第一話 から揚げと宇宙人
第一話です。
前回よりだいぶラブコメ感はないですが、よろしくお願いいたします。
春、それは別れと出会いの季節。
彼女と出会ったのも、そんな春のことだった。
「ハァ、ハァ、ハァ」
慣れない運動で息が上がる。俺は頬に流れる汗を拭い、溜めていた息を吐く。
苦しい。
「ははっ、俺、体力なくなってんなぁ」
中学の頃にはあり得なかった事実に、俺は笑ってしまう。まだ自分には、取り柄くらいあると思っていたからだろう。もう、"あの自分"はいないというのに。
「あー!疲れた!学校来るだけで疲れる!」
思い出したくない記憶をかき消すように独り言を放つ。静かな廊下に、ただ自分の声が響いている。
いつの間にか教室の前まで着いてしまっていた。顔を上げ、教室の扉に手をかける。今日はだいぶ早く着いてしまった。
きっと教室には、誰もーーー
「うん。やっぱり、から揚げにはポン酢ね。……む、こっちはカレー味だわ。変わり種も大歓迎よ。私の心は海よりも、宇宙よりも広いのだから。」
……いた。朝からから揚げを食ってる奴がいた。しかも、俺の席の隣で。
え?なんでコイツ朝からから揚げ食ってんの?
「なんでって、から揚げが食べたいからよ。わざわざ人気店のから揚げを買って来たわ」
どうやら声に出ていたらしい。
「いや、無理だろ!朝からから揚げは無理だろ!」
「あら、なんでも初めから否定してはいけないのよ?何より、不可能を可能にするのは主人公の運命よ」
「ちょっと何言ってんだよ…」
引いた。ちょっと、いや大分引いた。てか、口の周り油でテカテカしてるし。
彼女の机には2種類のから揚げと、ポン酢の瓶が置かれていた。どうやら俺よりもかなり早く来て、このから揚げざんまいを楽しんでいたようだ。
「そんな所で立ってないで、席に座ったら?」
「いや…まぁ、うん。座るよ」
彼女を凝視しながらも、席に座る。……隣から凄まじいから揚げの匂いがする。
「あら?隣の席だったのね、びっくりしたわ」
「……え?」
意外な言葉に耳を疑った。だか、その理由はすぐに気がづいた。
入学して1週間、隣の席の彼女は一度も学校に来ていなかったのだ。しかも、入学式にも彼女は来ていなかった。確か休んでいた理由でクラス中、いや、学校中で話題になっていた彼女。
そう、彼女の名前は、確か、
「はじめまして。私の名前は桜木ーーー」
「宇宙人!!!」
「………は?」
「宇宙人、桜木有栖!!!入学試験トップの成績だったのにも関わらず「最強の体になるまで学校に行けません」とか、「不死の水を見つけるまで帰れません」とか言って学校を1週間休んだ、新入生一の問題児!!!」
「…………宇宙人って、どんなイメージなのよ私」
そう、桜木有栖。
時には学校始まって以来の天才と呼ばれ、時には問題学校始まって以来の問題児と呼ばれ、
教師達からは、その意味不明な行動で「宇宙人」と恐れられている、あの桜木有栖!
ハァーという、彼女の苦しそうなため息で俺は我に帰った。
やってしまった。
いくら問題児の彼女でも、こんなことを連続して言われたら、ムカつくに決まってる。
「ご、ごめん桜木さん!いきなりこんなこと喋って!」
慌てる俺を見て、彼女は口を開く。
「いや、休んだのは私が悪いわよ…うっ」
「いやでも、俺が悪いから!なんか、償わせて!」
「いや、今は…うぇあ」
「なんでもいいから!」
彼女を傷つけたのは俺だ。せめてもの償いで何かさせてくれないかと彼女に迫る。
しばらくすると、彼女は覚悟した顔で答える。
「わかったわ…じゃ、じゃあ、お願いするわね」
「胃薬を、胃薬を買ってきてくれないかし、りゃ」
そのあと、桜木有栖はトイレへと駆け込んだ。
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