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KARMA fake:recognition  作者: 藍月琉
第一章 灰の舞い落ちる日
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学校のホームルームが終わり、帰ろうと靴を履き替える最中でのことであった。



「狗神くん!狗神くん!!」



パタパタと忙しなく、眼鏡を掛けた少女が駆け寄って来た。

少年が口を開くより早く、少女は口早に言葉を紡いでいく。

「ねぇ、キミ部活入ってないんだって?ウチの部に入らない!?」

瞳を子供のように輝かせて、期待しながらこちらを見つめてくる。




相変わらず高木繭花は強引だった。だが、自分にここまで関わってこようとする人間は、妹のように懐いてる従姉妹くらいなものだ。

少し戸惑いながら少年は言葉を返した。



「先輩も見れば分かると思うんスけど、オレと居るのはやめといた方がいいんじゃないスか?」

少年の発言に高木繭花はポカンと目を丸くした。

「…どうしてかよくわかんないよ、もしかして他に入りたい部活があった?運動部とか、運動部とか!狗神くん運動神経良いもんね」

色々と考え込み独り言を言い始めた高木繭花を尻目に、少し困りながら狗神は頭を掻いた。



「いや、オレさ…。髪こんなじゃないですか…。」

そう言いながら少年は、自分の髪を指差す。初めて見た時にも、目を奪われた青味掛かった灰色だった。

「銀髪っていうのかな!カッコいいと思うよ?」

高木繭花の一言に狗神苅磨は呆気に取られた。

高木繭花は、特に気にしないという面構えだ。



「先輩も知ってますよね?」

「知ってるって、銀髪の理由?」

「そーっす」

「えっと、確か迷信によると、本来灰の日には何故だか子供は産まれなくて。ごく稀に、産まれた子供は、その呪いか、髪が灰のような銀髪で産まれてくる忌み子である」

少年はこくりと頷いた。だから家族以外の人は、彼に関わろうとしない。



彼自身も、他人と関わりに行こうとは思わなかった。



教師も生徒も、出来る限り彼を空気のように扱った。



そして、そんな生活に彼も慣れてしまっていた。

「ええ!?そんな事、私は気にしないよ!!」

「大体、呪われる所か助けて貰ってるよ!迷信自体がウソなんじゃない?」

「いや、なんかあったら困るッスよ」

「ナイ!そんなことナイッ!もし、なんかあっても、その原因を調査して解決する!だって、探偵部だもの!!」

鼻息を荒くして、力説する彼女の気迫に気圧された。



「ほかの部員の人達にも迷惑かけちゃいけないし」

少年のその一言に、高木繭花はクスクスと笑いだした。

「大丈夫!!だってウチの部活私しか居ないから!!」

まだ、出来立てホヤホヤだからねと意にも返さない様子だった。

「なんで、そんなに探偵部に拘るんスか?部員も居ないのに」

よくぞ聞いてくれましたと、言わんばかりに高木繭花は思い出を語りだした。



「昔ね、家で飼ってた猫が居なくなっちゃってね、探しても見つからなくて。困って泣いてた私に、声をかけてくれた人がいたの」



「何か困ってるのかい?何?飼ってた猫が居なく

なった?なら、ボクの出番だね!どんな猫なんだい?ふむふむ。任せなよ、きっと見つけてみせる探偵部の名にかけて!」

「そういうと、その人は私に家に帰るよう促した。不安だったけど信じて待つことにした」

「あれから何時間も経ってもうダメかと思ったその時だった。夜遅くだったけど、チャイムが鳴ってその人が現れたの。一匹の猫を連れて」



「その人は、夜遅くまで猫を探してくれた、私の目にはヒーローのように映ったの」

「探偵部だと、名乗って帰ってしまったのだけど、その人の制服は覚えてたから、ここの学校に入って探偵部を探したんだ!だけども、もう無くなっていたの」

「どうしても、諦めきれなくて、私も誰かの助けになりたいって思ってこの度作っちゃった!」



高木繭花は少し恥ずかしそうに事の経緯を語った。

「狗神くん、もう一度聞くけど、他の部とか入りたかった?」

