表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
"環"  作者: 正さん
六章
42/42

四十二話「Livin' La Vida Loca」



 環さんと二人で華菜さんのお家に泊まって、2日が経った。

 姉様がいない場所に帰るなんて、私の人生において初めての事だから、気分が高揚しないと言えば嘘になるけど、姉様のいない毎日が退屈かと言われれば、それもそうで。

 人様の家に泊まらせて貰っている身分で、図々しいのは百も承知だけど、姉様に…会いたくて仕方なくて…。


 姉様に会いたいと姉様本人に連絡したら、優しくて美しい姉様はきっとこの家まで迎えに来てくれるだろう。

 でもそんな事をして姉様の手を煩わせたくない。

 だから、どうしても姉様に会いたい今の私に出来る事なんて、ただ、姉様にそっくりな自分の顔を見て寂しさを紛らわすことだけ。


 そんな事を考えながら、自分のほっぺを撫でて、いつも通り、顔にあるホクロを数えることにした。

 姉様の顔には右頬の上に薄いのが一つと、髪の生え際に二つある。

 私も右頬に薄いのがあって、生え際には一つある。

 姉弟で同じ位置にホクロがあるのなら、兄妹であったっておかしくない。

 華菜さんと環さんの鼻の横にあるホクロ。

 もし智明さんの鼻の横にもホクロがあるなら…。


「…ワキノブ君、今平気?」

 洗面台の鏡に映る自分と睨み合い、見つめ合っていた時、後ろから声をかけられた。

「!?はい」

 振り向くとそこには華菜さんのお兄さんの智明さんが。

「…あ、と、智明さん…?」

「ごめん驚かせて、ちょっと…取り込み中だったか?」

 不安げに眉を下げる智明さん。私は首を横に振った。

「いえ、平気です。何かありましたか?」

 そこまで言って、今自分が立っている場所を思い出した。

「あ、そっか…歯磨きですか?すみません、すぐ退きますね!」

 そう言いながら立ち退こうとすると、智明さんは首を横に振り、リビングの方を指差した。

「いや大丈夫だよ。ただワキノブ君のこと呼びに来たんだ」

「私を呼びに?」

「うん。母さんがさ、みんな集まってて丁度いい機会だから話したい事があるって言っててよ…君も無関係とは言えないだろうから、どうかなって思って…」


 …華菜さんのお母さんが、華菜さんと環さんに話したいことか…。

 ……。

「話したい事って…華菜さんと環さんの関係についてですかね?」

 思い切ってそう尋ねてみると、智明さんは動揺せず、当然のように頷いた。

「うん、そうだよ。その事だ」

「…」


 …そうやって、簡単に認められると…なんというか、逆にやりづらいな。

 ちょっと、弱味みたいなのを見つけてそれを突いて探るのが今までの流れだったから、それが通用しない人と話すのは、少しだけ…怖いかも。

 どうやってこの場を切り抜けようかと悩んでいたその時、智明さんは自らの金色の髪を左手で撫でながら、私へこう尋ねた。

「あのさ、詩寂…じゃなかった。違ったわ。ワキノブ君って花脇楓の弟だって聞いたけど…本当だよな?君が本当に、その忍君なんだよな?」

 なんだその聞き方。悪いことみたいじゃないか。

「…はい…私が花脇楓の弟の忍ですが…」

「…」

 私が頷いた途端、智明さんの纏っている雰囲気がガラリと変わった。


「…なら、ワキノブ君は、企業について知ってる人って事か?」

 智明さんの口から出たのは、意図をよく掴めない言葉だった。

「…企業?」

 …企業?企業ってなんだ?

 首を傾け、思い当たる何かがないか考えていると、智明さんは、少し悩むような素振りを見せてから、意を決したように頷き、私の方へ一歩踏み出した。


「…大体の事が終わって、まだ知りたいと思ってくれるのなら、華菜を連れて、駅前のスーパーの北をずーっと行ったとこにあるマンションの駐輪場に来てくれないか」

「はい?」


 スーパーの北をずっと行ったとこ?パッと言われても住んでる人じゃないとピンとこないような場所にわざわざ呼んでまで隠さなきゃいけない、秘密の話があるのかな。

 学校の中庭とか、華菜さんの家では話せないような事?なら、もしかして…。 

「今は華菜と環と俺について話すけど、5月と3月に起きた暴行事件についてはそこでしか話せない。いいか」

「…分か…り、ました」

「なら良かった、頼むわ。華菜には俺から言っておくからそれだけは安心してくれ」

「…」

「…じゃ、リビング行こうか」


 …なんというか、智明さんの事を誤解していたかもしれない。

 噂で聞いたり、華菜さんから聞いて私の中で築き上げた智明さん像というのは、どちらかというと…軽いというか、軟派な男というか、調子の良いお兄さん?という感じだったし、何回か会ってみてもそれは揺らがなかったけど…。

