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"環"  作者: 正さん
六章
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四十四話「Beat It」



『お前達は一つ誤解しているようだから言わせて貰うが、俺は死んでも自分の親を売る男じゃない』

 宮神の最期の言葉はそれだった。


 環が東の人間から手渡された贈り物は保冷バッグとタブレット。

 保冷バッグには宮神の左腕。

 そしてタブレットには、拷問を受けている宮神の映像が入っていた。

 映るのはイヤらしい程に清潔な倉庫。

 宮神はそこの中央に置かれた椅子に縛られ、殴る蹴るの暴行を受けた後、刃物や鈍器などで徹底的に痛め付けられていた。

 腕を椅子の後ろに回して縛っているのかと思ったけど、よく見てみると、太いロープを執拗なほど胸の下に巻き付けて、椅子の背もたれと一体化させるように縛り付けられていた。

 宮神は、呼吸する度に紐が食い込むのか、時折苦しそうに眉間に皺を寄せている。

 腕を括らないのは何でだ?苦しませたいからかと再度よく見ると、左腕の肩から下は無く、左腕は拷問するより前に切り落としたのかと察した。

 成る程。目を覚ました瞬間腕を切り落とされている事に気付かせて、宮神に精神的ショックを与えようという算段か。


『おいド素人!そんなことしたら俺は死んじまうぞ!情報聞けなくても良いのか?』

『そこ触って何になる!?さっきお前らがぶん殴った衝撃で麻痺って感覚ねえよ!!』

『この色男が痛め付けられてんだぞ?せめて4K画質で撮ってくれよ!そんなタブレットじゃ精々1080pだろ!?機材ケチんなよ!お坊っちゃん共!』


 宮神は凄惨な拷問を受けながらも、相手を煽り続け、ボロを出させ、こっちへヒントを残そうとしてくれていて。

 その宮神の煽りが仇となり、彼の最後の言葉を聞いて逆上した東の人間は、宮神に向かって鈍器を大きく振りかぶった。

『ゔ…ぁく…そ……』

 その鈍器で頭部を強く殴られた宮神は、肺に残った空気をか細い呻き声と共に漏らし、頭からどろりと赤黒い血を流して、そのまま、ぴくりとも動かなくなってしまった。


「……」

 その映像を見たお父さんは、自分の椅子の手すり部分を強く殴り、部屋から飛び出した。

 私が追いかけようと立ち上がると、それを制止したのは環だった。

 私の腕を掴んだ環は、首を横に振ってから、タブレットを指差す。


「…晶…もう一度、見せてくれないか」

「…環?」

「宮神が命を賭して残してくれたヒントをまとめたいんだ。それと、拷問部屋の造りも調べたい」

 環の真剣な目付き。

「…分かった。なら、もう一回再生するで」

 私はそう言い、再生ボタンを押し、もう一度宮神の死と向き合った。


 凄惨で痛々しい映像。

 目を背けたい気持ちをぐっと堪え、自分の脇腹をぐっと抓りながら画面を見つめていると、環が私の肩を叩き、動画を一時停止した。


「なあ、晶。4Kのカメラに切り替わった時、宮神は着てた服を脱がされてるだろ?その…右腕のあたりをよく観てほしいんだけど…」

「右腕のあたり」

 環の言う通り、宮神の右腕あたりをよく見てみると…。


「…鳥肌が立ってる?ということは、ここは寒い場所なんかな?」

「あぁ。それに、拷問をしてるのは素人だ。どこをどうすればどう痛むか、どこまで痛め付ければ死ぬかなんて事も理解していない。だから…こいつらが10年前に大量虐殺をした東の人間とは思えない」

「こういう仕事は拷問とか暴力行為のプロに任せるもんやんな?うちでいう佐鳥組とかに…」

「あぁそうだな。プロなんだったら…最後、ああやって宮神を殺すわけない。宮神の言葉からして、宮神を痛め付けた後に殺すのが目的じゃないとしたら…」

「ほんなら、拷問してんのはカタギってことか?」

「…そう考えんのが妥当かもな。それと…この倉庫は、かなり涼しい場所…送風ファンの音がしないところを見ると、かなり管理の行き届いた場所か、そもそも涼しい場所にあるか」

