自然と意識はカーミラへ
昼前に俺は起床した。思ったよりも眠ってしまったようだが、カーミラの入ってる箱を見るとまだ眠っていた。まあ数日ぶりの睡眠だと言っていたし、そっとしておいてあげよう。
とりあえず俺はギルドへ向かい、ギルド長の元へ向かった。昨日は吸血鬼の処刑というイベントがあったにも関わらず、もうギルドのやつらは普段通りの生活に戻っていた。ま、俺もカーミラがどうするか決めた後はいつもの生活へ戻るんだけどさ。なんだか別れるのが名残惜しくなってきたぞ。
「おほん、貴様は目上の人間を前にしてぼんやりできるほど偉かったか?」
「あ、あ、あ、すみません! えっとそれで、今日で全ての作業が終わります」
「ふむ、意外と早かったな。では明日の朝、早速見に行くとしよう」
「わかりました。それと……」
「はっはっは、言いたいことは分かる。もう嫌と言うほど祝いの言葉は送られたぞ。貴様の連れてきたヘッポコ吸血鬼のおかげでな!」
「いやそうじゃなくて、あの遺跡の見取り図や間取り、魔物などの詳細をまとめた書類をと」
「そ、そうだったな、仕事だけはキチンとするんだったな貴様は……」
「じゃ失礼します」
どうやらエシャーティは黙っておいてくれたようだ。しかしおめでたいやつだ、カーミラを退治できたと完全に思い込んでいるぜ。
報告を終えたらとりあえず家に帰って一息つくことにした。しかしこの物語が始まってから初めて我が家に来た気がするぞ。
この家は特に何もない、ただ生活するための道具があり寝るためだけの空間だ。そんな寂しい空間でぼんやりと昼飯を食った。何の味もしない、うまくもまずくもない、ただの栄養摂取。
……カーミラはそろそろ起きただろうか、腹がすいてるだろうから余った米をおにぎりにしよう。というかやっぱ吸血鬼だしトマトジュースが好きなのか?
食事をしながら、そんなことばかり考えているのに気がつく。そういえば俺、カーミラのシモベだったわ。ここは気を利かせて弁当を作って献上しようじゃないか。ふふふ、おにぎりが好きって言ってたし、今日は具を入れてあげるぞ。何にしようかな、具になるようなものはあっただろうか。
x x x x x x x x x x x x x x x
「zzz」
「おーい夜だぞ、そろそろ起きないか?」
「む~、ねむぅ~」
「せっかくめしを持ってきたのに……」
「!」
「仕方ない、起きないなら一人で食うか」
「めし~、めし~」
なんちゅう単純さだこの吸血鬼は。俺がめしと言ったとたん、もそもそと箱の中からかわいらしいうめき声を発してきた。なんだろう、俺は箱からカーミラを出してあげればいいのか?
「自分で出なよ」
「けち。おいしょ」
「1日寝っぱなしで腹減ったろ、好きなだけ食え」
「わ~い、ゴロ愛してるよ~」
もしゃもしゃと用意したおにぎりやサンドイッチを食べては、ちゅうちゅうとトマトジュースを飲んでいる。吸血鬼にトマトジュースなんてベタだと思ったが、口に合っただろうか?
「どろどろ、おいしい」
「トマトジュースだ。吸血鬼はそれが好きらしいから作ったんだが」
「うん、好き。ちょっとすっぱ、うまうま」
「そうか、ならよかった」
ぷひゅ~、とストローから間の抜けた音を出したりしながら、のんびりとした食事を終えたカーミラ。いや、のんびりしてるように感じたがあれだけの食事をこんな短時間で終えたからよくよく考えるとのんびりしてないぞ。もったりした仕草や挙動にだまされてるだけだ。
「ごち」
「お粗末さん。さ、これからどうしますご主人」
「うむ、まずはあのキモいえらいのを始末じゃ」
「無理でっせ」
「ぷぅ~、ゴロ頼りない」
だってあいつ、インドラ(が何かは知らんが、神さまだと思う)とか呼ぶじゃん。だいたい主人が敗北した相手にシモベが勝てるかよ。まあ、とりあえず現実的な提案をしてあげよう。
「昨日も言ったが、この国じゃカーミラは既に吸血鬼だと知れ渡ってる。それにもうあと数時間もすればここにはギルド長が来る。正直ここにいてもどうにもならないぞ」
「じゃ、どうすればいいの」
「夜のうちに隣の国まで行くんだ。一晩歩き続ければ、朝になる前にはたどり着く」
「わかった。じゃ、行くよ~」
「おう! んじゃ達者でな」
名残惜しいが、意外にあっさりと決めてくれたから見送るしかない。きっとカーミラもたっぷり寝たら頭が冴えたんだろう。そうさ、俺なんかとつるむより他を当たった方が上手くいくぜ……
「は? 何言ってんの、ゴロも来る」
「え?」
「隣の国、わかんない。それに私はずっとゴロといるもん」
「ふぅ……ま、隣の国までだからな!」
「も~。ずっといっしょなの!」
まあ案内くらいはしてもいいだろ。いや、俺も正直に言うと期待してた。何か理由さえあれば着いてこうと思ってた。最近カーミラのシモベとしての意識が高まってきてんな、俺。
っと、それよりも夜は長いようで短いんだ。早く行動に移さねば朝日が昇ってしまう。吸血鬼がお日様に当たるとどうなるのかは知らないが、あまりよろしくない事になるだろうし。
「じゃ一応、エシャーティにも事情を話しておくか」
「やさしいお姉さん、連れていく?」
「連れてかない。というかついてこない」
「ゴロ、モテない」
「悪かったな……」