 二人きりで、事件だとか、企業…それに環さんが関わった話をする時には人が変わったような…そんな感じになる。

 なんというか、何処か、環さんに似てるような…。


「ワキノブどうした?早くこっち来いよ」

「…あ、華菜さん…!い、今行く!」



 華菜さんに呼ばれ、大急ぎでリビングに向かうと、リビングには既に環さん、華菜さん、智明さん。

 そして、華菜さんのご両親が座っていた。

「忍君、ここおいで」

「あ、はい…ありがとうございます」

 環さんに勧められるまま、環さんの隣に座ると、向かいに座った華菜さんのお母さんである皐月さんが、溜め息を吐いてから、私の顔を見た。

「うちの事情にワキノブ君の事も巻き込んじゃったんだね…」

「…え?あ…いえ…」

「カタギの人間だけは巻き込まないようにと考えていたんだけど、今となっては…」

 皐月さんがそこまで言うと、智明さんは立ち上がり、手で皐月さんを制止し、私を指差した。

「無関係な人じゃねえよ母さん、この子は花脇楓の弟だ」

 花脇楓。その名前を聞いた瞬間、皐月さんの顔色がガラリと変わった。


「そうか…君は詩寂の弟くんだったのか」

 …詩寂…。

 首を傾け、皐月さんの隣に座る華菜さんの方を見ると、華菜さんは分からないと言いたいのか、首を横に振った。

 詩寂…っていうのは、もしかして、私の姉様の…もうひとつの名前なのか。


「…ワキノブ君はさ、XYZって企業を知ってるかい?」

 突然の問いかけ。

「へ?」

 つい間抜けな声が出てしまった。

 しかし、皐月さんは私の間抜けな声なんて気にする様子も見せず、言葉を続けた。

「XYZは色んな事業に手を伸ばしてる企業でね、支社は関東にあるんだが…」

「確か…健康食品とかを売ってたりするとこですよね?」

「そうだよ。そこのケツモチ…じゃ分からないか。その企業が創業したての頃、面倒を見て、事業を拡大する手伝いをしていたのが…環の入る西と対立中の、東の極道組織なんだ」

 …なんて?


「…え?ま、待ってください!XYZって…結構大きい会社ですよね?食品だけじゃなくて、さっき仰ったように、色んな事業に手を伸ばしてて…その会社が、ヤクザと関わっていたんですか?」

 私が身を乗り出しながらそう尋ねると、華菜さんのお父さんの雄二さんが首を横に振った。

「いいや、関わっていたんじゃなくて、今もどっぷりと関わっているんだよ」

 …はい…?

「…なんでそれが分かるんだよ」

 華菜さんの問いかけに、雄二さんは皐月さんと目を見合わせ、首を横に振ったり頷いたり、何かを確認するような仕草をしてから、息を吐き、私の方を向いて、こう答えた。


「…ワキノブ君のお姉さんの詩寂さんが、企業が関わっている事の証人なんだ」

 …姉様が…証人…。

「それは…私の、姉様が、超能力者だからですか?」

 私がそう問いかけると、皐月さんや雄二さんではなく、智明さんが声を上げた。

「超能力者?ワキノブ君…能力のこと…知ってんのか?」

「…知ってる、というかは…姉様が言うことを、疑いたくなくて…」

「…そう、なんだ…」


 リビングが静まり返る。

 …姉様が、東の組織と、XYZが関わっているという事の、証人?

 なんで、姉様がそんなことに…。

 そもそも能力って…一体…。


「…そして、その企業が立ち上げられた理由は、晶の母親にある」

「晶のお母さん?…確か…東のトップの扇家の娘だって聞いたけど…」

「そうだよ環。そいつの存在が、過去に起きた西と東の抗争のきっかけになったんだ」


 晶さんのお母さんが、XYZ設立のきっかけになった人なら…西と東の抗争が起きる前に、企業と西で何かあって、それが抗争の原因になったりしたのかな?

