十八話「スパイ?」
「スパイがいる?」
松田龍馬や、噂が広がらなかった事について考えていた私は、皆をいつもの中庭に集めずっと考えていた事について話すことにした。
「噂が思うように広がらなかったり、しようとしたことを遮られたりしたんだよ」
私の言葉を聞いて頷く百々。
「遮られたっていうのは、どういう…?」
「前、晶に話しかけようとしたら晶の仲間に邪魔された」
「…その一回で、ですか?」
百々は私の言葉に首を傾げた。
確かにそれはそうだ…と引き下がろうとした時、ワキノブが百々の顔を見つめながらこう言った。
「一回でも妨害は妨害でしょう」
「…うん、それも、そうだね」
百々はそんな私達を見て不思議に思ったのか、突然、こんなことを言い出した。
「忍君と華菜さんって、凄く仲良しですね」
顔を見合わせる私達二人。
そんな私達を見てから、百々は、どこか寂しそうにこう続けた。
「良いな、私、友達いないから…少し羨ましいかも」
「あー……」
「……」
「……」
「ちょっと分かるかも…俺も友達あんまりいないから…」
艮までそう来たか。
き、気まずいな。
ワキノブと顔を見合わせ、どうしようか伺い合っていたその時、ずっと私達を無言で見ていた澁澤が口を開いた。
「そういえばさ、俺みんなに言おうか悩んでたんだけど、少し前に晶と会ったんだ」
「え?」
「え~なにそれ初見~!!」
「初耳なんすけど!」
「そうだ初耳だ、私バカなのかも、目じゃなくて耳だよね」
「あの、今は一旦、澁澤の話を遮らないで」
澁澤に話を続けるよう促すと、澁澤は嬉しそうに頷き、私にお礼を言ってからこう続けた。
「ありがと、まあ、俺から話しかけたんだけどね?晶に「君は今何がしたいの?」って聞きたくて」
澁澤の言葉を聞いた菜那さんが澁澤にこう尋ねる。
「もっとマシな言い方なかったの?」
「なんか額塚さんらしくないっすね、まともな事言わないでくださいよ」
「は~~~~!!??」
「……続けて良い?」
「続けて続けて、私達の事は気にしないで!」
「うっわ…その言い方マジで嫌なんすけど…」
菜那さんの言葉に、何故か頭を抱えるてつと、それを見て笑う菜那さん。
それを見た澁澤は、声を出して笑ってから、何故か帷子の顔をじっと見つめ、澁澤と目が合った帷子は一度頷き、話を続けろと促した。
「…そうしたら、晶は…俺らの内部事情を次々に言い出した」
息を呑むレン。
「たとえばどんな内部事情?」
レンの質問を聞いた澁澤は、どこか悲しそうで、でもどこか嬉しそうな声色で答え始めた。
「遥が変な女の子達とばっかり付き合ってるとか色々ね」
それを聞いた百々が帷子の方を見つめた。
帷子は、百々が自らの方を向いたことに気付き、百々の顔をじっと見つめながら首を横に振った。
「創、僕が自分の恋愛事情を君ら以外に大っぴらに言うようなタイプに見える?」
すると、百々も同じように首を横に振った。
「いや、そうは見えないよ…私のは聞いても自分のはあんま言わなかったもんね…」
「だよね、ならよかった」
「どんな子と付き合った?後で教えて」
「うん、後でね?」
「あぁ…やっぱり私ばっか損してる気がする…私だけ知らないって何…」
微笑む帷子。少し悔しがる百々。
それをじっと見つめ、何かを考え込んでいた艮が口を開いた。
「あの…色々って他には何を言ってた…?言いにくいことなら深くは聞かないようにするけど…」
澁澤は艮の顔を見つめ、そして、少し照れくさそうに、笑いながらこう答えた。
「てつが俺のこと大好きとか…額塚さんが名前を覚えないとか、そんな些細で可愛い情報だよ」
「は?いや!大好きって…尊敬はしてるけど大好きではないっすから!」
「嘘つけ、愛してるくせに」
「額塚さんよ!お前は黙っててくれるか!」
「は~~?酷すぎ!その言い方!!」
「愛の形はそれぞれだから否定はしませんよ…叶うといいですね」
「ワキノブ君だけはそういうこと言わないと思ってたんすけど…ああ、最悪だ…」
頭を抱えて唸るてつ。
「でも、どんな些細な情報だとしても、晶って人が私達について知り尽くしてるって事は事実…ですよね」
ワキノブから出た言葉を聞いた皆が一斉に口を閉ざした。
