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「それじゃあ……真ん中の空いてる席に座ってくれる?」

「……はい」


言われたことに返事をし、言われた通りに真ん中の空いてる席まで歩いて行き座る。

ごく普通の、とてつもなく一般的な高校の教室。

4月上旬でも近年は寒い日が多い中、今日は特段暖かいため窓が開けられており、時折心地よい風が入ってくる。

周りを見渡せば前の席の男子はこの陽気のせいかぐっすりと寝ており、右隣の席の女子は机の上に出したスマホに夢中。

左隣の男子は教科書を立てて早弁しており、後ろの席の女子はぼーっとしていて、起きているのか寝ているのかすら分からない。


「それでは授業を始めます」


先ほど俺にこの席へと座るよう促した先生はそのまま授業を始めようとする。

……いや、どういうこと?

明らかに周りの状況は授業を聞く姿勢じゃないにも関わらず、そのまま授業が始まってしまった。

……こういうことか。

俺は昨日の出来事を思い出し、頭を抱えるのだった。



「さて、まずは編入おめでとうと言っておこう」


四月六日の午後三時。

俺こと日色(ひいろ)颯芽(ふうが)はこれから通うことになる宝台(たからだい)高等学校の校長室にいる。

そして全く祝ってくれる気のなさそうな声で祝福の言葉を紡いだのは宝台高等学校の校長である花宮(はなみや)美幸(みゆき)だ。

茶髪に染めた髪を肩口で括り、整った顔立ちをしているためかなり美人ではある。

だが、そんな美人が台無しなほど今は眉間に皺を寄せ、鋭い目つきで俺に視線を向けている。


「えっと……ありがとうございます」


居心地の悪さから、ごにょごにょとそう返す。

そんな俺の様子を見て、花宮校長は一つため息をこぼした。


「はぁ……分かってるとは思うけど、君の今の状況はかなり悪いよ。あの時の意気込みが嘘なんじゃないかと思うくらいに」


あの時とは、俺がこの学校へ編入試験を受けたいと連絡を入れた時だろう。


『この学校で一番を取ります!そしてそのまま一流企業に就職して、孤児院を立て直したいんです!』


そう意気込んで電話した時のことは鮮明に覚えている。

ここで少し俺の生い立ちについて話しておこう。

俺は元々孤児だ。

2歳の時に両親が他界し、そのまま孤児院へ引き取られた。

そこは優しさに溢れる環境だったため、俺は何不自由なく育つことができた。

小学校と中学校を順調に卒業し、去年高校に進学した。

自分で言うのも何だが、俺は頭だけは良かった。

だから高校も私立でかなりの進学校に入学した。

それも特待生枠でだ。

孤児院のお金を使うことなく入学でき、このままエスカレーター式で大学まで行き、そのまま卒業して一流企業に入る。

そして孤児院に金銭面で援助して、これまでの恩返しができればと考えていた。

だが、そんな人生プランが破綻したのが半年ほど前。

これまで孤児院に出資してくれていた企業の人達が、突然出資をやめると申し出てきたそうだ。

詳しいことは分からないが、結果的に孤児院は資金難に苛まれることになった。

急にどうこうなるわけではなかったが、孤児院がなくなるのも時間の問題だった。

そうなればそこで暮らしているみんなは離れ離れになってしまう。

それに子供達の引き取り先が必ずしも良いとは限らない。

そこでどうにかしたいと考えた俺は唯一の武器である頭脳を駆使して調べつくした。

そしてたどり着いたのがここ、宝台高等学校だった。

宝台高等学校は日本でもトップクラスの高校で、またまた日本でトップクラスの宝台大学にエスカレーター式で進学することができ、さらに宝台大学の進路は軒並み超一流企業だ。

しかも優秀であればそんな超一流企業に大学側が紹介してくれ、そのまま内定をもらえるらしい。

それを知った俺は藁にもすがる思いで電話し、何とか編入試験を受ける権利を勝ち取ったのだ。

まあ、前の高校でも一流企業に入れたかもしれない。

でもそれは不確定だし、何より俺は自分自身の弱点を知っている。

それは俺が()()()()()()()()ということだ。

周りからしたら何かの嫌味かと思うだろう。

だがそうじゃない……俺が言っているのはただ勉強ができるだけで、それ以外の特技なんてないということだ。

誰もが社会では頭が良いだけで仕事ができない人がいる、というのを聞いたことがあるだろう。

俺もその部類に入ると思っている。

勉強ならできるのだが、自分から何かことを起こすことは苦手なのだ。

だからクリエイティブな発想なんてできないし、何ならアドリブなんてのも苦手だ。

だから大学までは苦労しないだろう。

しかしその先……就活を経てどこかの企業に入ったとして、俺は窓際確定だ。

そこはもう仕方ないと受け入れている。

しかし同じ窓際で昇進が望めないなら、せめて土台は高い方が良いと思った。

そして俺は決めた。

超一流企業に就職し、一生窓際にしがみついてやると。

そして高い基本給とボーナスで孤児院に恩返しをすると。

そうして宝台高等学校の編入試験を受ける権利を得て、難なく試験を突破し特待生枠を取る。

そこまでは問題ない……はずだった。


「まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()

「……すみません」


たった今花宮校長が言った通り、俺は編入試験の時間を間違ってしまったんだ。

俺が受ける宝台高等学校の編入試験は三月二十四日の午前十時から、そして()()()()()の編入試験が午後一時だった。

ここ宝台高等学校には併設されている宝台中学校がある。

編入試験の案内にはご丁寧に両方の案内が記載されていたのだ。

しかも開始時間順に記載されているなら間違わなかっただろう。

それが中学、高校の順で記載されていたために、俺は上に記載されている中学の方の時間だと思い込んでしまった。

結果的に当日の朝に再度確認して、本当にギリギリ試験に間に合うことができた。


「間に合ったと言っても、解答用紙に名前を書いただけだけど」

「うっ」


俺の思考を読んだわけではないだろうが、花宮校長がそう言う。

そう、間に合ったと言っても試験終了一分前だった。

結果は今花宮校長が言った通りだ。


「……でも、それでどうして僕は受かったんですか?結果は明らかでしょう?それなのに合格なんて……」


そう、どう考えても不合格なはず。

それなのに冒頭でも花宮校長から言われた通り、俺は編入試験に合格していた。

それはこの二週間ずっと疑問だったことだ。


「ああ、それなんだが、少し面白いことになっていてな」


そう言ってニヤッと笑う花宮校長。

ここからだ。

ここから、俺の波瀾万丈な宝台高等学校での生活が始まったのだ。

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