってやったことないの多くない?」


「入ったことないって、学校のは?」


「水着がなかったから見学してた」


 そういうのは全部無駄だからと、父親が買わせなかった。


 そもそも僕がやったことのあるのは、家事と必要最低限の授業を受けるだけだ。


「実は泳げない人?」


「わかんない。泳いだことないから」


「そりゃそっか」


 プールに入ってみたいとかは思ったことがないし、わざわざ動きづらい水中に行くのか疑問でしかなかった。


 だからプールに関しては特に父親を恨んだりはない。


「篠崎さんの水着……」


「さっきまで嫉妬してためいめいがなっつんの裸を妄想してエッチな顔に」


「……」


「りかお姉ちゃんはお兄ちゃんの家庭環境を聞いて罪悪感抱いてるよ」


「そういえば、みんなの事情は聞いたのに僕のは話してないね」


 宇野さんが秘密にしていたことは多分全部聞いたけど、僕の方は何も話していない。


「別に私達も話したって訳でもないしね。私とめいめいが話しちゃって、あの人が来たせいでわかっちゃったよね? って感じだし」


「結局宇野さんは話せなかったんだもんね」


「だから別になっつんも話さなくていいんだよ?」


 僕としては別に隠すようなことでもないから話してもいいけど、だからと言ってわざわざ話すことでもない。


「じゃあ宇野さんが居る時で、みんなが聞いてもいいってなったら話すね」


「うん、いつか聞かせてね。暗くなる話は終わりね。それでるか姉はなんで未だに帰りが遅いの?」


「修行って言ってたよ」


「空でも飛びたいの?」


「料理ね」


 宇野さんのアルバイト先はお父さんの経営する喫茶店だ。


 最近はアルバイトのない日もそこで料理の勉強をしているらしい。


「なんかね、みんなに言われたの気にしてるみたい」


「何か言ったっけ?」


「鏡莉ちゃんは居なかった時だよ」


 鏡莉ちゃんが三人を見ると、一人を残して二人が顔を逸らした。


「うーん、ゆりに聞くとるか姉が可哀想な気がするけど、教えて」


「お兄ちゃんのご飯の方が美味しいってみんなで言った」


「そりゃ豆腐メンタルのるか姉は気にするよ」


 それもあるけど、他にもみんなのケーキを作る練習もあるらしい。


 それは内緒らしいけど。


「修行ってバイト先だよね?」


「うん」


「なっつんってるか姉のお父さんに会ったことある?」


「ないよ」


 僕は一度だけ梨歌ちゃんと宇野さんのアルバイト先にお弁当を持って行ったことがあるけど、その時は会えなかった。


「梨歌ちゃんって知ってたの?」


「そりゃね。だから私だけが姉さんのバイト先を知ってたんだよ」


「親権もぎ取ったって言うけどさ、なんで最初は見捨てたの?」


「ストレートに聞くね。知らないよ。庇う訳じゃないけど、父さんはアレとは違ってまともな人だよ。姉さんも詳しくは話してくれなかったから、なんでバイト先があそこなのかもわかんない」


 そこら辺は都合のいい言葉の大人の事情なんだろう。


「あ、あぁ……」


 梨歌ちゃんが何かを思い出したのか、僕を見て何かを考え出した。


「その感じだと姉さんから聞いてないよね?」


「何を?」


「今週の土曜に父さんがここに来るの」


「じゃあ僕は来ない方がいい……?」


 寂しいけど新しいお父さんとの挨拶に部外者の僕が立ち会うのも邪魔なだけだ。


「なっつんが寂しがってる。私達と離れるのがそんなに寂しいか、そうかそうか」


「嬉しがるな。違うんだよね、父さんが篠崎さんにも挨拶とお礼がしたいって言ってるらしいの」


「え、なんで?」


 来てもいいのなら嬉しいけど、疑問しかない。


 娘達の住むアパートに毎日来ている僕に文句があるのならわかる。


 だけどお礼と言われたらなんのことかわからない。


「なっつんはそれだけのことをしてるからね」


「謝る練習しなきゃ」


「なんで? 普通にお礼言われるだけだよ?」


 鏡莉ちゃんが何を持ってそう言えるのかがわからない。


 僕は何もしていないのに。


「篠崎さんは自己肯定感が低いから」


「自己肯定感が低いんじゃなくて、褒められるべきことを当たり前にしちゃうからわからないんだよ」


「高すぎるよりかはいいけど、篠崎さんは低すぎるんだよね」


 芽衣莉ちゃんと悠莉歌ちゃんはそう言うが、僕は本当に大したことはしていない。


 僕がしたのは、芽衣莉ちゃんに料理と買い物の仕方を教えて、梨歌ちゃんに洗濯物のたたみ方を教えただけ。


 洗濯の仕方は宇野さんが梨歌ちゃんに教えたらしい。


「救われた側からしたら、次いでなんだって寂しくなるけどね」


「篠崎さんからしたら、人助けは自分で歩き出す手伝いをしてるだけなんだろうね」


 鏡莉ちゃんと芽衣莉ちゃんが悲しい顔をする。


「お兄ちゃんにとって人助けは無意識にやっちゃうことなんだね」


「篠崎さんって私達以外も助けたりしてるの?」


「僕はみんなを助けられてるの?」


 僕がそう言うとみんなから呆れたような目を向けられた。


「今更だからそういうのいい。それでどうなの?」


「え、うーん……」


 ないはずだ。


 だって宇野さんと出会うまで他の人に関わることなんてしなかったから。


 だけど、みんなに対してみたいに、気づかずに助けている可能性も……。


「ないね」


「そう言って助けてんだろうね」


「しかも女子」


「そして可愛い子」


「天然たらしー」


 鏡莉ちゃん、梨歌ちゃん、芽衣莉ちゃん、悠莉歌ちゃんの連続攻撃に黙るしかなくなった。


 もし誰かを助けられていたのなら嬉しいからいいのだけど、何故かみんなからはジト目を向けられた。

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