デート開始
「行ってきます」
「……行ってきます」
「行ってら、帰ってきたら子供が出来ましたなんて報告いらないからね」
鏡莉ちゃんのからかいを受けて、僕と芽衣莉ちゃんはアパートを出た。
「鏡莉がすいません」
「ううん。あれが鏡莉ちゃんだもんね」
止めても止まらないのが鏡莉ちゃんだ。
そこが美点なので、これからもそんな鏡莉ちゃんを楽しんでいきたい。
「それより嫌でした?」
「なにが?」
「で……、私とお出かけするの」
芽衣莉ちゃんが顔を赤くして俯く。
「ううん。ちょっと別のことを考えてて」
芽衣莉ちゃんは多分、出る時に僕の様子がおかしかったのを気にしているのだと思う。
あれは単純に、鏡莉ちゃんに言われたことと、みんなを残すのが気がかりだったからだ。
「でも考え事の一つは解決したかな」
「そうなんですか?」
「うん」
僕はそう言って鏡莉ちゃんの左手を握った。
「ふぇ?」
「あ、かわいい。嫌?」
「い、嫌じゃないですけど、どうしてですか?」
「うーんとね、芽衣莉ちゃんと仲良く……じゃないか、芽衣莉ちゃんのことを知りたい? 違うな。とにかく、今は芽衣莉ちゃんのことだけを考えたいからかな?」
上手く言葉が見つからないけど、芽衣莉ちゃんに対する気持ちをはっきりさせたい。
その為の第一歩が手を繋ぐだ。
「僕は恋愛経験とか、そういうのはなんにもわからないから、耳に入ってきたことを実践してみようかなって」
テレビやスマホなどの情報を得る媒体をほとんど見たことも使ったこともないから、学校などでクラスの人が話していた恋愛話? を元に色々試してみようと思う。
これでなにを感じるかで、自分の気持ちを理解する。
「私のことを考えてくれてるんですね。やり方が少し残酷ではありますけど」
「そこも教えて。駄目なところは直していくから、僕はなにをしたらいい?」
僕は芽衣莉ちゃんの嫌なことはしたくない。
芽衣莉ちゃんがこれを残酷と言うのなら、直ちにやめて、芽衣莉ちゃんのして欲しいことをする。
「えっと、手を繋ぐことはいいんです。ただ、理由が残酷だなって」
「理由?」
「これってつまりは、篠崎さんが好きを理解する為にしてるんですよね?」
「うん」
「つまり、最後には篠崎さんが私を好きではないってわかるってことじゃないですか」
芽衣莉ちゃんが寂しそうに笑った。
「なんでそうなるの?」
「見てればわかりますよ。篠崎さんって言い方が悪いですけど、恋愛がわからない以上に、私達を下に見てるじゃないですか?」
「見下してるように見える……?」
そんなつもりはない。
だけど、自分の気持ちが相手と違うのはよくあることだ。
もしそうなら、ちゃんと謝ってこれからの態度を改める。
「言い方がほんとに悪かったです。えっと、年下として見てるって言えばいいんですかね? 言ってしまえば妹みたいに思ってるって感じですかね?」
「妹……、いたことないからわからないけど、言いたいことはわかる」
芽衣莉ちゃん達のことは友達だと思ってはいたけど、確かに対等な友達より、可愛がる妹の方がしっくりくる。
鏡莉ちゃんの言った『家族愛』も、それなら納得だ。
「だからですね、もしこのまま篠崎さんが私との関係に気づいてしまったら、一生妹として好きって、ことに……」
芽衣莉ちゃんが立ち止まって遠くを見つめる。
視線の先には何も無い。
「芽衣莉ちゃん?」
「あ、すいません。それはそれでいいなって思っちゃっただけです。というか、流歌さんと結婚したら私は必然的に義妹ですもんね」
「なんで芽衣莉ちゃんはいつも僕と宇野さんを結婚させたがるの?」
もちろん嫌とかではないけど、単純に理由が気になる。
「流歌さんには幸せになって欲しいんですよ。私達の中で一番苦労してるのは流歌さんか鏡莉なんです。鏡莉は結構自由に生きてるからいいんですけど、流歌さんは違うじゃないですか」
芽衣莉ちゃんがまた歩き出し、そう言った。
言いたいことはわかる。
家事や金銭のことに関して全てをやっていた宇野さんと、子役として働いて、家賃やみんなの学校のお金を払っていた鏡莉ちゃん。
