第二話 自己紹介と質問大会 前編
「なぁ、あいつが「宇宙人」?」
「もっと変わってるかと思ったー」
「てか、めっちゃ美人じゃない?」
「スタイル良すぎ!いいなぁ」
ざわざわと、クラス中が騒ぎだす。皆の視線の先にいるのは、やはり、桜木有栖だった。
から揚げ事件から1時間後、クラスには人が集まりホームルームが始まった。肝心の桜木有栖は、俺が買ってきた胃薬を飲んでから調子が戻ったようで、皆の声に耳を澄ましている。
「そうよ。私は完全完璧な美少女なのだから、騒がれるのも無理もないわね」
小声でこんなこと言うくらいには治ってるようだ。普通自分で言うか?それ。
だけど、確かに桜木有栖は美人だ。すらりとした足と腕。真珠みたいな白い肌。艶のある黒髪によく映えている。空のような青い瞳は思わずじっと見てしまう。
……だが、から揚げ事件のせいでまともな美少女には見えない。きっとあの事件がなければ、俺は桜木有栖を好きになってただろう。本当に、あの事件がなければ。
俺は机に突っ伏し、寝たふりをする。朝から薬局に走らさせられて疲れた。早起きは三文の徳とか、もう絶対に信じないからな。
すると、廊下の方から慌ただしい靴音が聞こえてきた。教室の扉が勢いよく開くと、
「静粛に!」
クラスの担任、兎月今日子が騒ぎを止め入ってきた。
「おはよー!うきょセンセー!」
「あまり騒ぐんじゃありません!廊下まで聞こえてきましたよ!あと、うきょ先生ではなく兎月先生と呼びなさい!あと、」
「あっ!うきょ先生、その服ちょー似合ってる!」
「え!本当!?」
((((ちょろい))))
「はっ!流されるとこだった!」
兎月先生も、俺達と同じように今年からこの「私立優麗高校」に入ってきた新人教師だ。背が低くく、丸メガネにパーマのかかったボブヘアーで、生徒達からはあだ名で呼ばれるほど好かれている。
「犬みたいな人ね。……かわいい」
どうやら桜木有栖も気に入ったらしい。確かに兎月先生は犬に似ている。犬耳としっぽが生えていても違和感がない。
「こほん、今日は新顔さんがいますね。一応、自己紹介をしてくれるかしら、桜木さん」
皆、入学初日に皆自己紹介をしたのだが、桜木有栖は入学式にも来ていなかった。本当に、なぜ来なかったのだろう。
「はい。分かりました」
「やっぱりスタイルいいね」
「髪キレー。シャンプー何使ってるのかな?」
「美人だ、美少女だ…」
桜木有栖が教卓に立ちわざとらしい咳払いをすると、生徒達は静かになった。
注目が一気に教卓へ集まる。
「はじめまして、私の名前は桜木有栖です。よろしくお願いします」
「はい!これからよろ「それでは、私に対する質問を受け付けます」……はい?」
クラスの誰もが戸惑った。いきなり自分への質問を受け付けてくる人だなんて、思いもしなかったのだろう。
「それでは質問がある方、挙手を」
「ま、待った!」
慌てて兎月先生が待ったをかける。
「し、質問って何?」
「質問は質問です。1つづつ丁寧に答えて、私に対する疑問をなくしてもらえればと思いまして」
「で、でも大変じゃない?」
「なら一問一答で答えます」
「えぇ…」
兎月先生も「これが噂の宇宙人…?」と、桜木有栖の宇宙人っぷりに動揺しているようだ。頭に?が浮かんでいる。しかし、桜木有栖は至って真面目なようだ。
そこから、桜木有栖への質問大会が始まった。
「桜木さんの好きな食べ物と嫌いな食べ物は何?」
「好きな食べ物はピザ、嫌いな食べ物は……から揚げ」
「どこ出身?」
「名古屋よ」
「趣味ってありますか?」
「読書、アニメ観賞、ゲーム、散歩、食べ歩き、昼寝。それくらいよ」
「好きなタイプはあったりする?」
「推し」
質問大会は、意外にも順調に進んでいた。あまり宇宙人という感じはしないし、クラスも笑いが起き、皆楽しそうだった。俺も少し楽しかった。
しかし、ある質問で全ては壊れた。
「1週間休んでだけど、なんで?」
それはクラスの誰もが気になっていた質問だった。
すると、桜木有栖は語り出した。
「あぁ、それね。噂になっているらしいけど、別に最強の体を目指したり、不死の水探してた訳じゃないわよ。休んでたのは……
除霊する為よ」
除霊
「はい?」
意外な答えに、俺は思わず声が漏れた。