「…拷問は素人仕事。言うことを聞いて4Kのカメラを持ってくる無能っぷり…そんなら拷問してる奴らは企業の人間で確定やな。この倉庫も企業の持ち物やろ」

「…拷問、暴力行為のプロが…軒並み不在。宮神の拷問は企業の独断?そうだ晶。東の奴らの集金は?」

「東の奴らは集金終わってもうそろそろ戻ってきてると思…う…けど…」

「…まさか」





「…冴木、宮神の組の奴らは後どうするつもりや?」

「武文は、宮神組の組長としてかなりの功績を残していました。宮神組の若頭はさっき、初代の跡を継いで自分が宮神組の二代目組長になるんだと教えてくれて…」

「…山ノ江、お前はどうするつもりや」

「…親父。兄貴の組、もうじき直系になる筈だったんですよ」

「…そうやな」

「……まだこれからだったんすよ。兄貴は…」

「…山ノ江。佐鳥組から三次団体の宮神組に移って、若頭補佐として二代目の事を支えたれと言ったらお前はどうする」

「俺の親は貴方ですよ、佐鳥の親父。貴方が白と言うなら白。黒と言うなら黒…なんだって従います」

「なら、支えてやってくれへんか」

「分かりました…親父は、お一人で平気ですか」

「…どうやろうな、もう分からんわ」

「…」

「…もう下がっていい。後は任せたで」

「はい、お任せください」





「お父さん!!聞いて!!」

「?どうした!?晶!」

「東の奴らが何をしようとしてるか分かった!蹴上と鳥辺野も呼んで!即戦力になる人が必要や!」

「何が分かったんや?」

「あいつらイカれてる!急がなあかんねん!」

「…冴木、今すぐ蹴上と鳥辺野に連絡してくれ。緊急事態やと言えば伝わる」

「はい!」

「山ノ江、宮神組の二代目に電話して組員何人か寄越せ」

「分かりました!」

「晶、環、移動しながら話せるか」

「はい!」

「東の奴らは何をするつもりなんや?」

「…あの倉庫の清潔さを見るに、あの倉庫は企業の持ち物でしょう。それに拷問していた奴らもド素人です。恐らく、宮神の拷問自体が企業の独断で行われたこと」

「ほんなら東の奴らはどこに居るんや?わしらも今からそこに向かうんやろ?」

「さっき俺達が旅行で泊まったとこの女将さんから連絡が来た。東の奴らは今…逃避場に居ます」

「…あっちから、仕掛けてきよったってわけか…冴木、終わったか」

「はい、お二人へ逃避場へ向かうよう伝えました。俺は今からタブレットを持って本家へ行き、協力を要請します」

「ようやった。頼んだで」

「……環…」

「分かってる。仕方ない。今はこっちを優先する他ない」

「……」





 2019年、9月22日。体育祭。

 環さんが学校に来なくなって、一週間が経った。

 連絡してみても既読すら付かず、環さんと仲の良い徹さんも居なければ、晶さんすら校内で見かけなくなった。


「…」

 華菜さんは授業の合間みたいな時間が空く度にスマホを確認していて、話す言葉も全て「環はさ」から始まって。

 こんなこと思っちゃいけないのは分かっているけれど、私は少しだけ、二人の関係性に嫉妬していた。

 仲良くしていたら兄妹だと分かった。そんな状態でも友達で居続けて、でも、相手に何かがあったら誰よりも気に掛けて。

 そもそも、智明さんと華菜さんの関係だって羨ましい。

 普通に、仲の良い兄妹。

 私と姉様の関係とはまた違った、仲の良い兄妹。


 今日は体育祭当日だというのに、環さんは居ないし、華菜さんも心ここにあらず。

 クラス対抗リレーが終わった私は、学校への通学路途中にあるコンビニで買ったパンとリンゴジュースの入ったビニール袋を持って、生まれて初めて、サボりというものをしてみることにした。

