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"環"  作者: 正さん
六章
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四十三話「Joker And The Thief」



「…あ、環」

「お…おはよう…華菜ちゃん」

「おはようって…今から帰るんだっけ?」

「うん、まあ…そんなとこ…てか、俺達…今下駄箱に居るじゃん…」

「あ、そか、下駄箱だったっけ、ここ…あはは…なんかボーッとしてたわ」

「…」

「…あー、あの、そのさ、あのー…環?」

「うん??」

「あの、途中まで一緒に帰ってもいい…?寄り道とかして…帰ろ?」

「もちろん…まあ、俺が今日帰るのは晶の家なんだけど…い、今、あの、佐鳥の親父さんに、許可貰って、と、泊めて貰ってて…」

「そ、そうなんだ…い、良い人だな…」

「うん…」

「お父さんの兄弟分なんだっけ」

「うん、そう、そういうこと、だね…そう、兄弟分…兄弟…きょう、だい…」


 …にしても、流石に、ちょっと気まずすぎやしないか。

 いや、そりゃあ仕方ないか。

 遂に、環と自分は血の繋がった実の兄妹なんだと知ってしまったんだから、そりゃ気まずくなって当然と言えば当然か……。


 環がワキノブと二人で私のお見舞いに来てくれた日から、ずっと疑問に思っていたことがあった。

 家の前でお母さんと環が話していた時からずっと「もしかして」と考えていた事が、本人の口から「君の考えは全て合っているよ」と聞かされてしまったんだ。


「……」

 環の方へ視線をやると、環は気まずそうに私からゆっくり顔を逸らしてしまった。

 いや、言い方を変えよう。

 逸らしやがった。


 こいつが私の本当の兄貴だと知ったからといって、私がそれを知ったからといって、私達の友情関係は完全に終わって、関係性も、全部変わってしまうのか?

 血が繋がっているから…もう、あの頃みたいにみんなで集まって遊んだりはできないのか?

 環はずっと知っていたのに、私へ友達として接してくれた。

 私が知ったからといって、今までの関係を変える必要はないんじゃないか。


「…」


 花火大会の日、環は「これが俺にとっての最後の夏」だと言っていた。

 なら、最後の秋は?最後の冬は?最後の春は?

 私は、最後の最後まで、友達として環と過ごしたい。

 でも、環が友達として居るのが嫌なら、妹として側にいたい。

 ただ側にいれるならそれでいい。

 最後なんだったら、最後のその一瞬まで側にいたい。

 なら、私がするべき事は気まずくもじもじすることじゃない。

 多少強引でも、出来る限り環の側に居続ける事だ。


「…環、あの…さ?」

 名前を呼びながら、勇気を出し、環の方へ一歩だけ歩み寄ると、環はゆっくり顔を上げ、私の目をじっと見つめた。

「?ど、うしたの?」

「え?」

 しまった。

 環の名前呼んどいて何話そうか考えてなかった。流石にアホすぎるかもしれない。

 どうしよう、えっと、そうだな。

 歩きながら辺りを見渡すと、校門近くの掲示板に「体育祭」と貼られた紙を見つけた。


「あ…そういえば、体育祭、もうすぐある…な。あと…二週間くらいで」

 そう言いながらその辺に貼ってあった貼り紙を指差すと、環は私が指した方を見てから、何度も頷き、ぎこちなく微笑みながら私へこう問いかけた。

「うん…あー、あるね…華菜ちゃんは、もう、出る…競技は決まったの…?」

 出る競技か。あれだ。あれだな。決まってないわ。

「あー…リレー、とか…?それくらいかな…多分、話し合い、私、適当に、あの、アレでさ」

 やばいなんか嘘ついちゃったどうしよう。

 環は何に出るの?って聞くべきだった。今聞くか?よし今聞こう!

「そっか…あ、な、なら…ビデオカメラ、持っていかなきゃ…いや、何で俺が持って行くんだ…?あ、あはは…」

 やばいどうしようなんか話変わっちゃった。

 聞くタイミング無くなっちゃった。

 どうしよう。

 とりあえず私も笑っとくか。

「あはは……はは」

「……」


 やばい!頭おかしくなりそうなくらいクッソ気まずいぞ!!!!!

