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KARMA fake:recognition  作者: 藍月琉
第一章 灰の舞い落ちる日
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「ちょっと、狗神くん!?」

困惑する高木繭花をよそに、シロは苅磨の命令の通り走り出した。

「シロ戻って!!」

必死にシロに呼び掛けるが、シロは脚を止める気配がない。



ーーよし、シロ後は任せたぞーー


対峙する鹿の頭の様な角を持つ巨大な怪物。

残すのは、苅磨と黒装束の少女と少女が残した武器の刀剣のみ。


しかも、少女は先程の怪物の一撃でノックダウンしている。

少女を連れて逃げようにも、彼女との距離が離れている。

まずは、怪物の注意を引きつけなければ少女が危ない。

少女が残した武器を使えば、多少は怪物とやりあえるかもしれない、武器は怪物と苅磨の間にある。

怪物の腕の攻撃の合間に滑り込めば、取れそうな位置だ。

怪物は、こちらの出方を伺っているのであろう。

少し呼吸を深く吸いながら、苅磨は目の前の事に集中した。


深呼吸を終え苅磨は相手を睨むと一歩踏み出し駆け出した。


苅磨が走るのと同時に、怪物も腕を振り上げ叩きつける。

瞬発力が勝負であった。


間一髪、滑り込んでそのまま怪物の股を潜り抜ける。


怪物の背後を取り、苅磨は武器を握りしめた。


いける!


「うおおおお!!!」


苅磨は、怪物に刀剣を突き刺した。



グオオオオオと怪物が咆哮した。

怪物の、身体に深く沈んでいく刀剣に力を込めた。


足下に血の池が広がっていく。


やった、効いてるみたいだ…。


そう思ったのも束の間だった。

苅磨が気づいた時には、自分の腹からドロリと血が溢れていた。





バンっと破裂音が倉庫に響いた。


「ううん?やたらと、五月蝿いから何事かと思って来ましたが…困りましたねぇ…。困りましたねぇ」


視界が霞んでいく最中、苅磨は見た。


怪物に気をとられていたが、どうやら人が他にも居たようだ。

苅磨の腹に穴を開けたであろう拳銃を拭きながら、異質な中世の甲冑のようなフルフェイスメットを被った男が、先程の怪物に似た角頭の怪物たちを連れて現れた。


「ふむ、此処もそろそろ引き上げる頃合いですかねぇ?というか、この娘は八咫烏の一員のようですが、この薄汚い少年、んん、んー」

そう言い男は、苅磨の髪を掴むと銀髪を確認するかのように吟味する。


「これは、ピンポーン閃きました!ワタシの実験に相応しいですね!ああ、今日は何てついているんでしょう!八咫烏の女に、銀髪の少年がおまけで付いてくるなんて素晴らしい!」



ドクターコートをたなびかせながら男は、掴んでいた苅磨の髪を放すと大げさに手を広げ天を仰ぐ。


フルフェイスのメットの隙間が、磔刑の十字架を表しているかのように怪しく光っていた。

「ああっといけない、自己紹介がまだでしたねぇ。ワタクシ、ドルイドと申します。以後お見知り置きを。とはいえ、アナタこのままでは死んでしまいますねぇ…」

怪しい男がコートのポケットから、何かを取り出すと再び苅磨に近づいてくる。



苅磨は、ギリギリの意識で男に問いかける。

「…菜月を…何処にやった…?」

「菜月?菜月とは、どなたか知りませんが、今日の収穫物なら、奥の部屋に居ますよ?何せ、此処結構広いですからね」



そう言いフルフェイスの男は、ポケットから取り出した小瓶の中身を注射器に移すと、黒い液体を苅磨の左腕に打ち込んだ。

怪しく光る仮面の奥で歪に笑いながら。



腕に何かが打ち込まれ、すぐに異変を感じた。

身体が熱い。掻きむしりたくなる。

自分の身体が溶けてぐちゃぐちゃになる様だ。

「ぐああああ、っううあああッ!!!」

声にならない悲鳴をあげる。


苦しい…!苦しい…!!苦しい…!!!


