怒った後は胸を揉む
「はい、最初はグーのじゃんけんぽん」
「掛け声が気になりすぎるんだけど!?」
昨日終業式を終えた僕達は、春休みに入り旅行に行く日になった。
行き方は強面さん達が送り迎えをしてくれるらしく、今はそれを待っている。
車を二台出してくれるそうで、一台には荷物を載せてもう一台に僕達が乗る。
今のじゃんけんは座る場所を決めるじゃんけんだ。
ちなみに僕は参加券が無かったからやっていない。
「勝ち取った」
「執念の勝利」
どうやら宇野さんと芽衣莉ちゃんが勝ったようだ。
「圧に負けた」
「姉さんはこういう時は大胆なんだけどね」
「るかお姉ちゃんはヘタレさんだから」
「流歌ちゃん酷い言われよう。私は最初から助手席に行く予定だったからいいんだけど」
そう言う栞さんだけど、じゃんけんに負けた時はみんな同様本気で悔しがっていた。
「僕はどこになるの?」
「一番真ん中」
宇野さんが間髪入れずにそう言った。
特にどこがいいとかは無かったから別にいいのだけど。
「あ、聞いてなかったけど乗り物酔いとかは平気?」
「乗用車に乗ったことはないけど、バスなら平気かな。みんな酔わないよね?」
宇野さんが聞くとみんなが頷いて答える。
「永継は?」
「僕もバスしか乗ったことないけど酔わなかったよ」
遠足なんかでバスには乗ったことはあるけど、酔ったことはない。
ずっと風景だけを見て終わった遠足が懐かしい。
「酔い止めもあるし、安全運転の人をお父さんが選んでくれたから大丈夫だとは思うけど、ちゃんと言ってね。バスは平気でも乗用車は駄目な人もいるし」
「栞さんは大丈夫な人?」
「駄目。吐くまではいかないけど、グロッキーになって少し経たないとまともに歩けない」
「何か出来ることある?」
「暗い雰囲気にはしないで欲しいかな。雰囲気明るいと少しはマシになるから」
栞さんがそう言うのなら栞さんが参加出来るぐらいに明るい雰囲気でいっぱいにする。
「あ、すごい今更なこと聞いていい?」
鏡莉ちゃんが荷物に寄りかかりながら手を挙げた。
「なに?」
「行くのって旅館なんだよね?」
「そだね。調べてみたら結構いいとこみたい」
結構いいところにしては結構安い値段で泊まれるようで、本当に助かった。
もしも僕が払えなかったら栞さんが出すと聞かなかったから。
ただでさ僕が自分の分を出すことを認めさせるのに時間を使ったのだから。
「旅館ってさ浴衣? が出るんじゃないの?」
「寝巻きの話? あるだろうけど着たい人だけが着ればいいんだよ?」
「そういうものなんだ」
「鏡莉ちゃんのそれはアニメとかの見すぎだよ。あれは浴衣女子の可愛さを出したいのと、学園物が多いのと同じ理由だろうし」
また二人にしかわからない会話が始まった。
現に鏡莉ちゃんしか納得していない。
「あ、でも流歌ちゃんは浴衣着てもいいかも」
「なんで?」
「はだけてエッチな感じになるから?」
宇野さんが無言で栞さんにデコピンをする。
「痛いよ」
「変なことを言う子にはお仕置きが必要でしょ」
「だって永継はそういうのに弱いから一夜の関係を──」
宇野さんが梨歌ちゃんの腕を上げ掴んで栞さんのおでこの前に持ってきた。
すると栞さんが逃げようとしたので宇野さんが空いてる手で抱き寄せるように肩に手を回した。
「梨歌、本気でやってくれたら後できっと何かいいことがあるから」
「わかった」
「わからな、ったぁぁぁ」
栞さんがおでこを押さえてうずくまった。
「あぁ、涙出てきた。てか私生きてる?」
「しおりんが石頭なのか、りっかが抑えたのかわからないけど、やられてすぐに喋れるなら大丈夫だよ」
何回もやられている鏡莉ちゃんが栞さんの背中を撫でた。
「鏡莉よりかは石頭かな」
「永継、お願い」
