特捜刑事「相方」 殺人予告者?
拙著「童話 金の斧銀の斧(日本版)」をお読みいただくと、よりご理解いただけると思います。
俺は杉下左京。警視庁特捜班の警部補だ。
最近刑事ドラマが始まり、よく間違えられるのだが、断じて違う。
俺はスーツという物は生まれてこの方、就職試験の時にしか着た事がないし、紅茶は飲まない。
などと言い訳めいた事を言うと余計そう思われるのでこの辺でやめておく。
いつものように、俺は暇な特捜班室でモーニングコーヒーを堪能していた。
するといつものように特捜班のガラッパチ的存在の亀島馨が飛び込んで来た。
「杉下さん、大変です! 特捜班宛に予告状が届きました!」
相変わらず騒がしい男だ。もう少し落ち着いた人間にならないと女にモテないぞ。
「何だ、騒々しい。ファンレターか?」
「違います! 殺人予告状です!」
俺のギャグをスルーして、亀島は真顔で答えた。
「殺人予告状? そういうのは、女子大生探偵の管轄だろ?」
「何言ってるんですか! 宛名が杉下さんなんですよ!」
またしても俺の小ボケを無視し、亀島は言った。
「俺宛? いないって事で無視しろ」
「本当にいいんですか?」
亀島は怒り出していた。
「殺人は捜査一課の管轄だろ? バ加藤にでも渡しとけ」
バ加藤とは、俺と同期の脱獄囚顔の刑事だ。亀島は堪りかねたような顔で、
「杉下さんを殺すって書いてあるのにですか?」
「何ーッ!?」
それを早く言え。俺を殺すつもりなのか、差出人は。
俺は予告状に目を通した。
パソコンで書き、印刷した物で、名前はもちろん書いてない。
「印字からメーカーと機種は特定できましたが、それ以上は……」
亀島は悔しそうに言った。別にお前が調べた訳じゃないだろ?
そのセリフは鑑識のヨネさんのものだ。
「文章に癖はないか?」
「それも調べました。でもあまりに簡潔なので、特徴がありません」
それもお前が調べた訳じゃないだろう?
そもそも、俺のところに来る前にどうしてそこまで調べてあるんだ?
順番がおかしくないか?
「確かにな」
俺はそんな疑問を全く口にせずに予告状に目を向けた。
「杉下左京様 貴方を殺します」
それしか書いていない。
何て手抜きな殺人予告状だ。
こんな予告状を書く奴には、死んでも殺されたくないぞ。
「消印は……」
俺はゾッとした。消印はないのかと思ったのだが、しっかり押されていたのだ。
「士似神村郵便局?」
思い出したくもない思い出の地。頭痛がして来そうだ。
「どこですか、それ?」
亀島が後ろから覗き込んだ。
「群馬県の大利根郡にある村だ。この前釣りに行った」
「へえ。杉下さん、釣りが趣味なんですか」
「悪いか?」
「いえ、別に」
俺はこのあまりに因縁めいた予告状に少しだけ恐怖を感じていた。
そして一時間後。
俺と亀島は、亀島の運転で関越道を疾走していた。
「あと一時間半くらいで着きます」
亀島がナビを操作しながら言った。
「わかってるよ」
俺は助手席のシートに沈み込んだ。嫌な感じだ。
車はやがて大利根インターチェンジに着き、俺達は国道に降りた。
「ここは……」
俺の頭に悪夢が甦る。ボッタクリまがいのガソリンスタンド兼雑貨屋だ。
「ここで情報を集めましょう。雑貨屋には様々な人が来ますから」
何も知らない亀島は、ニコニコ顔で出迎えたオバちゃんに話しかけた。
「今日は。少々お尋ねしたいのですが……」
するとオバちゃんは俺に気づき、
「ああ、あんた、この前の刑事さんだんべ?」
う、気づかれたか。
「おーい、父ちゃん、やっぱり来たよ、刑事さん」
? しかし、何故俺が刑事だと知っているんだ?
「おお、来たか。こりゃたまげたな、母ちゃん」
あの日、バカ高いガソリンを入れてくれたオヤジが現れた。
「いやあ、すまなかったねえ、刑事さん。わざわざ来てもらってさあ」
「その前に、何で俺が刑事だと知ってるんだ?」
俺はドスの効いた声でオヤジに尋ねた。するとオヤジは、
「だってあんた、警察手帳を落としてったからさあ」
「え?」
あの日から随分と日数が経つ。今日まで全然気づかなかった……。
亀島の俺を見る目が冷たい。
「だからさあ、手紙出したんだよお。でも良かった、来てくれて」
オバちゃんが言った。何?
「手紙? これか?」
俺はオバちゃんの鼻先に予告状を突きつけた。
「ああ、そうだよ。ちゃんと届いたんだねえ。良かったよお」
「何が良かっただ! 殺人予告なんかしやがって!」
オバちゃんはキョトンとして、
「何わけのわかんねえ事言ってるんだよ、刑事さん?」
「これを出したんだろ!?」
俺は堪りかねて中身を見せた。するとオバちゃんは何と笑い出した。
「何がおかしいんだ!?」
俺はぶち切れそうだった。
「杉下さん!」
亀島が俺の様子に気づいて声をかけた。
オバちゃんはようやく笑うのをやめて、
「悪かったねえ、それは下書きだよお。初めてパソコン使ったんで、いろいろ試してみたんだよお。間違って送っちまったんだねえ」
「……」
俺はその場にしゃがみ込んでしまった。
また肩透かしだ。それでも警察手帳を落としたのが上にばれなくて良かった。
しかし甘かった。オバちゃんはご丁寧にも刑事部長宛に手紙を出していたのだ。
帰庁すると、早速呼び出され、こってり説教をされた。
本当についていない。
それもこれも、全て樹里が悪い!
そんな風に思いながらも、最近生で顔を見ていないのが寂しい俺だった。