表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
"環"  作者: 正さん
五章
39/40

三十九話「さらば」


 旅行が終わって二日。

 それと同時に、華菜ちゃんと俺は血の繋がった実の兄妹なんだと本人にバレて二日経った。

 いや、宮部さんにバラされて、二日。

 バラして貰えて、二日経った。


 この二日間、俺がしていた事と言えば、課題だったり散髪だったり、学生としての義務と新学期に向けての準備。

 そして、卒業してから俺がやるべき事への腹を括ること。

 このまま、華菜ちゃんと疎遠になってしまったとしても、俺が過去にした決断。

 いや、させられた決断を。させられた決断であっても、今更曲げる事は出来ないから。


 やっと華菜ちゃんと会えた。それは事実。

 ずっとしたくて、ずっとやりたかった夢が叶った。

 そして、夏休みに楽しい時間を過ごせた事も事実で、一瞬ではあったけど、華菜ちゃんと兄妹として過ごせた時間があったのも事実。

 大きく息を吸い込み、ボールペンを握りしめ、真っ白な便箋を見つめた。

 隣に置いた茶封筒には筆で書いた漢字二文字。


『遺書』


 遺書という概念を知ってから、その一行目をどうしようか、ずっと考えていた。

 震える手。浅くなる息。深くなる後悔。


『まずは、この世に生まれた事へのお礼を言わせて貰いたい』

 そう書いて丸めて捨てた。

『この世に生まれて』

 また丸めて捨てた。


『後悔し続けて生きてきました』

 息を吸い込む。

『俺は二度死ぬんだと思います。無責任で放任主義、でありながら何かにつけて責任を取ろうとしてるような、矛盾した自分を今ここで殺す決意をしました』

『これは俺の死を表す遺書。遺言でありながらも、名だけは生かせ続ける決意のための予言書であると』

 破って捨てた。

 頭を抱えた。


『死にたい』

 そう書いて、畳んで封筒に入れた。

 そして、出して便箋を破って捨てた。

 ずっと考えて、かきむしり、頭皮を撫でると髪が何本か抜けた。

 考えて、考えて。

『ありがとうございました』

 そう書こうと決意して、やめた。

 まだ、俺には書けない気がしたから。


「……晶…」

 その時、スマホに晶から連絡が。

 通話ボタンを押し、電話に出ると晶の後悔しているような、悲しんでいるような穏やかな声が聞こえた。

「…うん、分かった」

 そう返事をし、電話の向こうの晶に誘われるがまま、佐鳥家へと向かった。




「晶、言いたい事があるって言ってたけど…何?」

 佐鳥家に到着した俺を待っていたのは、少し落ち込んだ様子の晶だった。

「身の回りであったことを共有し合わへんか。お互い色んな事件が起きてるせいでもうてんやわんややろ」

 晶らしくなく、諦め、投げやりな口調。

 佐鳥家のだだっ広いリビングで、組の奴らから追いやられていた癖からか、隅の方の席に座る晶の右隣に腰かけた。

「…そうだな。いつか色んな事を頭からケツまで話したいと思ってたんだ。華菜ちゃんの事を知ってるのは、お前と、宮部さん、あと華菜ちゃん本人だけだから」


 俺の言葉を聞いた晶は、大きく息を吐き、謝罪の言葉を口にした。

「…あん時はごめんな。あの子に謝らせるべきなんやろうけど…一応、今はうちに謝らせて」

「分かった、謝罪を受け入れるよ…こんなとこに呼ぶわけにはいかないもんな」

 晶は頷き、拳を固く握りしめた。

「…そや。ちょっと前までは家に呼んでみんなで遊んでたんやけどな…多分、あんたんとこの蹴上に朱里がボコされて…」

「…そりゃあ、危険かもって思って当たり前…ってことか」

 俺の言葉に晶は二度頷いた。


 朱里さんを暴行したのは蹴上だったのか。やっぱりというか、なんというか…。

 とことん晶派を排除して、俺をトップに押し上げて…組織を裏から牛耳るつもりなんだろう。

 見え透いた手口ではあるけど、晶がこうして落ち込んでるのを見る限り、効果はてきめんだったというか…変なところで頭の回る奴というか。

 親父はなんであんな奴を若頭にしたんだ…?