 そう考えながら、華菜さんと環さんの顔を見てから、皐月さんの方へ視線を移すと、皐月さんは、意を決したように大きく息を吸い込み、ゆっくりとした穏やかな口調で、晶さんのお母さんについて話してくれた。


「…晶の母親はね、90年代の初頭に関西に来たんだってさ。その頃私らには身寄りがなくてね…バブルが崩壊した後だからめちゃくちゃに不景気で、治安も悪かったこの街で、私と、弓月さん、そして那月の4人で暮らしていたんだよ」

 …。

「頼まれたら何でもするって言って…報酬に、金じゃなく物品を受け取るってスタイルで、街の雑用だったりゴミ拾いみたいなことをしていた…そんな時、あいつは佐鳥と出会って、数年後には晶を身籠った」

 皐月さんはそう言いながら、財布から四人の女性が写った写真を取り出し、テーブルの中央へ置いた。


「…佐鳥さんって、環さんと同じ西の組織の人ですよね?」

「あぁそうだよ。延彦…じゃなくて、晶ちゃんのお父さんは、その頃確か…三次団体の舎弟頭補佐だったっけな」

 …?舎弟頭補佐…。

「…?お父さん、舎弟頭補佐ってどれくらいすごいの?」

「んーと…会長の、直属の、その下の、そのまた下の、組織を束ねる人の、お手伝い…って感じだから…あの若さにしては凄い方だった…って言えば良いか…?」

「でも、トップから見れば下っ端に変わりはないんですよね」

 環さんの口調は、信じられないくらい鋭かった。

 目を見開く皐月さん。

 環さんは更に言葉を続けた。


「…敵対組織の下っ端と、トップの娘が授かり婚をした。それが抗争の原因の一つだった。そうなんですね?」

 皐月さんは頷いた。

「あぁ。それと…これは単なる都市伝説だったんだが、詩寂の存在で少しずつ明るみになっていることがあるんだ」

「……なんですか?」

「XYZは、幼い子供を誘拐して人体実験を行っているという都市伝説だ。あいつらは人間で兵器を作っているんだ」


 ……なにそれ。

「……姉様も兵器なんですか?」

「90年代初頭、経済が破綻して治安も最低な日本、主にここ京都で奇妙な病が流行したんだ。骨が宝石になるだとか花を吐くだとかそんなオカルトじみた奇病がな」

「……」

「時代と共に形は変化して、今では能力なんて呼ばれてる。四人でやっていた何でも屋は、表向きは単なる雑用だったが、本質は奇病へ対策するための組織だったんだ」

「……にわかには、信じられません…」

「信じなくても良いよ、環。XYZは、その能力となった奇病に目をつけたんだ。奇病も能力も、身体や精神にストレスを与えることで発症するんだと企業の馬鹿が学びやがったから」


 …もしも、それが本当なんだとしたら…。


「…XYZが作り出して、役に立つと判断された能力者はな。企業から逃げないよう、逃げたとしても、親密な間柄の相手を作らないよう、身体に大きな傷跡をつけられるんだ」

 晶さんのお母さんがXYZ設立のきっかけになった、事を踏まえて考えたら、佐鳥さんと結ばれてしまって、家族まで作っちゃったっていう、嫌な言い方だけど、失敗から学んだ…って感じかな。

「…なら、姉様が身体中に巻いてる包帯って…」

「うん、あれは飾りでもアクセサリーでもないんだよ。皮膚には大きい傷がついてるだろう」


 ……姉様。

 もしも皐月さんが言ってることが全部本当なんだとしたら…姉様が、私に…顔を隠せと指示してたのは、企業から私を守るためだったりするのかな。


「……待ってお母さん。ちょっと…一つ気になることがあるんだけどさ…」

 皐月さんが写真を出してから、ずっと不思議そうに写真を見つめていた華菜さんが、突然立ち上がり、写真を机に叩きつけた。

「どうした」

「この人は…誰?」

 華菜さんが指差したのは、ボブヘアーの女性の隣で、照れ臭そうに笑っている女性だった。

 ……ん?

