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お買い物(真面目?)

「今日は替えのパジャマと()()()()()を買おうね」


「……うん」


 服屋さんを回っていると、宇野さんがそんなことを言う。


 昨日の栞さん達との買い物の話を聞いた宇野さんは栞さんと鏡莉ちゃんを怒った。


 二人はずっと『私達は悪ふざけをした悪い子です』という札を多分今も首から下げている。


 そして二人は旅行中、男装することが決まった。


「許してあげてよ」


「永継君がそうやって甘やかすから調子に乗るんだよ。少しは反省させないと」


 宇野さんがそう言うと、前を歩く梨歌ちゃんと悠莉歌ちゃんが小声で話し出した。


「最初に女装させたの姉さんだよね?」


「うん、自分も男装したって言いそうだけど、結局お兄ちゃんを残して自分は着替えてたよね」


「なのに栞さんと鏡莉にはすごい怒るっていうね」


 多分聞こえるように言ったのだろうけど、聞こえた宇野さんが何も言えなくなって小さく「ごめんなさい」と言ってうなだれた。


「篠崎さんって服に頓着無いよね」


「着れればいいかなってのはあるかな。周り人にどう思われてるかとかも気にしないから」


 そんな見ず知らずの人にどう思われようと興味はない。


 だから宇野さん達がなんとも思わないなら僕はどんな服でも着れる。


「私達への信頼もあるのかな?」


「ゆりかはお兄ちゃんにかっこいいお洋服着て欲しいよ?」


「私もどっちかっていうとそうかな。可愛い派とかっこいい派で分かれた感じだね」


「お兄ちゃんは可愛いお洋服とかっこいいお洋服ならどっちが好き?」


 悠莉歌ちゃんが僕の方を見ながら聞いてくるが、正直どっちが好きとかはわからない。


 だって僕が今まで着たことなある服は今着ているパーカーぐらいだ。


 小さい頃も無地の服を着ていただけだからこれといった特徴がない。


 それでずっと生きてきたから好きな服以前にどんな服があるのかを昨日初めて知った。


「多分永継さんは『なんでもいい』なんだろうけど、それを言わないところがいい人だよね」


「『なんでもいい』って言われて一番困る言葉じゃない?」


「困る、特に何食べたいか聞いた時にそれ言われると本当に困る」


 しょぼんとしていた宇野さんが一気に元気を取り戻した。


「なんでもいいならあなたの嫌いなものを大盛りで出してあげようか? って思う」


「それか出されて困るものね。晩ご飯ガムだけとか」


「確かになんでもとは言ったけど、ガムて……」


 それだけすれば次からは少しは考えてくれるはずだ。


 それでも変わらないか逆ギレをするのならご飯は別々になる。


「でもさ、聞いてくる方も方じゃない?」


「別に毎回聞く訳じゃないけど?」


「そうじゃなくてさ、聞いてくるくせに無いからとかめんどくさいからとか言って作らないんでしょ?」


 それは確かに否定が出来ない。


 冷蔵庫にあるものは聞く側しかわからないから、聞いても冷蔵庫になければ作れない。


 それに作りたい気分じゃないものを言われると作りたくはない。


「どっちもどっちだよね」


「聞く側の方が理不尽だからね?」


 梨歌ちゃんがジト目を向けながら宇野さんに言う。


 確かに聞かれているのに答えないのと、答えてくれたのに無視するのだったら聞く側の方が理不尽に見える。


「実際姉さんも聞いてはくるけど、言ったやつ作ったことないじゃん」


「芽衣莉は偉いよね、毎日作るもの変えてるし、何より自分で作るの考えてるんだから」


「いや、姉さんだってやりくりしてずっと頑張ってくれてたじゃん」


「そうなんだけどね……」


 色々言っている梨歌ちゃんだって、作ってくれていた宇野さんに文句がある訳ではない。


 なんだかんだで感謝の気持ちを忘れないのがみんなのいいところだ。


「それでお兄ちゃんはどっちが好き?」


 流れたかと思ったけど、悠莉歌ちゃんは忘れていなかったようだ。


「多分僕ってどっちかよりも中間に近い方が好きだと思うよ」


 味の好みもだけど、甘すぎるのも辛すぎるのも駄目なように、服も可愛すぎるのとかっこよすぎるのはあんまり好きではないと思う。


 服の場合は着たことも見たこともないからわからないけど。


「確かにお兄ちゃんのお洋服はシンプルだよね」


 僕の愛用している黒パーカーは安かったから買えたもので、これに好き嫌い関係ないけど気に入ってはいる。


