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KARMA fake:recognition  作者: 藍月琉
第一章 灰の舞い落ちる日
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家の中がしんと静まりかえる。



一人で待つ誰もいない家の中はいつもの賑やかさとは真逆で凍りついたようにつめたい。



菜月がシロと共に出かけたが、まだ帰って来なかった。



あれから苅磨も飛び出して行ったが、苅磨からの連絡も途絶え葉月は辰馬に連絡した。

「すぐ帰る」と返事がすぐ辰馬から帰って来たが、遠方からではかなり時間がかかる。

時は、もうすぐ夕刻を刻もうとしていた。



あれから、ひたすら苅磨は菜月を探していた。

何時もの散歩コースを辿ってみたが、菜月達がいる気配は感じられなかった。

「狗神くん!」菜月を探し回っている苅磨は足を止めた。

声がする方を振り向くと、高木繭花が肩で息をしながらこちらに向かっていた。

「まっ、待って。狗神くん!」

「高木先輩!よくここがわかったッスね」

「見かけてから、ずっと追いかけてたの!」

もう!ずっと、声掛けてたのに聞こえてないんだもんと高木繭花に苦言を言われ苅磨は慌てて謝罪をした。


「すいません、菜月が居なくなったみたいで焦ってました」


「その事なんだけど、狗神くん私が送った情報見てくれた?」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「降灰を確認、記録します」儚げで抑揚の無い声が告げる。