「さあ、さあ!灰の忌子が、蝶の様に羽化するか…、それとも…見ものですねぇ!」

黒いフルフェイスの男は、苅磨が苦しむ様子を満足気に眺めていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



第七倉庫から大分距離があいた。

つい先程までの出来事が夢だったら、どんなにいいかと高木繭花は思った。

まだ動悸が止まらない。

人気のない住宅街だったが、繭花の知っている場所だった。

シロから降りるとここまで送ってくれたシロの頭を撫でた。

シロは満足気に目を細めると、一声バウっと鳴いて元来た道を戻っていった。

パンっと、自分の頬を叩く。

「今、私が出来ることをしなきゃ」

高木繭花は、携帯端末をポケットから取り出した。



ーー狗神くんどうか無事でいてーー





暗い、海の中を漂っているようだ。



辺りには、見渡す限り何もない。



思考が定まらない。



自分が、何なのかも理解できない。



自分という、概念の存在自体があるのかも、最早怪しかった。



ただ、ただーー無ーーであった。



このまま、この海に溶けてしまおうかと思った時だった。



「あなた、探し物は見つかったの?」

突然、少女のような声が聞こえた。

サガシモノ…?サガシモノトハナンダ…?

サガシモノ…さがしもの…



「カルマ兄…!」



遠くで、菜月の声が聞こえた気がした。



静かだった水面は、石を投げ込まれたように波紋が広がっていく。

そうだ、自分は…菜月を探さないと!

走馬灯のように思い出が駆け抜けていく。

「忘れないで、自分を…自分の大切なモノ達を…そしたら、きっと大丈夫」

少女の声が、だんだんと遠のいて行く。

「待って!アンタは…一体!」

苅磨が少女に呼びかけるも、もう少女から返事が返ってくる事は無かった。



苅磨は暗い海を、がむしゃらに浮上して行く。

思い出せ思い出せ!!自分を!!自分のいた世界を!!




カハッと少年の口から黒血が溢れ出した。


身体が痛みで熱い。


体内の血液が、沸騰したように煮えたぎっている。


左腕からは、まるで爬虫類の鱗のようなトゲが生えている。


これ以上侵食されては堪らない。


グッと力を込める。


「ぐあっ!?」


痛みで、意識がキーンと遠くなる感覚だ。


こんなところで、負けてたまるかそれだけで気力を保っていた。




「アハッ!アハハハハハハ!!アヒャハハハハハハハ!!ひーひー」



苅磨に劇薬を仕込んだ張本人は、さぞ楽しそうに手を叩きながら嗤っていた。


フゥと、ひと息ついてから、男は語りだす。

「戻ってきた、戻ってきた!死に損ないが!!素晴らしい、素晴らしい!今まで、何人もの人間がヒトの姿を保っていたことなんてなかったのに!」


嘲笑っている男に、苅磨は睨みながら一瞥を投げた。


男のカンに触ったのか先程とは様子が変わった。


「貴様、誰を見ている!生意気な実験体だ!!」


「…許さない…。お前を…絶対に許さない…!!」


「誰のおかげで素晴らしい体験!!を出来てると思っているんです?はぁ…、身の程わきまえてもらいましょうか…!」

男は苅磨の態度に、呆れながら苛立ちを隠さない。

「おまえたち、命令です。もう二度と反抗できないように痛めつけなさい」


そう言うとパンパンと二回ほど手を叩き、連れの怪物たちに合図した。



怪物に腕を掴まれ苅磨は宙に浮いた。


「フンッ、やりたいならさっさとしろ…!」


少年は強気に怪物たちを煽った。


「グァッ」


容赦のない一撃が少年の腹部を襲う。


「バカな子ですねぇ。ワタシに逆らうとどうなるかコレでわかっていただけ…なっ!?」

煽り続ける男が何かに気付いたのか突然声を詰まらせる。

「貴様ッ…!!」


「何がわかるって?聞かせて貰おうか?」


見知らぬ男の声と共に、ガキン!!と金属が切れる音が聞こえた。



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