 華菜さんには一応連絡しておいて…姉様には何も連絡せず、誰もいない体育館の裏を目的もなく歩き回った。


「…あ」

 すると、誰もいない筈のそこに。

「…あ…君確か…忍君、で合ってるよね?」

 宮部さんがいた。

 宮部さんは…晶さんと、めちゃくちゃに親しい人だったっけ…。

 いや、それは確か晶さんのスパイをやってた頃の百々さんから教えて貰った情報だから、親しくはないのか…?

 まあ、良く分からないから、一旦、探りを入れるべきか。


「…はい…忍です」

「こんにちは。華菜ちゃんとご飯?」

 宮部さんの優しい声色。私は首を横に振った。

「あー…そっか…ならさ?忍君と一緒にご飯食べても良い?」

 最後に見た時と比べて、少しだけ痩せた感じがする宮部さん。

「…はい、食べたいです」

 私は少し考え、二回頷いてから、体育館裏から少し歩いた、中庭の近くにあったベンチへ腰掛けた。

 宮部さんは、私から拳一つ分開けて座り、鞄から、飲むタイプのゼリーと水筒を取り出している。


「…お昼、それだけですか?」

 私の質問に、宮部さんはクスクス笑ってから頷いた。

「うん。文化祭までには絞りたくてさ…余計なもの食べてられないから」

 …余計なもの。文化祭…?

「文化祭で何かあるんですか?何かの演目に出るとか?」

「うん、バンドをやることになったんだ。ボーカルをやるから喉に悪影響のある刺激物は食べられないんだよ」

 そうなんだ…。

 でも、それにしても…ゼリーだけっていうのはちょっとな…。


「…言いふらされてたんだよね、バンドやってたって」

 …え?

「別に黒歴史じゃないし、隠すつもりもないから…アレなんだけど…ちょっと、モヤモヤしてて」

 …言いふらされてた…って…。


「…誰が、そんなことを?晶さんに相談しましたか?…誰がやったか分かってるんですか?」

 私がそう質問すると、宮部さんは頷いてから、こう続けた。

「うん、分かってはいるけど…その…華菜ちゃんと仲の良い君に話すことじゃないと思うな…だから…ごめん、言えないや」

 …晶さんに相談したかって聞いても否定しなかったな…。なら、宮部さんが晶さんと親しいのは本当なんだ。

 それに…華菜さんと仲の良い私に、話すべきじゃない人。

 なら、華菜さんに関係する人。

 環さん?いや、環さんが言いふらす理由は無いか…。

 じゃあ一体誰が…。


 …まさか…な。

 いや、まさか。まさかだけど…。


「…あの、まさか…額塚さん、とかじゃないですよね…?」

 私がそう問いかけると、宮部さんは目を大きく見開いた。

「!?な…なんで…!?」

「…え…」

 す、額塚さんなんだ……一体、なんで…?


「…なんで額塚さんが、言いふらしたって…分かるんですか?」

「…」

 私がそう問いかけると、宮部さんは大きく息を吐いてから、恐る恐る答えてくれた。

「…忍君と華菜ちゃんが、初めて菜那さん、帷子君と会った時あったでしょ?その現場に、居たんだよ」

「…宮部さん本人が、その耳で、聞いたんですか?」

「…いいや、聞いたのは…君のお姉さんの楓さん」


 …姉様が…?

「…どうして」

「君の事が心配だったのか、ここに居るのが好きだからなのかは分からないけど…楓さん本人から「口うるさい男と女がここで喋ってた」って聞いたんだ。だから、今までの行動を考えると、菜那さんで確定かなって…」

「…」

「菜那さんはこう言ったんでしょ?「元々音楽やってた」って…ほら、服の着こなしとかがバンドマンっぽかったから…」

 そういえば、そういうことを…言ってたような、言ってなかったような…。


 …ん?あれ?

