三十七話「線香花火2」
「次ぼくがひみつ言うね!」
その後、私達の涙につられたのか、みんな揃って号泣し、落ち着くまで、近くの屋台で買った焼きそばやいちご飴を食べてから、なんとか仕切り直し、線香花火に火をつけたところでレンが手を上げた。
「なに?」
レンの秘密か…環の次くらいには気になるかもしれない。
飄々としてて何考えてるか微塵も読めないレンがいったいどんな秘密を…。
「実はぼくもあきらさんのスパイだった」
…。
「は!?」
「安心してかなちゃん!ぼく、あきらさんの親友のあきとくんとおともだちしょ?そのながれでやるよって言ったけど、もうやめたし、情報もなにひとつわたしてないから!」
あー、なら、よかった…のか?
「それ以外はとくに隠したいことはないよ、気になることがあるならぜんぶ聞いてくれたらこたえられるから!」
なんか、レンの口ぶりからして、話してる事はマジなんだろうけど…なんというか…。
直感的に、レンを敵に回したら一番厄介なんだろうなって思ってしまうな…。
「…あの、次、俺が言っても良い?」
レンを見て怯えていた時、アオダイショウが恐る恐る手を上げた。
「……ちょっと重い事で、話し辛いんだけど、俺の秘密らしい秘密はこれしかなくて……」
怯えた様子のアオダイショウ。
なんて声をかけようか躊躇していると、アオダイショウの隣に座っていた環が声をかけた。
「話しても平気なら話して欲しい。でも、ダメそうなら俺が先に言うよ?そうしようか?」
環の言葉を聞いたアオダイショウは首を横に振り、少し息を吸い込んでから打ち明けてくれた。
「……中学の時、いじめられてた…」
「……」
「…それがトラウマで、誰からも舐められないように、鍛えたり、色んな事をしてみたんだけど、中身だけは何をしても変えられなくて…全部がコンプレックスになってしまってる」
…アオダイショウ。
「…話してくれてありがとう…聞けて良かった。何かあったらいつでも声かけて。一人で居たくないとか、夜道が怖いとか、どんなことだって良い。いつだって助けになるから」
環はそう言いながらアオダイショウの背を撫でた。
アオダイショウは切なそうに頷き、眉間に皺を寄せ、目をぐっと閉じた。
「……次、俺が言うね」
アオダイショウに優しく微笑みかけながら環がそう言うと、てつが割り込んだ。
「いいや、俺が先に言います」
「え、なんで」
「いいから」
困る環を制し、てつは大きく息を吐いてから打ち明けた。
「誤解されそうだし、からかわれそうだけど、本心なので言います」
「……」
「……俺、環さんが大好きです」
てつはそう言ってから、後悔したのか、俯き、線香花火をじっと見つめた。
「…それが秘密?みんなが分かってることだよ?それは…」
そんなてつをからかうように、帷子がそう声をかける。
「良いんすよ。俺はみんなが思ってる倍環さんが好きなんす。これが俺の秘密なんすよ!」
てつはそう言いながら環の事を見つめ、目があった環は照れ臭そうに、呆れたように首を横に振った。
「……うん、分かったから…」
しばらくの沈黙の後、みんなの視線が環に向けられた。
環は視線に気付き、一人一人に目を合わせてから、大きく息を吸い込んだ。
「俺の秘密は…これが、俺にとっての…最後の夏ってことかな」
……。
環はそう言い、私の顔を見つめた。
「…だから、思い残すことのないように、思う存分楽しみたかった。後から思い返して、それだけで楽しめるくらい」
……。
「…楽しかった?」
「……うん、今までの人生で、今年の夏が一番楽しかったよ」
環はそう言い、線香花火へ目をやった。
みんな何かを察したのか、何も言わず、環と同じように、ただただ線香花火を見つめた。
「綺麗だね、花火」
声をかけられ、ふと、隣へ目をやった。
ノースリーブを着た菜那さんの、私のとは少し違うはんこ注射の跡。
菜那さんの、ワキノブと半分だけ似ている目が、花火を反射してキラキラと輝いている。
その、菜那さんの横顔を見て、この夏に終わって欲しくないと、心の底から強く思った。
焼けた火薬の匂い。鼻の奥から香るさっきみんなで食べたいちご飴の匂い。制汗剤の甘くてきつい匂い。
消えて欲しくないと強くそう思った。
「……あっ」
「華菜ちゃん落とした~!」
「くだらない罰ゲームだな!!ねえ!年下に敬意は!!??」
「払ってる払ってる~」
菜那さんが提案した罰ゲームは、ベンチで待つみんなのところにみんなの鞄を持っていくという簡単な罰ゲームだった。
「…よいしょ……うわっ…!!」
それに対してわーわー文句を言いながら、一気に持っていこうと三つくらいを持ち上げた時、想定よりも鞄が重く、バランスを崩したところで、私の身体を支える手が現れた。
「……アオダイショウ…?」
「ごめんね、それ俺の鞄だ…本とか入れてるから重かったよね…」
驚いて飛び退いた。
「……あ…いや、へ、平気…」
「!あ、ご、ごめんね…身体触っちゃって…」
「それは、あの…だ、大丈夫だから…」
あれ、おかしいな、環に近付かれた時はそんなに緊張しなかったのに…。
……それは、やっぱ、DNAが近いから、とか、そういう関係だったりするのかな…。
「…菜那も酷いよね、こんな妙な罰ゲーム提案してさ」
しばらく考えていた時、アオダイショウがそう言った。
…確かに、この罰ゲームは…アオダイショウの昔の経験を考えたら、少し酷なものだったりするか。
「私は平気だよ、なんとも思ってないから…まあ、妙な罰ゲームってのには同意するけど」
私がそう言うと、アオダイショウはくすくす笑ってから、私の手に持っていた鞄を持ち上げ、地面に一度置いた。
「分けて持っていこうか」
「え!?」
「いいの。今は甘えてよ」
「……わ、分かった」
「よし!」
そのまま、言われた通りに軽めの鞄を選んでいると、先にみんなのもとに向かうアオダイショウが鞄を一つ置き忘れている事に気付いた。
それをよく見てみると、さっきアオダイショウが「俺のだ」と指差していたもので。
「ねえ、これアオダイショウの?」
そう言いながらアオダイショウの鞄を持ち上げると、鞄が半開きだったのか、中から箱のようなものが飛び出した。
それを拾い上げると、箱のような物の正体は、紙煙草だった。
「……あ」
顔を上げると、アオダイショウは目を見開き、焦ったように、煙草と私を交互に見た。
「……」
何も言わず、鞄に煙草を戻し、アオダイショウに鞄ごと手渡した。
アオダイショウは申し訳なさそうに眉を下げ、気を遣ってくれてるのか、私の持っている鞄も持とうと手を伸ばす。
「大丈夫。これは菜那さんの鞄だよな?」
「……え?あ、うん…」
「これはレンの…軽すぎだろ、なんであの人らこんな荷物少ないんだ?」
「……華菜ちゃん…」
「誰にも言わないよ、分かってる」
「…どうして」
「友達だから。よし、全部持ったな、行こう」




