四十五話「Bye Bye Bye」
文化祭二日目。
私にとっての、最後の日が来てしまった。
9月に起きた東からの宣戦布告から一ヶ月と少し経った今。
四代目代行の…三人から、二人も欠けてしまった今。
組の事を考える度に。殺された皆の意思を継ぐという決意が固まると同時に、不安にもなる。
私なんかにそんな大役をこなせるのか。
環だったらこなせるのか。
私じゃなく、環だったら。
そうやって色んな事を考えながら、神足達が待機部屋として借りたらしい音楽室へ向かうことにした。
本番前、頑張るために晶の顔が見たいから来てくれないかと頼まれたんだ。
私も、最後の前に。
…神足の歌を聞いたら何か分かるかもしれない。
映像越しでも伝わった、あの歌声。
あの歌声を聞いたら、何か掴めるかもしれない。
神足と同じく、私も、頑張るために。
こんな神頼みみたいな行為は間違いなのかもしれない。いや、間違いなんだろう。
でも、私にとってこ最後の日に神足が歌うということに、何か大きな意味があるような気がしてしまう。
…。
大きく息を吸い込んでから扉を三回ノックすると、部屋から、汗をダラダラかいた神足が飛び出した。
わ、髪下ろしてる…前うちがお願いしたこと覚えててくれたんや…汗かいててもセクシーで…。
「晶!!!!ごめん!私無理!!!!今から辞めるって言ってくる!!!!!!!」
は!?
いや、は!!??
「いや、あのさ!本番二十分前やぞ!?今更何言うてんねん!!何かあったんか!?」
「さっき連絡が来たの!!一口さんが来るって!!ダメ!絶対に駄目!無理!無理無理無理無理!!」
一口さんって、確か一片の…神足が居たバンドに妹さんが居て…七光りとか言われ…って!そんなんもうええ!!!
「じゃかしい!!!!!!ええからぐちぐち言ってんとやれや!!!!!!!!」
「ギャーー!!!!!!!!!」
バンドを一緒にすることになった後輩の子達と協力し、帰ると喚きながら大暴れしている神足を押さえ込み、無理矢理椅子に座らせてから、説得を試みることにした。
神足の額に伝う汗を拭ってあげてから、頬を両手で包み込み、おでこをくっつけてみる。
すると、神足は目をカッと見開き、私の腕をグッと掴んでこう言った。
「晶、私がんばるね」
「チョロすぎるやろ。せめてもうちょっと足掻けや。待て待て待て」
立ち上がろうとする神足を制止し、もう一度「本当に平気か」と尋ねると、後ろから後輩の子達が神足を励ますため、声をかけてくれた。
「宮部先輩頑張ってくださいよ!うちの顔じゃないですか!」
「先輩がいないとダメなんですって…ほら、機材だって先輩の知り合いが貸してくれたやつでしょ?」
「緊張すんのは分かりますけど、せめて一曲だけでもダメですか?」
「プロだったんでしょ…?」
…あぁ、だからか。なんとなく、分かったわ。
神足は…知り合いに頭を下げて機材を貸りて、このバンドの顔としてしっかりやらなあかん。
自分が代表なんや、っていうプレッシャーが「一口さんが来る」っていう事をきっかけに、一気にのし掛かってきた…って感じかな。
がんばる言うてるけど…手もカタカタ震えてるし、まだ汗止まらんみたいやし…唇も所々血で滲んでる。
プロとしての経験があるから平気なんやなくて、プロやったからこそ緊張してるんやろうな…。
そりゃああんな終わり方すれば…当然や。
あかん、なんか胸痛くなってきた…見てるこっちの胃もキリキリするわ…。
こういう時にうちが出来ることは…何かあるか…。
「あ、そや、神足」
「?」
「なんか…必要なものとかある?必要なら用意するで?コンビニで買えるもんなら何でも買ってくるけど?」
なんとしても神足の助けになるため、思い付いた事をそのまま言ってみると、神足はゆっくり顔を上げ、か細い声で答えてくれた。
「…固形バター」
「固形バター?」
「うん…一つ一つ切れてるやつあるでしょ?」
「それが必要なん?」
「うん。あれを歌う前に舐めると声がよく出るんだよね…なんというか、ほぼ願掛けみたいな…神頼みみたいなものだけど…」
願掛けで、神頼み。
固形バター…一つ一つ切れてるやつ…スーパーとかコンビニで良く見かけるあれやな。
「分かった。そういうルーティンって大切やもんな!買ってくるわ!」
神足の手を強く握ってから部屋から出ようとすると、神足は私を呼び止め、自分の鞄から財布を取り出した。
「晶、待って、お金渡しておくね」
「いらん」
「いいから受け取ってよ!いいから受け取…」
「…?」
「…受け取って」
「……わ、分かった」
「…うん、ありがと」
…なんか、言おうとして…やめたよな。神足。
まあ、帰ってから…聞けば良いか…。
聞くためにも急いで買って帰ってこなあかんな!