 やばいぞ!?こんな体がゾワゾワしてダッシュで逃げたくなる事あんのか?もはや奇跡じゃないか!?ってくらい体がゾワゾワするしなんか胃がちくちくするし膝の裏に汗かく!!!!

 ここにワキノブが居てくれたらいいのにな!!てかワキノブあいつなにしてんだ!!??

 どうしようか、どうやって話を続けよう!!

 そんな事を考えながら環の方へ目をやると…。

「…あっ」

 環も同じことを考えていたのか、私の事を見ていて、バッチリ目が合ってしまった。

「…スー…」

 息を吐く環。

「…ふぅ…」

 息を吐く私。


 …さて、仕切り直しだ。

 呼吸を整えて、今度はしっかり話すことを考えよう。

 体育祭はダメだったな。なら文化祭は?文化祭にしよう!

 こんな出し物あったら面白そう!みたいな会話が出来たら万々歳だ!


「あのさ、環、文化祭…」

「華菜ちゃん!待って~!」

 …。

 私達の気まずい空気感を切り裂くような、背後から聞こえた、明るい声。

 ゆっくり振り返ると…そこには、菜那さんが。

 もっと、違う意味で気まずくなってしまう、菜那さんが。

「環くんもいたの?そうだ!一緒に帰ろ~」

 菜那さんはそう言いながら私に抱きつき、環へ向けて、可愛らしく微笑みかけた。


「…」

 環は、私と菜那さんを交互に見てから、、左眉を少しだけ上げ、私の顔色を伺うような表情をした。

 なんというか、私の顔色を伺いながらも、菜那さんを少し拒絶している表情。

 …そりゃあ、そうだ。

 少し前、環とワキノブが私の家に泊まった日。

 私のお母さんが過去につるんでいた仲間の写真に居た、菜那さんに瓜二つの那月という女性。

 お母さん曰く、那月さんはニンベン師と呼ばれる、身分偽装のプロだったらしい。

 もしも菜那さんと那月さんが同一人物なら、自分の身分を偽って、女子高生としてこの高校に潜入する事なんて容易いはず。

 彼女が高校に潜入した目的は、恐らく晶に接触すること。

 晶のお母さんを何よりも慕っていた那月さん。

 西と東の極道組織が起こした抗争で、晶のお母さんは命を落とし、それを晶のせいだと思い込んで、妬むようになった…。


 …にわかには信じがたいことだけど、でも。

 横顔でも分かるくらい、写真のあの人と菜那さんは、驚くくらいそっくりで。

 …。

 もしも、私達の仮説が合ってるんだとしたら…今、菜那さんと三人で帰るのは、少し、危険かもしれないな。

 疑いたくない気持ちもあるけど、警戒するに越したことはないかもしれない。

 それに、今の私達に接触してきた事も…少し引っ掛かる。

 いつもはさっさと帰るか、帰りはどこか寄ろうと誘ってくれる菜那さんが、私を追いかけてきた。

 そして、私の隣に居た環を見て「環くんも居たんだ」と言ったんだ。


 ん?というか…もしかして…環が今佐鳥の家でお世話になっている事をどこかで知って…一緒に帰ろうとしたんじゃないか?

 いや、もしかしてさっきの私達の会話が聞こえていたのか?と、考えてしまう。

 疑いたくないけど、でも…。

 そう思い、私も環と同じように、左眉を上げて合図すると、環は一度頷いてから、菜那さんの方を向き、優しく微笑みながらこう言った。

「実は、これから図書館に行って勉強しようと思っててね…華菜ちゃん、歴史が分からないって言ってたから、俺が教えてあげたくて」

 環の言葉を聞いた菜那さんは、目を大きく見開いてから、私からバッと体を離した。


「そうだったの?あら?なら…お邪魔だったかな?」

「いや、違うんです…邪魔とかじゃ…」

「いや!いいの!みなまで言うな!」

「はい?」

「行ってらっしゃい!!ごゆっくり!!」


 そう言い残し、菜那さんは、環へ見せつけるようにグッドデザインをしてから、大急ぎで私達から離れて行ってしまった。


 え…ええ…?

「なんか、嫌な感じの誤解をされちゃったみたいだね」

「…だな」

「…いつか、解かなきゃいけないね」

「…おう」


 うわ、どうしよう、尚更気まずくなったぞ…どうしてくれる?この雰囲気を…?