「うん」
何を頼まれたのかはわからないけど、なんとなく今必要そうなことをしてみる。
「いたいのいたいの飛んでけー」
栞さんが押さえる手の上からさすってどこかに飛ばした。
鏡莉ちゃんはこれで痛みが和らいだと言っていたから気休めにはなるかもしれない。
「違った?」
「合ってる。それと少し痛みは引いた」
それなら良かった。
後は──。
「宇野さん、梨歌ちゃん」
「……はい」
「私もか……」
僕が振り向いて二人を呼ぶと、二人は僕の前に正座した。
「なんで手を出すの?」
「すいませんでした」
「僕に謝っても仕方ないし、僕はなんで手を出したのか聞いてるの」
「永継、平気だよ? そんな、ね?」
栞さんが心配そうに言うが、さすがに駄目だ。
「栞さんは確かに言葉で悪いことをしたよ。だったら言葉で返さなきゃでしょ? なんで手を出したの?」
「さりげなく私も怒られた?」
「しおりん、空気を読みなさい」
後ろで栞さんが鏡莉ちゃんに窘められた。
「なんで?」
「桐生さんは口で言っても聞かないと思ったからです」
宇野さんがとても怯えながら答える。
「宇野さんなら出来たでしょ? それに梨歌ちゃんを巻き込む必要もなかったよね?」
「それは……はい」
「梨歌ちゃんもだよ。別にやる必要もないし、強くやる必要もなかったよね?」
「はい」
二人とも顔を下に向けてしまった。
「じゃあ栞さんに謝って」
「大変申し訳ありませんでした」
「でした」
二人が栞さんに土下座をした。
梨歌ちゃんがちゃんと言っていないが、一応被害者だからそれはいいことにする。
「永継、私はどうしたら?」
「栞さんも変なこと言ったから謝って」
「仰せのままに。すいませんでした」
栞さんも二人に土下座をする。
「じゃあ過剰分は僕がお仕置きしていい?」
「どんな!?」
栞さんがバッと顔を上げて嬉しそうに僕を見る。
「栞さんにじゃないよ?」
「永継からのお仕置きはごほ──」
栞さんの口が鏡莉ちゃんに後ろから押さえられた。
「空気を読め。なっつんはこれで全部終わりにしようとしてるの」
鏡莉ちゃんにはお見通しのようだ。
こんな空気のまま旅行なんて行っても楽しめない。
「どんなお仕置きでも受けます」
「痛くしないでね」
後ろから鏡莉ちゃんのため息が聞こえた。
「栞さんは後でお説教が必要だね」
「あ、マジなやつだ」
とりあえず栞さんは無視して宇野さんと梨歌ちゃんの前に座る。
「顔上げて」
僕が言うと二人は静かに顔を上げた。
「お仕置き執行」
僕はそう言って二人に優しくデコピンをする。
「これで終わり。ごめんね、痛くなかった?」
「うん、心はめっちゃ痛かったけど……」
「飛んでけで飛ぶ?」
「少し考えさせて」
宇野さんが真剣に何かを考え出した。
そんな中梨歌ちゃんが僕の服の袖を引っ張る。
「私はお願いしていい?」
梨歌ちゃんはそう言って自分の胸を差し出してきた。
「そこ?」
「ここが痛い」
「……僕のせいだもんね」
ちょっとやりづらいけど、僕が痛めたのだからやる以外の選択肢はない。
「やるね」
「うん」
「いたいのいたいの飛んでけー」
僕は梨歌ちゃんの胸の上の方を撫でてから手を離した。
「ちょっと外れてて痛みが引かない」
「他のじゃ駄目?」
「じゃあ……」
梨歌ちゃんが目線だけを僕の顔に向けて、そして抱きついた。
「もう怒ってない?」
「うん、梨歌ちゃんと宇野さんには怒ってないよ」
背後で「やばい……」という栞さんの慌てた声が聞こえてきた。
「怒ってごめんね」
「ううん、姉さんに誑かされた私が悪いの。だから姉さんにやるはずだったやつを私にやって」
梨歌ちゃんはそう言って僕の手を自分の胸に……当たる寸前で宇野さんが止めてくれた。