靴を履き替え、裏門から出るために走っていると、停めたワンボックスカーの前でそわそわ歩き回っている人が目に入った。
ミディアムショートで黒髪…それに高身長…なんか、モデルみたいな人やな…。
まさかあの人が一口さん…とか?
「あ、そこの…高校生」
え、まさかうち?
あかん、じろじろ見ていたせいや。怒られる。見んとすぐコンビニ行けば良かった。
この際聞こえんかったふりするか?無視するか?いや、それはちょっと良心が痛むな…。
まあ、簡単に会話してからダッシュで行けば…間に合うよな。まだ本番まで20分あるんやし…。
「?はい…私のことですか?」
自分の事を指差しながらそのモデルみたいな人に近付くと、そのモデルみたいな人は嬉しそうに頷き、自己紹介をしてくれた。
「そうです…あ、はじめまして、あの、私…宮部神足の元バンドメンバーで、ベースやってた…お、女郎花っていうんですけど…」
あ、あーー!そういうことね!
「はじめまして、い、いつも神足がお世話になってます…晶です…」
「いえいえこちらこそ!神足からお噂はかねがね」
「え!?」
「え!?」
あかん、どうしよ、なんかうちこの人のこと好きやわ。
この人めっちゃかわいい人や。
「あの、その…女郎花さん…が、私に何かご用ですか?」
このまま話してたらこの人に惚れてまう。すぐ本題に入らなあかんな。
すると、私が急いでいることを察してくれたのか、女郎花さんは腕時計で時間を確認してから、目を見開き、私へタッパーに入った何かを手渡してくれた。
「そうだ!あの、これ…神足に渡してあげてくれますか?」
「?これ何ですか…?」
「あの子本番前にはバター舐めるのがルーティンなんだけど、私本人よりも焦っちゃって…ちゃんと用意してたのに手渡すの忘れてたんだ…」
「え、あーー!それあの子も言うてましたわ!買ってきてくれるか?って頼まれて、今行くとこやったんです!行く手間省けた…」
「そうだったの!?わ…偶然!」
あかん、惚れたわ。なんかうちこの人のことめっちゃ好きや。
この敬語とタメ口が混ざる感じと、何よりもこのルックス。
神足のバンド…独華が一体何人の女の子を骨抜きにしたのか考えると恐ろしいな…。
「じゃあ、これ神足に渡してくれますか…?ここって関係者以外中入れないから…」
恐る恐る私にそう頼む女郎花さん。
「分かりました!任せてください!」
そう了承し、頭を下げてから控え室へ向かおうと背を向けると、女郎花さんが私を呼び止めた。
「晶ちゃん!」
あ、晶ちゃん!!??
