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やる気の出させ方

「栞さん」


「なんだい永継」


 僕は真剣な表情で栞さんと向かい合う。


 今回は本当に大事な話だ。


「テストが近いよ」


「そうだね」


「栞さん」


「やめて、そんな可哀想な子を見るような目で見ないで」


 栞さんが机の下に頭を入れて、頭隠して尻隠さず状態になった。


 今は栞さんの勉強を見ているが、多少は覚えてくれたけど、全教科赤点回避は難しそうに思える。


「やっぱり僕じゃ力不足だよね……」


「それは違うよ。試しに流歌ちゃんに教えて貰ったけど永継以上にわからなかったから」


 栞さんが机から出てきて、何故か胸を張りながら言う。


「なっつんはしおりんを甘やかしすぎなんだよ。だからってるか姉みたいにスパルタ塾をやっても逆効果なんだけど」


 鏡莉ちゃんが最近のマイブームであるトランプマジックの練習をしながらそんなことを言うを


「程よくがいいの?」


「飴と鞭、緩急をつけるのがいいんだよ。しおりんみたいな勉強嫌いのわがままさんはご褒美をあげるって言ってもその程度じゃ勉強しないし、逆に出来なかったらお仕置きって言うと拗ねて余計にやらなくなるんだよ」


「つまり出来たからって褒めるとそこからはやらなくなって、出来ないからって怒るとやる気が無くなるってこと?」


「そう。だからそういう人にはね……」


 鏡莉ちゃんがトランプの山から『K』と『Q』と『7』と『6』と『A』をめくった。


「なるほどね。じゃあ後は結びつけだね?」


「私なにかされるの?」


 栞さんが不安そうな顔をする。


「大丈夫、栞さん()()何もしないよ」


「え、逆に怖い」


「しおりんの家って別荘持ってたりするの?」


「さすがにそこまでお金持ちじゃないよ。旅館に知り合いがいたりはするけど。建てたかはわからないけど、修繕なんかしたりするから」


 さすがは大工さんだ。


 美乃莉さんが前に学校へ来た時は、遠くの県に仕事へ行くのを他の人に変わって貰ったと言っていたから、かなり広い範囲で仕事をしているのだと思う。


「旅行行くの?」


「お金に余裕が出てきてるからしてみたいなーってだけ。るか姉に少しは恩返しがしたいし」


「いい子すぎて抱きしめたい」


 栞さんはそう言って鏡莉を抱きしめに行こうとしたけど、鏡莉ちゃんに手で止められた。


「だけどそれには一つ重大な問題があるのですよ」


「なに?」


「お金は断られるだろうけど私が出すとしても、しおりんの紹介で行くからしおりんは強制参加なのね?」


「ありがとう」


「どういたしまして。それでね……ってここからはなっつんの方が詳しいだろうからパス」


 鏡莉ちゃんに肩を叩かれたので続きを話す。


「その旅行はもちろん学校が長期休暇に入ってからなんだよ」


「だろうね」


「四月の一日には悠莉歌ちゃんのお誕生日があるし、その後は新学期の準備で忙しくなるだろうから三月中には行きたいよね?」


 栞さんが頷いて答える。


「三月の終わりぐらいは悠莉歌ちゃんのお誕生日のことで使いたいから、行けるのは春休みになってすぐのあたりなんだよ」


「何か都合がある人がいるの? 流歌ちゃんなら無理してでも暇を作りそうだけど」


 確かに容易に想像がつくけど、宇野さんの用事は基本的にバイトだから、むしろ休ませたがっている仁さんに言えば簡単に解決する。


 問題は別だ。


「栞さんはなんで梨歌ちゃんのお誕生日に来れなかったか覚えてる?」


 梨歌ちゃんの誕生日は十二月の二十五日。


 つまり冬休みに入ってすぐだ。


「……いざとなったらサボれば──」


「それで進級出来なくなったら僕は悲しくなるよ?」


