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ふかふか復活


「ふかふか、コンパクトになった」

「そうだね、これじゃクッションだ」

「でもふかふか~」

「……夜だな、そろそろ外に出れそう?」

「ん、お日さまいない。これなら私の独擅場」


 チラリと妖しげに八重歯を出し、不敵にカーミラは言う。心なしか赤い瞳も日中より輝いて見えるし、吸血鬼としての活力が湧いてきたのだろうか。


「これから何するの~」

「ギルドっていう俺の仲間集団のとこへ行く。その後は、どうなるかは分からない」

「ギルド、こわい?」


 俺の仲間たちのところ、と聞けば安心すると思ったのに全く予想外の答えが返ってきた。楽しいところかな、とかどんなところだろう、ではなくこわい?


「なんでこわいと思った?」

「ゴロ、とても悲しそう」

「そうか……」


 すぐに合点がいった。俺の気持ちなんかお見通しなのだ。うわべだけの言葉なんかカーミラには通用しないのか。


「こわい、かもしれない。でも行かなきゃいけないんだ。それでもついてくるか?」

「私、ゴロが好き。ずっと一緒」

「やめてくれ、俺は、俺はな、」

「……ふかふかしよ?」


 どうしてこの子を突き放す言葉を言えないんだ。なんでこんなにも現実を伝えるのが怖いんだ。そんな情けない葛藤すらもお見通しかのように、小さな吸血鬼は励ましてくれた。

 二人で一緒に作り上げたクッションを抱き抱えてみると、とても温かい気持ちに包まれる。そんな俺をカーミラはジッと見つめ、何も言わない。


 気分が落ち着く頃には、どちらからともなく遺跡を出ていた。このままカーミラには何も伝えられずに、後悔で胸を満たしたまま別れを告げることになりそうだ。


x x x x x x x x x x x x x x x


 ギルド本部へもう着いてしまった。ここから先は戦闘集団の本拠地なので万が一にも吸血鬼が侵入したとバレたら大騒動になってしまう。


「いいか、カーミラ。絶対にここからは翼を出したり、自分が吸血鬼だと言わないこと」

「わかった。吸血鬼は恐れられてる……それは覚えてるから」

「それなら安心だ。今からとても偉い人に会いに行くからね」

「ゴロよりえらい?」

「俺が100人いても敵わんくらい偉い」

「じゃ、私よりはえらくないね」

「……ん!?」

「えへ、ちょっと冗談」


 本当か? ちょっと本気っぽかったぞ。と思ったが吸血鬼は全生物の頂点に立つ怪物だと言われてるし、やっぱ上位種としての本能が自分以外の存在を下等生物だと見下してしまうのかもしれない。というか実際、俺100人で吸血鬼を倒せるかと言われても絶対無理なのだが。もちろんギルド長にも勝てん。あ、逃げ足なら亡命仕込みの駿足で勝てる自信あるな。


 そんな感じの話をしたりしながらギルド本部の中を進んでいく。もう夜も更けてきたので巡回のギルド員が眠そうにうろついているだけだ。


「ふぁ~、お、ゴロか」

「巡回お疲れ様、この子はちょっと保護したんだ」

「そっかぁ、大変だな」

「おじさん、ふかふかする?」

「おォ~、ふかふかする……ぐぅ」

「ゴロ~、おじさん寝た!」


 睡魔と戦っているところにクッションを差し出され、気が抜けて眠ってしまったようだ。カーミラはグイグイとおじさんが抱きしめて離してくれないふかふかを取ろうと頑張っている。

 ふんす! とカーミラがかわいらしく息を込めて引っ張ったらスポーンとふかふかは救出された。が、勢い余ってドテリと尻もちをついてしまった。


「ぷぅ、おじさんいじわる。嫌い」

「悪気はない、許してあげて」

「ん……? ちょっと! ふかふか臭くなった!」

「うわ、よだれついてる……」


 ちょっと気が引けるが持っていた布の切れ端を水で塗らし、ふかふかからよだれを拭い去る。まだ少し臭いがだいぶマシになったのでカーミラに渡すと、かなり嫌そうながらもふかふかを受け取った。


「ぶぅ~」

「そう嫌そうにしないであげて」

「おやおや……騒々しいと思えば、エシャーティのおまけが女の子にキモがられてるではないか」

「あ、ギルド長……」


 嘘だろう、こんなすぐに鉢合わせるなんて。しかしもう後には引けない、こいつにカーミラを引き渡すと決めたじゃないか。


「その、実はこの子の事で大事な話がありまして」

「貴様なぞの急用で俺様の就寝時間を遅らせるのか?」

「ゴロ、こいつ怒ってる?」

「こら、この人が偉い人なんだ。えっと、睡眠を削る価値は大ありでして、緊急を要しますね」

「そんなに言うなら少しくらいは耳を貸してやる。まったく何事なんだ」

「実はこの女の子、吸血鬼なんです」


 言ってしまった、とうとうやってしまった、こんなにもあっさりカーミラを見捨てられる自分が嫌になった。


「ふざけたことを言いやがって……吸血鬼だという証拠はあるのか?」

「はい。カーミラ、翼を見せてくれないか?」

「……ゴロ、ほんとにいいの?」

「何をもたもたしている、小娘が。どうせ吸血鬼などと騙っていたらこのちんけな男が真に受けただけであろう。消え失せろ」


 ギルド長がバカにしてきた次の瞬間、カーミラは自慢の翼を勢いよく広げ、八重歯や爪を剥き出しにして夜の覇王の如き威圧感を出したのだ。


 ただのちびっこい女の子の突然の変貌ぶりに、俺はただ驚くことしかできなかった。


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