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お兄ちゃんのえっち

「永継君、桐生さんはどんな反応してる?」


「なんかねずっと唸ってる」


 洗面所に着替えに行った栞さんはもう十分ぐらい洗面所にこもっている。


 そして唸り声や苦悶の声が聞こえてくる。


「桐生さんの優しさを利用した作戦は成功かな」


「るか姉ほんとに酷いよね。しおりんのせっかくの誕生日に」


「忘れられない誕生日になるでしょ?」


「るか姉が同じことされたら?」


「首謀者にキレるかな?」


 理不尽すぎてどうなのかとは思うけど、栞さんも面白半分でコスプレ衣装をプレゼントしていたからどっちもどっちな気はする。


「それより桐生さん遅い。ちょっと急かしてくる」


「何を言う気なの?」


「早く着替えて出てこないと永継君に手伝わせるよって」


 どうやら栞さんに聞こえたようで洗面所から急に大きな音が聞こえ始めた。


「お兄ちゃんってお着替えの時も聞こえてくる?」


「うん。聞かないようにはしてるけど」


「えっちだね」


 悠莉歌ちゃんが真顔でそう言う。


 なんだかとても罪悪感がすごい。


「私は篠崎さんになら着替えの音を聞かれたって、なんなら手伝って貰ったって嬉しいけど」


「なんとも思わないんじゃなくて嬉しいんだ」


「梨歌ちゃんは違うの?」


 芽衣莉ちゃんが不思議そうに梨歌ちゃんへ問いかける。


「音を聞かれるぐらいなら平気だけど、さすがにまだ手伝って貰うのは抵抗あるかな」


「嫌なんだ」


「嫌とは言ってない。抵抗があるだけ」


 そこにどんな違いがあるのかはわからないけど、拒絶はされてないようで良かった。


「今度ボタンの位置を一つずつずらして篠崎さんに直して貰おうかな」


「多分永継さんは何も思わずに直してくれるだろうね」


「そこを意識させるのが私の腕の見せ所だよ」


 なんだか不穏な会話が聞こえるけど、その時はその時の僕に任せることにした。


「栞さん着替え終わったみたいだよ」


「お兄ちゃんのえっち」


「悠莉歌ちゃんのいじわるさんめ」


 何回も言ってくる悠莉歌ちゃんに「悪いことを言うのはこのお口かー」とほっぺたをうにうにした。


 すると悠莉歌ちゃんが嬉しそうに笑いながら「おにいひゃんろえっひー」とやめる気がないのでうにうにを続けた。


「なんか和む」


「私も永継さんにいじくりまわされたい」


「私の健全な言葉を不健全な言葉で上書きしないでくれる?」


 羨ましそうに僕達を見ている芽衣莉ちゃんに梨歌ちゃんがジト目を向けながら言う。


「しおりん出るタイミング失った説」


「それを理由に出てこないなんて許さないから呼んでくる」


 宇野さんはそう言って洗面所に向かった。


 そして扉を開けると、宇野さんが静かに洗面所にはいっていった。


「あれはどっちだろ。しおりんの可愛さに我を失って襲ってるのか、しおりんがオプションをちゃんと付けてなかったのか」


「多分両方」


 洗面所の中では栞さんの聞いてはいけないようの声と、宇野さんが「これも付けて……うん、完璧」という満足気な声が聞こえてきた。


「なっつんってしおりんへのプレゼントの全容知ってるんだっけ?」


「オプション? は知らない」


 宇野さん達と一緒に考えたから何を送ったのかは知っている。


 だけどオプションは初めて聞いた。


「しおりんと言えばってのを付けたからきっと似合ってると思うよ」


「栞さんなら──」


「なっつんのその想像を超えてくるから」


 僕の言うことはもう鏡莉ちゃんにはお見通しのようだ。


 栞さんならなんでも似合うが、そんなのは軽く超えてくるらしい。


 楽しみが倍増した。


 すると洗面所の扉が開いて宇野さんが栞さんの手を引いて出てきた。


「宇野さんがうさぎさんになってる」


 宇野さんの頭からうさぎの耳が生えている。


「いや、表現可愛いな。生えてるのは私じゃないけどね」


 宇野さんはそう言って後ろに隠れていた栞さんを自分の前に出した。


「る、流歌ひゃ……」


「しおりんはどんだけ属性盛ったら気が済むのさ。しかも盛れば盛るだけ可愛くなるって反則でしょ」


 栞さんへのプレゼントはメイド服。


 そこまでは知っていたけど、うさぎの耳が生えている。


 そして噛んだせいか顔が真っ赤でその顔を両手で隠しうずくまっている。


「これが素なんですよ? ほんとに反則だよね」


「うさ耳メイドってだけでも十分なのに、更に噛んでドジっ子要素まで足した挙句に照れて恥ずかしがり屋まで追加。これでくどくならずに逆に調和するってさすがです」


 宇野さんと鏡莉ちゃんからの言葉に栞さんが耳まで赤くしてしまった。


「お兄ちゃん、感想を言ってとど──」


「栞さん、とっても可愛いよ」


 やっと僕の番がきたからずっと抑え込んでいた感想を素直にぶつけた。


 宇野さんと鏡莉ちゃんの言う通り今の栞さんは反則級に可愛い。


 だけど当の栞さんは僕の感想を聞いてパタリと横に倒れてしまった。


「キャパオーバーだ」


「いちいち反応が可愛いんだよね」


