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ほふのへーふ

「すごい……」


「やってる理由はアホだけどね」


 僕達の目の前では、息を飲むようなアルプス一万尺が行われていた。


 お互い着ているのは芽衣莉ちゃんがパーカー一枚、鏡莉ちゃんが僕のブレザー一枚になっている。


 もちろん脱ぐ時は梨歌ちゃんに目を押さえられていた。


「数では有利だっためいりお姉ちゃんだけど、体力で負けてるね」


「うん。もし、僕のブレザーがなかったら、芽衣莉ちゃんの勝ちだったもんね」


「疲れが出たせいで、めいりお姉ちゃんが連続ミスして後一枚になっちゃったもんね」


 言うなれば、芽衣莉ちゃんはスタートダッシュ型で、鏡莉ちゃんはスタミナ型かバランス型になる。


「決めきれなかったのがもったいないよね」


「後は意地の勝負だね」


「あんたらもなにを真面目に解説してんのさ……」


 僕と悠莉歌ちゃんがこの先どうなるのかを気にしながら二人の戦いを見ていたら、梨歌ちゃんが二人の脱いだ服を畳みながらため息をついた。


「そういえばこれってなんで始まったんだっけ?」


「芽衣莉が嫉妬して鏡莉が挑発に乗ったから」


「何に嫉妬したの?」


「篠崎さんは好きってわかんないんだっけ?」


 僕は頷いて答える。


「じゃあさ、私達五人の中で一番一緒に居たいのって誰?」


「選べないよ」


 僕はみんなのことが大好きだ。


 だからみんなと一緒に居たい。


「でも芽衣莉には私達とは別の感情持ってるよね?」


「確かにあるけどさ、芽衣莉ちゃんみたいに可愛い子から、その……色々されたらみんなそうなると思うんだよ」


 芽衣莉ちゃんとは確かにみんなとは少し違う感情がある。


 だけどそれは、好きと言うよりは意識をしているんだと思う。


 というか、キスをされて今まで通りにする方が難しい。


「篠崎さんは普通にしてる方だと思うけどね。でもそうだよね、普通に考えて、好きとか嫌いとか無しにしても、異性からキスなんてされたら意識するか」


「ゆりかもしたよ?」


「悠莉歌、悠莉歌を意識したら篠崎さんはちょっと危ない人になるからね」


 梨歌ちゃんが真面目な顔で悠莉歌ちゃんの肩を掴みながら言う。


 確かに悠莉歌ちゃんにもキスをされたけど、あの時は他の情報が多すぎてそれどころではなかった。


「ゆりかは所詮その程度の女……」


「でもないみたいよ?」


 そう、あの時はそれどころではなかったから気にならなかったけど、思い出したら急に恥ずかしくなってきた。


「おー、お兄ちゃん茹でダコさんだ」


「そこまでじゃないけど、確かに赤いね。良かったじゃん、子供じゃなくて女として見られてるよ」


「さすがはゆりか。この歳で男を惑わすなんて」


 悠莉歌ちゃんがふざけてくれるおかげでだんだん落ち着いてきた。


 だけどまだ少し頬が熱い。


「芽衣莉、鏡莉、手が止まってるけど?」


 芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんが手を止めて僕のことをジト目で見ていた。


「後ろでめいめいとは遊びだったなんて聞こえてきたら気になるでしょ」


「鏡莉、手が滑って平手打ちしちゃうかもだけど事故だから許してね」


「事前に言うのは事故じゃなくて自発なんだけど?」


「じゃあそれでいいから許してね」


「今は二人の同意として止まってるけど、平手打ちなんかしたらめいめいの負けが確定するからね」


「なら再開」


 芽衣莉ちゃんがそう言うと高速アルプス一万尺が再開された。


 だけどさっきと違って音がすごい。


「痛そ」


「きょうりお姉ちゃん泣き目」


「だけど耐えたら鏡莉ちゃんが有利になるよ」


「もういいでしょ……」


 僕と悠莉歌ちゃんが二人のアルプス一万尺をまた解説し始めたら、梨歌ちゃんが呆れたようにため息をついた。


「話を戻すよ。篠崎さんは好きがわからないけど、芽衣莉を私達とは違う感情で見てるのね。だけどそれは、キスされて意識してただけ」


「うん?」


 いきなりのことでよくはわからなかったけど、そんな話をさっきまでしてた気がするからとりあえず頷いておく。


「……まぁいいや。つまり、私達は篠崎さんが芽衣莉のことを好きだと思ってたから、曖昧な答えしか言わない篠崎さんに思うところがあったけど」


(あったんだ……)