 あれ?この人…。


「あー、そいつは那月だよ。うちではニンベン師として活躍してた」

 皐月さんがそう答えると、華菜さんは首を傾け、私や環さんの方を見た。

「ニンベン師?」

 環さんは華菜さんの視線に気付き、写真から目を逸らさずに答えた。

「ニンベン師っていうのはね、免許証とかパスポートを偽造する詐欺師のことだよ」

 そういう人もいるんだ…そんな詐欺師みたいな存在が必要な物騒な瞬間が昔はあったんだろうな…。

「…で、その那月さんがどうしたの?」

「なあ環。ワキノブ。これ……他人の空似か?それとも、血が繋がってる人か何かか?」


 華菜さんの震えた声。

 写真をもう一度よく見てみると……。


「…この人、ちょっと菜那さんに似すぎてないか?」

 ……。

「…え?」

「…言われてみると、確かに…もしかして、額塚さんって、いや…あり得ないか…」


 三人で顔を見合わせた。

 頭の中であり得ない仮説が立って、その仮説が違うとも言いきれないし、合っているとも限らなくて。


「…菜那さんはニンベン師としての力を使って、身分を偽って…高校二年生として、うちの高校に通ってるとか…ないよな」

 私達が考えている仮説を声に出して言ったのは、華菜さんだった。

「……なんのために?」

 環さんの疑問。

 その環さんの疑問を解いたのは皐月さんだった。

「…晶への復讐じゃないか?」

「はい?」

「晶の母親はな、西と東の抗争で、晶を庇って殺されたんだ」

 ……まさか。

「だから、晶さんを憎んでるってことですか?」

「あぁ。もし、さっき出た…菜那って奴が本当に那月ならそれもあり得る。あいつは…異常なほど執着していたからな」


 ……。


「…俺から、抗争について詳しく話させてくれるか?」

 雄二さんは、そう言いながら、隣に座る皐月さんの背を撫でた。

「智明、環、晶が小学校に上がる前くらいの年に、東と西で抗争が起きて、西は、トップや歳を召した方々が軒並み殺されてしまったんだ」

「……」

「その後、警察の手で、東の会長や幹部連中が軒並み逮捕されたり殺されたりして、双方の組織がボロボロになった」


 双方の組織がボロボロっていうけど…西は皆殺しで東は逮捕って考えたら…西の方がダメージ大きい気がしちゃうけど…。

「…そんなことがあったんだな…」

 華菜さんが相槌をうつと、環さんが、雄二さんを見て何かを確認するように二度頷いてから、彼の代わりにこう続けた。

「それに、東西の抗争には民間人も巻き込まれたんだよ。朱里さんのご家族も、てつの両親もそれで殺されて…そんな二人を引き取って、育ての親を見つけたのが、今の四代目会長で、俺の育ての親でもある、澁澤柳太郎だった」


 …凄い人だったんだな…。

 その澁澤柳太郎さんが…殺されたのか…。

「…俺と華菜ちゃんの実の親も、殺されたんだよ」

 …。

 環さんの、低い声。

 華菜さんは智明さんの方を見て、眉を八の字に曲げ、頭を抱えた。

「……なら、さ」

「……うん」

「…澁澤さんには、お子さんはいなかったんだな…?」

 華菜さんの泣きそうな震えた声。

 環さんの悔しそうな横顔。

 智明さんは華菜さんの背を撫で、環さんに続き、信じられない言葉を口にした。


「俺がそうだよ、華菜」

「……はい?」

「俺の本当の名前は…澁澤智なんだ」

 ……は?

「抗争が起きそうだと判断した実の父親に逃がされて、京都の隅の方でしばらく隠居してから、晶のお母さんの提案で沢田家に引き取られた」


 ……えっ…と…?

「ま、まとめさせてくれますか、一旦」

「……頼む」

「佐鳥さんと、東のトップの娘さんが結ばれて、晶さんが産まれた事で抗争が起きて、その結果、華菜さんと環さんの産みの両親は殺されてしまったんですよね?」

 私の言葉に皐月さんは頷いた。

「あぁ」

「澁澤家の子供の智明さんは、抗争の時は巻き込まれないよう、晶さんのお母さんの提案で遠くに逃げていた。その後、帰ってきて…沢田家に引き取られて…環さんは、澁澤家に引き取られた?」

「うん、そうだよ」

 ここまでは合ってるんだな。

 なら…。


「…なら、華菜さんはなんで沢田家に?澁澤家に行く方が良かったんじゃ…」

 華菜さんの方を向きながらそう問いかけると、華菜さんも気になったのか、皐月さんと雄二さんの顔を交互に見つめた。

「それはねワキノブ君。西も東も、智と環のことしか考えてなかったからだよ」

 雄二さんの答えは、力強かった。

「あいつら…俺達の大切な大切な華菜をついでみたいに扱ってたんだ。確かにあの世界は男社会だ。しばらく居たから分かる。でもな」

「……」

「目の前で親を殺されて、右も左も分からん、天涯孤独になったばっかの子供を前にして、やれ女だから跡継ぎにはならないだ男だから跡継ぎ候補だ話すのは違うんじゃねえのかって思ったんだ」