この二人が苦労していたのと、鏡莉ちゃんが宇野さんに比べたら自由にしていたのはわかる。
「宇野さんに幸せになって欲しい理由はわかったけど、それがなんで僕と結婚?」
「流歌さんが篠崎さんを好きなのは前提としてですね」
「前提なの?」
嫌われてはいないと思いたいけど、だからって恋愛的な好きはないと思う。
「前提として、篠崎さんは流歌さんを大切にしてくれそう……、というかしてくれるので」
「するだろうけど、それなら結婚じゃなくてもいいんじゃないの?」
例えば、今みたいに一緒に居るだけでもいいはずだ。
「それだと大人になったら修羅場になる可能性が高い……、いや、ほとんど確実になるので」
「修羅場?」
よくわからないけど、奪い合いってイメージがあるが、それが起こるとは思わない。
「特に鏡莉はなにをするかわからないですから」
「大丈夫じゃない?」
「篠崎さんはわかってないです。流歌さんの学校での人気ってどれぐらいですか?」
「詳しくはわかんないけど、常に人が周りに居て、告白もされてるみたい」
最近は宇野さんを見つけたら軽く見てはいるので、その程度のことはわかるようになった。
「その周りに居る人達って、流歌さんと仲良くしたいって人よりも、流歌さんの人気にあやかりたい人なんですよ」
「宇野さんもそんなこと言ってた気がする」
「篠崎さんは知らないんでしょうけど、あれって裏では色々やってるんですよ」
「裏?」
「簡単に言いますと『あなたじゃ釣り合わないから離れて』みたいなやつです」
セリフと一緒に芽衣莉ちゃんの目が死んだので少し怖かった。
「つまりなにが言いたいかと言いますと、篠崎さんが流歌さんを選ばないと私達でそれが起こります」
「宇野さんをってことは、芽衣莉ちゃんを選んだ場合も起こるの?」
「はい。流歌さんは優しいので、私達が一緒に居るのを許してくれるでしょうけど、私達は篠崎さんを独占したいので」
みんな巻き込まれてしまっているが、そうなるとは思えない。
「篠崎さんが選んでくれたら独占しますけど、私達、少なくとも私はみんなと居るのも好きなので、流歌さんを篠崎さんとくっつけようとしてる訳です」
「なるほど?」
理由はわかったけど、理屈はわからない。
「じゃあ今やってるのは必要なことなんだね」
「浮気がってことですか?」
「違うよ。好きの理解」
「と言いますと?」
「結婚とかって言われてするものじゃないんでしょ? 昔ならまだしもさ。なら、僕がちゃんと好きを理解して、誰かに告白をすれば解決ってことだよね?」
それで誰を選んでも、誰を選ばなくても、それが答えになる。
「告白しても、受け入れて貰えなければそれまでなんだけどね」
「受け入れない人はいませんよ。たとえいた場合は、私の元に来てくれれば沢山慰めて、好きにさせますから大丈夫ですよ」
それはなんか代わりみたいで嫌だけど、そうなる可能性もある。
「人を好きになるのって怖いね」
「篠崎さんはまず好きになるところからですけどね」
「そうだね」
誰かを好きになったら他の関係性が崩れる。
告白して成功しても失敗しても周りやその人との関係性が崩れる。
人を好きになるのがこんなに怖いことなんて思いもしなかった。
だけどそれでも人を好きになるのは、その先の幸せを目指してなのだろうか。
それを掴めるかはわからないけど、僕も目指してみる。
「まずはこのデートからだよね」
「言わないようにしてたのに……」
芽衣莉ちゃんが顔を赤くして僕の手をぎゅっと握った。
(かわいい)
このかわいいも、妹的な意味か一人の女の子としてなのかわかるようになりたい。
「ふぅ、よし。着きましたよ」
芽衣莉ちゃんが自分を落ち着かせてから立ち止まった。
「ここ?」
「はい。思い出巡り最初で最後の場所です」
芽衣莉ちゃんが寂しそうに笑う先には使えなくされているブランコと鉄棒だけがある公園があった。
(見覚えはあるけど……)
その公園に芽衣莉ちゃんと一緒に足を踏み入れた。




