手紙の理由
(何かあるかな?)
学校に来て教室に入り席に着いて、まず机の中を確認した。
(特に無し)
机の中には変わったものは何も無かった。
(とりあえず待ってみる?)
何もないなら僕に出来るのは待つことだけだ。
それと梨歌ちゃんに言われたことを試してみる。
(うん)
とりあえず一時間目が終わったけど、休み時間に僕のところへ来る人はいない。
だけど……。
(絶対あの人だよね?)
それっぽい人は見つけた。
梨歌ちゃんに言われた方法は、僕のことをちらちら見てたり、挙動不審の人を探すこと。
そんなわかりやすい人はいないと思っていたけど、ギリギリに登校してきたお隣さんがそれだった。
失礼なことに名前はわからないけど、見た目は眼鏡を掛けてポニーテールにした真面目さんみたいな見た目だ。
その女の子がホームルームと授業中、そして今もずっとちらちら僕を見ている。
(でもまだ確信じゃ──)
「手紙を読んでない? それとも秘密をバラされても平気とか?」
小声で呟かれたその言葉で確信に変わった。
この子が僕に手紙を送った人だ。
(どうしようかな)
まさかこんなに簡単に見つかると思っていなかったので、見つけた後のことを考えていなかった。
この様子だと、僕や自分の名前を手紙に書いてないことに気づいてない。
そして目的も。
このままだと、何も出来ないで宇野さんとの秘密がバラされる。
善は急げと言うけれど、さすがに後三分では何も出来ないから次の休み時間にすることにした。
したが、気づけばお昼休みになっていた。
別に話しかけるのが怖かったとかではない。
単純に移動教室と体育で休み時間に話せなかっただけだ。
だから宇野さんが迎えに来る前のこの時間しか話せない。
「あの」
「……」
反応がない。
「ねぇ」
「……」
お隣さんは黒板の方を見て固まっている。
「ねぇ!」
「あ、私?」
お隣さんの肩を揺すってやっと気づいた。
どうやら自分が話しかけられているとは思わなかったようだ。
「ごめんなさい。ちょっと忘れたい現実と、とある事情が……」
お隣さんがまた固まった。
「どうしたの?」
「い、いえ。まさか篠崎君が話しかけてくれるなんて思わなかったので」
「手紙を入れたのはあなた?」
「そう。なかなか話しかけてくれないからほんとにバラそうかと思ったよ」
「じゃあ名前は書いてよ」
僕がそう言うとお隣さんがポカンとした顔になる。
「名前も目的も書いてないんじゃ僕だってどうしたらいいのかわからないよ」
「……大変申し訳ございませんでした」
お隣さんが僕に頭を下げた。
「それで、何が目的なの?」
「……それはまだ言えないかな。ただ、篠崎君が私の言うことを聞いてくれたら何もしないよ」
「わかっ……た」
「今絶対目が合ったよね?」
話に集中しすぎて全然気づかなかったが、お隣さんの後ろに宇野さんが立っていた。
「宇野さん?」
お隣さんも気づいたようで後ろを振り向いた。
「二人とも来て」
宇野さんが笑顔の奥に怒りを灯した感じでそう言った。
僕とお隣さんはお互い見つめ合って、何も言わずに従った。
「さっきの聞く前に、あなたは誰?」
宇野さんがいつもの場所ではなく、空き教室に連れて来た。
「私は桐生 栞です」
「桐生さんね。それで篠崎さんに何をさせようとしてたのかな?」
宇野さんが笑顔だけどやはり少し怖い。
僕が何も言わずに何かしようとしてたのがバレて怒っているのかもしれない。
「いえね、宇野さんの秘密をバラされたくなかったら言うこと聞いてって言っただけですよ?」
(言うんだ)
「……なんか素直すぎて何も言えない。まず私の秘密ってなに?」
「それは自分達が一番わかっているのでは?」
「それが別に秘密じゃないかもしれないでしょ?」
「秘密じゃなくても、宇野さんの場合は小さな噂も嫌だと思いますけど?」
「……」
宇野さんの場合、秘密が秘密であるかは正直関係ない。
たとえ嘘でもたちまち広がっていき、宇野さんが困る状況になるのはわかっていることだ。
それがほんとに嘘なら宇野さんの人望で揉み消せるだろうけど、もし嘘でなかったら何も言えない可能性もある。