「今あったんだって思ったね、思ってたよ。まぁ実際は本当に好きがわかんなくて普通にしてただけみたいだけど」


「いきなりどうしたの?」


 さっきの言い方的に、僕が芽衣莉ちゃんに酷い扱いをしているのが嫌なのかと思ったけど、それとは別に何かがありそうな言い方をしている。


「いやね、ずっと気になってたから。芽衣莉が遊びの関係だ、とかは興味ないけど、なんで芽衣莉を好きになったのかなって」


「りかお姉ちゃんの言葉を要約するとね『なんで私じゃなくて芽衣莉なのよ(おこ)』ってこと」


 悠莉歌ちゃんがかっこの中もほっぺを膨らませながらちゃんと言うと、梨歌ちゃんが無言で悠莉歌ちゃんの頬をむにむにした。


「へれはふひふるっへほとは、ひとへてふっれほとらよ」


「照れてないわ! ていうかそういう意味でもないし」


「今のは『照れ隠しするってことは、認めてるってことだよ』って言ったの?」


「へーはーい」


 今のは『せーかーい』だと思われる。


「よくわかるね」


「梨歌ちゃんもわかってたじゃん」


「悠莉歌の言いそうなことならわかるから」


「仲良しさんだ」


 僕がそう言うと、梨歌ちゃんが悠莉歌ちゃんの頬を離して今度は僕のほっぺをうにうにしだした。


「ゆりかと仲良しって言われて照れたー」


「照れてないっての。意味のわからないことを言う口にお仕置してるだけ」


「物理的に黙らせたら?」


「あんたら痴女と一緒にするな」


 そう言う梨歌ちゃんの頬が赤くなっている。


「結局なにが言いたかったってさ、篠崎さんは、今まさに好きを理解しようとしてるんだよ。だからあの変態共になにを言われても気にしたら駄目だよ」


 梨歌ちゃんはそう言って勢いが無くなってきた芽衣莉ちゃんと、嬉しそうに泣いている鏡莉ちゃんの二人を呆れながら見て言う。


「篠崎さんは篠崎さんのペースでみんなを見てから決めればいいよ」


「ほふのへーふ……」


 そういえばまだほっぺをうにうにされている途中だった。


「雰囲気台無し。それにりかお姉ちゃんの欲が出ててそこも台無し」


「私の欲ってなにさ?」


「お兄ちゃんのペースはいいけど、最後に『みんな』って言って『私を選んで』って遠回しに言ってるところ」


「言ってないわ!」


 梨歌ちゃんが顔を真っ赤にして悠莉歌ちゃんに手を伸ばそうとしたけど、僕のほっぺをうにうにしていたので僕も引っ張られた。


 そして驚いた梨歌ちゃんが僕の方を向き、僕の目の前に梨歌ちゃんの顔があった。


 止まることが出来ずに既視感を感じた。


 そして……。


「今はだめぇぇぇぇぇ」


 梨歌ちゃんがそう叫んで僕に頭突きした。


(あ、ほんとにダメなやつだ)


 僕は座っていられなくなり、後ろに倒れた。


 とても頭がぐらぐらする。


「ご、ごめんなさい。意識はあるね。勢いなかったのが幸いした」


 梨歌ちゃんは慌てて僕に寄って来て、膝枕をしながら頭を撫でてくれた。


「ほんとの気休めだけど、ちょっと我慢してね。悠莉歌」


「わかった。お兄ちゃんのおでこにキスすればいい?」


「ふざけてる時間ないの。早く冷やせるもの持って来て」


 梨歌ちゃんが泣きそうに言うものだから、悠莉歌ちゃんも何も言い返さずにキッチンに向かった。


「本当にごめんなさい」


「大丈夫だよ。それと、()()()()()()()()


「優しいね」


 多分梨歌ちゃんは勘違いしている。


 僕は梨歌ちゃんの涙を見てはいけないと思ったから目を瞑るのではない。


 それなら目を瞑るよりも拭ってあげたいから。


 だから目を瞑るのは、頭突きの後にぐらぐらしてる中で聞こえたハイタッチの音の為だ。


「なっつんも被害にあったか。梨歌のバイオレンスに」


「ドメスティックは関係なかったんだね」


「あんたらもふざけてんじゃ……」


 多分梨歌ちゃんは二人の格好を見たのだと思う。


 僕には聞こえた。


 ハイタッチの後に服を脱ぐ音が。


「ほらなっつん。私の匂いやら何やらを沢山マーキングしといたから、これ着て元気になって」


 鏡莉ちゃんはそう言って、おそらくブレザーを僕に掛けた。


「なら私は、人肌が恋しいかと思うから添い寝を──」


「あんたら痴女はまず服を着ろぉぉぉぉぉ」


 梨歌ちゃんの叫び声が部屋中に轟いた。


 その後、服を着た芽衣莉ちゃんと鏡莉ちゃんは梨歌ちゃんに晩ご飯の間以外はずっとお説教されていた。


 それを見た宇野さんは、静かに静観していた。

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