「いや、そういうのは考えてない…ッス」

今まで人と極力関わるのを避けてきた狗神にとって部活など考えた事も無かった。



「はい!じゃあ決まりだね!!今日から、狗神くんは探偵部ね」

高木繭花は、指をビシッと決めて不敵に微笑んだ。

「本気ッスか?」

「大本気!!」



こうして狗神は、高木繭花に半ば強引に部活動に誘われ所属する事になった。





探偵部と名を冠しているものの、ただの学校の雑用係であった。

高校生活でも、必要最低限の関わりですごそうと思っていた狗神にとって、こうやって誰かと関わるというのは考えてみたことも無かった。

何だかんだで新鮮であった。

雑用を通して、前より少し人との距離が縮まった気がした。

最初は、教師達も面を食らっていたが大分慣れた様子だ。



そんな、学校生活が幾日か過ぎたある日「ふぁ〜っ」と、銀髪の髪を揺らし大きく伸びをする狗神苅磨に声を掛けて来た人物がいた。

「眠そうだね?狗神くん」

隣から聞き馴染みのある声が、ぼんやりとした頭に通る。

いつのまにか、高木繭花が気怠げな様子の狗神苅磨の顔を覗き込んでいた。



「あぁ、すんません。昨日、遅くまで菜月とゲームをしていたもんで」

「菜月って従姉妹さんだよね?夜遅くまで、付き合うなんてやっぱり優しいんだね」

「やめてくださいよ、先輩。ちゃんと相手しないと暴れてうるさいだけッスよ」

昨日の事を思い出したのか、うんざりというジェスチャーをしながら狗神苅磨は項垂れてしまった。

「あっ、狗神くんこれで最後みたい。ぱぱっと片付けちゃおうか」

「うぃッス」

美術室の倉庫の備品達を二人で整理していた。

それが、今日の探偵部に与えられた仕事だった。




黙々と、作業をしている狗神に高木繭花は声をかけた。

「ねぇ、狗神くん。近頃、この学校の子が行方不明になってるって話知ってる?」

毎度、探偵という名より便利屋に近いのではと思っていたが、高木繭花のこの一言を皮切りに何気ない日常が加速していく狗神苅磨はそんな予感がした。




苅磨は、いつもの探偵部もとい雑用の仕事が終わり、学校から自宅に向かっていた。


だんだんと、辺りに闇が落ちていき街灯に灯りがともされる帰り道。

苅磨は物思いにふけっていた。



高木繭花いわく、なんでも一週間前の水曜日、三年の女子生徒が、母親にすぐ帰ると言い残して、行方をたったらしい。

手元の携帯端末で天気を調べる。灰の日。

その日は、普段よりも灰が降る量が多い日だったようだ。


「狗神くんも気をつけなよ、ここのところ近場だけでも三件もあるらしいから」

と、高木繭花に釘を刺された。

自分からしたら、危なかっしいのは高木繭花の方だが、黙って押し留めた。

いつもと違う、高木繭花のトーンに戸惑ったのかもしれない。

不安気に見つめる視線に、気づいたのか高木繭花は真剣な面持ちでこう言った。



「私は、少し気になる事があるから調査するつもり、でもちょっとだけだから心配しないで」

「先輩一人で大丈夫なのか?」



「大丈夫だよ。危険な事はしないから。何か分かったら連絡するね」

ちょっと気掛かりなことがあって、調べるというか情報を纏めるだけだから危険な事は無いよという言葉を信じて、苅磨は高木繭花の後姿を見送った。



帰り道、高木繭花の先程の言葉を思い出していた狗神苅磨の耳にとある少女の声が届いた。



「バウッ!」っと鳴き声の持ち主と共に少女が走ってきた。

「カルマ兄!お帰り!今帰り?」



快活そうな少女が声をかける。

「ああ」と返事をすると、少女が連れている飼い犬が大きい身体を持ち上げじゃれてくる。

「シロもただいま」

そう言い、じゃれ付いてくるシロの頭をひと撫でしてやる。

「こら!シロいい子にしないと、オヤツあげないからね!」

少女が、そういうと言葉を理解したのか、白い狼の様な風貌の犬はたちまち大人しくなった。



少女の名前は神代菜月かみしろなつき

苅磨より8つほど下であろうか。

苅磨が、一緒に住まわせて貰っている神代家の一人娘だ。

神代菜月の母、神代葉月は、苅磨の母の妹である。

