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対話の必要性

「なっくん」


「なに?」


「呼んでみただけぇ」


 なんだか前にもやったことのあるようなやり取りだ。


 僕達は公園から旅館に戻ってきてのんびりすることにした。


 のんびりせざるを得ないともいえるが。


「芽衣莉あざとすぎない?」


「素だと思う。りっか達と会う前はあんな感じだったし」


「見てて不安になってくるんだけど」


「それを言うならねぇ」


 鏡莉ちゃんの視線が部屋のすみっこに行く。


 そこには宇野さんが体育座りをしている。


「流歌ちゃんさ、わかりやすすぎない?」


「それね、それとも気づかれ待ち?」


「気づかれ待ちってどんだけめんどくさいの」


 栞さんが呆れたように言うと、宇野さんが膝に顔を埋めた。


「宇野さ──」


 僕が宇野さんに声をかけようとしたら芽衣莉ちゃんの人差し指に止められた。


「今は私だけを見るの」


「……わかってるんだけどね、でも落ち込む宇野さんも見たくないよ」


「それで流歌さんの相手してるなっくんを私に見せて私を落ち込ませるの?」


「ずるい言い方」


「嫌いになる?」


「ならないけどね」


 芽衣莉ちゃんを嫌いになるはずがない。


 ただ意地は悪いとは思う。


「そういえばすっごい今更なこと言っていい?」


 栞さんが手を挙げて言う。


「なに?」


「嫌とかじゃなくさ、永継は普通は私達と同じ部屋なんだなって」


「それはね、なっつんとるか姉とめいめい以外はみんな思ってたよ」


 そういえば高校生の男女が同じ屋根の下で一緒に過ごすのは特殊だと最近知った。


 今までは友達の家に遊びに行ってるだけだが、今回は一緒に旅行して一緒の部屋に泊まる。


 それは駄目なことらしいけど、何が駄目なのかわからないから何かを変える気はない。


「なっつんは無害すぎて心配の余地がないんだよね。むしろなっつんが危ない方だし」


「芽衣莉ちゃんと梨歌ちゃんと鏡莉ちゃんに襲われるもんね」


「なぜ私まで」


「むしろ最近は梨歌ちゃんが一番酷いでしょ」


 確かに僕を最近よくいじめてくるのは梨歌ちゃんだ。


 芽衣莉ちゃんも負けてはないけど。


「みんな表現の仕方が酷いんだよ。永継の嫌がる姿見て喜ぶとかどんなサディストなのさ」


「栞さんも喜んでるじゃん」


「否定はしない」


 僕がいじめられると喜んでいる人がいるのは知っている。


 それは別にいい。


 いじめと言っても僕が辱められてるだけだから。


 だけど今の状況は少し嫌だ。


「めいちゃん」


「なっくんなんだから。もう少しまってね、それまでは……悠莉歌ちゃん、お願いできる?」


「妹使いの荒いお姉ちゃんだ」


 悠莉歌ちゃんはそう言うと「やれやれ」といった感じで宇野さんの方に歩いて行った。


「るかお姉ちゃん、大丈夫だよ。付き合いたてなら奪うのも簡単だから」


 悠莉歌ちゃんがそう言って宇野さんの頭を撫でると、宇野さんがゆっくり頭を上げて悠莉歌ちゃんを抱きしめた。


「悠莉歌、好き」


「心をを覚えたロボットみたいな言い方。それをお兄ちゃんに言えばいいのに」


「だって……」


「まぁ拒絶の心配してるようなら言わない方がいいのかな」


 悠莉歌ちゃんの顔が呆れと同情が混在しているような、複雑な顔になる。


「ああいう話って本人の居る前でしていいの?」


「なっつんなら平気じゃない? いつもみたいにわからないフリするだろうし」


「あれってやっぱりフリなの?」


「確証はないけど、鈍感で済ますには鈍すぎでしょ」


 栞さんと鏡莉ちゃんが()()()()()()()()をしている。


 宇野さんと悠莉歌ちゃんの話もよくわからないし、実際本当にわからない話があるのも事実だ。


 ただ、わかりたくない話があるのも認める。


「なっくんはそれでいいの。私達だってなっくんの優しさに甘えてるんだから」


「優しさとは違うよ。優柔不断で人の気持ちを理解しようとしてない最低な人間なんだよ」


 今の状況だってそんな僕が作り出してしまったのだから。


「なっくんが全部悪いんじゃないよ。なんだかんだ言っても関係が崩れるのが嫌だったんだよ」


「……」


「ずっとみんな仲良くがいいけど、結局それは幻想なのかもね」