「…すみません、待ってください」

「?」

「宮部さんと菜那さんって、確か…お知り合いじゃありませんでしたっけ?」

 今思い出した。

 確か、艮さんと知り合うきっかけになった日…珍しい名字の人が居るって、額塚さんが三年生の教室に行ったんだっけ。

 で、最初に会ったのが宮部さんで…宮部さんは額塚さんを見て「誰?」と首を傾けてたんだ。

 その後で艮さんと会って、今に至るから…。


 …。


「…ごめんなさい、あの、凄いデリケートなことを聞いてしまうんですけど…宮部さんって…旧姓とか、ありますか?」

 私がそう問いかけると、宮部さんは首を横に振った。

「無いよ。父は少し前に亡くなったけど…お母さんは宮部から名前を変えてないし…」

 そっか…。

「あ、でも、よく誤解されることがあって…」

「誤解されること、ですか?」

「うん。私フルネームが"宮部神足"なんだよね。だから、神足って聞いて、それが私の名字だって、思う…人が…居……あ…まさか」


 …。

 嘘だ、本当に…額塚さんが…?

 なら華菜さんのご両親が教えてくれた、那月さんという、晶さんのお母さんに心酔していて、晶さんに恨みを持っている人と、額塚さんか…本当に、同一人物なのかもしれないってこと…?