「……確かに、なんか…ちょっと、そう考えると怖いかも…」
帷子が頷くと、レンが帷子の顔を見てから同じように頷いた。
「だから本当に、中にスパイがいるかもって…思っちゃうのは分かりますね」
百々の言葉を聞いた皆が、一斉に百々の方を見た。
「……え」
なるほど。皆の考えが手に取るように分かった。
安直かもしれないけど、妨害は百々が来てから起きたな。
「…」
百々はしばらく黙り込み、ポケットからゆっくりとスマホを取り出し、何かを操作してから私達に画面を向けた。
「これは、少し、モラルが欠けているかもしれませんが…協力したくて撮った写真があるので見てください」
「……こ…れは…」
そこには、どこかで会った地味な女生徒と晶が親しげに話している姿が映っていた。
お互いの髪を撫でたり、お互いの爪を見せ合ったり、照れ臭そうに話して、耳に何かを囁いている様子だ。
晶もこんな可愛い顔するんだ…なんて思いながら見ていると、ワキノブが身を乗り出し、画面をじっと見つめこう言った。
「…これ、もしかして…宮部さん?」
宮部?宮部といえば…艮と仲良くなる前に会いに行って、菜奈さんに向かって「誰?」って言った、三年の地味な女の人か…。
「レンさんから聞きましたけど…額塚さん、貴方宮部さんと親しいんですよね?」
「え、うん、親しいと思うけど?あの時「貴方誰ですか」って言われたけどね」
「えぇ…その宮部さんは、見て分かる通り、晶さんと相当の仲良しみたいですよ」
「…えっ」
黙り込むみんな。
帷子も菜奈さんの顔と、百々が表示している画面に映っている二人を見比べている。
「…環さんは知ってましたか?宮部さんと晶さんの関係を」
環は画面に映る晶を見つめてから、ゆっくりと首を横に振った。
「…いや、知らなかった…」
百々が提示した証拠を見た皆が黙り込んだ。
「……」
その時、皆の顔をじっと見つめて黙り込んでいたレンが口を開いた。
「…だれがスパイとか考えてうごくのは、軽率なんじゃない?」
レンから出る冷静な言葉。
「そうやってぼくたちが分断するのがあきらさんの作戦なのなら、ぼくらはそれにひっかかっちゃいけないよ」
それを聞いた澁澤が数回頷く。
「あの、俺も……これから少し警戒するとしても…俺らん中でああじゃないこうじゃないって言い続けるのは、違う気がするっす」
てつもレンと同じ考えだったようで、レンに同意しそう発言する。
「…それも、そうですね…軽率でした、反省します」
百々はスマホを閉じ、ポケットにしまいこんだ。
…私も反省しなきゃいけないな。疑わしきは罰せずってドラマでも言ってたし。
みんなに謝らなきゃいけないな。
「あの、私も……色々ごめ」
「あ!!!!!」
「うわ」
「びっくりした」
「何」
「怖」
その時、百々が、何か連絡が来たのか、ポケットにさっきしまったばかりのスマホを取り出し、簡単に操作して、突然立ち上がった。
「彼女からメッセージ来た」
「まだ元カノと連絡してんのかよ!!」
「これ聞いたら行けって言うよ!華菜さんも絶対思うから!」
「なんて来た!!」
「ほら!『カフェ行こ♡あのときはごめん♡』って!」
「はじめくん、その行動、軽率だよ」
「ふふふ、レンくんそういうこと言うんだね…面白すぎる」
「でも!でも!環さん、廉さん、私の彼女が」
「どうせ奢らされて終わりっすよ!!座って!!」
「百々くん絶対ダメ!行ったらまた依存されちゃうから!!」
「創、おばか元カノに奢るなら今カレの俺に奢って」
「そうだそうだ~!」
「本当に行っちゃダメだと思うよ…?」
「待って!なんで誰も遥の今カレにツッコんでくれないんですか!!!あ、艮君、被ってごめんね…」
「行ってください」
「おいワキノブお前正気か」
「行って女の顔に水かけて帰ってきてください、あたしはあんたのおもちゃじゃないのよって」
「そうだそうだ~もうあたしであそばないでちょうだい~ってビンタして帰ってきて!」
「レンさんの言う通り!そう!ロン毛ひらひらはためかせて帰って来れば良いんすよ!」
「皆さんの中での私のイメージなんなんです?私もしかしてDIVAだと思われてる?」