チャームはよくない。マジ危ない
どうやらここは例の遺跡で、俺が気を失ってる間にエシャーティたちがカーミラの眠っていた一室を模様替えしたらしい。俺もこの部屋は魔物も入ってこないし、状態も綺麗だったから休憩所にしようと思ってたんだよな。改築する手間がエシャーティとカーミラのおかげで省けたぜ。
「なあ、カーミラはこれからどうするんだ」
「私は寝るよ。おやすみ~」
「ちょ、ちょい待って、そうじゃなくて」
「私はこの箱じゃないと寝れない。だからもう何日も寝てないからさすがに眠い」
「そうだったか、じゃ起きたらでいいか」
「あ、でも、血をくれたらおしゃべりくらいはできる。久々に吸いたいしそうしよう」
「ほぉ~、じゃお手柔らかに」
俺はシモベらしいし、主人の言うことには一応従うことにしよう。カーミラは何だか嬉しそうに俺の手を掴むと、カプっと手首に噛みついた。
不思議と痛くはない。それどころか、なんだか腕の奥にある血管を通して毒素を抜き取られてるかのような、何とも言えぬ気持ちよさがたまらない行為だ。こ、これは何だかクセになりそう……
「ほぉぁ~、吸うの上手いなカーミラ」
「ごち。うーん、至福」
「これはお粗末様で」
「いっぱい吸ったけど、まあ死にはしないと思う」
「え、そんな吸った!?」
「眠いし用があるなら早めにしてね」
くぁ~、とあくびをしながら、コンパクトに収納された翼をぷるぷるさせるカーミラ。なんかかわいい仕草だ。
「そうだ、これからどうするんだ。寝る以外で」
「したいこと、無い。ここに永住」
「いや、それは無理」
「なんで! けち!!」
「だってここ、ギルドの所有する遺跡だし、初心者ダンジョンだからめっちゃ人来ると思うよ」
「じゃ、ここのボスになる」
「おま……隠しダンジョンじゃないんだぞ、ここは。それに開設する前に、一度ギルド長が視察に来るだろうし」
「う、あいつ嫌い」
「だろ?」
嫌なことを思い出したのか、ふかふかをギュッギュギュッギュしてイラ立ちを鎮めている。しかしこの遺跡に住み着くのは、俺としてもいつでもカーミラの様子を見に行けるからいいと思ったんだがな。でも吸血鬼がいるってすぐに知れ渡るだろうからなぁ。カーミラはすぐ人に懐きそうだし。
「ゴロ、私はどうすればいい……」
「何かしたいことはないの?」
「わからない」
「ま、急に言われても分からんよな。じゃあまずはこの国を出ればいい。何をするにしても、ここじゃ吸血鬼だとすでにバレてて何もできない」
「で、その後は?」
定期的に血をくれる優しいやつに出会えれば、とりあえず死ぬ心配はないだろう。カーミラならどんな男でも言いなりにできる美貌だし、すぐにでも協力してくれるやつが見つかるさ。そしたらもう俺は不要だな、またひっそりと暮らす日々が戻ってくる。
「協力者でも探せばいいんじゃないか?」
「それならいる。おまえじゃあ~」
「ははーん、そう来たか。めんどくさがりめ」
「何度も言うけど、私はゴロが好きだから」
「よせよ、吸血鬼ならもっと高望みできるだろ」
「ゴロが好き、ふかふかも好き。だから離れたくない。それが私のしたいこと、かな」
「はぁ、もう、あー、くそ~!」
ああ、ダメだよ俺、流されるなよ。俺は主役じゃない、カーミラの照れ臭そうな顔は俺の欲望がそう錯覚させてるだけだよ。モジモジと翼を揺すってるのも、なんかあれなんだよ。とにかく勘違いするな、相手は吸血鬼だ、人間の感情を惑わすことなど造作もない存在だ、抑えろ俺、がんばれ俺!!
「好きだよ~好き好き~」
「やめろよ、チャーム使ってるだろ、ずるいぞそういうの!!」
「本気だよ~ねぇってば」
「うぐぅ、み、魅了されちまう!」
「ふぁ~あ。飽きた、寝る。ふかぁ……」
「おひょひょ……え?」
パカッと箱を開けて、土の敷き詰められた内部へためらいなくダイブ。ズシャァと派手に着地し、そのまま眠りについてしまった。
「ちくしょう、やっぱりからかってただけなのか……」
「zzz」
ま、それでいいさ。あれ以上からかわれたらうっかり本気になるとこだったし。しかしこれからカーミラはどうするのだろう。最も重要な事を決め損ねてしまったぞ。
遺跡の整備は終わっているがあと1日だけ報告するのを待って、明日どうするか話し合おう。作業の進捗をギルド長に全く報告していないので、そろそろ見に来るかもしれないしな。
ひとまずの予定を立てたら、なんだか俺も眠たくなってきた。ふかふかを大事そうに抱き、砂まみれで寝てる美しい吸血鬼になごみながら、俺も眠りにつくのであった。