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地雷を踏む日

「そういえばみんなの旅行ってどこに行くの?」


「ん?」


 冬休みまでもう少しなので、ふとそんなことが気になった。


 思い返してみたら、大悟さんの知り合いの旅館に行くとは聞いていたけど、どこに行くかは聞いていなかった。


「どこ行くかは言ってなかったけど、永継も行くんだよ?」


「え?」


 てっきり僕は宇野さん達の家族旅行に栞さんが同行するだけだと思っていた。


「そもそも原案なっつんじゃん」


「僕は鏡莉ちゃんの考えをなんとなくで言っただけで、旅行はみんなで行くんだと思ってた」


「いや、逆に永継を置いてく選択肢がないでしょ」


 それは嬉しいけどそれだと少し困ったことになる。


「行くのって冬休み入ってすぐだよね?」


「うん」


「何も準備してないし、旅行に行けるだけのものがない」


 そもそも僕の私物なんて学校に持っていくものと着回せるだけの私服と日用品が少ししかない。


「それはいいこと聞いたな」


「確かに」


 栞さんと鏡莉ちゃんが少し怖い笑みを浮かべている。


「準備出来ないのがいいことって、そういうこと……?」


 つまりは旅行に来れないからうれ──。


「んな訳ないでしょ! 怒るよ!」


「怒ってるよ……」


 栞さんに真剣な表情で怒られた。


「るか姉は仕方ないとして、めいめい達は呼ぶ?」


「呼ばないと怒るでしょ。でも人数多いのもあれだよね」


 宇野さんは今日アルバイトの日で、他のみんなはいつも通り隣にいる。


「今日と明日で分ける? 流歌ちゃん明日は休まされたって言ってたよね?」


 宇野さんは明日と日曜日に働きすぎだからと仁さんに休まされたと言っていた。


「六人だから三人ずつか、軍資金決めて勝負するか」


「それでいこう」


 栞さんと鏡莉ちゃんで話がまとまったようだ。


「じゃあ三人呼んでくる」


 そう言って鏡莉ちゃんが出ていった。


「どういう話になったの?」


「永継の準備を手伝おうって話。足りないものとかも今日と明日で買いに行くから」


「いいの?」


「むしろやりたい。もちろん永継が嫌ならやめるし、永継が見られたくないものがあるならそれも言ってね」


 嫌な訳ない。


 むしろ旅行なんて初めてだから準備の仕方もわからないからありがたい。


「見られたくないもの、あるかな?」


「大丈夫? 下着とか芽衣莉ちゃんが盗むかもよ」


「なんで?」


 下着なんて盗んでも価値なんてないから意味は無い。


 そんなことを芽衣莉ちゃんがする訳がない。


「永継って逆に女の子の下着に興味はないの?」


「前に鏡莉ちゃんにいじめられたことはあるよ」


 鏡莉ちゃんと会ってすぐの頃にスカートをヒラヒラさせて僕をいじめてきたことがある。


 その時はなんとも言えない感情にはなった。


「それのこと言ってたのか。永継と海とか行ったら日焼け止め塗って貰おうかな」


 水着姿の栞さんに日焼け止めを塗る……、想像したら別のことが気になった。


「栞さんって海だと眼鏡外す?」


「おい、私の水着姿より眼鏡外した顔のが気になるのか!」


「だって水着姿って学校のしか知らないし、それなら眼鏡の方が気になるよ」


 水着は学校でしか見たことないから他のを知らないからあんまり気にならない。


 それよりかは栞さんが眼鏡を外すのかどうかだ。


「学校のしか知らない……そうか、ふーん」


 栞さんが何やらまた少し怖い笑みを僕に向けてきた。


「眼鏡は気が向いたら外すよ。永継にはそんなの気にならないぐらいにするけど」


「何するの?」


「お楽しみ」


 なんだかまた一波乱ありそうな気がするけど、その場合は単純に可愛い栞さんが見られるので何も言わない。


「そういえば行くとこだけど、私も行ったことはないからわかんないけど、自然が沢山でいいところなんだって」


「そうなんだ、楽しみ」


「……」


 僕が笑顔になったのとは対照的に栞さんの表情が暗くなった。


「聞にくいこと聞いていい?」


「僕は栞さんに隠すことはないからなんでも聞いて大丈夫だよ」


「ありがとう。……永継さっき旅行は初めてって言ってたけど、修学旅行に行かなかった理由ってなんだったの?」


 僕は林間学校や修学旅行に行っていない。


 理由は単純だ。


「お金の問題と、僕が『行かなくていいよ?』って言ったからだよ?」