 宮部さんの顔を見ると、宮部さんも私の方を見ていて、しばらく、そのまま見つめ合っていると、突然、宮部さんが立ち上がった。


「…待って。煙草の匂いがする…」

「…煙草?」

「…忍君、隠れよう」

「は、はい…!」


 ボーカリストだし、喉の管理に本気なとこを見ると、そういう煙草の匂いとかに敏感なんだな…なんて、呑気なことを考えながら宮部さんの指示に従い、ベンチの後ろに隠れた。

 すると、中庭に現れたのは…。




「例の雅朱里、もうピンピンしてたじゃないか。ガキだから怪我の治りが早いのかね」


「そうみたいだな」


「…で、お前の目的はもう完遂したわけだけど。これからどうするんだ」


「…それなんだけどよ、もう、止めにしないか」


「なんだいお前らしくもない。何か心境の変化でもあったのかい」


「…他の奴らはどうでも良いよ。でも、華菜ちゃんだけは巻き込みたくねえんだ」


「…」


「…お前だってそうじゃないのか」


「たかがガキ一人でそんなこと言ってられないよ。もう戻れない位置まで来ちまったんだ。あんたがやんなくてもあたしはやるつもりだよ」


「…」


「晶を殺す。それがあたしの生きる目的だからね」


「…そうか」


「あの人に惚れて今年で26年だ。あたしの全てはあの人で出来てる。それを晶なんていうぽっと出のガキに持っていかれてたまるかってんだ」


「…確か、あの人ってのと会ったのが…お前が16ん時だっけ?あは、お前って想像よりも年増だったんだな。俺の父親と同い年じゃねえか」


「そうなのか、奇遇だね」


「その例の人の墓参りには行ってるのか?」


「あぁ行ってるよ。墓の見張りは10年前と比べて手薄になったからね…。企業も今は晶に夢中だ」


「…」


「…あの人は、こうやって…ゆっくりと、皆から忘れられていくんだね」


「…そうだな」


「…なら、尚更、新聞の一面を飾るくらいの事件を起こしてやんないと。こんままだと企業のアホのせいで、あの人の死が無駄になっちまう」


「……そろそろ行くか」


「だね」




 二人が煙草を踏み消し、その場から立ち去ったのを確認してから、ゆっくり立ち上がる。

「…!?」

 …あれは…あの二人は…一体…。

「…あれ、艮君と、菜那さんだよね…?」

 宮部さんも信じられないのか、私と同じように目を見開いていた。

「…艮さん…なんですか?あれ…」

 信じられなかった。

 あの優しい艮さんが、リンチだとかいって、煙草まで、吸って…。

「…ゴホッ…ゴホ…ッ…」

 チラッと横目で宮部さんの方を見てみると、煙草の煙が嫌なのか、少し咳き込みながら、持っていた水筒の蓋を開けていた。


「…平気ですか?」

「…うん、平気。ありがとね」

 飲み終わった宮部さんへ声をかけると、彼女は二回頷いてから、私へ優しく微笑みかけた。


「……ねえ、忍君?」

「は」

「艮君に何があったのか、私の方で調べてみようか?」

「…」

「…分かった、調べてみる」

「あの、私は何も…」

「それで良い。これは私が勝手にやること。何か分かって、君に話したからといって、全部私の独り言ということにする。それでどう?」

「…」

「任せて」


 …。


「心配しないで。元々艮君については調べるつもりだったし、忍君が関わってることについては晶にも内緒にする。いい?」

 …。


「…なんで…」

 私がそう問いかけると、宮部さんは二度頷き、私の肩を優しく撫で、こう答えてくれた。

「…分かるから」

「…分かるって?」

「…華菜ちゃんと環くんが二人で仲良くしてて、やきもち妬くよね」

「え…」

「私もそうだよ。環くんと晶が仲良くして、私の知らないことを知っていて、醜いくらい…妬いてる」

 宮部さんから出た弱音。


 私の肩を撫でる宮部さんの手を握った。

「華菜さんと環さんは、巻き込まないようにって気遣ってくれてるのに、私は…知りたくて…首を、突っ込んでしまって…」

「うん。大好きな人が…何に、どんな事件に巻き込まれてるかを知りたいのに、私達は…血が繋がってないだけで…それを許されないんだよね」

「…」

 宮部さんも、華菜さんと環さんが兄妹だってことを知ってるんだ…。


「…初めての、人なんです、華菜さんは」

「…うん?初めてって?」

「私にとって、華菜さんが…人生で出来た、初めてのお友達なんです。環さんも…」

「…うん」

「二人が…仲良いから、もしかしたら…華菜さんは、環さんの事が好きなのかな、とか思って…。仲良しだから、両思いなのかなって…」

「うん」

「付き合って、そう、なったら私は、二人にとって邪魔になっちゃうなって、モヤモヤして」

「…」

「でも兄妹って知って嬉しかったんです。私」

「…兄妹同士は、付き合えないから?」

「でも、よく、分からなくて、兄妹でも、兄妹だからって……」

「…うん」

 宮部さんの手が私の背中を撫でた。


「兄妹だから、付き合えないって、思うと、つらく、なっ、て、しまって」

「…どうして?」

「……私は、姉様が、好きなんです」

「…!」

「…姉様が、大好きなんです……どうしようもないくらい、好きで、仕方ないんです」


 そう声に出した途端、何かが決壊したように、目から涙がボロボロと溢れた。

 言わないように、気付かないように蓋をしていたこの感情。

 私の知らない姉様を知る度。第三者の口から、姉様についてを聞かされる度に、胸に満ちていたこの嫉妬という感情が。


「…忍君…」

 宮部さんは同情したように、私の髪を撫でてくれた。

「…言ってくれてありがとう。誰にも言わない。私だけの秘密にするね」

 頷くと、宮部さんは私の涙をハンカチで拭ってくれた。


「…昔、私がバンドのために書いたんだけど、採用されなかった歌詞があってさ…それ、忍君に伝えたい。良い?」

「…うん」

「…『足並み外れた答えでも、それが愛だということは変わらない』…教えてくれて、ありがとうね、忍君」

「…」

「忍君の秘密を、私は否定も肯定もしない。ただそれだけ…ね?」

「ワキノブ」

「……うん?」

「ワキノブって、呼んでも良いですよ」

「……ありがとう、認めてくれて」

「……」

「ワキノブ君」




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