黒い衣で頭まで隠れて顔が確認出来ないが、声の様子から恐らく少女であろう。



「もうすぐ夕刻か…予定通りだな」

もう一人の、細身の人影が語り出す。

少し神経質そうな少年の声だ。

「現時間を持って任務を開始する。標的を発見次第俺に知らせろ。各自準備はいいな?」

細身の少年より頭一つ分以上は高いであろう、黒い衣の上からでも分かる体格のいいリーダー格の男が、都市を見下ろしながら二人に確認する。

二人は同時に「了解」と言葉を返した。



解散!その合図を皮切りに、三つの影がその場から別々の方向に走っていった。



やがて、灰の降る街に黒い衣の人影は溶け込んでいった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




高木繭花は、自分が送った情報を苅磨に見せながら状況を説明する。


「これ、ウチの学校の子が行方不明になったって言われてる場所で、こっちが、ニュースになった小学生の子が行方不明になった場所」


苅磨は、高木繭花に促され画面を確認する。

「それがどうかしたんスか…?オレ達の今いる場所とは違うみたいッスけど…」

「ココからが本題!」

そういうと、携帯端末の表示画面にピピッと他の場所にマーカーが点在した。

「これはね、今までこの街で行方不明になったとされてる子達の居なくなったマーカーなの」

「流石に、全部の子は追えなかったけど、ここ数年の子のはマーカーに記してある」



そのマーカーが、指し示す場所を眺めていた苅磨はある事に気がついた。

マーカー達は、ある場所を中心にぐるっと囲っているように見える。

「もしかして…!」

「狗神くんも気がついたみたいだね」


「そう、この中心部は第七倉庫だよ…」



第七倉庫…10年以上前に猟奇的殺人事件があったといわれている場所。

なんでも犯人は母親に恨みがあり、若い女性ばかりをバラバラに殺して解体したとされる。

今では幽霊が出るとかで、度胸試しに物好きが訪れる事がある程度の誰も寄り付かない倉庫街だ。

人通りが少なく、何があっても誰にも気づかれない場所だ。



背筋に寒気が走る。

嫌な感じがして冷や汗が伝って来るのがわかる。

「先輩ありがとうございます!オレ行きます!」

そう言って、駆け出そうとする苅磨の腕を高木繭花は静止した。

「離してくださいッ!先輩オレ早く行かないと!」

「違う…違うの…狗神くん…!私も行く!」

「先輩何かあったら危険ッスよ!」

「狗神くんだって危険じゃない!」

高木繭花が、こんな風に大きな声を出すことは滅多にない。

「一人より二人の方がいいじゃない?それに足手まといになるつもりはないから」

いつもの、高木繭花からは考えもつかない凛とした声だった。




灰の降る量が、いつもより多く感じた。フード付きのジャンパーに灰が積もり始めていた。息苦しい。

自然と、呼吸のペースが上がる。

「狗神くんあそこ!」


そう言い、高木繭花は指をさす。指が指し示している場所が、どうやら目的の場所のようだった。

閑散とした場所だった。

フェンスで囲まれて封鎖されている。


ご丁寧に、有刺鉄線が付いておりフェンスを登っての侵入を阻んでいた。

正面のゲートにも、鎖が固く巻き付いていた。

南京錠をどうにかしないと奥に進めないようだ。


(固い…!どうする…はやく…はやくしないと…」

だんだんと、灰で視界がぼやけ始めた。家を出てからどれだけ経っただろうか。

徐々に、夕刻から闇が迫って来ていた。



焦る苅磨を、横に高木繭花はポケットの中からあるものを取り出した。

「狗神くん、どいて…!」

高木繭花は、そう言い苅磨の前の鎖の南京錠にヘアピンを差し込み始めた。

カチャカチャとヘアピンを操作する。

「シリンダー式の鍵だから…多分これでいけるはず!」

カチャッと音がした。どうやら鍵が開いたようだ。

急いで、鎖を外しゲートをこじ開ける。

大分、灰で視界が妨げられる。

倉庫はいくつも並んでいるようだった。

一体、どれくらい奥まで続くのか検討がつかない。



いよいよ、しらみつぶしに行くしかないかと思っていた矢先であった。



オォオオ…ンと狼の遠吠えのようなものが、辺りに響いた。



「シロの声…!?」

そう言い残し声のする方に苅磨は一目散に駆けていった。



「待って、狗神くん一人で行ったら危ない…!」



高木繭花の叫びも届かぬまま、狗神苅磨は白い闇に溶けて行った。



狗神苅磨が辿り着いた倉庫のシャッターは降りていた。

見渡すと近くに鍵のついたスイッチを見つけた。

よく見ると鍵がかかってない様子だった。



苅磨は、急いで蓋を開ける。

三点式スイッチのようだ。スイッチを押すとシャッターが開いたようだった。


シャッターの扉の中は、思った以上に暗く侵入者を阻む。

ぼんやりと緑の非常用ランプであろうか、辛うじてランプで照らされた部分が見えていた。

幸い苅磨は夜目がきいた。

薄暗く、照らされたランプの光を頼りに進んでいく。

まだ、犯人が中にいるかも知れなかった。

苅磨は慎重に歩みを進めていく。

しばらく、歩いた先にどうやら地下へと続く階段のようなものが見えてきた。



苅磨は、構わず先へと進んでいった。

グルルと奥の部屋から、獣の唸り声が微かに聞こえて来た。



シロの声に違いないと苅磨は歩みを速める。



奥に進むと鉄のような臭いが鼻をかすめた。



自分の心臓の音がいつもよりよく聞こえた。



部屋に目を凝らすと、薄明かりに照らされ白い塊が横たわっているのが何となくわかった。



「シロ!!」



身体中から血の気が引いたが、堪らず駆け寄った。

血溜まりの中に、埋もれていた白い塊は飼い犬のシロだった。


シロの身体は冷たくなっていた。


泣きつく暇もなく苅磨の頰を何かが掠めた。

ピッと頰の皮膚から血が滴る。

あともう少しで首が落ちていたところを間一髪で避けた。



「誰だ!!」

殺意の持ち主に苅磨は叫んだ。

揺らめく青い瞳が苅磨を捉えたのがわかった。

すると、儚げで機械的な感じがする声でこう答えた。


「標的を確認。排除します」







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