「は、はい!」
「…神足…緊張してた?」
…。
「…はい。一口さんが来るって聞いて…発狂してました」
「発狂…まあ、気持ちは分かる…」
分かるんか。
「…私には何も出来ないから…もしよかったら支えてあげてね」
神足に優しい。なんていい人なんや。
うちこの人の事大好き。
「任せてください、支えて支えて支えまくります」
「頼もしいね…じゃあ、後はよろしくね」
「はい!」
女郎花さんに頭を下げてから、彼女から手渡されたタッパーを神足へ渡そうと待機部屋へ向かうことにした。
「ありがと、本番でね!ありがとね!大好きだよ!」
「やばいやばい!本番まであと10分!やばい!まだ髪のセット終わってない…」
「……」
「…宮部先輩、そのバターまさか…舐めるんですか?」
「うん、声の通りが良くなるんだよね…」
「それ効果あるんですか?医学的には歌う前の飲食ってあんまり良いって言われませんけど…」
「医学的な根拠が無くても私には効果があるんだよ」
「…プラシーボ効果ってやつですか?」
「いいや」
「?なら何?」
「私にとっての喉は楽器なんだよ。だから、私にとってのバターは金管楽器にとってのオイルで、弦楽器にとっての松脂ってこと」
「…良く分からないです」
「…もうプラシーボ効果ってことで良いよ…」
…。
「…環さん、平気っすか?」
「…あぁ、平気だよ。今日は、文化祭二日目か…?」
「華菜さんが、ワキノブ君と中庭で待ってるって言ってましたけど…行きますか?」
「…おう。お前も来るんだろ」
「…はい、行きます」
「…分かった、なら、今から向かおう」
「はい。先、行ってますね」
蹴上と鳥辺野が死んだ。
一月前の事だ。
唐獅子牡丹の刺青が入った宮神の腕、そして宮神の拷問動画。
俺と晶の推理通り、東の人間、そしてXYZは、元極道が集まる逃避場に集まっていた。
いつも以上に静かで、観光客が一人もいない異様な光景。
嫌な予感がして、到着した瞬間、俺の足は真っ直ぐ旅館へ向かっていた。
「女将さん!平気ですか!」
扉を開け女将さんを呼ぶと、怯えた様子の女将さんが部屋から飛び出し、俺を旅館内へ入れないよう、俺の肩を押し始めた。
「環坊!今はダメだ!東の奴らが来てる!!あんたは来ちゃいけない!」
…女将さん…。
「あんたこそここに居ちゃいけない。助けに来たんだ。今すぐ逃げよう!車なら用意してあるから!」
「環坊…」
「さあ、行こう…ね?」
そう言いながら彼女の手を握ると、女将さんは首を横に振った。
「…なら尚更行けないよ。私がいたら足手まといになっちまうだろ?」
「そ、そんな…」
「私はこの旅館を守らなきゃいけない。あんたは私じゃなくて他の人を守っておいで」
「女将さん…」
…。
どうする、べきだ…。
女将さんの気持ちは尊重したい、だけど…尊重したら、女将さんを見殺しにする事に繋がってしまう…。
彼女の気持ちを尊重するべきか、無理矢理に、抱き上げてでも外へ連れていくべきか。
どうするべきだ。親父ならどうしてた?親父なら三つ目の選択肢を見つけられるんじゃないか。
これさえ解決できないで…こんなんで、こんな俺が、五代目になれるのか。
「…」
喉が乾き、手が震え、腹の底から不快な何かが迫り上がってくる感覚。
親父にもっと、男としての心得を聞いておけば良かった。極道としてどうすべきかもっと聞いておけば良かった。
そもそも、親父と、もっと話しておけば良かった。
親父に…。
…親父に、会いたい…。
「若!ここにいらっしゃいましたか…」
そんな時、俺と女将さんの元へ蹴上がやってきた。
「蹴上…」
「女将さん、早くこちらへ!若も早く!」
「でも、私は…ここを離れるわけにはいかないんだ」
「えぇ…勿論、ここが貴方や俺達にとって何よりも大切な場所だという事は痛いほど存じ上げております。俺の親父や元組員達も…みんな貴方にはお世話になりましたから」
「分かってくれるか、蹴上くん…」
「ええ。分かります。だからこそ、今は逃げてください」
「何…!?」
「居場所や拠り所は最初からあるものじゃない。人が集まって出来る物です。元々はここだってそうだったでしょう?」
「…」
「ここが無くなってしまったとしても、生活を続ける限り、人が集まる場所が出来るでしょう。そうしていつか出来るであろう新たな居場所の中心には、貴方という、場所の価値が分かる人が居るべきだ」
「…」
「そのために、逃げてください。お願いします」
蹴上は言い終わると、女将さんへ深く頭を下げた。
「…分かった」
「…ありがとうございます、女将さん」
…蹴上…。
いつも親父の顔色を伺って、佐鳥とドンパチやって、汚いことも何だってやってきた組の長が、こんな悲しい顔をするのか。
蹴上の、事が分からなくなった。
そんな蹴上は、俺を見て何かを察したのか、低く、優しい声でこう続ける。