なので菜月は従姉妹にあたる。

「カルマ兄、帰るんなら一緒に帰ろう!もう、散歩も済んだし」

菜月はサイドに結んだアッシュピンク掛かった髪を揺らしながらシロのリードに合図する。

苅磨は菜月の提案に了承した。



ただいま!と菜月は元気に玄関の扉を開けると同時に、母親の神代葉月に夕食の献立を聞く。

神代葉月は、少し呆れながら手を洗って来なさいと忙しない自分の娘をたしなめた。



「いつも、ごめんなさいね。シロより落ち着きがないんだから!」

葉月はシロの足を拭いている苅磨に向かって言葉を投げ掛けた。

「いえ、菜月のお陰で毎日ヒマしなくて済んでいるので」

実の所を言うと、菜月の明るさのお陰でこの家でも馴染めていると苅磨は思っていた。



「苅磨くん、あなたも手を洗って来なさい。もうすぐ晩ご飯よ」

「はい、そうします」

そう言い、その場を後にする苅磨を神代葉月は見つめる。

狗神苅磨が、この神代家にやってきたのは五年ほど前であった。

その前は、苅磨の父方の祖父の狗神影吉と二人で過ごしいた。その狗神影吉が、亡くなり神代家が引き取ったのだ。

苅磨を産んですぐに亡くなった母の代わりに、育ててくれた祖父まで亡くした苅磨にとって神代家は、自分を受け入れてくれた恩人であった。

苅磨自身も、菜月の面倒を見てくれたりしたので、最初は戸惑いもあったが、何だかんだで馴染めていると葉月達夫妻も思っていた。




家に帰って数刻が過ぎた時であった、コンコンっと軽快な音が苅磨の部屋の扉から響いた。

晩御飯を食べ終え、自室で休んでいる苅磨の部屋に返事をする前にシロと共に飛び込んできたのは菜月であった。

どうやら、風呂が出来上がるまでの時間を持て余したらしい。


「ヒマ〜!!」


ベッドに飛び込んで来て、両足をパタパタとしながらシロにヒマだよねと同意を求めた。

シロまでベッドの上にやって来て、ベッドの殆どを一人と一匹に占領されてしまった。



「おまえな、宿題は終わったのか?」

フフンと菜月は鼻を鳴らした。

そんな物はとうに終わっていると、誇らし気に語った。

「だからゲームしよ!ゲーム!メギドカートやろうよ!」

今度こそ、負けないんだからと意気込む。

こうなると、勝つまで諦めないであろう。

手加減をしても怒り出し、苅磨が勝ってももう一戦とねだるので気がすむまで付き合わされるハメになるのであった。

「風呂が出来上がるまでだぞ」

「分かってるって!」

こうして、何時もの様に菜月の相手をして何気ない一日がふけていった。



結局、風呂から上がった後も菜月にねだられ、ゲームを夜遅くまで付き合うことになり、葉月に怒られるまで夜更かしは続いた。



苅磨が眠りについた部屋に、少しずつ日差しが窓から差し込んで来た。

まだ目覚ましが鳴る前に起きてしまったようだった。

眠たく寝惚けてる眼を開け、携帯端末をチェックする。

どうやら、高木繭花からの連絡は来ていない様だ。

のそりと、身体を起こし一階に顔を洗いに向かった。

顔を洗い終え、リビングに向かう。

リビングに、繋がるドアからは話し声が聞こえてきた。



ドアを開けると、葉月と菜月が朝早くから仕事に出かけたこの家の主辰馬の話題を話していた。

神代辰馬は、雑誌関係の取材を生業としている。どうやら、取材先が遠方らしく土曜の朝早くから仕事に出たようだ。


「もう〜!またお父さん居ないのー!」

不満気に声に出しているのは菜月であった。

「しょうがないでしょ、お父さん忙しいんだから」と母の葉月が嗜める。

分かってるけどさ〜と、菜月は頬を膨らませた。

父親が仕事に忙しくここ最近は、家でゆっくり家族団らんさえしていない。

まだ、年端もいかない菜月にとっては、不満に思うのも仕方ないことであった。



「おはよ」と苅磨はそんな会話の最中のリビングに割り込んで入って行く。

「あーカルマ兄!おそーい!!もう朝の9時半だよ!」

どうやら、菜月の次の標的にされたようだった。休みの日だからって、寝すぎなどわんやわんやと声をかけてくる。

昨日、遅くまで起きていたというのに、元気が有り余ってるようだった。