「これが狙ってるんだったら納得なんだけど、全部天然だから嫌いになれないで可愛いとしか思えないんだよね」


 鏡莉ちゃんと芽衣莉ちゃんが追い討ちをかけて栞さんはついに耳を塞いだ。


「そろそろ桐生さんが可哀想だからやめようか」


「るか姉がまともなこと言ってるけど、始めたのはるか姉なんだよね」


「初めは鏡莉だけど?」


「連れてきたのはるか姉だもん」


 宇野さんと鏡莉ちゃんで小さな喧嘩が起こる。


 どちらが悪いとかはない。


 みんな悪いから。


「栞さんへのプレゼントってメイド服だけなの?」


「それとうさぎ耳」


「普段使いしてくれるかな?」


 栞さんはみんなにコスプレ衣装、メイド服をプレゼントして、更に小物をプレゼントしている。


 ちなみに今みんなが着ているものは悠莉歌ちゃんの以外栞さんからの誕生日プレゼントだ。


「じゃあ僕からあげる」


 僕はそう言ってポケットから小さな紙袋を取り出す。


「永継が私に?」


 僕が悠莉歌ちゃんを下ろして立ち上がろうとしたら、復活した栞さんが隣に来ていた。


「うん、栞さんは宇野さん達とは別枠かなって」


「なるほど、ありがとう」


 栞さんがまだ顔が赤いが、とても可愛い笑顔になった。


「開けても?」


「うん、ほんとに大したものじゃないけど、栞さんの言った通りにしてみた」


「私なんか言ったっけ?」


 栞さんとプレゼントについて話した時に言われたことを僕なりに考えてみた。


 ちょっとしたイタズラを含んだプレゼントだ。


「……はいはい」


 栞さんの薄い反応は想定内だ。


「確かに私はそこら辺の石でいいって言ったわ」


 そう、僕があげたのは石だ。


 ただもちろんそこら辺に落ちてる石ではない。


「それね、ラリマーって言うの」


「……あ、パワーストーン?」


「うん、さすがにそこら辺の石はあげないよ」


 まぁそう思わせる為に石を単体で入れておいたのだけど。


「永継に一本取られたのね」


「それをブレスレットとか指輪とかに出来るみたいだけど、そのままかアクセサリーにするのどっちがいい?」


 石だけ入れたのは何もイタズラがしたかったからだけではない。


 石をそのままお守りの袋に入れてもいいし、アクセサリーにして使うのとどちらがいいか聞きたかったからである。


「永継からイタズラされただけじゃなく、サプライズまでしてくれて、挙句に指輪までプレゼントしてくれるなんて」


「いや、永継君は指輪をあげるとは言ってないから」


「そっか、ここで貰ったら本番で貰う時に困るよね。悩ましい」


「本番?」


「永継君は気にしなくていいよ。桐生さんのごとだから」


 宇野さんが栞さんに視線を送っているが、栞さんは真剣に悩みすぎて気づいていない。


「普通にお守りにしようかな。こういう大切なものって普段使い出来ないし」


「わかる」


 鏡莉ちゃんが即答で反応した。


 それは鏡莉ちゃんが自分のパソコンに触れられたくないのと同じ気持ちなのだろうか。


「アクセサリーにしても多分汚したくないから箱にしまって使わないと思うんだよね」


「じゃあ今度お守り袋一緒に買いに行く?」


「そんなご褒美付きなの? ならお守り一択でしょ」


 今の時代はネットでなんでも買えるからいちいち買いに行く必要はないのだけど、僕はスマホもパソコンも持っていないから買いに行くしかない。


 このパワーストーンもたまたま近くに売ってるところがあって助かった。


 売ってたからこれにしたところもあるけど。


「今日は今までで一番の誕生日だよ」


「うさぎさんになれたし?」


「永継がいじわるなんだけど。でもいっか」


 栞さんがまたいい笑顔になった。


 僕がラリマーを選んだのはラリマーに『過去のトラウマを癒す』という効果があったからだ。


 栞さんはもう克服してるかもしれないけど、二度と栞さんの笑顔を奪いたくない。


 だからそんな意味も込めてラリマーをプレゼントした。


 気休めだろうけど、効果があることを願う。


「そういえば栞さんってテスト大丈夫だったの?」


「……」


 栞さんが急に暗い顔になる。


 テスト返却は終わっているが、栞さんが何も言ってこなかったからどうだったのかは聞いていない。


「実はね……」


「回避したんだね」


「なぜわかった!?」


「栞さんならほんとに駄目だった時は日頃に出るだろうし、もっと絶望しそうだから?」


 栞さんは優しいから、もしもテストで赤点を取って追試や補習で旅行に行けなくなったらもっと普段の生活に影響が出る。


 だからそもそも心配なんてしていない。


「なんか永継って私の全部を知ってそう」


「何もわからないよ。だからこれから教えてね」


「わ、私の全部を?」


「うん」


 栞さんが急に狼狽え出した。


 僕はまた変なことを言ってしまったようだ。


 宇野さん達からの視線も痛いし。


 そして挙句には悠莉歌ちゃんに「お兄ちゃんのえっち」と言われてしまった。

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