 芽衣莉ちゃんが寂しそうな顔でそう告げる。


 人間関係なんてちょっとのすれ違いで終わる。


 それがたとえ家族でも。


 だから必要なのだ、対話が。


「ちゃんと話さなきゃわかんないだよね」


「言わなくても伝わるってのが一番幻想だからね。だから私は言葉にした、そうしたら幻想が現実になった」


 芽衣莉ちゃんが笑顔を向けてくれた。


「つまり話せばなんでも手に入るってことだよね」


「いや、そういう訳でも──」


「なっくん、暗くなってきたから愛し合お」


 僕の言葉を遮って芽衣莉ちゃんがそう言い、僕に抱きついてきた。


「シリアスなムードが一気に崩れた」


「それが芽衣莉だし」


「でも話は理にかなってるんだよね」


 大切なことは相手を信じて待つことではなく、自分から行動すること。


 相手を信じて勝手にわかってくれると期待して、理解されなかったら勝手に幻滅する。


 それが人間だ。


 だから話すことが大切なのはわかる。


 芽衣莉ちゃんのように抱きつく必要はないと思うけど。


「そうだ、なっくんともっと仲良くなる為にいっぱいお話したい」


「嫌な予感」


「日本人だからあれしようよ」


「それはさすがに駄目だと思う」


「なっつんはなんとなくで話が噛み合うからこっちも信じたくなるんだよね」


 さすがに今回のは誰でもわかると思う。


『日本人』で『旅館』ときたら……。


「大丈夫、なっくんならタオルで身体隠したら女の子と大差ないから」


「だから駄目だよ。百歩譲ってめいちゃん達だけならともかく、他の人も居るでしょ」


 混浴でもない普通の温泉に一緒に入るなんて駄目に決まっている。


「あ、だからか」


 栞さんがみんなの視線を集める。


「お父さんが紹介出来る旅館ってここだけじゃないの。だけどお父さんが『ここが一番面白い』って言っててね、それでまぁ……」


 栞さんはそう言ってこの旅館の案内を開いた。


「混浴があるんですよ」


 確かに案内には『家族湯』であるが、内容は混浴で書いてある。


 書いてあるが……。


「なんで自分が恥ずかしい思いするのに援護射撃するのかね?」


「あ、そっか。流れ的に私も入るのか」


「しおりんの着痩せボディをなっつんに見てもらいなさい」


「……永継が恥ずかしいなら無理に入らなくても」


「なっくんは私が入れる。みんなが入らないならいいけど、楽しんでくるね」


 要は「見張ってなくて大丈夫?」という芽衣莉ちゃんなりの後押し。


 みんなで一緒に入りたいという芽衣莉ちゃんの甘えたさんなのだ。


 そうに決まっている。


「流歌さんも入るんだからね」


「私は……」


「お姉ちゃん、行こ」


「……うん」


 悠莉歌ちゃんの純粋な瞳に宇野さんは抗えない。


 どうやら僕も抗えなくなってきた。


 一縷の望みは案内をじっと見ている梨歌ちゃんだ。


「これ、予約制って書いてあるけど大丈夫?」


 梨歌ちゃんが指さした場所を見ると、確かに『予約制』の文字が入っていた。


「その日でも出来るみたいだけど、先客がいたら待つやつだね」


「それにカップルと学生のみは要相談みたいだよ」


「その場のノリとか怖いもんね」


 鏡莉ちゃんの発言にみんな納得して顔をしかめる。


「それなら仕方ないね。お父さんはしたり顔だったけど、今回は普通のにしよう」


「予約すればいいのでは?」


「私達は学生だから駄目でしょ。せっかくの機会なのになー」


 栞さんが残念そうに言っているが顔が喜んでいる。


「しおりんよ、そういうのは死亡フラグと言うんだよ」


「フラグブレイカーの私に何を──」


 そこでふすまを叩く音が聞こえた。


 襖が開くと、中居さんが居て「ご予約の家族湯の時間がそろそろです」と言った。


「学生は駄目なのでは?」


「桐生様から『絶対に何も起こらないから』と聞いておりますので大丈夫です」


 中居さんが真顔でサムズアップをする。


「中居さんって可愛いね」


「しおりんよ、現実逃避をしても変わらんよ」


 鏡莉ちゃんが栞さんの肩をぽんと叩いて言う。


 すると栞さんが「帰ったらお父さんにお説教してやる……」と恨みの念を栞さんの家の方に飛ばしていた。

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