「僕は人にどう見られるとか気にしないから服に頓着ないから、みんなが選んでくれた服を着たいな」


「結局どっちでもなのに、相手も喜ばせられる完璧な答えだ」


「永継君にそんな意思ある訳ないでしょ。それよりみんなで考えるのと持ち寄りのどっちにする?」


 悠莉歌ちゃんをたしなめた宇野さんはそう言うが、自分で選ぶのは嫌だとは思っていた。


 だから少し喜んだけどそれは内緒にする。


「持ち寄ってお兄ちゃんに決めて貰う?」


「それは不和しか生まないからやめよ」


 僕も困るし選ばれなかった人も困るからみんなで一つのものを選んで欲しいとは思う。


「じゃあゆりかのパジャマはお兄ちゃんが選んで」


「パジャマ?」


「めいりお姉ちゃんのは選んだんでしょ?」


 今夏芽衣莉ちゃんも次いでにパジャマを買うとのことでパジャマを買っていた。


 別に僕が選んだ訳ではないけど。


「僕が選んだんじゃないよ?」


「めいりお姉ちゃんの喜びようからお兄ちゃんに選んで貰ったのかと思ったけど違うんだ」


「うん、ただ同じタイプのものを買ったよ」


 芽衣莉ちゃんはものは違うけど、同じシリーズのものを買っていた。


 確かにとても嬉しそうにはしていたけど、そんなに喜んでいるのなら僕も着るのが楽しみになってきた。


「多分永継さんに着せたかったんだろうね。芽衣莉もああいうの抵抗ないだろうし」


「りかお姉ちゃんはどんなのか知ってるの?」


「誰が洗濯してると思ってるの?」


「つまり今干されてるの?」


「うん、栞さんと鏡莉もその場のノリで買ってたみたいだけど、着る時後悔するだろうね」


 昨日の栞さんと鏡莉ちゃんは確かにいつも以上にテンションが高かった。


 だから僕と芽衣莉ちゃんの買ったパジャマを見て同じタイプのを買っていたけど、帰る頃に「なぜこれを買った……」と少し後悔していた。


「ネグリジェみたいなのでも買ったの?」


「栞さんと鏡莉なら永継さんに着せる可能性はあるけど、芽衣莉はそういうの着せないでしょ。自分が着て見せるならあっても」


 さすがは梨歌ちゃんだ。


 芽衣莉ちゃんはいつかネグリジェを着て見せてくれると言っていた。


「それに栞さんと鏡莉は永継さんに着せてもネグリジェなんて絶対に着ないでしょ」


「それもそっか。じゃあどんなの?」


「こんなの」


 宇野さんはそう言って、さっきから真剣に悩んでいたパジャマの一つを手に取った。


「動物さんか」


 僕達が買ったのは動物の着ぐるみパジャマだ。


「お兄ちゃんはなんの動物さん?」


「芽衣莉ちゃんが秘密にしてって言ってた。お楽しみだって」


 僕のパジャマは芽衣莉ちゃんが僕らしい動物を選んでくれた。


 だから芽衣莉ちゃんのは僕が芽衣莉ちゃんらしい動物を言うとそれを買っていた。


「そういう意味では僕が選んだのか」


「芽衣莉の? なら私のも永継君が選んで」


「僕は芽衣莉ちゃんはこんな動物のイメージって言っただけだよ?」


「それでいいからお願い」


 栞さんと鏡莉ちゃんにも聞かれたけど、好きな動物でいいと思う。


 結局どんな動物でもみんな似合うのだから。


 だけど宇野さんはどんな動物がいいか決まっている。


「宇野さんはうさぎさん」


「桐生さんじゃなくて?」


「姉さんはうさぎだよ」


「るかお姉ちゃんは絶対にうさぎさん」


 これは昨日芽衣莉ちゃん達に聞いても同じ意見だった。


 栞さんにうさぎのイメージがついているけど、うさぎの性格を考えると宇野さんがピッタリだ。


「どういうところが?」


「寂しがりなところ」


「全否定が出来ない……」


 うさぎは寂しいと死んでしまうというのは有名な話だ。


 実際そうなのかはわからないけど、宇野さんも放置されると寂しがってめんどくさい女モードになってしまう。


 だから宇野さんはうさぎだ。


「後可愛いから」


「どうせみんなに言ってるんでしょ、わかってるんだから」


 宇野さんが拗ねたようにそっぽを向いてしまった。


 思い返してみたら、『可愛い』と思ってはいたけど、言ったのは宇野さんだけだった。


 別に僕は『可愛い』という感情を持てる程動物を知らないはずなのに。


 そんなことを不思議に思い考えていたら、頬をほのかに赤くした宇野さんがうさぎの着ぐるみパジャマを楽しそうに選んでいた。

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