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勝つまで負けない

「なっつん、慰めて!」


「え?」


 鏡莉ちゃんが不貞腐れた顔で部屋に来たと思ったら、いきなり僕に抱きついてきた。


「どうしたの?」


「理由を聞かないで慰めて!」


 鏡莉ちゃんがほっぺたを膨らませて僕をジト目で見てくるので、とりあえず頭を撫でた。


「私のいきどおりはぁ、こんなんじゃぁ、治らないもぉん」


「いつも以上に馬鹿面じゃん」


 僕の隣で日課の柔軟をしていた梨歌ちゃんがこっちを見ずにそう言った。


「耳障りな声が聞こえたからもっと慰めて」


「梨歌ちゃんも心配してるんだよ?」


「してないから」


 梨歌ちゃんはそう言うが、こっちをちらちら見ていたのは知っている。


「ツンデレは可愛い子じゃないと興味湧かないかな」


「じゃあ梨歌ちゃんには興味津々?」


「絶対言うと思った。ないからね」


 それだと矛盾するが、梨歌ちゃんが僕の足を軽く叩くのでこれ以上は何も言わない。


「それでどうしたの?」


「……最近ね、過疎ってるのをよくやるの」


 過疎ってるとはゲームのことだ。


 やってる人が少ないことをそう言うと前に鏡莉ちゃんが教えてくれた。


「最初はね、無双してたの。私、上手いから」


 鏡莉ちゃんは自他共に認めるぐらいにゲームが上手い。


 ランクがあるゲームなら全部一番上のランクだと言っていた。


「だけどさ、居るとこには居るんだよね、変態って」


「変質者?」


「違う違う、変態ゲーマー。私もそうだと思ってたんだけど、本物を見ると自信が無くなってきたの……」


 鏡莉ちゃんの元気がどんどんなくなっていく。


「辞めるの?」


「え?」


「勝てなかったから辞めるの?」


「それは……」


 鏡莉ちゃんが欲しい言葉はこんなのではないのなわかっている。


 でも、こんな鏡莉ちゃんを見たくなかった。


「勝てないからって諦めるのは逃げだよ。今日勝てないなら今度勝てばいいんだよ」


 そんな適当なことを言われても困るのはわかる。


 だけど僕は……。


「鏡莉ちゃんの落ち込んだ顔は見たくないよ」


「……もう一声」


(もう一声?)


「鏡莉ちゃんの笑顔が見たいな」


 よくわからなかったので、とりあえず今の気持ちを伝えた。


「なっつんは次やったら勝てると思う?」


「鏡莉ちゃんなら出来るよ」


「その心は?」


「僕はそう信じてる、だと駄目?」


 その時の状況を見てないから、どういう風に負けたのかわからない。


 だからただの感情論だけど、鏡莉ちゃんならきっと出来ると信じている。


「つまり私が負けたらなっつんの信頼を裏切ることになるのか」


「負けたらよりかは、諦めたら?」


「勝つまで負けるなってことか。やってやるし」


 鏡莉ちゃんが僕から離れて両手を掴んだ。


「私が勝ったらご褒美くれる?」


「何が欲しいの?」


「なっつんを貰いたいけど、それはもう少し後でいいから、なっつんの一日をちょうだい」


「一日一緒に居るってこと?」


 鏡莉ちゃんが弱々しく頷いて答える。


「いいよ。それがご褒美になるのなら」


「なる、超なる!」


 鏡莉ちゃんが満面の笑みになり、僕にまた抱きついた。


「それはつまり『なんでも言うことを聞く券』を使ったってこと?」


 梨歌ちゃんが両足を真横に開いて、身体を床にぺったり付けながら器用に首を傾げながら聞いてきた。


「何言ってんの? それとは別に決まってんじゃん。なっつんだけに五枚なら使えるけど」


 鏡莉ちゃんへの誕生日プレゼントである『なんでも言うことを聞く券』。


 それは僕を含めたみんなに対して一人一枚使える券だ。


 だから僕だけに五枚や、梨歌ちゃんに二枚使って僕に三枚とかは出来ない。


「使いどころがほんとに難しいんだよね」


「一枚って言われるともったいないもんね」


「違うんだよ。なっつんのはそうなんだけど、梨歌にやばいことやらせたら梨歌からも返ってくる訳だからさ」


 宇野家の誕生日プレゼントは『なんでも言うことを聞く券』で統一なので、先に誕生日が来たからと何かとんでもないことを頼んだらその人の誕生日でお返しが来る。


「梨歌なら全裸で外に放置とかしそうだから」


「そういうのは駄目だよ。なんでもは、常識な範囲内だからね」


「梨歌にはそれが常識かもじゃん?」


「もしそうなら梨歌ちゃんを宇野さんと一緒にお説教するよ。だけどもちろんそんなのはみんなに必要ないのがわかってるから、なんでもって書いてるんだからね?」


 みんなはちゃんとしてるから、いいことと駄目なことの区別は付けられるはずだ。


 だから僕はそれを提案したし、宇野さんも採用した。


「つまり常識外なことをやらせたらなっつんの信頼が無くなるってこと?」


「宇野さんのもね」


「気をつけまーす」


 鏡莉ちゃんはそう言って抱きしめる力を強くした。


「芽衣莉ちゃんと悠莉歌ちゃんもね」


 ロフトの上で場所を取られて不貞腐れている悠莉歌ちゃんと、その悠莉歌ちゃんをなだめている芽衣莉ちゃんにも言う。


「わ、わかってたよ?」


「めいりお姉ちゃんはお兄ちゃんにエッチなことを頼むつもりだったみたいだよ」


「そ、そんなことないよ。ただいい雰囲気にもっていって流れで……とか考えてないから!」


「全部言ってるよ。ゆりかはお兄ちゃんに色々頼も」


 顔を真っ赤にする芽衣莉ちゃんと何か考えている悠莉歌ちゃんからのお願いが少し楽しみだけど怖くなった。


「今は私のターンなんだから他の女に目移りしないの」


 鏡莉ちゃんが僕の顔を自分の顔と合わせた。


「私が勝ったらデートだからね」


「一緒にゲーム?」


「なぜわかった!」


 失礼だけど、鏡莉ちゃんが外に出るとは思えなかったからだ。


「絶対失礼なこと思った。密閉空間なら完全に独り占め出来るからだし」


「いいけど、そろそろだよね?」


「なにが?」


「隣を返すの」


「……忘れてた。今週中には空けないとじゃん」


 鏡莉ちゃんの部屋にはほとんどものが無いから移動に時間はかからないけど、ゲームをするのはここになる。


「ロフトの貸し切り予約」


「そんな制度はない」


 柔軟を終えた梨歌ちゃんに、はっきりそう言われた。


「やーだー、外出たくないー」


 駄々を捏ね始めた鏡莉ちゃんに梨歌ちゃんが「騒音うるさい」と言われたけど、鏡莉ちゃんはやめない。


 それに少し怒った様子の梨歌ちゃんが鏡莉ちゃんの首根っこを掴んで部屋の隅に連れて行き、罰を執行した。


 部屋には、鈍い音と鏡莉ちゃんの悲鳴が轟いた。

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