第12話 炎鷲
「器の巫女よ、言い遺すことは?」
大鎧を着込んだ男が20歳ほどの女に聞く。白装束をまとい、泣きはらした顔の女は消え入るような声で男に言った。艶やかな黒髪が美しく揺れる。
「……妹を、お願いします」
体中に入れ墨を刺し、憔悴した女は頷く男を見上げると煮えたぎる火口へと身を投げた。それを皮切りに次々と人間が飛び込んでいく。灰すら遺さぬ灼熱がそれらすべてを飲み込んだ。それでも最初に飛び込んだ女の悲鳴は掻き消えず、火口に響き続けた。
「戻るぞ。せめて、せめて妹だけは助けてやらねばならん」
ナ…レ
「ナガレ!!」
「……お姉、ちゃん?」
目を開けたナガレの目に飛び込んできたのはリツの姿だった。涙を流して縋り付くその頭を彼女は優しく撫でる。
「ナガレ!よかった!」
「すま、うっぐぁ」
「まだ動かないで!聖槍院と双家の人たちが引きつけてるから……」
リツが言い終わる前にナガレは立つ。刺すような痛みに顔は歪むが、肋骨が折れる程度で済んでいるということにナガレは確信を持った。
「リツ、ここで倒し切ってしまおう。奴の口が開けばもう止まらない」
「できる……の?」
「あぁ、幸い封刀魂儀環は成功している。あれが破られる前に送ってしまわねば手が出せなくなる」
「口の封印のこと? とにかく助けを……」
「リツ、あれは存在しているだけで魂をじりじり食っていく。抑えきれなくなる方が早い」
「そんな」
「ふふ、リツなら大丈夫。頼りにしている」
「スマホ操作から大見主って…… 振り幅ひどくない?」
悪戯っぽく笑うナガレに、ようやく落ち着きを取り戻してきたリツが文句を言う。ちらちらとホタルが舞うように大見主へ向かって魂が吸い寄せられている。
美しく、恐ろしい光景を前にナガレは取り澄まして言った。
「リツは炎鷲項世を維持してくれ。私が操る」
「私だけだと1分ももたないよ!?」
「問題ない、奴に飛び乗れればいい」
リツはナガレを睨むようにじっと見つめたが、その表情は変わることがなかった。
「もう!どうなっても知らないからね!!」
「あぁ、まかせてくれ」
諦めたリツはスマートフォンを取り出す。画面を幾度かタップすると緻密に描かれた魔法陣のようなものが表示された。
「創主よ、円と炎をもって其を与えこの世に映したまえ。炎鷲項世!」
リツがスマートフォンを掲げると頭上に大きな陣が出現した。その一本一本の線から炎が吹き出して飾り羽をを広げた冠鷲のような火の鳥が現れる。ナガレはその足を掴むと空へ昇っていった。
卑怯な後書き補足コーナー
※炎鷲項世
通常五人一組で操ります。一人が動きをつかさどり、残りの人間が炎鷲を顕現させます。
※器の巫女
火山の上に人がたむろっているだけだと大見主がかすめ取って食ってしまう。そこで溶岩に魂を固着させて突っ込ませるという手段を取りました。もっともそんなことをすると魂は延々焼かれて地獄の苦しみを味わうことに。考え出されたのが人身御供の術です。一人の巫女の魂に術式を刻み込んで火口に放り込み、残りの人間の法力だけを吸収させる。おいしそうな餌に仕立て上げるって寸法です。
選ばれたのは双子の姉。妹は自分が、と名乗り出ましたが姉の方が適任とされて生き残りました。双子の巫女は霊的につながっており、姉が大見主と消えた後に莫大な法力が流れ込んで死ねなくなりました。未だに筆で術を描き、複数人で操るような術も一人でこなせるようになりましたとさ。どっとはらい。
というわけで、もう少しだけ続くんじゃ状態です。よろしくお願いします!




