ランク3
そんな回想を経て、さらに時間は過ぎ現在は放課後。
一日授業を受けてみた感想としては、とにかく最悪だった。
授業内容は俺が通っていた進学校と大差ないのだが、クラスメイトの授業態度は底辺校のそれだ。
『君のクラスは二-F、うちで一番成績の悪い子達が集まってるところよ。他のクラスと違って一番ゆるゆるな環境だから、あなたも気楽にしてて良いわよ』
と言うのは担任である神楽坂静香先生だ。
軽く挨拶を済ませた後、俺が所属するクラスについてそう教えてくれた。
所属クラスは編入試験の結果から決まったらしい。
まあ、ブラックカラーのおかげで合格になったが、試験の点数まで変更になったわけではない。
だから俺の点数は零点、つまり最底辺のクラスに配置されるのは当然の結果だった。
そんなこんなで出だしからこんな感じだが、もう受け入れて進むしかない。
気持ちを切り替え教室を出る。
転校生にすら興味がないのか、このクラスの誰も俺に構ってくるようなことがない。
一時間目終了後の休み時間ではまだ何人か話しかけてくれたが、今ではもう誰も俺の元には来ない。
そんな感じなので、俺は自分の寮へと帰宅するため歩き出した。
その瞬間だった。
「あ、あなたね!噂の転校生って!」
「ん?」
背後から声をかけられたので振り返る。
するとそこには少女が立っていた。
こちらを睨んでいる目澄んだ黒色。
あどけなさを残す顔立ちはすごく整っていて、綺麗というより可愛い部類だ。
黒髪を腰あたりまで伸ばしており、立ち姿もどこか様になっている。
清純派、というやつだろうか。
「何とか言いなさいよ!」
しかしその口ぶりは全く可愛くなく、とても生意気だ。
しかし無視するわけにはいけないので、俺は質問に答える。
「そうだ。噂になっているのは知らなかったけど、僕が転校生の日色颯芽だけど。そっちは?」
「あ、あたしは黒木咲那!二-A所属よ!」
「そう……それで、僕に何か用?」
「そうよ!あなたに返して……」
黒木咲那と名乗った少女は、こちらに向かって何かを言いかけたが途中で止める。
そして周りを見渡すと、少し顔を赤らめた。
先ほどからの俺達のやり取りに、下校しようとしていた生徒達が何事かと視線を向けてきていたのだ。
しかもその数が徐々に増えてきている。
「っ!一緒に来て!」
「えっ!?」
すると黒木は俺の手を取りずんずんと進んでいく。
二-Fの教室は二階にあるので今俺達は二階にいるのだが、そのまま階段を下りて一階の下駄箱置き場まで連れられてしまう。
「靴を履き替えて」
そう言われて俺は少し躊躇ったが、どうせ帰るために履き替えなければならないため素直に従う。
そうして靴を履き替えるためにお互い一旦別れたのだが、俺が履き替えた時には黒木はもうこちらの近くまで来ていた。
「……確認だけど、この後時間あるかしら?」
少し躊躇いがちにそう問う黒木。
「ないって言ったら?」
「無理にでも連れて行くわ」
「いや、普通にやめてくれよ……」
「……お願いよ、少しでいいから時間をちょうだい」
伏し目がちにそう言われ、不覚にも可愛いと思ってしまった俺は悪くないはずだ。
「……まあこの後は帰るだけだったから、時間ならあるよ」
「そ、そう……よかった。じゃあついてきて」
そう言って俺を先導する黒木。
面倒なことにならなければいいんだけどな……。
俺はそっとため息をつき、内心でそう願うのだった。
※
黒木に連れてこられたのは、学校から少し離れた場所にある喫茶店だった。
分かりにくい場所にあるため、隠れ家的な雰囲気を醸し出している。
そういったことから、客は俺達だけのようだ。
「何飲む?奢るわ」
「え、いいのか?」
「一応時間作ってもらったわけだし、そのくらいはね」
席に座るとそう言われたので、俺は遠慮なく奢ってもらうことにした。
「じゃあアイスコーヒーで」
「そう。あ、すみません、アイスコーヒー二つお願いします」
そう言って店員に注文を済ませる。
その後コーヒーが来るまでの数分はお互いに無言の時間が続いた。
かなり気まずい雰囲気に耐えられなくなってきた時、ちょうど頼んでいたアイスコーヒーが運ばれてくる。
一口飲むとコーヒー特有の苦味が口に広がる。
かなり美味い。
「それで、早速なんだけど」
すると黒木がそう切り出し、俺は視線を彼女に向ける。
「あなたの持ってるブラックカラーなんだけど、元々私のだから返してほしいの」
「え?」
俺は一瞬戸惑うが、すぐに思考を巡らす。
彼女は元々ブラックカラーの持ち主で、それが今は俺のものとなっている。
そのため彼女は俺に返してほしいとこうして直接言いに来たと。
「……なるほど。でも、君が元持ち主だという証拠は?それに、どうして僕が持っていると分かったんだ?」
「証拠……そうね、冠履転倒……って言えば伝わるかしら?」
っ!?
なるほど、その効果を知っているのは元持ち主だけだから、今ので十分証拠になる。
もちろん、花宮校長も言っていた通り効果を推測することである程度バレている節もあるようだが、それでも効果名まで知っているのは元持ち主に他ならないというわけだ。
「あと、あなたが持っているのが分かったのは学校側が発行しているカラーサポート対象者が更新されたからよ。ほら」
そう言ってスマホの画面を見せてくる黒木。
そこには各カラーサポートの対象者らしきリストが映し出されており、ブラックカラーの対象者欄に俺の名前があった。
「なるほど、分かった。それで、返してほしいってのは何でだ?もうこれは俺のものなんだけど」
そう言うと彼女は俯いた。
そうしてこんな言葉を紡ぐ。
「……あたし、それがないと退学になるかもしれないの」
……どうやら、かなり訳ありらしい。
面倒ごとの予感がし、俺はため息をつくのだった。