「梨歌、永継君が限界だからやめたげて」
「あらら、永継さん顔が真っ赤だ」
「永継君大丈夫?」
正直大丈夫ではない。
とりあえず手を固定する為に梨歌ちゃんを抱きしめておきたい。
「私の分も残ってるけど?」
「うわ、姉さん悪い子だ。姉さんさっきいいことあるって言ってたけど、あれは姉さんが私の言うこと聞くってことじゃないの?」
「違うけど? いいことあったでしょ?」
「まぁ、可愛い永継さん見れたし、流れでキスでもしようかと思ったけど、それしたら止まらなくなりそうだからやめとこ」
それは本当に助かる。
これ以上は耐えられない。
「じゃあとりあえず永継君は私の心の痛みを飛ばしてくれるかな?」
宇野さんはそう言って僕の手を自分の胸に近づける。
そのせいで梨歌ちゃんを抱きしめる左手に力がこもる。
「姉さんの馬鹿力が発動してる。そして私は永継さんに力強く抱きしめられてる」
梨歌ちゃんの言う通り僕の腕は宇野さんの手から逃れられない。
引っ張ってはいるけど、それが時間稼ぎにしかなってない。
「梨歌にはやったのに私にはしてくれないの?」
「じゃあ離して。僕がやるから」
「それだと場所がわからないでしょ? ちゃんとここだよって教えないと」
宇野さんの力が更に強くなった。
僕の手が宇野さんの胸に触れ……る前に別の腕が宇野さんの胸を触った。
僕の手はその手に重なる。
「永継をいじめる悪女の乳はこれか」
「ちょ、やめ、んっ」
栞さんが宇野さんの胸を揉み出した。
その際に宇野さんの力が緩んだから手を離した。
「流歌ちゃん小さいと思ってたけど意外と揉める」
「へ、変態! 離しなさい!」
「変態ってどの口が言うのさ。私は永継を守ろうとぉぉぉぉぉ」
僕が後ろから栞さんに抱きつくと栞さんが叫んだ。
「な、永継。確かに私は流歌ちゃんの魔の手から永継を守ればお説教は無しになるかなーって打算はあったけど、こんなご褒美いいんですか?」
「栞さんがいい。迷惑……?」
今は宇野さんと梨歌ちゃんの近くが怖いから守ってくれた栞さんの近くに居たい。
そんなことを考えて栞さんに視線を向けると目元に涙が浮かんできた。
「駄目だよね、栞さんにお説教するとか言っといて守ってくれたら頼るなんて……」
そんな自分勝手が許される訳がない。
自分のことは自分で解決しなければいけないから、宇野さんと梨歌ちゃんに立ち向かおうと栞さんに回した腕を離そうしたら、栞さんが僕の方を向いて僕を抱きしめた。
「やばいなぁ、私も心が痛むよ」
その言葉に恐怖心を抱いたようで身体がビクついた。
「ごめんごめん、私は胸を触らせるような痴女ではないから安心して。怖かったね、大丈夫だよ」
栞さんが僕の頭を優しく撫でながら優しい声で言う。
とても落ち着く。
宇野さんに抱きしめられる時のように。
「だれと比べたか言いなさい」
「宇野さん」
「ついに並んでやったぜ」
栞さんが宇野さんにドヤ顔を向ける。
「私達がやりすぎたのは認めるからそろそろ手を離せ。その権利は永継君にあげたものなんだけど?」
栞さんは未だに宇野さんの旨をもみもみ。
「どうせ流歌ちゃんだから直前でひよって触らせてないでしょ」
「……そんなことないし」
「え、そうかそうか。永継が流歌ちゃんの生乳揉ませてくれたら許すって」
そんなこと言ってないという抗議を込めて栞さんを強く抱きしめた。
「おふ、至福。さてどうする?」
「そんなこと言ってるとまた永継君が離れるよ」
「いつかの練習でやってもいいと思うけど」
「栞さんのばか」
僕はそう言って栞さんの胸に顔を押し付けた。
これもこれで恥ずかしいけど、手よりかはなんとか耐えられる。
顔を押し付けてるから見えないけど、なんだか栞さんが喜んでいる感じがした。




