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"環"  作者: 正さん
四章
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二十二話「百々からの告白」


 珍しく、百々が放課後に私達全員を、百々と初めて会った中庭に呼び出した。

「…あ、来てくれた、本当に来た、来るとは思わなかった、どうしよう、困るな」

 私達を呼び出しておきながら、何故か動揺している様子の百々。

「なんなんだよ…呼び出しておいて…」

「あはは、ご、ごめんなさい…来てくれてありがとうございます、本当に…」

 私の言葉に、百々は困ったように笑いながら眉を八の字に曲げ、私達全員の顔を見比べてから、大きく溜め息を吐いた。


「……華菜さん…」

 私の隣に立つワキノブ。

 横顔を見るに、どこか不安げな様子だ。

 そんなワキノブの背を撫でると、百々がワキノブと私を見つめてから、恐る恐る口を開いた。


「忍君の決意と、澁澤さんの優しい言葉と、華菜さんを見ていると、自分が今している事へ不信感を抱き、そして、不誠実だと思いました」

 そう言い、大きく息を吐いてから、しっかりと私の顔を見つめ、こう続けた。



「佐鳥晶に命じられて、皆様の情報を彼女に横流ししていた事を、ここで謝罪させてください」

 百々はそう言い、私達に向けて頭を下げた。


「はじめちゃん…貴方が…スパイだったんだね」

 菜那さんの残念そうな声。

「はい、そうです…額塚さん。晶のスパイとして動いて、みなさんにご迷惑をおかけして、心から、申し訳ありませんでした」

 百々は頷き、菜那さんに向けて頭を下げた。

「大丈夫だよ、もう謝んなくて良いから」

「華菜さん…」

「大丈夫だよ気にするな。百々がスパイなんだろうな~ってみんな心の中で思ってたから」

「えっ?」

「こ、こら、華菜ちゃん!」


 澁澤と私のやり取りを聞いた百々は不思議そうに首を傾けた。

「…スパイだなって、分かってるのに、私と仲良くしてくれてたんですか?」

 その言葉を聞いたてつが頷いた。

「そうっすよ!だって"疑わしきは罰さず"って言うじゃないっすか!」


 それを聞いた百々は、私達一人一人の顔を見、そして、悔しそうに俯いた。

「……今になって思いますけど、何で晶に協力していたんだろうって思っちゃいます…本当今更って感じなんですけどね…」

 さっきまで黙っていた艮が百々の言葉を聞き、身を乗り出してこう尋ねる。

「まずさ、創君が晶さんに協力しよう…って思った、理由とかきっかけはなんだったの?話を聞く限り晶さんに脅迫されて仕方なく、ってわけじゃ無いんでしょ?」


 百々は一瞬黙り込み、照れ臭そうに、でもどこか悔しそうに答えた。

「……か」

「か?」

「…顔が、物凄く…タイプだったんです…」

 しばらくの沈黙。帷子は百々の顔を見つめ、ゆっくりと頷いた。

「……まぁ、晶さんって飛び上がるくらいの美人だもんね…」

 それを聞いて考えてみた。高い鼻にぱっちりした目、長い睫毛、綺麗な髪の毛にモデルのようにスレンダーな体型。


「……うん、それは…分かるわ…あの美人に言われたら断れないかも…」

「…確かに、あの人にお願いって頭下げられたらな…」

「……利用されても良いかも、って思っちゃうかもな…」

 同意する艮、レン、てつの男性陣、そして私。

「それにめっちゃいい匂いするしな…」

 私の言葉を聞き沈黙するみんな。

「なんで華菜さんが一番変態っぽいコメントするんですか」

 ワキノブの強めのツッコミ。

「そうなんです…あの、華菜さんの言った匂いの件以外の要因と…」

「なんで私を変態扱いすんだよ」

 私がそう言うと、皆が気まずそうに目を逸らし、百々に「続きを話せ」と促した。

 百々はそんな私を見てから、困ったように笑い、こう続けた。


「断ったら、殺されるような気がしてしまって」

 少し震える百々の声。

「……まあ、確かに、晶って怖いからね…」

 環が、俯く百々の背を撫でながらそう言うと、百々は不思議そうに顔を上げ、同意した。


「え?いえ、あの、そう、そうです…晶さんに殺されそうで…晶さんが怖いから…」

「だよね、怖いっすもん…」

「どどくん、うちあけてくれてありがとうね…」

「さて、ならもう大丈夫?話すことない?よし!カフェ行って茶しばいて帰ろっか!」



 なんとなく、不審に思った。

 こういうスパイだったり、晶に関する話の時、間に入って、話を切り上げようとする人がいるな、と。


「…?華菜さん、どうかした?」

 ……でも、疑わしきは、罰せず…だもんな。

「……いや、なんでもないよ…ワキノブ」

 今のところは、こんなのは単なる杞憂だと思うことにしよう…。



──────



「また明日なー!」


「はい!華菜さん!また明日!」


「百々創君」


「!!あ……晶……さん…」


「百々君はさ、恋愛と、友達、どっちが大切だと思う?」


「…晶……さん…」


「悲しいな、裏切るなんてさ」


「…」


「…君の好きな海外のドラマってあるやん?女の子四人が出てくるやつ…そのドラマで、君の好きなキャラが病気になった時、側で支えたのは恋人やったよな」


「……」


「もう一回聞くよ?君は、恋愛と友達、どっちが大切やと思うん?」


「…ネタバレに、なりますけど、最終的にその二人別れますよ…。彼女が、自分の、人生のために……」


「……」


「…あの子は、友達と、自分を選んだんです」


「…うん、そっ……か」


「…私も、彼女を見習って…そう生きていきます」


「…負けた、にわかが出た!大ファンには敵わんみたいやね!」


「では、失礼します」


「百々くん待って……最後に一個だけ良い?」


「……何、ですか…私、もう行かなきゃいけないんですけど…」


「続編には出んらしいな、君の好きなキャラ」


「……!」


「君も、そう、ならないといいね」


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