「篠崎さんに変なお願いをするのなら、たとえ私の秘密がバラされようとも止めるからね」
「そこは大丈夫ですよ。結果的に脅してるみたいになってますけど、最終的には仲良くなりたいだけなので」
どの口が、と言いたいことろだが、宇野さんと仲良くなるには確かに理由が必要だ。
他クラスだし、何より周りに人が常に居るから近づきにくい。
「そういうことね。ちなみに秘密ってさ、篠崎さんも関係してることなんだよね?」
「そうですね。だから篠崎君に手紙を書いたので」
それを聞いた宇野さんが僕を睨んだ。
「私、聞いてない」
「だって、誰からかもわからなかったからとりあえず特定しようかなって」
「どうせみんなには言ったんでしょ。知らない」
宇野さんがそっぽを向いてしまった。
「ふむふむ。修羅場?」
「意味が違う気がする。それで桐生さん」
「栞でもいいよ? そうしたら私も名前で呼ぶから」
「じゃあ栞さん。仲良くなる為に何を言おうとしたの?」
何故かまた宇野さんにジト目で睨まれた。
「呼び捨てでもいいのに。まぁいいや、お願いはね、私も一緒にお昼をしたいなって」
「やだ」
宇野さんがすぐに断った。
「私は永継君に聞いてるんですよ?」
「永継君言うな。それは……」
「そこら辺も知ってるので大丈夫ですよ? でもそうですね、宇野さんも永継君と呼んでいたんでした。なら永継で」
僕としてはどう呼ばれてもいいのだけど、何故か宇野さんがモヤモヤしてる感じがする。
「どうですか永継」
「僕はいいけど、宇野さんが嫌なら駄目」
「なるほど。宇野さん」
「やだ」
宇野さんがさっきよりも不機嫌になりながら返す。
「それだと、宇野さんと永継のことをバラさなきゃいけなくなるんですけど……」
「そんなの誰も信じないでしょ」
「でも毎日連行されてますし」
「……」
宇野さんの元気がどんどん無くなっていくのがわかる。
ちょっと見ていられない。
「宇野さん」
僕が宇野さんの手を取って名前を呼ぶと、宇野さんが今にも泣きそうな顔で僕を見た。
「大丈夫だよ。栞さんは悪い子じゃないから」
「脅してるんだから悪い子だよ」
「理由が欲しかっただけでしょ?」
「……あなたはここに居て」
宇野さんが栞さんにそう言って僕を教室の隅に連れて行った。
「あの子さ、多分私の追っかけなの」
「宇野さんが目的なのはわかってる」
宇野さんに話しかける為に、毎日昼休みに呼び出されている僕に手紙を渡したのだろうし。
「だからね、あの子の最終目標は永継君を私から遠ざけることだと思うの」
「うん」
「ただでさえ、学校で唯一の私と永継君だけの空間を邪魔されるのも嫌なのに、その上永継君が離れて行ったらと思うと……」
宇野さんが握る手の力を強めた。
「僕はどんなことがあろうと宇野さんから離れることはないよ?」
「え?」
「宇野さんから拒絶されない限りはずっと一緒に居たいから」
それが宇野さんの迷惑になるのならもちろん離れる。
だけど、許されるのならいつまでも一緒に居たい。
「前にも言わなかったっけ?」
「永継君は女の子の知り合いが多いから。言われた気もするけど……」
「じゃあここでちゃんと言うね。僕は宇野さんが嫌って言うまではずっと一緒に居る。だから聞かせて、僕が一緒に居るのは嫌?」
「嫌な訳ないでしょ。聞いたからね、もう一生忘れてあげないから」
宇野さんがやっと心からの笑顔になった。
(この笑顔を守らなきゃ)
宇野さんだけではなく、みんなの笑顔を守るのが僕の役割だ。
その為ならなんでもやる。
「じゃあ栞さんが一緒でもいい? 嫌ならお話するけど」
「それは多分駄目なやつだ。確かにあの子は悪い子って感じしないしいっか」
「じゃあ三人で行こっか」
そうして僕と宇野さんは栞さんを連れていつもの場所に向かった。
そして三人でお昼を食べようとしたが、栞さんがなにも持ってないことに気づき、どうしたのか聞いたら、お昼を忘れたようだ。
それで僕が話しかけた時はぼーっとしてたらしい。
なので僕と宇野さんのお弁当を分けて三人で仲良く食べた。
宇野さんの監視の目はあったけど。