 恐る恐る環の横顔を見ると、環はそれに気付き、クスリと笑った。

「華菜ちゃんも俺と同じで、この雰囲気めっちゃ気まずいなって思ってくれてたんだね」

 え?

「は?まあ、そりゃ思うに決まってんだろ?こんな状況だったら…今の私らの関係とか、色々考えたら…」

「あはは!そりゃあそうなんだけどさ…なんか、嬉しくて」

「…なんで?」

「いや、今この状況を気まずく思うのが俺だけじゃないっていう事もだし、その相手が華菜ちゃんってのが…嬉しくて」

 環は切ない表情で笑った。


「体育祭は、一緒に居れる?」

「…へ?」

「…あ」

 無意識に、そんな事を尋ねていた。

 環は目を見開き、不思議そうに首を傾けてから、恐る恐る首を横に振った。


「学年別で座るだろうから、一緒には過ごせないかもしれないね…お弁当食べる時も場所は決まっちゃってるし…」

 そうか…な、なら。

「なら文化祭は?再来月文化祭じゃん!展示とかもあるけどさ、ほら、吹奏楽の演奏とかもやるし!」

 勝手に口から溢れ落ちる、環と一緒に居るための口実や言い訳。

 必死で言葉を並べながらも「やたら環の側に居たがるんだな」と、自分をどこか客観的に見下ろしていた。


「あ!そうだ!噂で聞いたけどバンドもやるらしいしさ…そん時には、学校のほぼ全員が体育館に集まるじゃん?」

「…何か動くとしたら、その時だね?」

「そう!そうだよ!」

「な、なら一緒に回った方がいいね、忍君も一緒に!ね!」

「そう!そうなんだよ!」

 環も私と同じ考えなのか、同じように理由を並べ始めて。

 自分でいうのもなんだけど、私も環もどちらかというと素直な性格なのに、こういう時には、素直に一緒に居たいと言えないところが似ているな、なんて思ってしまって。

 兄妹なんだなと、痛感してしまって。


「…カフェ行こう」

「カフェ?」

「うん、よく行ってるとこ…」

「……分かった、そこ行こうか」





「会場の下見!?わー、なんかプロみたいっすね!宮部先輩!」

「ふふ、ありがと…先生、私達って吹奏楽部の後でステージやるんですよね?なら機材とかってどのタイミングで設置します?」

「え?あー、宮部ちゃんに任せるよ!プロだったんでしょ?宮部さんが責任者!」

「…おー、責任者ね、なんて良い響きなんだろ」

「先輩!一旦ステージ立ってみます?セトリも考えなきゃですよね!」

「そうだね…ステージはこのままでも良いけど…倉庫を見た感じ色々揃ってるし、照明とかも凝ればそれなりに…」

「え?照明必要?ロックに生きなきゃでしょ!音だけで勝負!」

「…そうだね。それが大前提に無きゃ」

「宮部ちゃんプロだったんじゃないの?何でそんな自信無いの!音で黙らせなきゃ!」

「…メジャーあります?ステージの幅計りたいんですけど」

「そんなことまですんの?」

「必要なので…まあ、後で良いか。搬入口の確認してくる、あとそれなりの機材を貸してくれる人との連絡もしなきゃ…それまでみんなステージ見ておいて」

「はい!わー、なんか本格的!」





 カフェに行った帰り。

 私を家まで送り届けようとしてくれる環と、環を佐鳥の家まで送り届けようとする私でガチバトルし、負けて折れてくれた環と共に佐鳥の家へ向かっていると、突然、佐鳥家の前に居る男を見た環が立ち止まった。