「卑怯な……」


 確かに少しずるいとは思う。


 栞さんの優しさを利用しているのだから。


 これでもし栞さんが補習になったら、春休みの最初は確実に潰れる、そうしたら栞さんの紹介で行く旅行は行けなくなる。


「もしもの時は私抜きで行くといいさ……」


「栞さん抜きで行く訳ないでしょ?」


「お父さんがちゃんと言ってくれると思うから平気だよ」


「そうじゃなくて、栞さんがいなかったらみんなが本当の意味で楽しめないよ」


 もしも本当に栞さんが補習になったら、その時は旅行をやめて他のことを考えるか、延期する。


「宇野さんへの恩返しが目的だとしても、それには栞さんがいなくちゃ意味がないよ」


「まぁしおりんがるか姉に一切何も恩がないなら別だけど」


「無い訳無いよね。最初は永継さえ居れば良かったけど、流歌ちゃんが居たからこそ永継と話せてる訳だし」


 宇野さんと栞さんのファーストコンタクトはあまり良くなかったかもしれないけど、それでも今はなくてはならない存在のはずだ。


「もう赤点とか取ってられないじゃん」


「勉強嫌いの優しい人に勉強をして貰うには、他人を巻き込むのが一番いいってことだね」


「私策士」


 鏡莉ちゃんがドヤ顔をする。


 確かにこれは全部鏡莉ちゃんが考えたことだ。


 それを僕にトランプで伝えてくれた。


「流歌ちゃんへの恩返しっていつから考えてたの?」


「いつって、さっき?」


「え?」


「さっき鏡莉ちゃんからトランプで宇野さん達がチョコをくれた順番選びで引いた番号出してくれた時?」


 その時にみんなを巻き込めばいいことを鏡莉ちゃんが教えてくれたから、後は鏡莉ちゃんの話に乗っかっただけだ。


「小声で話したとかそういう?」


「なっつんと私は以心伝心なんだよ。正直トランプで番号見せただけで伝わったのはビビったけど」


「ちなみに合ってた?」


「私はなっつんにパスしたとこまでしか考えてなかったから丸投げだよ?」


 それなら上手く話がまとまって良かった。


「ちょいまち。じゃあ旅行の話って始まってもいないの?」


「今始まったじゃん」


 栞さんがポカンという顔をしている。


「本当に行くかも決まっては?」


「ない。でもまぁめいめいもりっかもゆりもるか姉には感謝しかないから反対はしないと思うよ。それに私達は共通して友達もいないから春休み暇だし」


 本当に用事がないかわからないから、隣の栞さんの部屋にいる三人にもちゃんと聞く。


「それ先に言ったら私がやらなくなるかもしれなくない?」


「確かに絶対ではないけど、もしもしおりんが補習になったら私の実費で旅行に行くよ。タイトルは『なっつんの宇野姉妹と行くハーレム旅行~ポロリもあるよ~』って感じで」


 鏡莉ちゃんがニマニマしながら栞さんを見る。


「真冬にどうポロリするのさ!」


「混浴か部屋にお風呂があったらタオルがね。混浴が水着着用なら本物のが出来るし」


「同じ部屋ならお風呂上がりで気崩してるところに永継が入ってきて慌てた流歌ちゃんが転んでポロリ。エロいし可愛いしでそのまま朝までコースになるじゃんか!」


「私達は空気の読める子だから布団の中に入って慰め合うのさ。だけど狼になったなっつんが毛布をめくって──」


 なんだか二人でヒートアップしているが、話についていけなくなったので栞さんに出す問題を作ることにした。


 この様子なら今までよりかは真面目に取り組んでくれると思うけど、それにも問題がある。


 それはテストまで後一週間しかないことだ。


 約二ヶ月続けた勉強がほとんど意味をなさない状況が、後一週間で解決するのか。


 栞さんの頑張りに期待する。

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