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人の夢で遊ぶな


 ここ最近、俺はカーミラのとある悪ふざけに悩まされている。カーミラが俺の夢に侵入できるのはご存知だろうが(初耳の方は第7話を読んでほしい)、あんまり入らないでほしいという頼みを無視して入り浸るようになっているのだ。


 それだけならまだ夢見が悪いだけで我慢もできるのだが、夢の中でこちらが動けないのを良いことに弄ぶようになってきたのである。例えば……


(ゴロ~、おやすみ中に悪いけど、吸血するね)


 は!? そ、そんな急に言われても……


(問答無用! かぷ~)


 はぁん……!! 体の自由が利かないからいつもより快感を抑えられないッ……!


(おいしかった~。あと寝てるからって呆けた顔をするのはよくないよ。ちょっと引く)


 ……とかいう理不尽な仕打ちをしてきたりするのだ。もちろん他にも、夢の中では俺は眠ったときの体勢のまま動けないのをいいことに、いきなりのしかかってきたりするのだ。酷いときには夢の中で吸血し始めたりするし。

 もちろんそんな事しても俺が絶頂してしまうだけでカーミラには何の得もない。夢の中ならどんなに俺を弄んでも現実世界に疲労などを持ち越さないから、おもちゃにしていると言う。これは由々しき事態である。


「はぁ、今日も眠りに就くのが億劫だなぁ」

「なんで~? ずっと寝ててもいいんだよ」

「誰かさんが人の夢ん中で好き放題しないなら、惰眠をむさぼるんだけどな」

「はて。ふかふかか~」

「とぼけやがって、まぁ」


 さすがに夢の中では分が悪すぎる。どう説得すればこの迷惑な遊びをやめてもらえるだろうか。横になりながらじっくり考えるとするか。


「カーミラ、俺はもう寝るけど夢に入るなよ」

「別にゴロに迷惑はかかってないじゃん。ま、ゆっくり休んでなよ」

「はぁ、大迷惑なんだけどな。まあいい、おやすみ」

「おやすみ~。ふ~かっ」


 まるで虎視眈々と獲物が無防備になる瞬間を狙うような目付きをしてやがる。くそ、夢の中じゃ俺の最大の武器である逃げ足も活かせないし……いや待て、俺にはもう一つ強みがあるじゃないか。しかもそれは夢の中でもバッチリ使える!

 どうしてこんな簡単な事に気づかなかったんだ、早速リベンジといこうじゃないか。ぐぅ……


x x x x x x x x x x x x x x x


(うふふ、今日もスヤスヤと眠ってるね~)


 来たなカーミラ! 今日という今日は凝らしめてやるぜ。


(ふか~。夢の中でどうしようっての?)


 ふふふ、実はそうなんだよ。俺は手も足も出ないから何にもできやしない。


(でしょ。しかし一体その自信はどこから……)


 まあカーミラさんよ、とりあえず座れよ。夢の中だからって立ちっぱなしは疲れるだろ。


(そうだね、よいしょ。そういえば夢の中で床に座るのは初めてかも)


 ……カーミラは俺の思惑通りに床にふかふかを敷いて座り込んだ。よし、隙を見せたな! ここからずっと俺のターンだぜ! 俺の口から出任せは国家を騙しくるめる程に舌が回るって忘れたのが運の尽きだったな、カーミラめ!


(ふか~。疲れることはないけど、やっぱ座ると落ち着くね)


 ふっ、かかったなカーミラ! 実は無意識に俺の言うことを聞いてたのに気づいていなかったようだな!


(ふかっ!? ど、どういうこと?)


 そのままさ。今カーミラは俺の指示に従い座った。これまで数百年、人の夢の中で無防備に座ることのなかったカーミラがあっけなく俺の言いなりになったのだ!!


(えぇ、意味不明だよ。私は自分の意思で座ったし)


 ならば、俺の暗示にかかってパンツを見せるように座ったのはどういう事かな? そんなはしたない座り方、普段のカーミラはしないだろう?


(こ、これはたまたま私の有利な場所だったからリラックスしちゃっただけ! も、も~、見ないでよね、えっち)


 ふはははは、そんなこと言っていいのかな。今日の俺はやけに自信満々だとは思わないのか。


(そういえば……)


 ……ちなみに根拠はない。だがカーミラが少し揺らいできた。ここまで来ればあとはゴリ押しで何とかいけるッ!!


(くっ、全知全能に最も近い私がこの有利な状況で戸惑うなんて!)


 カーミラよ、吸血鬼の悪いクセが出たな。そう、絶対的な己の強さから来る慢心や自惚れさ。それは時に、この空間が元々は人間の夢領域だという事を忘れさせる。


(い、一体なにを言ってるの!?)


 さあな。ただの凡人である俺には、夢を操る秘技である明晰夢がどう作用するかは分からない。ただ、明晰夢をコントロールする術を閃いたのは紛れもなく俺に有利に働くことだろう。


(き、聞いたことあるよ明晰夢!! 夢魔殺しの必殺技……まさかゴロ、私に何度も夢に入られて明晰夢を操れるように!?)


 ……そ、そんなすごい技術だったのか明晰夢。実はなんかの本で見かけただけの単語だったけど、そんな大層な技術だったのか。ハッタリで言っただけなのに、カーミラはビビっているようだ。


(くっ、ゴロにえっちな事されるのは別にいいけど、言いなりにされるのは困る。退散しよ、ふかふか!)


 ……そう捨て台詞を残すと、カーミラはぼふんと消えた。へぇ~、夢から出るときはああいう風に消えるんだな。今までは好き放題起こされたり意識を落とされたりしたからなぁ。


 いや待て、そういえば俺、この状態で寝たり起きたりは出来ないぞ。ど、どうしよう、横になったまま動くこともできないし。うおお~、帰るなら起こすか眠らせるかしてから帰れよカーミラ!


x x x x x x x x x x x x x x x


「はっ!? お、起きれた……!」

「zzz」

「あ、あれ、カーミラ寝てるのか」

「ふか~」


 どうやらさっきまで起きていたらしく、台所からは夜食を食ったり皿を洗ったばかりだと思われる形跡がある。カーミラが夢に入って途中で帰った場合は、カーミラが眠りに就くと俺は起きることができるのかもしれない。


 しかし俺は自分の話術に実にホレボレする。友好的とはいえ、人間は手も足も出ないと言われる吸血鬼相手におしゃべりだけで打ち勝ったのだ。ハッタリが上手く効いたのが大きな勝因ではあるが、少しくらい自惚れてもいいよね。


 これでカーミラも滅多な理由がなければ俺の夢に入ることはないだろうし、珍しく俺の完全勝利だ。後はカーミラに明晰夢を操れないってバレないよう、勘づかれないようしとけば万全だな。


 ふぁ~あ。中途半端に眠ったからまだ睡魔が残ってる。勝利の余韻とともに、久しぶりの安眠を楽しむとしよう。


カーミラ「ゴロは明晰夢を操れるんだよね」

ゴロ「グゥ……息ができね……」

カーミラ「なんで苦しそうなんだろ。わざわざそんな夢を見て……あ、もしかしてドM!?」

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