「え?パフェって普通混ぜて食うもんじゃねえの?」

「いや、パフェって物はさ、層ごとの味を楽しむものじゃん!」

「じゃあお前ケーキは一枚ずつ剥がして食うのかよ!!」

「それとこれとは違うだろ!!」

「何が違うんだよ!」


 環の視線の先には黒ずくめのスーツを着た男が二人。

 一人はタブレット、もう一人は大きめの保冷バッグを持っていて、下らない話をしながら誰かを待っている様子だった。


「何か用か」

 環が私を隠すように一歩踏み出す。男達は、環と、環の背後に居る私を見比べ、顔を見合わせてニタリと笑ってから、環へ向けて頭を下げた。

「五代目、そして、ご令妹様。お初にお目にかかります、私は…」

「後にしてくれ。まだ任命はされていない。何の用だ」

「左様ですか。今回は、東から五代目へ贈り物をお持ちしたんです。どうぞお受け取りください」

 男はそう言い、環へ保冷バッグとタブレットを手渡した。

 東からの贈り物…?敵対組織が何で贈り物なんか…。


「…?なんだ、これは…」

「では、私共はこれで」

「今後ともよろしくお願いしますよ、五代目。そして、ご令妹様。佐鳥のご令嬢にもどうぞよろしくお伝えください」

 黒スーツの男二人はそう言い残し、不適に微笑んでから立ち去った。


「…環。それ、何入ってんの」

 さっきの男達から手渡された保冷バッグを指差しながらそう尋ねると、環は私の方を向いてから、外から撫で、中身を特定しようとし始めた。

「何だろう…柔らかいから、爆弾とか、凶器みたいなものではないと、思うけど…」

 環はそう言い、地面に保冷バッグを置いてから、恐る恐る開け、中身を覗き込んだ。


「…何が入ってた?」

「……あー、食品だったよ。多分これ食べちゃダメなやつだね」

「そっか」





「落ち着け…後で車出してくれる人に連絡して…あと…搬入口の確認…ここから一番近いのはあそこの出入り口か…警備員さん…居た!すみません!あの…11月16日あるじゃないですか」

「文化祭?」

「はい!その日、実はバンドをやることになって…ステージに必要な機材の搬入と搬出のために、朝から文化祭が終わる夕方頃までここに車を停めていても構いませんか?それとも、ここだと邪魔になっちゃいますか?」

「あー、そこなら全然大丈夫だよ!まだ何ヵ月も先なのに今のうちに報告しに来てくれたの?流石元プロだね!」

「あ…噂かなり広まってるんですね…」

「動画見せて貰ったけどね、めっちゃかっこよかったよ!80年代を思い出した!」

「!ほ…本当ですか!?あ、貴方は80年代を生きた人!!??」

「そうだよ~、あの頃バンドがめちゃくちゃ盛り上がっててね~、色んなヒット曲が量産されて…」

「ディスコミュージックとかもその時期ですよね?シンセサイザーが出たのも80年代で、CDもその頃出て一気に普及して音楽が更に身近に…」

「そうそう…本当に音楽が好きみたいだね。なら尚更期待だ!頑張ってね!」

「…がんばります…是非…観に来てください…がんばります…」

「なんで泣く!?分かった、行くから…泣かないで…搬入口ここだから…ここと一番近い道路も確認しようか…?」

「はい…」

「車をお願いするんでしょ?ならその人の為に地図も用意しなきゃいけないし…」

「ありがとうございます…」

「分かった分かった…」





「晶、いるか」

「環!おかえり。晶と何かあったんか?」

「佐鳥さん…!あの、実は、先程…黒スーツの男達から、東からの贈り物だとこんなものを手渡されました」

「東から…なんやこれ。保冷バッグとタブレット?保冷バッグん中には何が入ってるんや?もう中身は見たんか?」

「…はい」

「…何があった?」

「…唐獅子牡丹が彫られた、人間の…左腕が」

「何やと!?唐獅子牡丹の刺青…まさか…うちの宮神の腕か!?」

「…ご確認ください」

「……10年前に喰らった弾痕もハッキリ残ってる…小指も無い…これは…確かに宮神の腕やな…でも、一応、冴木にも確認して貰おうか…」

「お願いします。宮神が死体の第三発見者であることを考えると…恐らく、澁澤柳太郎を殺したのは、東の奴らの仕業です。これも、晶と俺を脅迫するための餌なんだと思います」

「やろうな…。それに…見てみ、切断面はかなり綺麗や。ノコギリで無理矢理切られた訳や無さそうな感じやな…」

「なら東の裏に医療に携わる何かが……XYZか…!?」

「そういうことかいな。分かったわ、もうどうだっていい。取引なんかしてられるか。あいつら全員ぶち殺したるわ」





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