十三話「百々創」
6月3日。昼休み。
晶と話して数日が経った時、菜那さんが作ったチャットルームに澁澤からの連絡が入った。
「転校生が来たよ」
こんな時期に転校生?と返信すると、澁澤は犬が側転をしているスタンプで返信してきた。
意図掴めんし正直意味不明だけど、なんか触れるに触れられず「そっか、報告してくれてありがとう」とだけ返信しておいた。
横で見ていたワキノブはくすくすと笑ってから携帯の電源を切り、私の顔をじっと見つめた。
「転校生の事どう思う?」
私がそう尋ねると、首を傾け、少し何かを考えてからこう答えてくれた。
「もしかしたら、例の女の、関係者かも?」
「確かに、この時期に転校生って、妙な感じするよな」
「本当に…今のこの時期、華菜さんと晶さんが二人で話したほぼ直後に転校生が来るってだけで、ちょっと怪しいですよね」
「な…マジで怪しいと思うわ…」
「偶然であればいいんですけど…」
「うん…」
ワキノブと二人で、転校生について、澁澤の謎のスタンプについて話していると、澁澤からまたメッセージが。
今度は簡潔に、分かりやすい表現で、こう書いてあった。
「転校生と友達になったよ」と。
ほう。
「……あの人何してんの?」
「わからん…でも頼む手間省けたわ……」
「えぇ…?」
転校生という存在がいることを知ってから、どうやって接触しようか。どうやって探ろうか。もし協力者なら転校生側からこっちに接触してくるよな。でもそれを待っているだけっていうのは少しモヤモヤするな、なんて色々考えていた私達をまるで見抜いていたかのような澁澤からのメッセージ。
なんというか、少し怖くなった。
「華菜さん、利用するものは利用するんでしょ?」
それを見抜いてくれるワキノブ。
私は、安心した。
端から見ればワキノブを疑うべきだと言われるかもしれないけど、ただ、ワキノブが好きだった。
だから、信じたかった。信じていると決めたんだ。
「こん、にちは、まさかこんな大勢と会うとは思わなかったんですけど…1、2、3……あれ…?」
放課後に会うことになった、澁澤から紹介された転校生は、丸刈りの男だった。
ぎょろりとした目に、下がった口角。真顔だと怒っているのかと勘違いしそうな少し怖い表情をしている。
背丈はワキノブと帷子の間くらいで…多分160こうはんくらい?で…190の艮に怯えている様子の男。
「わ、私は…百々、です…百々創」
「どどはじめ?かっこいい名前!私は額塚菜那!」
転校生に一番に話しかけたのは、やはり菜那さんだった。
美人に褒められて嬉しいのか眉を八の字にし「私の臓器が目当てですか」と失礼な事を言う百々。
「はーー!?なにそれ!私ド正直に褒めたんですけど!」
怒る菜那さんに怯え「ごめんなさい!」と連呼する百々創。
艮と同じように、見た目で誤解されやすい男なんだな、と思った。
彼は私の顔をチラリと見てから、軽く頭を下げ、ぐっと目を逸らした。
「三年生で転校なんて…色々大変だね…」
帷子がそう言うと、百々はゆっくり頷きこう呟いた。
「それも家の事情で、ですよ…なんか、身勝手な感じがして嫌な気持ち分かります?」
家の事情で転校…それも三年で、か。苦労しているんだな。
頷き「分かります…大変ですね」と言うと、百々は二度頷き、自分の首の後ろを左手で撫でながら「初対面なのに愚痴を言ってしまってごめんなさい」と、悲しげな表情をした。
なんか…思ったより、良いやつっぽいな、本当に。
「貴方が、例の、人ですか?」
百々の回りで好きに話しているみんなを見ていた時、百々がこっちを向き、私に話しかけてきた。
こいつの口調から察するに…またクラス票での話を持ち出されるんだろうな、と察してしまった。何回私は否定しなきゃいけないんだ?
「お兄さんのために進学先選んだっていう、優しい妹さん」
「違う私は蹴散らしてなんか、あ、いや、あの、え?」
「え?別の人?蹴散らしたって?何の話です?怖い…」
百々と過ごして、多分そろそろ一時間かそんくらい。
ワキノブと二人で行ったのと同じファストフード店に行って、例の女についての話はせず、お互いの趣味や好きな物の話をしている間、百々はずっと自分の携帯を気にしていた。
まさか、例の女からの連絡を待っているとか…?百々は例の女と繋がっているのか?と思いながら百々の表情を注意深く伺っていると、私の考えに気付いたのか、澁澤が私の顔を見てから一度小さく頷き、百々の肩を優しく叩いた。
「…さっきからずっと携帯見てるけど…連絡待ち?何かの懸賞にでも応募したの?」
うわ、なんか、嫌な聞き方…。
すると、百々は澁澤の方を見てから「ごめんなさい」と謝り、私達に小さい声でこう答えた。
「あー、その、知り合いからの連絡を待ってるんです、ちょっと…その、も、揉めていて…」
その言葉に、澁澤とワキノブが顔を見合わせた。
「その知り合いの方って、どんな人なんですか?」
ワキノブがそう尋ねると、百々は眉を八の字にしてから小さく唸り、携帯を一度見てから、下唇をグッと噛み締めた。
そんな、誰なのか言い辛い…人なのか。
なら、もしかしたら、こいつは…やっぱり、晶と関係あるんじゃ…。
澁澤、ワキノブ、そして私以外にも、菜那さんと帷子も、そして艮もてつもレンも百々を怪しく思ったのか、百々の言葉を注意深く聞いている。
百々はしばらく悩んで、泣きそうな顔をしてから辺りを注意深く観察してから、小さい声でこう答えた。
「…私が、連絡を待っている相手は…」
「うん……」
「…一週間前に…別れた…彼女…です…」
「あー……」
それは…言い…辛いよな……。
「…あの、聞いて…ごめんね」
「…なんか、良い、解決策、見つかると、良いね」
「……気を遣わないで…もっと、辛くなるから……」