 家にお金がないことは小学生の時から知っていたので、別に行きたくもない林間学校や修学旅行の為にお金を使う必要性を感じなかった。


 だからお母さんに自分でそう伝えた。


「ちなみに来年は行く?」


「行く気はなかったけど、お母さんが払ってくれてたみたいで多分行くかな」


 今年は今までと違って宇野さんと栞さんという友達がいる。


 だから楽しめるだろうから行く予定に変わった。


「流歌ちゃん来るかな……?」


「あ、そっか」


 今では仁さんが親になっているが、冬やの少し前までは違った。


 宇野さん達の学費は鏡莉ちゃんが子役で稼いだお金で払っていたけど、宇野さんのことだから修学旅行代を削っていてもおかしくない。


「大丈夫だよ、絶対払わないのわかってたから払わざるをえない状況にしたから」


 芽衣莉ちゃん達を連れて帰ってきた鏡莉ちゃんがそう言って僕の隣に座った。


「どうやって?」


「それは簡単だよ、るか姉が行かないなら私達も行かないって言った」


「なるほど」


 それは宇野さんが聞くしかない条件だ。


 宇野さんは自分よりも妹を大切に思っているから、鏡莉ちゃん達には修学旅行に行って欲しいはずだ。


 自分が行かないせいで鏡莉ちゃん達が行かないのは嫌だろうから払わざるをえない。


「るか姉が中学の時は私もまだ小さくてそこまで頭が回らなかったから行ってないんだよ。小学生の時もでしょ?」


「行ってないね、私もだけど」


 梨歌ちゃんが何事もないように答える。


「じゃあみんな初めての旅行なんだね」


「遠出って意味ならしてるけど、私も楽しいやつは初めてだね」


 鏡莉ちゃんは子役時代に色んなところに行ってはいるだろうけど、修学旅行はまだ行ってないからみんな初めての旅行になる。


「行ってるのは栞さんだけ?」


「梨歌ちゃんがいじわる言う。でも私も泊まりの旅行はあるかな? お母さんの仕事について行くことはあったかもだけど、基本的にお父さんもお母さんも家が好きだったし、二人が一緒に休みになるのも少なかったから」


「しおりんも陰キャオタクだもんね」


「だれが引きこもりのニートだ! また永継に慰めて貰わなきゃ」


 自分のトラウマだった出来事を笑い話に出来るようになったようだ。


 なんだか嬉しくて涙が出そうになったので、栞さんの頭を撫でて誤魔化した。


「ほんとに慰めて貰えた」


「地雷踏み抜いたかと思って心臓止まりそうになった」


「別にみんなにはもう話したことだし、永継が居たら慰めてくれるからいいんだぁ」


 栞さんの純粋な笑顔から、本当に克服出来たようで良かった。


 頭を撫でるだけでは気が収まりそうにないので抱きしめたくなったけど、さすがに自重した。


「準備出来たよー」


「仕込みは?」


「ゆりかが最後に引けばいいでしょ。失礼しちゃう」


 悠莉歌ちゃんがトランプでクジを作ってくれた。


 だけど鏡莉ちゃんの言われた一言で不機嫌になってしまった。


「ゆり、ごめんて」


「きょうりお姉ちゃんなんか知らないもん。ゆりかもお兄ちゃんに慰めて貰う」


 悠莉歌ちゃんはそう言って最近はたまにしか来ない定位置(あぐらの中)に座った。


「右手はしおりお姉ちゃんでいいから、左手でゆりかをぎゅーってして」


「うん」


 僕は右手で栞さんの頭を撫でながら左手で悠莉歌ちゃんを抱きしめた。


「鏡莉ちゃん地雷踏む日だね」


「いつもって言ったらいつもだけど……」


 さすがに鏡莉ちゃんが落ち込んでしまった。


 両手は塞がっているから後で慰める。


「いいから決めよ。トランプの『1』と『2』があるから、るかお姉ちゃんが明日確定として、三枚ずつあるトランプ引いて一枚余ったのがるかお姉ちゃんのね」


「つまりその余った方の数字が明日?」


「うん」


「今更だけど、幼稚園児が考えるくじ引きじゃない気がする」


 栞さんはそう言うが、幼稚園児だからこその思いつきとも言える。


 まぁ「悠莉歌ちゃんだから」で解決する問題だけど。


「じゃあ引こっか、せーの」


 そうしていつも通り、僕の意見はなく僕の準備のお手伝いをしてくれる人と日にちが決まった。


 ただ一つ気になるのが、旅行経験があるのが栞さんと一応鏡莉ちゃんしかいないことだ。


 手伝って貰うのだから人のことは言えないけど。

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