「…若。貴方が焦る気持ち、俺には痛い程分かります。俺も組を持った当初はそうでした」
「…?」
蹴上は目をグッと閉じてから、俺の目を見つめた。
「10年前の抗争の後、西と東の関係値の向上を目的に、東西関係なく、上層部へ何度も頭を下げ、何だってやってきました」
「…」
「…そうやって力をつけてきましたが、それと同時に、組長達へ媚び諂って昇進した、尻尾を振る事しか出来ない出来損ないだと言われました。簡単に頭を下げられるのは、脳味噌が空っぽだからだと…頭が軽いからだと、揶揄されて生きてきたんです」
「…!」
「それに…未成年の貴方に話すには不適切な表現にはなりますが…やむを得ず、俺自身の体を使ってトラブルを切り抜けた事が何度かあるんです」
「蹴上…?」
「…それを、他の組の人達やうちの組員達から何度も揶揄されてきた。頭だけじゃなく尻まで軽いんだな、と。はは、なかなかに上手いこと言いますよね」
蹴上はそう言うと呆れたように笑ってから、ため息をついた。
「…だからこそ、俺は直系になる事で見返してやろうと決意した。コネだなんて言われないよう、俺のした事に間違いなんて無かったと証明するために。ほぼ、自棄でした」
「…結局、お前は、直系組織を持てたじゃないか…それに本家若頭だ…お前が今…一番の跡継ぎ候補だろ?…大出世じゃないか…」
「えぇ、ですが…権力を手に入れても、何をしても胸中は晴れなかった」
「…蹴上…」
「…俺の渡世の親は10年前に殺されて、もう帰ってこない。それに、スーツにこびりついた組員達の靴の跡は、いくら濯いでも、いくら洗っても落ちなかった」
「…」
「俺に出来る事は波風を立てないよう皆の弾除けになることだった。そのおかげで若頭になれた、でも…そんなのは間違いでした。昔からずっと、間違え続けてきたから分かるんです」
…。
「だから、どうか貴方は間違えないで」
「…」
「環さん。貴方は、いずれうちの後を継ぐ人。ですが、今はまだそうじゃない」
「……?」
「居場所と一緒ですよ。貫禄や人の在り方、才能は、ある時突然備わるものではない。それに、人全員へ備え付けられた都合の良い機能でもない」
「…」
「俺達は機械じゃないんだから都合良くインストールなんて出来ないし、引き継ぎコードなんて物もありません」
「…」
「貴方はまだリリース前で、今はデバック作業の段階です。どうか焦らないで、一つ一つ、潰していきましょう」
「…」
「俺は他に作業がありますので、若は女将さんの誘導をお願いしますね」
蹴上は話し終わると、俺の肩を優しく叩いてから、俺へ背を向けた。
「…おい、待て、蹴上」
「…?どうしました、若」
「さっきのお前の言葉…デバックが終われば、すぐにリリースできるみたいな言い方だな」
「それが?」
「…既に、俺に、その機能が備わっていると言いたいのか?」
「…えぇ、そう言いたいんですよ。若」
「…」
蹴上は穏やかな顔で微笑み、一度大きく頷いてから、自らの額にかかった髪を、左手で撫でつけて整え始めた。
「…後はこちらにお任せください。裏口に何人かを呼んであります。そちらに女将さんをお連れして…誘導が終わったら、若は旅館従業員の方々がお使いになる通路からお逃げください」
「…分かった。お前も気をつけろよ」
俺の返事を聞いた蹴上は、第一関節から先の無い小指で耳に髪をかけてから、辺りを見渡し、叫びながら二階へ上がった。
「ありがとうございます…延彦!誘導開始だ!」
「遅いねんコラ!もうとっくの昔にやっとるわ!!」
「あ!?んだそれ!誘導始めてんなら報告の一つくらいしろやこのど阿呆!!」
「お前ら二人喧しいぞ!!カタギの皆さん怖がらせんな!!!」
「お前が一番うるさいやろが鳥辺野!!正味お前が一番何考えてるか分からんくて怖いねんボケ!!!」
「んだとゴラ!終わったら覚悟しとけよ!!命は無いと思え!!」
「口やなくて手ェ動かさんかい!!!」
「やかましい!!!!50手前のおっさん共がなーにガキみたいな喧嘩しとんねん!!!!さっさと誘導しろやトロくさいな!!!!!!!」
「すみません、お嬢」
「申し訳ありません」
「なあ~さっきの声聞いた?うん!わしの娘来てんねん~?会いたいんか?」
「…」
「…会わせるわけないやろこの色ボケ坊主!!!!!」
「やめろやバカ親父!!!!」
…。
女将さんの手を引き、彼女を裏口へ連れていくと、そこには蹴上組の何人かが待機していた。
女将さんを車に乗せてから組員の方を向くと、組員は頷いてから、俺へ頭を下げ、通路を指差した。
「従業員通路はその細い道を真っ直ぐ通った先です。どうかお気を…」
その時、組員の言葉を遮るように、耳をつんざくような破裂音が旅館に響いた。
「銃声か…!?」
「二階からです!若、急いで!」
組員は俺の背を押し、懐から小型拳銃を取り出した。
二階っていうと…確か、蹴上達が…。
まさか…蹴上が…!