「…あんたは最近どうや、なんか変化とかあったか」

 晶からの問いかけ。

 少し考えてから、最近あった大事件。親父の事を打ち明けることにした。

「…俺は実の父親が殺された」

 俺がそう言うと、晶は大きく息を吸い込み、目を見開いた。

「…殺されたんか」

「あぁ、見舞いに行ったら封鎖されててな…嫌な予感がしたから看護師さんとか警察官に止められながらも無理矢理押し入って…そしたら、病室が荒らされた形跡が見えた」

「……」

「…天井に飛び散った血痕も見えた」

「それは…ご冥福を」

「…やめてくれ、お前からそんな言葉聞きたくない」


 晶は俺の背を撫でてくれ、俯く俺を見つめながら、苦しそうに眉間に皺を寄せていた。

 それは、感情が無くて冷酷だと噂され、揶揄され、卑下されている晶らしくない表情だった。


「…平気か?」

「平気じゃない。だから犯人を特定して痛め付けてやりたいんだ」

「犯人の目処はついてるん?」

「…東の幹部ん中の誰かの仕業だろ。それ以外…」

 晶は俺の言葉を聞いた瞬間、黙り込んでしまった。


「…」

「何だ?」

「…あのな、関東行った時に東の組の下っ端と話す機会があって、そこで聞いたんやけど…」

「……」

「東の幹部連中、去年から中国とか韓国とか回って集金したり色々集めとるらしいで」


 ……。


「…………は?」

「…帰ってくんのは一ヶ月後やって言うてた」

「誰からの情報だ?確実なのか」

「下っ端じゃ信頼できひんからな。伝手使って扇家から情報手に入れたんや。それなら確実やろ」


 扇家。晶の母親の…旧姓。

 扇に対して、ずっと抱いていた疑問。


「…うちの、レン君から聞いたのか」

「そうや。あの子は関東の組長候補の一人やしな。所謂あんたと同じ「若」や」

「…なら、俺の父親を殺したのは内部の奴、もしくは東の鉄砲玉ってことか?」

「…そういうことになるな」


 やはり、レン君は扇家のご子息だった。

 二年を二回やってるって聞いた時には、レン君の飄々とした態度のお陰で面白く思ったもんだけど…。

 あの子が東の組織の若なんだとしたら…全部、考えがあっての行動なんだろうな。


 俺の横顔を見つめている晶は、大きく息を吐いた。

「環、あんたはこれからどうしたい?」


 どうしたい。

 そうだな。


「あいつらが帰ってくるまでで良い。俺と協力しないか。俺の組とじゃなく、俺個人との協力だ」

「対価は?」

「俺の名前を好きに使う権利でどうだ」

「…分かった、そっちもわしの名前好きに使って良いよ。それで貸し借り無しでいこ」

「わかった」

「何からする?」

「…夏休みが終わるまで、お前の家と本家の中間地点に潜伏しようか」

「中間か…え、あのへんってラブホ街ちゃうか?えっち」

「そんなつもりはない。水商売が盛んに行われてた場所ってだけだ。ラブホもあったけど今は潰れてどこも廃墟だよ」

「廃墟で潜伏か~、まあ、うちらだけならまだしも組の奴らも動かすんなら暴対法があるから派手な事出来ひんし仕方ないな」

「あぁそうだな。晶は山ノ江と、俺はお前んとこの宮神と行動しよう。冴木には見張りを」

「一丁前にわしの可愛い子らをパシりよって」

「それが性分なんだ」

「確かに」

「やるぞ」

「はいはい」

「家から色々持ってくる。じゃあ中間地で一時間後に」

「了解~」








「環、連絡つかんから宮神と一緒に迎えに来たよ」

「……」

「……環?」

「……」

「…た、まき……?その、血……何…」

「………親、父……俺、帰っ、たら、こう、なっ、て、て」

「宮神、救急車呼べ」

「お、俺、救命、方、法、知、らなくて」

「分かった。分かってる」

「……お嬢。血が乾いていますし…それに、匂いからして……恐らく、数時間は経過しているかと……」

「そんなんええからさっさと車出せや。この辺病院あったやろ、そこ連れてくぞ」

「…晶、これ、この、状態で、親父が、息、吹き返すわけ……ないだろ………ここ、千切…れて…」

「……環」

「…………晶…俺、俺…どうしたら………」

「…しばらく佐鳥んとこで休め。うちからみんなには説明しとくから。宮神、こいつ風呂入れたって」

「…分かりました。環さん、こちらへ」

「……」

「!!」

「?どうされました、お嬢」

「環…これ見ろ、背中にある紙……」

「…まさか…遺言状、ですか…?」

「……!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