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「人質を取れ」

 ジェラール・ド・ヴァロン公爵は人目のない校舎をさまよっていた。

 あちこちで戦闘が起きている様子だったが、次第に銃声が途絶え、魔法ばかりが目立つようになった。人間かどうかも怪しい挙動の学院生たちが闊歩する。


 クソが。ガキ相手になにを手こずっている。誰が協力してやったと。


 不意に近くで物音がして、ジェラールは慌ててしゃがみこんだ。

 誰か来たのかと疑ったがそんなことはなく、単に窓が風に叩かれただけだった。

 腹立たしい。公爵である自分が、罪人のようにコソコソとするなど。


 だが、本当に罪人として扱われるのは時間の問題だった。


 なぜミルファナは現れた。襲撃事件対策会議に姿を見せたときからおかしいとは思っていた。このタイミングで国王陛下の秘書官に変装して乗り込んでくるなど、ジェラールを怪しんでいなければできない行いだ。いつから疑っていた。


 慎重に、自分が関与した証拠を残さないようにしてきた。

 王族にも献身的に尽くし、王国での立ち位置を盤石に築いてきた。公爵家の敵対派閥でさえ、ジェラールが黒幕であるなど考えつきもしないだろう。


 だがミルファナが喋れば全てが終わる。

 あの女だけじゃない。ルーカス陛下もだ。きっと今頃は学院の外だろう。既にジェラールの謀反が知れ渡っているかもしれない。


 だとしたらもう、私は…………。


「おい」


「むぐっ!?」


 考え事をしていたせいで、不覚にも背後を取られた。

 ジェラールの首を絞め上げるその左腕には、手がなかった。

 男は低い声で呟いた。


「おめえだよな。王国側にいる俺たちの協力者ってのは。まさか公爵サマだったとは予想外だったぜ。俺ですら知っている有名人じゃねえか」


 ギードは腕の力をさらに強めた。


「なあ。話が違うじゃねえかよ。絶対に失敗しない、捕まらない、簡単な仕事だっていうから俺たちは引き受けたんだぞ。なんだよ、このザマは!? 国のナンバー2がついてた割にはお粗末な結果だなあ!」


「離せ!」


 ギードの腕を払いのけ、ジェラールは拘束から逃れた。

 だがすぐに額にハンドガンの銃口が押し付けられた。今にも引き金をひこうとしている。


「ま、待て」


 ジェラールは上擦った声を出した。


「私を殺してもどうにもならん」


「うるせえよ。リヴデはどこだ。あいつを呼んでこい。転移魔法でさっさとこんな場所から帰らせてもらう」


「それは無理だ」


 ギードは唾を飛ばしてわめいた。


「やっぱり捨て駒にするつもりだったんだな!? 最初から俺たちを逃がすつもりなんかなかった。どこまでも魔力ナシを馬鹿にしやがって!」


「そ、そうじゃない。そのう……あの転移魔法使いはもう使い物にならん。ミルファナに脳をいじくられて廃人同然になった。もはや意思の疎通すらかなわん」


「なんだよそれ」


 ギードが銃口を下げた。意識的なものではないだろう。

 あまりの絶望に力が抜けたのだ。


「ミルファナって、あの聖女サマのことだろ。なんだってそんなやつがいるんだよ。いや、そんなことよりもリヴデが使い物にならないって。じゃあ俺たちは……」


「ここから逃げられないってことだ」


「ふざっけんなよ!! お前はこの国で二番目に偉いんだろ。なんとかしろよ!」


 必死に頭をはたらかせる。興奮状態のギードはいつ撃ってきてもおかしくない。

 追い詰められたジェラールは狂気に憑かれた。


「人質を取れ」


「なんだと」


「私のほかに……そうだな。女がいい。適当な学院生を捕まえてこい。公爵家当主と子供が人質にすれば、実力行使に出る無鉄砲な奴などいない」


「その後はどうするんだよ」


「クロカミを殺せ。国王陛下もだ」


「あん?」


「計画に変更はない。目障りな奴らを始末する。それでうまくいく」


「本当だな? それで俺は無事に助かるんだな?」


「ああ、約束しよう。だから私を、この国の最高権力者にしてくれ」


 居直ったジェラールの顔を、ギードは間近にのぞきこむ。

 やがて、ギードは犬歯を剥き出しにして笑った。


「————イイねえ。いますぐにでもあのクソガキを始末してやるよ」


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