「若!俺が援護します。早くお逃げください!」
「だけど、お前達は…」
「いいから行って!!頼むから!!!」
「…!」
焦った様子の組員から思い切り背を押され、バランスを崩し、従業員通路の前に倒れ込んでしまった。
起き上がる為に体へ力を込めたその時、俺の頭上で銃声が鳴り、俺を逃がそうとしてくれた組員が地面に倒れる音がした。
「…!?」
顔を上げると、そこには鳥辺野組の組員が。
手には拳銃が握られていて、その照準が、俺へ向いた。
「なあ、五代目さんよ…あんたは抗争が起きるよりも昔、80年代にこの京都で何があったか知ってるか?」
「…何…?」
男は言葉を続ける。
「80年代後半。京都を中心に奇病が流行した頃…京洛一家は潤いに潤いまくっていた。それは何故だと思う?」
「…何故だ?」
「奇病によって普通の生活を送ることが困難だった人間達を利用して大金を稼いでいたからだ」
「…!?」
「まあ、言うなれば、売春の斡旋だよ。京都に住む色んな人間や女子供が軒並みな」
なら…うちの組織が、企業よりも以前から、企業と似たことをやってきたってのか…?
「…」
「驚くだろ?そりゃそうだよな。だがまだショックを受けるには早いぜ。その中心に居たのは…京洛一家二代目組長。そう、あんたのひい祖父さんだよ」
…俺の、ひい祖父さんが、そんなことを…。
「…だから、その子孫の俺が憎いのか?」
「あぁ憎いね。だから殺した」
「!?」
「そうだ。お前の父親殺したのは俺だよ」
「……」
「お前らがやったのは売春の斡旋だけじゃねえ。金稼ぎの為なら放火や強盗に殺人、恐喝、強姦…何でもござれだったろ。そんなお前らに、俺達市民が、殺され、利用され、搾取され続けてきた」
「…」
「お前達は抗争こそが始まりだと思ってたんだろうが、抗争よりも以前からずっっっと、俺達は殺されて、巻き込まれ続けてきたんだ」
「…」
「そんな時に抗争が起きて、トップが軒並み殺されたと聞いた時に、俺達市民がどう思ったかは想像に容易いだろ」
「…だから、見せしめに、俺達家族を殺すため…組へ潜り込んだのか?ならお前は企業のスパイなのか?」
「あぁそうだスパイだよ。企業はな、俺達市民を、お前達という呪縛から解放してくれたんだ」
「…」
「そう、その解放された女の一人が、扇家の跡継ぎだった扇…」
男が何かを言おうとしたその瞬間、男の額に銃弾が撃ち込まれた。
「…おい、抗争の真っ最中だぞ。話しすぎじゃないか」
鳥辺野だった。
…。
中庭へ向かうため、教室から出ると、扉の目の前に見覚えのない男の子が立ちはだかっていた。
頬くらいの長さの髪をざっくり真ん中で分けて、制服のカッターシャツの第一ボタンだけを開けた男の子だ。
「…ごめんね」
頭を下げ、立ち去ろうとすると、その男の子は俺を呼び止めた。
「妹さんとの旅行は楽しかった?澁澤環くん」
…。
「…なんで、それを…」
「ずっと側にいたからだよ。百々と話した時、カフェ、旅行、ほの全部に」
「…何?」
「…気付かなかったか?まあ無理もないか…なら、はじめましてって言うべき?」
「……」
「何だよ、能力者を見るのは初めてか?」




