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鈍色送り  作者: 南部忠相
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第11話 産声

 真っ暗な夜、街の明かりが薄暗く照らす川原で山姥とナガレは静かに対峙していた。カチカチと山姥の鋭い爪が鳴る。


「ずいぶん派手にやってくれた。すぐに送ってやろう」

「祓い屋風情が、さえずるな!」


 言うが早いか低い姿勢で素早くナガレへ突っ込んでくる。ナガレは一歩だけ下がるとフッと息を吐いてそれに備える。左手には筆、右手には短刀。先程までナガレが立っていた場所へ瞬く間に山姥が差し掛かる。その鋭い爪を振りかざした時、見えない壁にぶつかったように減速した。

 一瞬の硬直、それを逃さず短刀が見えない壁ごと山姥の胸の中心を突く。引き抜くと同時に筆で傷を撫でる。山姥は短い悲鳴を上げると割れた見えない壁から離れるように後退した。しかしそれを許さずナガレは懐に飛び込み、右肩を突く。


「なめるな!」


 振り払うように山姥が右腕を払う。だが半歩下がったナガレには当たらず、体を翻して放たれた回し蹴りに山姥は顎を打ち抜かれた。

 怯んだ山姥の左肩に背後から短刀が食い込む。


「許せ赦せ、飢えを、渇きを、怒りを手放し浄土へ昇れ」

「駄目!まだ早」


 言いかけた山姥の腹が盛り上がり、がくがくと痙攣を始めた。ナガレは筆を走らせ山姥の周りを駆ける。宙に描かれた金色に光る文字のようなものは次第に輝きを増す。

 書き終わると同時に山姥の腹が割れた。さなぎが羽化するように、卵からヒナが孵るようにバキバキと砕けていく。恍惚とした顔の山姥は全身が砕けるように消えた。

 その瞬間、真っ白いクジラのような何かが産まれた。ニタリクジラのようなそれは大音声で産声を上げると、不機嫌そうに金色の文字を眺める。

 大見主の渦巻く渇きと飢えを感じながらナガレは次々と文字を書いていく。しかし翻った尾びれの一撃で最初の囲いがはじけ飛んだ。もう一撃でさらに一枚、また一枚と囲いが消し飛んでいく。


「天へ還らず守る魂、護る魂、その力を示し厄災を退けよ!」


 呼びかけに応えるように強く青い光がナガレの短刀に集まる。勢いよくそれを放ると、短刀は導かれるように大見主の顎へと突き刺さった。そして眩く力強く光ると、口を縛るように光の輪が出来上がった。


「強いが弱い、大きいが小さい。仇を……!」


 刹那の油断、大見主の尾ひれが全ての囲いを打ち砕いてナガレを襲った。辛うじて後ろへ飛び衝撃を和らげたが、遠のく意識の中で己の短慮を恨むのだった。

卑怯な後書き補足コーナー

ナガレがせっせと書いていたのは封印の文言です。結界と封印を同時に書く高等技術でしたが破られました。

ついでに、山姥さんの体に書いたのは魂をひっぺがすための文言です。体とのつながりが弱い大見主を引っぺがして封印しようとしましたが、山姥さんを見限って出てきてしまったため失敗。

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