そんな二人の会話を眺め、解放された葉月は台所仕事に戻っていった。



テレビの、朝のニュース番組が今日の天気を語り出す。

すると、先程まで騒いでいた菜月が静かにテレビに集中し始めた。

「本日の天気は、晴れのちに夕方から灰が降る可能性があります。予定は午前中に済ませなるべく早く自宅に戻りましょう」

どうやら今日は灰の日らしい。幸い次の週明けには元の天気に戻るようだ。



「お父さん大丈夫かなぁ」菜月が心配そうにもらした。

灰の日は、不吉な事が起こると言われて忌み嫌われていた。

この日に、出かけてもいい事は無い。

灰を吸わないようにマスクをし、服は灰だらけになり視界も、もちろん悪い。

降灰量が、酷い日は休校になるくらいだ。

何故、何処から、灰が降って来るのかは分かっていない。

環境汚染が、やはり問題なのではないかと専門家達はお馴染みの議論を交わす。



とりあえず、灰の日は出歩かないのが基本であった。

ピッとテレビのリモコンから音がした。

次の番組に、チャンネルが切り替わっていた。

どうやら目当ての天気予報を見終わって、菜月が変えたようだ。

次々と、チャンネルが切り替わっていく様子を横目で眺めていた。

「続いてのニュースです、…に住む小学三年生の香山ハルカちゃんが、先週の水曜日に行方が分からなくなったとの通報がありました。目撃情報等お持ちの方は…」



「ねぇ、狗神くん。近頃、この学校の子が行方不明になってるって話知ってる?」


苅磨の脳裏に高木繭花の言葉がよぎった。



「ウチの近所じゃん!」



菜月の声がリビングに響いた。

声が聞こえ葉月が顔を台所から覗かせた。

「怖いわね、苅磨くん、菜月気を付けなさいね。特に菜月、知らない人について行ってはダメよ」

「なんでわたしだけ…カルマ兄も、お人好しなんだから、知らない人について行っちゃダメだからね!」

自分だけ注意されたのが気にくわなかったのか、菜月は苅磨に釘を刺してきた。

菜月の言い分も、一理あるので「気を付けます」と苅磨は返した。

それで気をよくしたのか、わかればよろしいと菜月は満足気であった。



「あっ、じゃあ今の内にシロの散歩済ませた方がいいかも」

菜月はガタッと、イスを鳴らし立ち上がりシロの元に向かう。

「シロ散歩に行こう!」

苅磨は慌てて菜月を追いかける。

「菜月、危ないからオレも行くよ」

その一言が気に入らなかったのか菜月はムスッとした。

「結局、カルマ兄もわたしを子供扱いして!」

「シロも居るし大丈夫!それに、カルマ兄!遅起きだから、朝ご飯食べて無いじゃん!早く食べて来なよ!」



年下の菜月から叱られているカルマのやりとりを眺め葉月はクスリとにが笑った。

菜月の母、葉月は見かねて菜月の言う通り朝ご飯を食べるように促した。

二人にそう言われては、苅磨は引き下がるしかなかった。

「気をつけろよ」と声を掛けると、菜月はわかってるってばと、言い残しシロと共に家を駆け出して行った。

元気なのも困り者だと苅磨は菜月を見送りながら思った。



朝ご飯を食べ終え、菜月の帰りを待っているのも、そろそろ限界に近づいて来ていた。

あれから2時間ほど経ったであろうか。

何時もなら遅くても1時間以内には帰ってくるはずが、流石に遅く無いかと苅磨はソワソワし始めた。

そんな、苅磨の様子に葉月はあの子ったら寄り道しているのではないかと言った。



「シロも賢いし、何かあったら知らせに戻って来てくれるわよ」

たしかにシロは賢いが、やはり高木繭花の言葉もある…あまり、楽観視はしてられない気がしてならない。

迎えに行こうと、玄関に向かう途中であった。



苅磨の携帯端末から音が鳴った。



高木繭花からのようだ。

急いで、中身を確認する。

どうやら、今までの行方不明者の居なくなった場所をマップにまとめたもののようだ。

高木繭花に返す。



従姉妹の菜月が、犬の散歩から帰って居ない事、これから探しに行くことを告げ苅磨は走り出した。





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