 ……。

「本当はね、私は環も引き取るつもりだった。でも…」

「東と西が取引をしたんだ。俺が高校を卒業したら問答無用でこの世界に入って、いずれはトップの座に任命する。そうなったら東西は合併して、一つの極道組織にするって…」

「……なんで環が会長に任命されたんだよ」

「澁澤はその時二次組織の若頭だった。抗争で幹部が軒並み殺されて組も壊滅しかけていた時、親父は組織を手腕で建て直した。親父が四代目会長に任命されたのは、親父の功績を間近で見ていた組員全員の意思だったんだ」

「……」

「…そんな俺の親父には、舎弟が居たんだ。その舎弟が、俺と華菜ちゃんの実の父親だった」

「…その舎弟は、どうなったの」

「抗争で親父を庇って植物状態になって…最近、殺された」

「……だからあの時、実の家族が…私だけって言ってたのか」


 そういうことか…。

 ん?あれ?


「…いや、なら、尚更なんで環さんが会長に…?環さん、このままだと、なんか…無関係な人すぎません…?」

 私の質問に、環さんは華菜さんの方を向きながら、少し震えた声でこう答えた。

「それはね…俺と華菜ちゃんの実の父親が、二代目会長の孫だからだよ」

「環さんは血縁関係者だから優遇された…ってことですか?」

「…うん、そういうことだね」

 どこの世界もそういう血の繋がりで優遇されるとかあるんだな…。

 というか、二代目会長のお孫さんが、二次組織の若頭補佐の舎弟だったんだ。

 なら、澁澤柳太郎さんは…二代目会長が安心して自分の孫を任せられるような人だったっていうことなのかな…。

 なら…澁澤さんって…どれだけ立派な人だったんだろ…。

 そんな人が…殺されたのか…。


「…それにな、佐鳥も一つの原因だった」

「え?」

 皐月さんの、怒りが籠ったような低い声。

「西と東が取引をしたんだ。ゆくゆくは合併を考えているんなら…正直佐鳥の子供をトップにしたって良かった!でもそうはならなかった。何でだと思う?」

 何でだったか…。

 抗争が起きた原因とか、話の流れを考えるに…。

「……佐鳥さんが、傘下組織の、舎弟頭補佐だったからですか?」

 私がそう答えると、雄二さんは首を横に振った。


「いいや、産まれた子供が女の晶だったからだよ」

 うわ……。

「……それは…ちょっと、キツいな…」

「そういう世界だから仕方ないよ。でも、そのせいで晶は差別を受けて、あいつも…色々、言われて」

 あいつ…晶さんのお母さんの事かな。


「…今、思ったんですけど…俺の親父はXYZの事を知ってたんですかね?」

「…え?」

「いや、あの…そもそも、親父がなんで東と取引したんだろうと思って…」

「…確かに、それ…気になりますね…」

「もう、聞く手段は無くなってしまったけど、もしかしたら…東側が、XYZへの対策を講じると約束したから、親父は、頷いたのかな、みたいな事を、思って…」


 …じゃなきゃ、自分達の親とか、組長とかを殺した人達と契約するなんて事するわけないよな。

 環さんの顔を見た後、皐月さんの顔に目をやると、皐月さんは悔しそうに首を横に振り、こう答えた。


「…それは…柳太郎に聞かないと分からないね。あいつが東西を繋ぐ唯一のキーパーソンで、唯一東との交渉権を持った存在だったから…」

 …そう、か。


 ……あれ?待って、今、思い出した。


「……待ってください、おかしくないですか?」

「…?何が?」

「晶さんのお母さんが、XYZが設立されたきっかけなんですよね?」

「……うん、そうだよ」

「ごめんなさい、ちょっと失礼します…」

「…どうした?ワキノブ」

「いえ、今、なんかふと思い出して…ネットで調べてみたら…あ、出てきた」

「?なんだ?どうした」

「…XYZ、来年で創立80周年って書いてあるんですけど…」

「……え?」

「…東西の代表と、XYZは…一体、何を知ってるんですか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