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対決!ギルド長


「ほぅ、安い挑発に乗るとは吸血鬼とやらも地に落ちたな」

「ゴロ、ふかふか持ってて」

「お、おう」

「用意はいいか、怪物め」


 翼を広げ見るからに戦闘体勢に入ったカーミラは、全生物の天敵と言われるだけあるな、と納得するくらいプレッシャーを撒き散らしている。まるで関わると破滅の運命に導かれそうな、そんなおぞましいオーラが漂っている。


「来たれインドラ、我にヴァージュラを授けたまえ!!」


 対するギルド長はいきなりそう叫ぶ。すると真夜中だというのに空はピカッと明るくなり、なんかやべえ神様みたいなのが降りてきた。そしてなんか棒みたいなのをギルド長に渡すとまた天へと昇り、空は元通り暗くなった。なんだこのおとぎ話みたいな出来事。


「そんなもの借りて……虎の威を借るキツネ?」

「ふん、今に泣きを見る。神雷よ!」


 ギルド長がぶぅんと棒を振ると、バリバリと雷の雨がカーミラへ直撃!……と思いきや、すんでのところで回避する。そして雷で俺たちの目が眩んでる間に、なんとギルド長の背後へと回り込んでいたのだ!


「手に余る武器を使うから。おまぬけさん」

「バカめ、その自惚れが足を引っ張るのだ」

「……!」


 カーミラはスパーン、と華麗に翼でギルド長を切りつける。いや、翼で切りつけるってなんだよと言われそうだが、そうとしか言い様がないんだって。

 そんでまたギルド長は、目が眩んでいても十分だとばかりに、背後からの攻撃を棒で易々と受け止める。そのまま翼を棒で叩くと、あの雷がダイレクトに翼に叩き込まれた。


「うっぐぅ!?」

「神雷をモロに食らってはいくら不死身の吸血鬼と言えど、しばらくは動けまい。さて、人に害なす存在は惨めに最期を迎えてもらう」

「やめろ、この、しばるな~!」


 どこから取り出したのか、鎖でカーミラを縛りつけるギルド長。バタバタと抵抗するカーミラをひょいと抱えながら、置いてきぼりを食らってた俺に話しかけてくる。


「まったく面倒なことを持ってきやがって。貴様がエシャーティのお気に入りでなければ、とっくの昔に追い出すところだ」

「本当に申し訳ございません」

「わかったら消えろ、貴様を見るとイライラしかしない」

「うう、ゴロ、たすけて~」


 悔しそうな表情のカーミラが助けを求めて俺に話しかける。まだやれる、と言わんばかりの表情だ。この鎖さえ解いてくれたら、今度こそはやっつけるよ。だからお願い、という自信に満ちた顔だった。


「……それでは、失礼します」

「ゴロ!? ふ、ふかふか……」

「ごめん、ごめんよ……」

「おい、別れのあいさつは済んだか? 吸血鬼となかよしゴッコなんて、実に気が触れてるな」


 言われっぱなしだ。俺はなんて情けないんだ。嫌いなやつにはコケにされ、助けを求める女の子は見捨てて。

 だけど、あの時の大失敗と後悔が脳裏にちらつく。そうだ、俺は決して主役じゃない、いつかはきっとはやってこないんだ。


 俺は逃げ出すように、ギルド長とカーミラの前から立ち去った。


x x x x x x x x x x x x x x x 


 それから数日。俺は必死になってあの遺跡を整備し最初の頃よりもだいぶ見違えるような、立派な初心者ダンジョンへと仕上げていた。

 無我夢中で仕事に打ち込んでなきゃ、罪悪感でとてものうのうと過ごすことなどできなかった。あれからカーミラがどうなったのかは全く聞いていないし、聞いたところでどうしようもない。


「お、頑張ってるね~」

「エシャーティ!? どうしてこんなとこに」

「最近見かけなかったから、ギルさまに聞いたの」

「ああ、ここ何日かは泊まり込みで整備してたから」

「そんなに熱心にこの遺跡の整備してたの!?」


 カーミラと出会った場所、という未練もあってなんだか仕事に精も出たのだ。さすがにそろそろ家に帰ろうとは思っていたが。


「んじゃ今ギルドで話題になってる処刑も知らないんじゃない?」

「なんだそれ、あのギルド長の趣味はわからないな」

「ダメよそんなこと言っちゃ! ギルさまが捕獲した吸血鬼を公開処刑する崇高なイベントよ」

「……ほんと、悪趣味だな」


 内容を聞いて心から軽蔑した。まさかカーミラが公開処刑されるなんて。あのギルド長はどこまで悪役になれるのだろうか。そしてなぜそんなやつにここまでエシャーティは惚れこんでるんだろう?


「そういえば今夜決行するんだっけな~」

「今夜か、悪いけど今日はここで最後の仕上げしようと思ってたんだ」

「そ、じゃ見に来ないんだ。つれないわね~」

「そんなモノ見たって楽しくないし」

「あっそ、まあ仕事なら無理にとは言わないわ。これ作ったから食べてね、無理しないように!」

「ん、ありがとう」


 じゃあね~、とエシャーティは弁当を置いて帰っていった。中身はおにぎりが20個。具はもちろん無い。そう、エシャーティは料理はできないのだ。

 しかしこのおにぎりのおかげで、亡命してきた俺はなんとか命拾いしたんだ。あの時空腹で行き倒れていた俺は、たまたま通りかかったエシャーティにおにぎりを恵んでもらって何とか生き延びた。それ以来、俺は弁当におにぎりを必ず入れるようにしていた。そして俺のおにぎりもまた、カーミラを救ったのだ。


(もぐもぐ……懐かしい味だ。塩味すらない、米本来の持つ味だけのおにぎり)


 ああ、カーミラもおにぎりはおいしいと言っていたな。俺と同じように、カーミラもおにぎりに命を救われたんだよな。俺のおにぎりは塩くらいは振っているが。

 本当にこのまま見捨てていいのだろうか。俺は確かに主役でも最強でもイケメンでもないが、カーミラはギルド長に捕まった時、俺に助けを求めたじゃないか。


 あの国での失敗を言い訳に、俺は勇気を出すのを怖がってるだけじゃないか?


「……やっぱ、見るだけにしとこ」


 勇気を出そうと思ったがやめた。そう、それでいい、それで。俺はただのギルド員であり、何の特長も無い一般人。せめてエシャーティのような魅力か強さでもあれば……


 久しぶりに食べたエシャーティのおにぎりは、あの時の味と同じだけど、全く違う味だった。


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